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米海軍によるダメコン競技大会「ダメコン・オリンピック」の様子(出所:米海軍)
護衛艦「いずも」が中国の魚雷一発で沈む日 進まない自動化、人手不足でままならない艦艇のダメコン
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47563
2016.8.10 部谷 直亮 JBpress
タイトルを見てギョッとした向きもあるだろう。しかし、海上自衛隊の艦艇のダメージコントロール(ダメコン)は、かつての帝国海軍の伝統を引き継ぎ、いまだに脆弱な面がある。これは否定しようのない事実なのだ。
第2次世界大戦中の日本海軍のダメコンは、設計から被害後の対応まで米軍とは比較にならないほど低レベルだったと言ってよい。装甲空母「大鳳」は結果的に魚雷1発で、巨大空母「信濃」は魚雷4発で空しく海底に消えていった。ミッドウェーでは、4隻の空母が炎上し消えていった。他方、米海軍の艦艇は実にしぶとく、昭和天皇が「『サラトガ』が沈んだのは今度で確か4回目だったと思うが」と軍部の報告に皮肉ったように、日本軍の激しい攻撃を耐え抜き、即座に戦列復帰した例が多い。
日米の戦力は戦争序盤では拮抗していたが、ダメコンの格差が戦力の天秤を米国に傾け、中盤以降はただでさえ少ない日本側の戦力をさらに減少させることになった。こうした背景には、日本側は過去のダメコンの教訓が設計に十分に反映されていなかったこと、米空母に比べて日本の空母は人員が足りなかったことなどが挙げられる。
■消火システムの自動化が進んでいない海自艦艇
実は、これらの点は現在も改められていないのが実状である。
例えば、米海軍等に比べると海自艦艇には「艦内」スプリンクラーが非常に少ない。もちろん、艦外やヘリ搭載艦の格納庫等にはスプリンクラーを設置しているし、ハロンガスの散布システムを発電機室やポンプ室の一部を備えている。しかし、米海軍他のように艦内の隅々までスプリンクラーのような自動消火システムを導入することはできていない。基本は人力による消火が中心である。
また、昭和52年度以前に計画された護衛艦には火災警報装置が搭載されていない(現在該当するのは「くらま」「わかさ」のみだが)。実際、護衛艦「しらね」は火の不始末でCIC(戦闘指揮所)が全焼し、100億円以上の打撃を国家財政に与えた。しかも、昭和52年度以降に計画された護衛艦も火災警報装置は「火災の発生する可能性が高い区域や航海中常時配員がない区画」に限定されており、それ以外の区画は人間が発見し、報告する形式になっていると言われている。このように海自は米海軍よりも相対的に人手重視の消火体制である。
■人手が頼りなのに、人員が足りない!
ところが、海上自衛隊はその人間が足りない。
まず、充足率そのものが足りていない。海上自衛隊全体では充足率は92.8%だが、これは海上幕僚監部、一部の海外派遣部隊、音楽隊、情報部隊等のような充足率が100%に近い部隊も含めた平均である。実戦部隊たる水上艦艇は、より少なくなる。
しかも、近年は海外任務が増えたこともあり、艦隊勤務を志望する隊員が減っている。実際、あるDDH(ヘリコプター搭載護衛艦)では20人弱の新人が配属されたが、ほとんどが艦を降りてしまったという。士官は部内の講演で「最近の若者は根性がない」と語ったそうだが、根性で片付けられる問題ではなかろう。
こうした事情により、筆者の推測だが実際には7割程度の人員で水上艦艇は稼働していると見られる。その結果、幹部は寝られないという状況に陥っている。ひどい艦艇では平均2時間睡眠だといわれている。
海自の実質的な充足率は、さらに低いはずである。というのは、海上自衛隊は新型艦艇を建造するたびに「省力化を実現した」と言っているのだが、既に述べたように応急処置の自動化はあまり進んでいない。その一方で、乗員1人あたりが担当するスペースが格段に広くなっているのだ。
例えば、掃海部隊を指揮する掃海母艦は、1997年に「はやせ」型から「うらが」型に移行した。「はやせ」では乗員1人あたりの担当スペースは単純計算で66.99立方メートルだった。それが、「うらさ」になると、艦のサイズ拡大、乗員数の減少(180人→170人)によって、255.46立方メートルとなる。つまり、それまでと比べて3.8倍の空間を1人が担当することになったのである。そして、他の多くの世代交代した艦艇でも同じなのである。これは、もはや「省力化」で解決できる範囲を超えている。実際の現場の声もそうしたものが多い。
このように海自は実際の充足率以上に過剰なオーバーワークになりやすい構造になっている。人手不足で睡眠不足の海自隊員中心のダメコンに期待するのは酷というものだろう。
もちろん、こうした人手不足の問題は現場でも議論されているし、特にダメコンを担当する応急員達の勉強会では、米国式の自動化導入等が議論になる。だが、設計にまでは中々反映されないという。
これは戦前の機関科問題と似たような面があり、“花形ではない応急員の発言力が低い”ことや、設計思想も含めて変更するのはコストがかかるためである。
■「自動化」と「充足率向上」を同時に行うべき
中国海軍のダメコンは日本よりも劣っていると言われる。それは事実だろう。だが、彼らは真剣に米海軍に勝とうとしており間違いなく改善を進めていくだろう。何よりも、中国軍はある艦艇に艦長が2人いたというような笑い話があるように充足率は高く、対艦弾道・巡航ミサイルや艦艇等の物量では海上自衛隊を大幅に超える。
日本側は少ない艦艇とミサイルで、多数の相手と戦わなければならない。そうであるならば何をすべきかは明らかであろう。
今、行うべきなのは、米海軍レベルの自動化およびいびつな戦力構成の適正化を推進し、それにより浮いた人員を所要の配置に回すことだ。同時に、本来必要な人員はきちんと定員として認める施策を確立することである。つまり、「自動化」と「充足率向上」を同時に行うべきなのだ。
具体的には、(1)今後建造予定とされる強襲揚陸艦等のような明らかに無理のある大型艦艇の建造中止による実質的な充足率の是正、(2)後方要員に陸自の一部を充て水上勤務者を増やす、(3)応急システム自動化の促進、(4)組織文化の転換、(5)音波式消火器やロボット消火隊員など米海軍研究所が進めているような新型応急システムの研究開発、を急ぐべきだ。
特に(4)の組織文化の転換のためには、海上自衛隊は全自衛隊対抗サッカー大会(悲しいことに昼間サッカーの練習をして、残業で仕事を解決する熱心な幹部もいるようだが)に参加するよりも、米海軍のように「ダメコン・オリンピック」を大々的に開催してダメコンの腕をどんどん競い合うべきだ。また(5)に関しては、現在、ダメコンの研究が「安全保障技術研究推進制度」でも対象となっていない。防衛省の技術開発でもレールガンのようなSF兵器と違ってあまり重視されていないが、もっと行うべきだ。
護衛艦「いずも」が中国の魚雷一発で沈む日、それは誇張であっても、虚構ではない。そんな日を回避する為の防衛予算・政策・人員の優先順位の変更こそが、今必要なのである。
(付記) 無論、本稿で指摘したような状況に海自があるのは、定員を維持するためにダメコン上の所要が使われてきたためであり、責められるべきではないという点には留意が必要だろう。
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