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広島の平和記念公園で、演説に臨むバラク・オバマ米大統領(2016年5月27日撮影、資料写真)。(c)AFP/JOHANNES EISELE〔AFPBB News〕
オバマ大統領の理想と米国の核兵器の現実 1兆ドルの予算で核兵器を近代化、「日本に核武装させよ」の声も
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47575
2016.8.11 北村 淳 JBpress
オバマ大統領が広島を訪れた際に語った「核兵器のない世界の実現」という言葉は、今年の広島原爆の日に広島市長によってなされた「平和宣言」や、同じく安倍首相の「あいさつ」でも繰り返して取り上げられた。日本では、アメリカにそのような方向へ向かってほしいという期待を込めて、オバマ大統領の広島訪問や「核兵器のない世界の実現」という言葉は評価されているようである。
しかしアメリカでは、オバマ大統領の理想はあまり関心が持たれていない。
オバマ大統領が日本やヨーロッパで口にしている「核兵器のない世界の実現」といった表現や、広島訪問というパフォーマンスをきっかけとして核軍縮を実現させようという反核団体なども存在する。だが、軍事関係者も一般の人々も、「核兵器のない世界」が実現するとは到底思っていない。
その最大の理由は、多くのアメリカ国民は、アメリカ軍が7100発もの核弾頭を保有し、ロシアや中国の核戦力に睨みを効かせている現状を知っており、「核兵器のない世界」が異次元の世界に感じられるから、ということであろう。
■1538発の核弾頭が実戦配備中
「アメリカが7100発の核弾頭を保有している」という表現は軍事的には正確性を欠いているといえるかもしれない。7100発(正確には2016年夏現在で7071発)のうち2500発が「退役済み核弾頭」だからだ。これらの核弾頭は、もはや実戦用兵器貯蔵庫に収納されておらず、廃棄処理を待っている状態である(ただし、それらの核弾頭は解体するまでは現役復帰させて再び使用することも不可能ではない)。
そして、4571発が「現役の核弾頭」である。そのうち1538発が実戦配備中であり、3033発が兵器庫に貯蔵されスタンバイの状態の核弾頭だ。
ちなみに、アメリカ以外の核保有国の「現役の核弾頭」の推計値(米国防総省や米国務省の資料などを基にArms Control Associationが推定)は、ロシアが4500発(そのうちの1648発が実戦配備中)、フランスが300発、中国が260発、イギリスが215発、パキスタンが120発、インドが110発、イスラエルが80発、そして北朝鮮が8発(最大で)と見積もられている。
このようにアメリカが依然として世界最大の核弾頭保有国であるという事実がある以上、いくらオバマ大統領が「核兵器のない世界の実現」などと口にしても、多くのアメリカ人にとっては絵空事に映ってしまうのである。
■米核戦略の基本方針は不変
核弾頭保有数に加えて、日本やヨーロッパにおけるオバマ大統領の非核化宣言が、少なくともアメリカ国内では全く空虚な絵空事と受け止められてしまっているのは、オバマ政権がペンタゴンにゴーサインを出している米軍核戦略と、「核兵器のない世界の実現」とが矛盾しているからだ。
アメリカ軍が保有している各種核弾頭や、それらを運搬し発射するプラットホーム(弾道ミサイル、巡航ミサイル、戦略原潜、爆撃機、ミサイルサイロ施設など)の多くが耐用年数に近付きつつある。そこで、アメリカ国内では、核兵器の老朽化を契機として核兵器保有に関して再考すべきであるという声が、反核団体だけでなく軍関係者の中からもあがった。
1つの立場は、「老朽化した核兵器を新型に変えるにあたって、大幅に保有数を削減すべきである」という立場である。反核団体などは、このような流れが実現すれば、やがて核兵器廃絶へとつながるものと期待した。
それに対して、老朽化した核兵器をすべて新型核兵器に置き換えるのは財政的にはきわめて困難であるが「予算の許す限り新型兵器の開発を続けつつ、現存の核兵器を近代化させていく方式をとるべきである」という立場がある。
結局、オバマ大統領が採用したのは後者の「核兵器近代化」路線であった。アメリカ軍が保有している核兵器(各種プラットフォームと核弾頭)は今後四半世紀にわたって近代化していく方針が決定された。そのために投入される予算は1兆ドルとされている。
実際に、旧式化してきている核弾頭が搭載できる空中発射型巡航ミサイル(AGM-86)に取って代わる新型ミサイルの開発が始まっており、連邦議会は研究開発費として8500万ドルの予算を認めるようだ。
「LRSO」と呼ばれる新型ミサイルは(予定通りに開発が成功すれば)核弾頭も非核弾頭も搭載可能な長距離巡航ミサイルで、1970年代に設計されたAGM-86と違って、ステルス性に優れており、敵(中国、ロシアなど)の優秀な対空警戒システムを突破する能力が与えられ、より精確なピンポイント攻撃が可能となる高性能核兵器とされている。
計画中のLRSOの想像図
このようにAGM-86をLRSOへと近代化しようとする構想に対して、海外に向かっては「核兵器のない世界の実現」などと理想論をぶち上げているオバマ大統領が、LRSO開発計画にストップをかけなければ核兵器の近代化路線が定着してしまう、と反核団体などからは危惧の声が上げられている。
■核戦力に投入する予算を削減する方策とは
また、強力な核戦力の存続自体は容認する軍関係者などの間からも「いくらLRSOが最新鋭のミサイルであっても、LRSOの配備はAGM-86などが誕生した米ソ冷戦時代の核戦略のアイデアを継承するものであり、時代遅れあるいは時代錯誤とみなさざるを得ない。まして、軍事費が大削減されてしまった現在、莫大な費用が必要となるLRSOのような核兵器近代化に投入する予算を必要としている分野はいくらでもある」といった反対の声も上がっている。
LRSOをはじめとする核兵器の近代化はもとより、既存の核兵器を運用するだけでも莫大な軍事費が必要だ。アメリカの核戦略が現状を維持する場合、核搭載戦略原潜と核搭載爆撃機それに地上発射型大陸間弾道ミサイルを運用し近代化するための「核戦力費」は、(アメリカの軍事シンクタンクCBOの推計では)2017年度が114億ドル、2020年度が133億ドル、そして2020年度が175億ドルとされている。
半世紀以上にもわたってアメリカ核戦力の空の主役を担ってきているB-52爆撃機と各種兵器
そこでアメリカの軍事戦略家や政治家の間には、自然発生的に次のようなアイデアが登場しつつある。
「莫大な軍事予算を核戦力を維持していくために支出し続けていては、アメリカ軍全体の戦力が弱体化して行きかねない。まして、その核戦力は、アメリカ自身を守るためだけではなく、日本のような自ら核武装をしない同盟国を守るためにも用いられている。
したがって、日本やオーストラリアのようにアメリカに“歯向かってくる恐れがゼロに近い”同盟国に核武装させれば、それだけアメリカの核戦力費用の負担が減少する。
たとえば、アメリカによる監視制御態勢を組み込んだ形で日本に強力な核武装をさせれば、アメリカ自身の核戦力への財政負担は大幅に軽減されるが、東アジア方面での核抑止戦力は弱体化どころか飛躍的に強化され、アメリカにとってはまさに一石二鳥ということができる」
アメリカ大統領候補のトランプ陣営からもこのような声が聞こえてくるが、なにもトランプ氏の思いつきではなく、アメリカの国防予算が八方手詰まり状態から抜け出せない限り、核武装分散論に類する論調が出現することは何ら不思議ではない。
そのような要求を突きつけられる前に、空想的平和論ではない具体的な日本自身の核抑止戦略(非核を貫くにせよ、何らかの核武装を始めるにせよ)を確立しておかなければならない時期に突入しているのだ。
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