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北朝鮮の核開発は今までと同じやり方では止められない
http://diamond.jp/articles/-/101843
2016年9月14日 武藤正敏 [前・在韓国特命全権大使] ダイヤモンド・オンライン
■北朝鮮の核ミサイルは実戦配備に近づいている
9月9日、北朝鮮は5回目の核実験を行った。これまでの核実験は3−4年の間隔を空けていたが、前回の実験は今年の1月であり、それ以来8ヵ月しか経っていない。また、今回観測された地震波はマグニチュード5.3と推定され、前回の実験の2倍程度、過去最大規模の実験であった。北朝鮮はさらに核実験を今年中に行う兆候がある。
しかも、今回の実験では核融合反応を一部利用して威力を高める「ブースト型」原爆を応用したとの見方が強い。北朝鮮国営の朝鮮中央テレビは、「核弾頭の威力判定のため核爆発実験を断行した」として、初の核弾頭の爆発実験であると発表した。さらに、弾道ミサイルに搭載できるように「標準化、規格化された核弾頭の構造と動作特性、性能と威力を最終的に検討、確認した」と強調した。北朝鮮は、実験は成功であったと主張する。
北朝鮮は、根拠となるデータや写真は公開していないが、「小型化、軽量化して弾道ミサイルに装着できる核弾頭の生産が可能になった」としている。弾道ミサイルに核弾頭を搭載するには短距離ミサイル「スカッド」で770キロ〜1トン、中距離の「ノドン」で700キロ程度に小型化する必要がある。北朝鮮が、核弾頭を搭載した弾道ミサイルの実戦配備に急速に近づいているかどうかについては専門家の間でも意見が分かれるが、「ノドンに搭載できる水準の技術は確保している」との有力な見方もある。
北朝鮮が核搭載型弾道ミサイルを開発する目的は、米国本土や在日米軍基地を核の脅威下に置き、それによって米国に北朝鮮を核保有国として認めさせ、対等な立場で米国と交渉することで、北朝鮮の安全を確保することあろう。
米東海岸も射程に収める長距離弾道ミサイル・テポドン2改良型については、大気圏再突入の技術は未だないと言われている。しかし、北朝鮮は5日、日本の大半を射程に収める、中距離弾道ミサイル・ノドン3発をほぼ同時に発射し、すべて日本の排他的経済水域に落下させた。日本の防衛省は今年の防衛白書で初めて、ミサイルに積める核弾頭を北朝鮮が完成させた可能性がある、と明記した。しかも、北朝鮮は今年に入り移動式の発射台からミサイルを撃っており、潜水艦発射弾道ミサイルの実験にも成功している。これによって「米軍の偵察力でも探知が難しくなっている」と言われる。
■国連制裁決議で北朝鮮の核開発を止められるか
北朝鮮が核ミサイルの開発を進めるのは自国の生存を確保するためである。もっと言えば金正恩にとっては国の生存もさることながら、金正恩自身の生存が最も重要なのである。
北朝鮮は、イラクのフセイン政権、リビアのカダフィ政権が崩壊したのは核や生物化学兵器といった大量破壊兵器を保有していなかったためと考えている。また、北朝鮮は通常兵力では米韓連合軍に大きく後れを取っている。さらに、北朝鮮にとって盟友であった中国の保護も期待できなくなったと考えている。こうした北朝鮮にとって、核兵器は自国の生存を確保する唯一の手段と映るのである。
核実験は友好国・中国の反発も招くが、それでも強行したのは、現体制の安全を保障できるのは中国ではなく米国だとの信念である。米国が朝鮮戦争の休戦協定に代わる平和協定交渉に応じない以上、まずは交渉力を裏付ける核ミサイルの実戦配備を急ぐ。北朝鮮は米国に到達するミサイルと核弾頭の開発を目標とする。開発は「当初の想定よりかなり速いスピードで進められている」と韓国政府は懸念を強める。
北朝鮮の核実験を受け、9日夜、国連安保理は非公式の緊急会合を開き、実験は一連の安保理決議と核の不拡散体制に、「明確に違反している」として、「強く非難」するとともに、今後、北朝鮮の追加制裁を視野に協議する姿勢も示した。また中国は、「国際社会とともに朝鮮半島の非核化目標と6ヵ国協議を通じた解決の方針を堅持する」と強調している。
しかし、これまでの北朝鮮制裁や6ヵ国協議はどの程度効果的だったか。
北朝鮮にとって制裁は、経済的困難を一層深刻化させる。一方で、長年にわたる経済制裁を受け、苦境の中でも生き延びてきている。北朝鮮にとって地方が疲弊しても、平壌が安定していれば倒れることはないであろう。したがって、追加的な経済制裁は痛手であるがこれに屈することはない。
北朝鮮は今年5月、労働党大会を取材するために訪れた外国人記者を平壌市内の「科学者通り」に案内し、デパートを見学させて、諸外国の経済制裁を克服するため、様々な消費財を自国で生産するようになったと誇示して、むしろ制裁は自国を強くすると胸を張った。
北朝鮮に対する制裁が効果を発揮するためには中国の協力が鍵であると言われ続けてきた。北朝鮮の核開発に対し、中国外務省は「断固たる反対を表明」し、「安保理の決議を順守するよう強く促した」。さらに「責任を持って建設的な方法で安保理の協議に参加する」と建前では述べている。しかし、北朝鮮を追い込み、混乱をもたらしたくないのが本音では、「中国には北朝鮮に有効な手段がない」のである。中国をいかに巻き込むかが課題である。
中国の主催する6ヵ国協議も、北朝鮮に核放棄を求めるためのものであり、そうした前提では北朝鮮が出てくることはないであろう。それを知りながら、6ヵ国協議を主張する中国も無責任である。
■核開発を止めるには北朝鮮の政権交代しかない
安倍総理は北朝鮮の核実験を受け、オバマ米国大統領、朴槿恵韓国大統領と電話で協議した後、記者団に「新たな段階の脅威に、今までとは異なる対応をしなければならないということで一致した」と述べた。
これは非常に重要なポイントである。しかし、国際社会の手詰まり感を反映し、未だに国連制裁の強化をはじめ従来型の対応が議論されている。
北朝鮮に対するこれまでの経済制裁は抜け穴があった。北朝鮮が外貨を稼いでいた石炭の輸出や北朝鮮の石油の輸入は民生用が除外されており、量は少なくなったかもしれないが今も続けられている。北朝鮮の労働者の出稼ぎも止められておらず、金融制裁も抜け道があった。こうした制裁を厳格化し、核・ミサイル開発の資金源を断てれば、それなりに効果があろう。
他方、前回実験後の経済制裁強化で、資金源は相当狭められてきた。それでも、北朝鮮は核ミサイル開発をエスカレートさせている。北朝鮮は国民の生活を一層犠牲にしてでも核開発を放棄することはないであろう。
結論から言えば、北朝鮮の核開発を止めるには、北朝鮮の政権交代しかないであろう。朴大統領が2月16日の国会演説で、「これまでのやり方では核開発は止められない、核はいずれ実戦配備されるであろう、実質的変化をもたらす根本的解決策が必要である、核兵器開発は北朝鮮の体制崩壊を早める」と語ったのは、こうした見方を示すものであろう。
しかし、北朝鮮の政権に対する攻撃や、核に対する先制攻撃は成功の確証がなく、北朝鮮の反撃を受ければ当方にも甚大な被害が及ぶ。こうした中で何ができるか。はっきりいって明確な回答はない。しかし、日米韓や中ロを含めこの事態にいかに対処するか英知を集めざるを得ないほど、北朝鮮の核ミサイルの実戦配備は近づいているのではないか。
日経新聞の解説によれば、「北朝鮮が崩壊しても在韓米軍が中朝国境までいくことはない」米政府は密かにこう保証し、共同の危機管理を中国に提案している由である。今のところ中国側の反応は鈍いようであるが、中国を巻き込んだ北朝鮮の管理は一つの可能性を示すものであろう。
■中国も見放したという状況が変化のきっかけとなる
中国を動かすのであれば、まず米国が北朝鮮と一度は直接交渉をすることが必要かもしれない。北朝鮮は米国に核保有国と認めさせ、対等な立場での直接交渉を求めている。北朝鮮が要求する、米朝の対話を行っても問題が解決しない場合には、もはや北朝鮮との交渉の余地はなくなろう。北朝鮮がそれでも核開発を続け、中国が北朝鮮を見捨てざるを得ない状況は来るだろうか。北朝鮮の核開発は日米韓を一層緊密にさせ、中国の国際的孤立を助長し、目障りなはずである。韓国に、中国が最も嫌がる地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)を配備する口実を与えたのが北朝鮮の核開発である。
もちろん、北朝鮮の核ミサイル開発に米朝直接交渉という報酬を与えるということでは決してない。しかし、「虎穴に入らずんば虎子を得ず」である。北朝鮮は経済制裁を受けながら、国内では恐怖政治を行い、国民を相互監視のもとに置き、密告制度を幾重にも巡らせている。金正恩は自身の暗殺を恐れ、自分に面会するものには厳格な身体検査を行うなど最大限の警戒をしている。政権交代に繋がる国内の動きが芽生える兆候はない。
しかし、最近のエリート層の亡命や指導層の処刑が頻発していることは、お互いを疑心暗鬼にさせている。それは将来に対する失望となっている。米朝対話が北朝鮮の強硬策で失敗し、経済制裁は強化され、中国も見放したという状況が変化のきっかけとなるかもしれない。
北朝鮮の政権交代に至るまでに多くの危険も伴う。金正恩は父親からの側近を粛清し、自分に忠誠を誓う者で回りを固めている。激情型の性格で、人を殺すことも平気である。核を使えば北朝鮮は滅亡する。しかし、金正恩が追い詰められたときには敵もろともと考えてもおかしくない。昨今の核ミサイル開発の進展に酔いしれている様子である。また、ノドンを日本の排他的経済水域に向けて発射し、驚くのを見て喜んでいる。
こうした危険な金正恩をなだめるために金正恩に妥協せよとの主張もあろう。しかし、そうすれば北朝鮮は一層核開発のレベルを上げ、危険性を増すだけである。
■北朝鮮に野心を抱かせないために日米韓が急ぐべきこと
当面、日米韓が急ぐべきことは、ミサイル防衛網の協力を強化することである。北朝鮮のミサイルは多様化しており、しかも移動式発射台や潜水艦発射の弾道ミサイルの開発が進んで探知が難しくなっている。ミサイル探知の情報を共有し、迎撃システムの精度を上げ金正恩の核ミサイル開発に有効な対抗手段があることを示すことが重要である。
こうした協力強化のためには、日韓で包括的軍事情報保護協定(GSOMIA)がないことは致命的欠陥である。韓国はこれまでの経緯から慎重であるが、北朝鮮の核実験対応の中で、韓国側の前向きな対応を求めていくべきである。
北朝鮮有事の際の対応について、日韓ではまだ検討が行われていないと承知する。韓国が日本とこの問題を話し合うことは国内的にタブーだからである。しかし、北朝鮮の状況は切迫している。北朝鮮の崩壊シナリオの検討も始めるべきである。北朝鮮有事の検討は北朝鮮の政権交代を促すためにも重要である。
韓国の対北朝鮮政策は大統領の方針によって大きく揺れ動いてきた。金大中、盧武鉉大統領の時代に、北朝鮮に対する宥和政策をとり、経済支援として資金を提供したことが核ミサイルの一層の開発につながった。
韓国では来年大統領選挙が行われる。現在、与党には有力な候補者は見当たらず(一部に潘基文(バンキムン)国連事務総長擁立論がある)、他方野党では文在寅(ムンジェイン)盧武鉉大統領時代の青瓦台秘書室長が有力視されている。野党第一党の代表になった秋美愛(チュウミエ)氏は文在寅に近い。文在寅は北朝鮮に融和的な姿勢である。
北朝鮮融和政策が北朝鮮の核ミサイル開発を助長したことを考えると、現政権のうちに北朝鮮に対する有効な対応や、日韓の協力体制を構築しておくべきであろう。
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