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リビア中部シルト中心部で砲撃する統一政府勢力の戦車(2016年6月10日撮影)〔AFPBB News〕
米国がこっそり戦争に突入、テロ拡散の危険大 オバマのリビア空爆でアフリカでも終わりなき戦い始まる
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47750
2016.8.31 堀田 佳男 JBpress
バラク・オバマ大統領は8月に入ってから、何事もなかったのように、アフリカの一国で新しい戦争を始めた。
リビアである――。
日米メディアは海外ニュースの1つとして「空爆した」と報道してはいるが、トップニュースとしての扱いではない。リオ五輪や大統領選にメディアは関心を奪われ、リビア空爆というニュースは注目されていない。
オバマ大統領は国民に向けてリビアで新たな戦争を開始したとの演説も行っていない。8月4日、国防総省(ペンタゴン)に出向いて記者会見を行った時も、シリアとイラクでのIS(イスラム国)の掃討が主な内容で、リビアという言葉は1回しか出さなかった。
■大ニュースのはずが小さな扱い
「リビアの国民合意政権(GNA)の要請で、ISからシルト(リビア北部の都市)を取り戻すために空爆を行っています」
まるで子供に買い物を頼まれた親のような軽さなのである。日本は軍事行動という点で、自らに手枷足枷をつけているので他国への軍事攻撃などあり得ないが、いくら戦争慣れしている米国でも、新しい戦争を始めた事実は大ニュースのはずだ。
オバマ政権のリビア空爆というはどういう意味があるのだろうか。
まずリビアの現状について、簡単に記しておきたい。アラブの春の波及により41年間続いたカダフィ大佐の独裁政権に終止符が打たれたのが2011年。カダフィ大佐は生まれ故郷シルトの下水排水菅の中に潜んでいたところを捉えられ、殺害された。
カダフィ政権の崩壊後からリビアは無政府状態に陥った。暫定的な政府や評議会が誕生したが、いくつもの民兵組織が群雄割拠しており国家はいまだにまとまっていない。
各国の大使館も次々に閉鎖された。日本大使館も閉鎖されたままだ。その中で唯一、リビアに残ったのが米国である。
トリポリには大使館、ベンガジには領事館を残した。2012年、たまたまベンガジに立ち寄った米スティーブンス大使は武装集団に襲撃されて死亡している。
ヒラリー・クリントン候補が国務長官だった時で、同大使と他3人の米国人の死亡の責任を問われたいわゆる「ベンガジ事件」だ。以後も、リビアは無法地帯のままである。
ISがリビアを活動拠点にし始めたのは2014年頃である。シリアとイラクに次ぐ拠点としてリビアに手を伸ばしたのだ。
ところが地元の武装勢力や部族の抵抗で、ISであってもリビア国内で容易に勢力を拡大できない。そうした状況で、ISが実行支配したのがシルトだった。
■米国民にも伝えず始めた空爆
シルト奪還は米国をはじめ、リビアの安定化を目指す国連やヨーロッパ諸国の戦略上の重要な課題となった。2015年12月には国連を仲介役としたGNAが成立し、早期の国家統一を目指すことになった。そのためにはまず、ISを一掃することが何よりも重要だった。
オバマ大統領はそれに手を貸したわけである。米国民に対し、大々的にリビア空爆を伝えもせず、ほとんどオバマ政権内の独断で空爆に踏み切っている。
一応、ISを壊滅させるという目標を達成するための重要なステップとの位置づけではある。だが、国民の議論が煮詰まらないどころか、多くの市民はリビア空爆の事実すら熟知していないのが現実である。
米アフリカ軍司令部(AFRICOM)によると、8月1日から17日までに計57回の空爆を行っている。
複数の情報を総合すると、シルトに展開するISの戦闘員数は8000人に及ぶ。「空爆終結の時期は未定」というのがペンタゴンの発表だ。しかも地上軍をリビアに投入する予定はない。だが米特殊部隊が多数、派遣されている。
ここに「オバマ・ドクトリン」と呼べる、オバマ大統領らしい世界での戦い方が見られる(「世界の警官から秘密警官へ、米国の恐ろしい急変ぶり」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44880)。
公式な地上軍の派遣はしない代わりに、機動力のある特殊部隊を多数送り込むのだ。
彼らの活動範囲と兵士数は確実に拡大している。他国に大規模な米陸軍を派遣しないかぎり、オバマ大統領は「戦争はしていません」と言えると解釈しているかに思えるほどだ。
ペンタゴンは特殊部隊を投入した年を公表していないが、ISが勢力を拡大し始めた2014年頃と考えるのが妥当だろう。2015年暮れにはソーシャル・メディアによってリビアで活動する米特殊部隊が写真で捉えられ、世界中に発信されてしまった。
ロシアのニュース専門局RT(旧ロシア・トゥデイ)の今年1月の報道によると、リビアには昨年末の段階で、ヨーロッパ諸国と米軍の特殊部隊が約6000人も派遣されている。その中には米国をはじめ、英国、フランス、イタリアが含まれる。
■リビアの安定は夢のまた夢
特殊部隊の活動によってISが駆逐され、さらにリビア人による政府が国家統一を成し遂げられれば結構だが、現実はそれほど甘くない。
国連のリビア特使であるマーティン・コブラー氏は、「たとえISがいなくなっても近い将来、GNAが国家を統一できる可能性は低い」との見解を出している。むしろ暫定的な国民合意政権は解体する危険性があるとさえ言う。
そうした状況下でオバマ大統領が選択したのが、空爆だったのだ。
米「サローン」誌のベン・ノートン記者は「米国が新たにリビアを空爆することが最良の外交政策だったのかどうか、国内では全く議論ができていない。議論どころか、メディアが今回の空爆について大々的に報道すらいないのが現実だ」と述べる。
多角的に状況を考慮すると、米国による空爆は「GNAによる強い要請だった」という理由を述べてはいるが、オバマ大統領にはその後の世界が描けているようには思えない。
オバマ大統領は2009年の政権誕生以来、他国に軍事攻撃しないことを信条にしてきたが、実際は今また新たな一歩を違う国家で踏み出してしまった。
敵対するテロリスト集団は国家ではない。首都を陥落すれば勝利を収められるわけでもない。彼らは戦闘機も自製の戦車も持たないが、アメーバのように動き回りながら、勢力を拡大させている。
たとえISを殲滅できたとしても、空爆という軍事介入をした以上、米国は国家構築に関与する義務が生じる。アフガニスタンとイラクでの教訓はそこだったはずだ。
ペンタゴンにすれば空爆はたやすいだろうが、破壊した都市を再建し、新しい政府を作り上げるプロセスは容易ではない。
オバマ流の戦争は「世界の警察官」ではなく「世界の秘密警察官」に変わったが、米国による破壊の論理は相変わらず何年も変わっていない。
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