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[かがくアゴラ]「戦争は本能」説 一石投じる
中尾央氏
縄文時代の人骨には、殺されたとみられる痕跡は極めて少ない
なぜ人間は戦争をするようになったのか。欧米では、戦争は人間の本能との見方が強い。科学哲学者の中尾央・山口大学助教らは先ごろ、縄文人の人骨を1000体以上調べて暴力は極めて少なかったとの論文を発表し、「戦争は本能」説に一石を投じた。
――戦争の起源について、どのような議論があるのですか。
かつて、野生動物を狩り植物を集めて暮らしていた狩猟採集民には戦争はなかったとみられていました。農耕が始まり、土地を巡る争いから戦争が起きたと考えられたからです。しかし近年、欧米のグループが石器時代の人骨を調べ、狩猟採集民の間で集団的な虐殺があったとの報告が相次いだため、戦争は人間の本能に根ざしたものだとの見方が強まりました。
――それに反論する調査結果を英科学誌に発表されたそうですが。
はい。日本の縄文時代は1万5000年前から2800年前ごろまで続きましたが、この間に戦争があったという証拠がまったく出てきません。今回、考古学や人類学の専門家と共同で、全国の大学や自治体に保存されている縄文時代の大人の人骨1275体のデータを調べました。頭蓋に穴が開いているなど、他人の暴力で死亡したと思われるのは23体で、わずか1.8%でした。これまで欧米の調査で報告されている12〜15%より、ずっと少ない数字です。
――なぜ暴力が少なかったのでしょうか。
今回の調査からはわかりません。ただ、戦争が人間の本能によって自然に起きるのではなく、その集団の文化や生活環境など、地域によって異なる理由で起きるものだということを示唆する結果だと思います。
――なぜこの調査をしようと思ったのですか。
戦争はどうして起きるのかを知りたいからです。もし戦争が人間の本能ではなく、食糧など何かの欠乏に陥ったときに起きるのだとしたら、貧困を減らせば戦争がなくなるかもしれません。戦争が人間の進化にどのように影響したかも興味のある問題です。戦争は個人でなく集団間の争いなので、自分が損になっても他人のために行動する利他行動を進化させたと考える人もいますが、私は疑問に思っています。
――哲学者の論文としては異色ですね。
学問の細分化が進み、学問と学問の間には多くの隙間が空いています。どの分野にも属さないけど皆が知りたい重要な問題が膨大に積み残されています。科学と哲学の間にもそうした重要な問題がたくさんあり、少しずつ取り組んでいきたいと思っています。
(古田彩)
[日経新聞8月14日朝刊P.15]
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