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増大する世界のプルトニウム量
警戒される日中韓
2016年06月09日(木)岡崎研究所
米不拡散政策教育センターのソコルスキー事務局長が、5月8日付ウォールストリート・ジャーナル紙掲載の論説において、世界のプルトニウム保有量が増大しているとして、日本、韓国、中国の間でプルトニウム製造停止をすべきであり、米国はこの「プルトニウム・ポーズ構想」を支援すべきである、と述べています。論旨、次の通り。
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5月6日、金正恩は水爆核実験と衛星発射を革命の勝利として誇示した。北朝鮮の核開発の進展と対米同盟に対する信頼の揺らぎは日本の反核タブーを侵食している。4月1日、安倍総理は核の保有が憲法上禁止されているわけではないと述べた。
他方、韓国与党の指導者達は朴大統領にプルトニウムの蓄積を軍事的なヘッジ政策として行うよう求めた。2月19日の朝鮮日報は如何にして現存の民生原子力施設を利用して18カ月で原爆を作るかにつき詳述している。
日韓国は共にNPTの締約国であるが、それは必ずしも両国の核保有を阻止することにはならない。日本は原発から出た11トンのプルトニウムを保有している。5キロのプルトニウムで原爆一個ができる。日本は年間8トンのプルトニウムをつくる大規模再処理工場を建設している。2011年の福島事故後の原発停止により今これらのプルトニウムを燃料に使う原発は稼働していない。しかし日本は高速増殖炉のための再処理計画は不変だとしている。
日米原子力協定により日本は再処理を認められているが、韓国は再処理を許されておらず、日本と平等であるべきだとして不満に思っている。18年に日本の六ヶ所村施設が稼働すれば韓国を政治的に抑えることはできなくなるだろう。
中国は日本と同様の再処理施設の建設につき仏と交渉している。これができれば中国の核兵器製造能力は拡大する。中国はまた民生用原子炉の軍事上の意味合いについて問題提起をしている。中国は日本によるプルトニウム保有につき声高な対日批判を繰り返している。
アジアでの高速増殖炉のための再処理推進を支持する者は西欧にもいる。しかし、増殖炉は経済的なものではない。日中韓にも経済性の問題とプルトニウム商業化の安全保障上のリスクにつき懸念する声がある。しかしプルトニウム技術で後れを取るなという強いナショナリズムの声に負けている。
日中韓三国にとって経済的に最も有益な解決方法は、三国の間で性急な民生用プルトニウム開発を共同で停止することである。米国がこの構想を推進していくためには、サウスカロライナのプルトニウム工場建設を中止するというエネルギー省の2月の決定を議会が支持することが必要だ。この「アジア=米プルトニウム・ポーズ構想」については米政権と議会にも支持がある。
東アジアの国々が共同でプルトニウム製造を停止すれば東アジア地域は平穏になるし、アジアの同盟国、中国、米にとって何千億ドルを節約できる。オバマ政権は残り少ないがこの提案を支持することによって核不拡散に末永い貢献をすることができる。
出典:Henry Sokolski,‘Japan and South Korea May Soon Go Nuclear’(Wall Street Journal, May 8, 2016)
http://www.wsj.com/articles/japan-and-south-korea-may-soon-go-nuclear-1462738914
プルトニウム保有量の増加が核不拡散の観点から国際的な関心を呼んでいます。韓国は昨年漸く妥結した米韓原子力協定改定交渉で日本と同様の再処理活動につき米国の同意を執拗に要求しましたが、米国は認めませんでした。中国は自ら日本のような再処理工場建設を仏と交渉しつつ、日本は大量のプルトニウムを保有しているとして、対日批判と宣伝を強めています。
この記事は、プルトニウムは民生用原発に使用するには経済的でないとして、核不拡散の観点から、日本、中国、韓国が共同してプルトニウム製造停止を決めるべきだと提案しています(アジア=米プルトニウム・ポーズ構想)。この構想を仲介、支援するため、米は自国のプルトニウム工場の建設中断を実行すべきだとしています。
日中韓の思惑の違い
しかし、ことはそう簡単ではありません。関係国がプルトニウムに置く重要性がそれぞれ違うからです。我が国は専ら原子力エネルギー確保の観点からプルトニウムを捉えていますが、韓国はナショナリズムと対北朝鮮対応など防衛政策の観点からそれを捉えています。中国は、核兵器保有国としてその能力強化に努めており、国防政策上の考慮が強いでしょう。米国は核不拡散からの考慮に重きを置いています。それゆえ、日中、日韓を同列に議論するのは困難です。また、やるとしても地域規模ではなく世界的規模でやるべきものではないでしょうか。そうであれば、世界のプルトニウムの保有量の最小にするため、それぞれの立場から、できることを注意深く実施していくべきでしょう。
その意味で、我が国が一定量のプルトニウムを米国に移動していることは意味のあることです。2014年のハーグ核セキュリティ・サミットの際、日本は米国との間で日本原子力研究開発機構のプルトニウムの撤去に合意し、今年4月のワシントンでの会合に際しては京都大学の実験装置の高濃縮燃料を米国に撤去することに合意しました。
米議会は核不拡散問題に敏感です。現在の日米原子力協定は2018年7月に30年の有効期間を満了するので、改定交渉をしなければなりません。プルトニウム問題につき米議会の動向を注視していく必要があります。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6920
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