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米空母「ハリー・トルーマン」でプラスチック製品の作成に使用されている3Dプリンタ。注射器や麻酔ガス排除装置のアダプターなどの医療品や排水管カバーなどの艦内備品を製造している(出所:米海軍)
もう目の前?戦闘機が飛びながらミサイルを作る日 米国で急速に発展する3Dプリンタの軍事転用
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47316
2016.7.13 部谷 直亮 JBpress
3Dプリンタの技術革新は留まるところを知らない。今や鼠の人工卵巣やオフィス、自動操縦車を作るところまで進み、軍事分野でも転用著しい。
以前のコラム「中韓露にも遅れる日本、3Dプリンター軍事転用を急げ」
(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46130)、「米陸軍の驚くべき試み、無人機を戦場で現地生産」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46390)では、3Dプリンタが既に米軍では当たり前の装備となっていることを紹介した。
今回は、米国で進むさらに新しい動きを紹介しよう。
■レーダー用の電子部品やミサイル丸ごとも3Dプリンタで
2016年1月の報道によれば、軍需製品メーカー大手の米レイセオン社がスポンサーをしているマサチューセッツ大学の研究室は、レーダー用の電子部品を金属ナノ粒子を含む導電性インクを使って製造可能な3Dプリンタの開発に成功したという。
この電子部品は可変容量ダイオード(いわゆるバラクタ)と言われ、特定の頻度で電波を発生させたり受信させたりするために必要なものである。軍用レーダーシステム、自動車衝突防止装置、携帯電話などにはなくてはならない部品だ。また、この新型3Dプリンタは、イージス艦等が搭載するフェイズドアレイレーダーに必要な位相器や無線LANやレーダーの重要部品である周波数選択膜も作ることも可能だという。
共同研究室長のマッカロール氏によれば、「まだ実験室レベルの技術ではあるが、実用化に成功すれば、レーダーの製造がはるかに安く簡単かつ高速になる。将来的には高性能のコンピューターチップを3Dプリンタで作るところまで行くつもりだ」とのことだ。
さらに、米国防総省の技術研究部門である「本土防衛情報分析センター」(HDIAC)は、3Dプリンタで、コンピューターチップも含めてミサイル全体を作ることも近い将来可能になると見ている。
HDIACは、マサチューセッツ工科大学の研究所が2015年に開発した新型3Dプリンタ「MultiFab」について次のように評している。
「『MultiFab』は10種類もの複数素材の加工を同時に並行して行える。これにより、ミサイルのような複雑な製品を、電子回路も含めて一から作ること ができる。しかも、『MultiFab』は市販されている部品で作られており、たった7000ドルしかかかっていない」
つまり、近い将来、F-35戦闘機やB-21爆撃機の機体の中で、状況に応じて必要なタイプのミサイルや無人機を製造して発射するのも夢物語ではないということである。実際、BAEシステムズは2040年までに飛行中の航空機内部での3Dプリンタによる無人機生産・発射が可能になると見ている。
■オスプレイの重要部品も3Dプリンタ部品
3Dプリンタの軍事転用は現実の機器、兵器に着実に拡大している。B-52爆撃機、F-18戦闘機、F-35戦闘機の部品には、すでに3Dプリンタ製品が使用されているが、MV-22オスプレイにも組み込まれようとしている。
米海軍の2016年5月の発表によれば、年内にも3Dプリンタ製のエンジンナセルを含む重要部品を組み込んだ海兵隊のMV-22オスプレイが投入されるという。
海軍航空システム司令部副司令官のフランシス・モーリー少将は「これは歴史的な飛行であり、まさしくロゼッタストーンである。航空機の重要部品を3Dプリンタが生産できるならば、維持整備のための経費と整備速度と輸送時間を大幅に短縮できる」と評しており、海軍・海兵隊の意気込みが伺える。実際、新任の海兵隊副総司令官は「妻へのプレゼントは3Dプリンタにした」と熱っぽく語る人物であり、いかに彼らが3Dプリンタを重視しているかが分かるだろう。
■前線で兵器をオンデマンド生産する海軍の構想
また、米陸軍では、小型無人機を手始めに将来的には全ての装備品を、前線の3Dプリンタでオンデマンド製造することを目指している。海軍も今年4月、同様の構想を明らかにした。
4月20日、海軍次官補代理(研究・開発・試作・評価担当)のジョン・バロウ氏は海軍主催による3Dプリンタ技術ショーの講演で次のように構想を述べた。
「3Dプリンタは、我々の思考、業務、コストの基準、意思決定を根本的に変えるだろう。3Dプリンタの作戦および技術的な可能性は、今まさに爆発的に拡大しようとしている。将来的には、3Dプリンタは海軍および海兵隊の前線、全艦艇および拠点に配備され、オンデマンドで必要な部品や装備品を生産・提供できるようにする」
付き添いの海軍大佐は「そのための新しい契約戦略が必要だ」とも述べたという。
ここで指摘しておきたいのは、これらは長期的な話ではなく近い将来の話だという点だ。実際、F-22ステルス戦闘機のエンジンを製造しているプラット&ホイットニー社副社長のアラン・エプスタインは、「2034年には、全ての艦船および基地に3Dプリンタが配備され、全ての部品を必要に応じて生産し、長大な補給路はほとんど不要になるだろう」「軍の兵站部門が本当に欲しがっているのは、ボタンを押すだけでいろいろな部品が出てくるホームベーカリーのような3Dプリンタだが、その実現までには何十年もかからないだろう」と語っている。しかも、これは米国では「慎重な見解」の部類とされているのである。
■米軍がこれほど熱心に3Dプリンタの導入を進める理由
なぜ、米軍はこれほどの熱意をもって3Dプリンタの導入を急速に進めているのだろうか。
第1の理由は、対中・対ロ戦を考える上で非常に重要な技術だからである。
中国やロシアなどは、現代戦では初手においていかに相手のレーダーシステムや通信等の指揮・通信・偵察能力を麻痺・破壊するかがカギだと見なしている。その上で、行動不能になった相手を大量の弾道・巡航ミサイル等で一気に叩きのめす作戦構想を採用している。いわゆる「A2/AD(接近阻止・領域拒否)」戦がそれである。
対する米国は、行動不能になった状態からいかに速やかに回復し、迎撃・反撃するかを軍事上の課題としている。つまり、レーダーや通信システムを即座に前線に再配備・再建し、大量の迎撃なり反撃用のミサイルを展開する方策を探っている。
しかし、これは難しい問題である。それらの装備は高額かつ生産に時間がかかる上、米本土から輸送しなければならないからである。そして、中国・ロシアのA2/ADにより、前線近くの滑走路やシーレーンはずたずたにされているので、運搬も思うようにできない。
しかも、上院軍事委員会議長のカール・レビン上院議員(当時)が2011年の議会で指摘したように、C-27J輸送機、SH-60B哨戒ヘリ、 P-8A対潜哨戒機、THAADミサイルからは、中国製の「偽の部品」が発見されているという。要するに、米軍の装備には欠陥品なりウィルスが仕込まれた部品が組み込まれている懸念があるのである。そのため、おいそれと再生産することはできない。
しかし、3Dプリンタならばこれらの問題を解決できる。まず、金型や製造ラインが不要なので、低コストで製造できる。また、前線で製造すれば、輸送における資金および時間的コストも圧縮できる。そしてサプライチェーンが自勢力内で完結するので、中国製の部品が紛れ込むこともなくなる。
米軍が3Dプリンタの導入を積極的に進める第2の理由は、遠征作戦で大きな効果を発揮するからである。米軍は、アフガンやイラクでのゲリラ戦で装備の損傷が著しかったが、補修部品をいちいち米本土から製造して送らねばならない。現地では共食い整備をしなければならず、また、その生産と輸送は兵站を大きく圧迫した。その苦労の経験があるからこそ、3Dプリンタに着目しているのである。
■防衛省はまったくの無関心
翻って日本を見ると、防衛省はまったく3Dプリンタに関心がないようである。
レールガンやステルス戦闘機のような、技術的に失敗するか、米国には死んでも追いつけないであろう技術には熱心だが、兵站には関心がないと見え、管見の限りでは軍用3Dプリンタの研究開発はまったくと言って良いほど行っていない。政治家も関心はない。むしろ、経産省の方がまだ熱心な節がある。3Dプリンタは日本初の技術であり、まだ米国に勝てる可能性がある技術にもかかわらずである。
実際、防衛白書では、3Dプリンタについて2014年に初めて言及されたが、それは脚注であり、それも「(可能性は)依然として不透明」というものであった。2015年版も、その文章がコピペされていた。今年もおそらくコピペになると思われるが、本当に「依然として不透明」なのか、筆者は大いに疑問である。
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