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【特別寄稿2】 2016年8月10日 鈴木博毅
旧日本軍も同じだった!
なぜ、日本は「戦い方」が変わったことに気づけないのか?
グローバル競争の中で徐々に存在感をなくす日本。これから、どう戦っていけばいいのだろうか。旧日本軍が当初善戦しながらも、その後一気に瓦解したように、いまも変わらず、日本人は戦い方が切り替わるのを見抜くのが苦手だ。時代が大きく変わるいまこそ、改めて旧日本軍の組織的失敗から学びたい。14万部のベストセラーとなった『「超」入門 失敗の本質』の著者が、日本的組織のジレンマを読み解く(前編)。特別寄稿。
71年前、一面の焼け野原となった敗戦国の日本
日差しが強くなり、うだるような暑さを体験する季節に、日本と日本人が必ず振り返ることがあります。それは71年前に太平洋戦争が終わった日、終戦記念日です。
この戦争で、一般市民を合わせると日本人で亡くなった方は300万人を超えると言われています。
敗戦の半年前、1945年3月10日には、焼夷弾による東京大空襲にB29爆撃機が300機以上来襲、その日だけで約10万人の都民が亡くなりました(東京への空襲はその後も数度行なわれた)。大空襲後の光景として残された写真には、真っ黒な炭と化した一面焼け野原の悲惨な東京の姿が残されています。
「多くの浮浪児たちが上野駅にたどりついて初めて目にした光景―それは、東京の下町が丸ごと焼夷弾で焼き尽くされ、炭化した死体が東京湾まで累々とつらなる姿だった」(書籍『浮浪児1945』より)
1945年6月には、沖縄の日本軍がほぼ壊滅。8月6日には広島、8月9日には長崎に原爆が投下され、2都市で40万人以上の方が犠牲となりました。
71年前の敗戦から現在まで、戦争の悲惨さや愚かさを語り継ぐ人、それを書き残した書籍その他の膨大な資料が残されています。これは悲惨な戦争を二度と繰り返さないためにと、多くの人たちがその願いを込めた結果ではないでしょうか。
ビジネスの組織論として、今も読み継がれる『失敗の本質』
日本軍の敗因を、ビジネス組織論として分析した書籍に『失敗の本質』があります(野中郁次郎氏を含む6名の学者が共同執筆された名著)。
初版は1984年ですが、以降32年間、累計で55万部を超える驚異的なロングセラーです。日本軍が実施した6つの作戦を分析し、戦略と組織の「失敗の本質」を鋭くえぐり出していることが、読み継がれている理由なのでしょう。
【戦略上の失敗要因分析】※『失敗の本質』第2章より
(1)あいまいな戦略目的
(2)短期決戦の戦略志向
(3)主観的で「帰納的」な戦略策定―空気の支配
(4)狭くて進化のない戦略オプション
(5)アンバランスな戦闘技術体系
【組織上の失敗要因分析】
(1)人的ネットワーク偏重の組織構造
(2)属人的な組織の統合
(3)学習を軽視した組織
(4)プロセスや動機を重視した評価
あいまいな戦略目的とは「なにを達成すれば勝てるのか?」がわかっていないことを意味します。1942年6月にハワイ北東の海域でおこなわれたミッドウェー海戦では、日本海軍が「ミッドウェー島と敵空母の両方を目的にした」ことに対して、米軍側の指揮官ニミッツが「空母以外に手を出すな」と言明して劇的な勝利を収めました。
日本軍は、効果的な戦略目標を確定できず、組織としては人のつながりに過度に依存していました。ある派閥が要職を占めてしまうと、合理的な判断よりも、人間関係を重視した決断をして、現実を直視することなく、ずるずると敗北を続けたのです。
もはや「そういった問題ではない」ことに気づけたならば…
筆者は、名著『失敗の本質』の入門書となる『「超」入門 失敗の本質』を2012年4月に世に出しましたが、その中で「戦略とは追いかける指標である」と定義しました。これは、『失敗の本質』を十数回も読む中で、描かれている現象を説明するために必要だと思われたからです。
自動車レースであるチームが、車体を軽量化することで勝利を狙うなら「軽量化戦略」、馬力をアップさせることで勝利を狙うなら「高馬力戦略」ということができます。
なぜ、このような定義が必要と判断したかの理由は、『失敗の本質』を読む中で、日本軍と米軍の優位は、ある瞬間には入れ替わっていると感じたからです。
次の文は、日本海軍が4隻の空母を失って壊滅した、ミッドウェー海戦で参謀長だった草鹿龍之介が戦後に書いた手記の一節になります。彼は艦隊の旗艦である、赤城の艦橋から、ミッドウェーの戦闘を見ていました。
「旗艦赤城は常に雷爆撃の目標になる。対空砲火、機銃射撃の轟音、爆音で、耳には栓をつめているのであるが、鼓膜が破れそうである。「右前方雷跡」と見張り員が叫ぶ「面舵」と艦長が号令する。魚雷は艦側すれすれに通過する。「戻せ!」「敵飛行機爆弾投下」と見張員がいう、「取り舵一杯」と艦長がこれをかわす、艦橋は此の如き状況の連続である」
「わが戦闘機は、前述の如く、三面六臂見つければ必ず叩き落さなければ已まぬと、阿修羅のごとく荒れ回る。米側は護衛戦闘機のないため、その被害も惨澹たるものであった」(書籍『目撃者が語る昭和史』より、当時ミッドウェー攻略機動艦隊参謀長、草鹿龍之介の手記から)
それ以前の海戦であれば、熟練の日本人パイロットと零戦の空戦性能で敵の攻撃をはねのけ、その間に爆撃機や雷撃機が、敵の艦船を撃沈するところです。しかし実際に負けたのは日本艦隊でした。米軍は暗号解読で日本の作戦を完全に事前に知っており、米空母は日本艦隊の位置を、日本側より先に捉えて爆撃機を発進させていたからです。
戦闘機の性能とパイロットの技量という古い指標が意味をなさなくなり、「敵の位置を先に捉える」新たな指標が誕生した瞬間でした。その後、米軍は高性能なレーダーで日本軍の位置を事前に正確に捉えていき、名戦闘機と言われた零戦はなすすべもなくつぎつぎに撃ち落され、日本海軍の艦船は急速に撃沈されていきます。
古い指標は新たな有効性を持った指標の出現でその優位を失い、敗れ去っていく側になるのです。ビジネスで言えば「もはやその要素は勝利のポイントではなくなった」という状態でしょうか。
優れた液晶技術を持っていた日本のシャープは、台湾の鴻海に2016年の春に買収されています。モノ作りの中で、単なる技術優位だけではなく、参入障壁の高いビジネスモデルを打ち立てることができるかが、企業の栄枯盛衰を分ける指標となる、新たな時代が到来しているのです。
学習を軽視する組織は、生存領域がどんどん狭くなる
『失敗の本質』の第2章には、日本軍が学習を軽視した組織だったと指摘されています。時代の変化、兵数や敢闘精神ではなく近代装備の充実こそが勝負を決める世界となったにもかかわらず、日本陸軍は変化に対処せず、精神力の優位を強調したのです。
「こうした精神主義は二つの点で日本軍の組織的な学習を妨げる結果になった。一つは敵戦力の過小評価である。とくに相手の装備が優勢であることを認めても、精神力において相手は劣勢であるとの評価が下されるのがつねであった」
「しかし二つの敗退から学習したのは、米軍であった。米軍は、それまであった大型戦艦建造計画を中止し、航空母艦と航空機の生産に全力を集中し、しだいに優勢な機動部隊をつくり上げていった」(書籍『失敗の本質』第2章より)
過剰な精神主義は、現実とその中での敗北を見えなくさせて、本来であれば「学習できたはずのこと」から、組織を遠ざけてしまいます。戦争初期に絶対的な優位を誇った日本の零戦は、敵のレーダーや近接信管(当たらなくとも撃墜できる砲弾)の登場で、米軍の艦船にほとんど近づくことができなくなりました。
学習を止めれば、その優位性は相手に浸食され、次第に生存できる領域が狭くなってしまうのです。人や企業にも共通しますが、10年前と強みが変わらない存在は、影響力の範囲もその強さも、はるかに縮小した形で現在を生きていくことになるのです。
草鹿参謀長の「速やかに戦場を、敵上空に推し進めるべきだった」
いわば、敗軍の参謀である草鹿龍之介は、ミッドウェー海戦で敗北が決定した爆撃の一瞬、そしてその後の回想として、敗因を次のように分析しています。
以下の文面は、回想として草鹿参謀長が考えた敗因です。
「その一瞬であった。空一面に覆いかぶさっていた断雲の中から、一機、二機、三機と米艦爆が突っ込んで来た。艦長は即刻転舵を令した。第一弾は危く躱したかに見えたが、二弾、三段は、爆弾の落ちてくるのが下からよく見える(中略)。第三弾は、出撃準備完成の飛行機群の真ん中に命中し、震動と同時に、紅蓮の焔は、たちまち飛行甲板に燃え広がり、黒煙は天に沖し、やがては、搭載爆弾魚雷が諸所に自爆し、そのたびに艦内は大振動を起こし、所在の兵器人員を吹き飛ばし、阿鼻叫喚の巷となった」
「戦場は、ミッドウェー上空の第一回戦闘を除いて、全部わが空母群の上空であった。敵機動部隊の空母群は、なんら日本側飛行機の攻撃を受けていない(中略)。敵機動部隊発見時、多少の犠牲と苦戦を覚悟しても、速やかに戦場を敵上空に推し進めることに、遅疑逡巡した、われら機動部隊司令部の失敗も最も大きな敗戦の直接的原因であった」(いずれも書籍『目撃者が語る昭和史』より、草鹿参謀長の手記から)
また、「この態勢を招来した所以は、立ち上がりに際し、彼我互いに敵を知っていたか否かによって、定まったのであり」と書いています。つまり、どの場所に敵がいて、どこが戦場になるかを先に知った方が、相手の頭上を戦場にすることができるのです。
未来を知る力、未来を創造する力の差が戦場を誰の頭の上にするのかを決めるのです。
最近、大手ネット書店のアマゾンから、電子書籍の読み放題プラン「キンドル・アンリミテッド」が発表されました。視点を変えるなら、これはコンテンツ産業の空母の上で、戦闘が繰り広げられていることに似ています。
テレビ産業は、インターネットに視聴時間をうばわれて久しいと言われています。共に「優れたコンテンツを創る能力」がありながらも、それを超える新たな強みを手にする学習を完成できず、結局はプラットフォームや常時接続をするネットの“新指標”に負けているのです。
端的に言えば、負ける側には未来の戦場を想像する力と新たなテーマの設定力が欠けています。そのような存在は、苦しい戦いの中で善戦をしながらも、敗北がどんどんと近づいている状態にあるはずです。ちょうど、ミッドウェー海戦の日本海軍のようにです。
一方で、IT産業の一部が既存企業や古い業界の売上を奪う立場になり、さらには支配的なポジションを得てしまうことがよく起こります。これはIT業界が、未来の姿を想像することで成り立っている業界であり、常に古い産業の頭上を戦場にできる習性があるからだと推測できるのです。
2016年、日本と日本人は、新たな学習に目覚めているだろうか?
戦略(つまり追いかける指標)の有効性は、時代によって変化します。したがって、戦略の定義を正確に知った上で、常に新しい指標を生み出すことが重要になります。
組織や個人が学習するのを妨げる要因の一つは、過度の精神主義や傲慢さです。問題がない、いま自分はなんの問題も抱えていないと考えれば、新たな強みを生み出すような、苦しい試行錯誤や挑戦を体験できないことになるからです。
戦後は70年目を越え、71年目となりました。名著『失敗の本質』には、組織として目を覆いたくなるような悲惨な失敗とその精緻な分析が溢れています。
一方で、日本と日本人は、いま成功しているのか、失敗しているのかどちらなのでしょうか。私たちは未来を積極的に描き、これまでにない新たな問題を設定し、それを解決するために汗をかき、挑戦と努力をしているでしょうか?
日本企業の生存領域は、順調に拡大しているのか、次第に狭くなっているのでしょうか。私たちの個人としての仕事、活躍の場はいかがでしょうか。
あなたの企業は、敵の空母の上空で(つまり別業界のシェアを奪い取る形で)有利な戦闘をできているでしょうか。敵に上空を押さえられ、熟練の零戦パイロットだけを頼りに、防戦一方で悪戦苦闘を続けている状態でしょうか。
2016年、日本と日本人は、新たな学習に目覚めているでしょうか?
次回の【後編】では、日本陸軍の最大の激戦地、そして悲劇の始まりの場所となったガダルカナル島での戦いを描きます。
(後編に続く)
http://diamond.jp/articles/-/98335
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