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第15回アジア安全保障会議で登壇するカーター米国防長官〔PHOTO〕gettyimages
南シナ海巡って米中高官が初の舌戦!日本のメディアが報じない「アジア安全保障会議」の舞台ウラ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48852
2016年06月07日(火) 近藤 大介 北京のランダム・ウォーカー 現代ビジネス
■アメリカが中国に拳を振り上げた!
南シナ海は、南海トラフに似ている。南海トラフとは、フィリピン海プレートと、大陸からのユーラシアプレートがぶつかり合う大地震の危険地帯だ。同様に、南シナ海も、海洋からのアメリカ軍と、大陸からの中国軍がぶつかり合う、アジアの新たな「火薬庫」となっている。
そのことを象徴するような「シャングリラ対話」――第15回アジア安全保障会議(IISS)が、6月3日から5日まで、シンガポールのシャングリラホテルで開かれた。
この会議は、毎年この季節に同地で、英国国際戦略研究所が主催して行われる、いわば「軍事サミット」だ。世界の主な国防大臣がズラリ顔を揃えることで知られ、日本からは中谷元防衛大臣が参加した。
今年の会議の主役は、アメリカのアシュトン・カーター国防長官と、中国の孫建国・中央軍事委員会連合参謀部副参謀長だった。米中両国が、南シナ海問題を巡って、世界の国防関係者たちを巻き込んで、ガチンコのバトルを繰り広げたのである。
思えば前任のヘーゲル国防長官は、コワモテの外貌ながら、中国の空母「遼寧」に乗りに、いそいそと訪中したりして、「隠れ親中派」とも言える国防長官だった。それに較べて、昨年2月に就任したカーター国防長官は、柔和な笑顔とは裏腹に、中国に対して非常に強硬である。4月にはフィリピンのガズミン国防相を空母「ジョン・C・ステニス」に乗せて、ともに中国に向かって吠えたりしている。
アメリカのこの頃の対中強硬姿勢について、日本外務省内では、「8年目のオバマ」という言葉が使われているという。「これまで親中派と思っていたら、任期最終年の8年目になって、ようやく『反中親日』変わってくれた」という意味らしい。
だが思うに、オバマ大統領が「変わった」のではなくて、最後の一年ということで、内政や自分のレガシー作りに集中しているため、軍事問題を国防総省に委ねるようになったのではなかろうか。古今東西、政権末期の体制によく見られる現象だ。
国防総省の方も、11月に万が一、トランプ大統領が誕生したら、青天の霹靂のようなことが起こりかねないため、いまのうちに「既成事実」を固めてしまおうとしているように思える。
その結果、強硬派のカーター国防長官率いる国防総省が、中国に対して拳を振り上げているのである。理由はどうあれ、日本にとってはありがたい話である。
■アジア太平洋地域の原理原則
そんなカーター国防長官が、6月4日に「シャングリラ対話」で、最前列に座った孫建国副参謀長を前に、スピーチを行った。この日は、1989年に中国人民解放軍が自国の若者たちに銃弾を向けた天安門事件の27周年にあたる記念日だった。
スピーチのタイトルは、「アジア太平洋の原則的なセキュリティ・ネットワーク」。A4用紙13枚にも上る長い演説だった。
カーター国防長官はまず、アジアの最近の発展を誉め上げ、これらは原理原則が皆に共有されてきたからだと説いた。
「昨晩はディナータイムに、タイのプラユット首相の感慨深い基調演説があった。8月にオバマ大統領は、シンガポールの首相をワシントンに招く。この地では中国とインドが台頭し、若いイノベーションのハノイ、IT産業のムンバイ、中継基地のビルマ、学園都市のソウル、それに昨日私が渡ってきた活況を呈するマラッカ海峡。これらを可能にしたのは、この地に長く根づいてきた原則が、誰にでもシェアされてきたからだ。
しかしながら、南シナ海の緊張は高まり、北朝鮮は相変わらず核やミサイルを開発し、恫喝を続けている。そんな中、いかにして安定と繁栄を続けるために、こうした原則を守るネットワークを構築するかが問われている。
今後ともセキュリティの協力が継続可能ならば、南シナ海においてアメリカ、中国、インドの共同海上訓練や、日本と韓国も加わった災害救助訓練、ASEANの広範なセキュリティ・ネットワークの構築も、可能になるだろう。実際、中国もインドも、アメリカが主催するRIMPAC(環太平洋合同演習)に、再び参加する予定だ。これには27ヵ国が参加する」
カーター国防長官は続いて、アメリカがアジア太平洋地域のセキュリティ・ネットワーク作りに、積極的に関与していく決意を示した。
「アメリカはこれまで、アジア太平洋地域の原則に基づいたセキュリティ・ネットワークに、全面的にコミットしてきたし、今後ともコミットしていく。それはアメリカの外交、経済、安全の分野での国益が、アジア太平洋地域に深く根ざしているからだ。そしてアジア太平洋地域へのリバランス(軍事的重視)は、一時的なものではなく、これからも耐えて進めていくものだ。
先週、オバマ大統領は、ベトナムと日本に歴史的な訪問を行った。オバマ大統領にとって10回目のこの地への訪問だった。私も今回で5回目の訪問であり、しかも今回が最後ではない。来週には何人かの閣僚が(北京で)米中戦略・経済対話に参加する。
アメリカは、アジア太平洋地域で経済的な結びつきも強化してきた。例えば、過去7年でアメリカとASEANは55%も貿易が伸びた。11ヵ国とともにTPPも結ぼうとしている。
そのようなわけで、国防総省はアジア太平洋地域に、最優秀の人材と最新の兵器を投入していく。アメリカは世界一の兵器を維持してきたし、今後10年かそこらで、アメリカの国防能力を凌駕する国が現れるとは思われない」
IISS会期中、会談に臨んだカーター国防長官と中谷防衛相〔PHOTO〕gettyimages
■「中国の南シナ海における行動は、孤立している」
続いて、アメリカの同盟国及び友好国との幅広い活動について披瀝した。
「例えば米日同盟は、アジア太平洋地域の安全保障の礎石だ。昨年、私と中谷防衛相が、新たな防衛ガイドラインにサインした。いまほど米日同盟が強化され、地域の安全に貢献している時はない。
同様に、米豪同盟も、ますますグローバルになってきている。フィリピンとの同盟も、かつてと同様に緊密になっている。米印の軍事協力も、過去で最も親密になっている。オバマ大統領の先週の歴史的訪問で、ベトナムとの関係も劇的に強化され、武器輸出も解禁する。
アメリカは昨年来、東南アジアの海上セキュリティ・ネットワークの構築に、5年で4億2,500万ドルを拠出する。初年度から、フィリピン、ベトナム、インドネシア、マレーシア、タイなどを援助している。
また、3ヵ国の枠組みも進んでいる。アメリカ、日本、韓国の3ヵ国のパートナーシップで北朝鮮の挑発行為に対応している。アメリカ、日本、オーストラリアや、アメリカ、日本、インドの協力も進んでいる。これらが進んでいけば、インド洋から西太平洋までをカバーできる。アメリカとタイ、ラオスのプログラムも成功している。
他にも、日本とベトナム、インドとベトナム、インドネシアとマレーシア、フィリピンといった協力も始まっている。9月に、アメリカとラオスは非公式の国防相対話を共同で開催する」
ここまで述べた後で、いよいよ南シナ海での「仮想敵国」となりつつある中国について言及した。
「アメリカは、平和で安定した、そして繁栄する、そして地域の原則あるセキュリティ・ネットワークの中で責任ある役割を果たす中国を歓迎する。
だが不幸なことに、この地域では懸案が大きくなっている。それは海洋と、サイバースペースと、上空での中国の活動だ。南シナ海において中国は膨張し、過去に前例のない行動に出ている。それは中国の戦略的意図に関わるものだ。
結果として、中国の南シナ海における行動は、孤立している。いまや地域全体として寄り添い、ネットワーク作りを進めているにもかかわらずだ。不幸なことだが、もし中国がいまの行動を続けるなら、中国は孤立した万里の長城を築いて終わるだろう。
アメリカは引き続き、原則のある将来を保証するため、中国とともにコミットしていく。両国には長く続く軍事交流関係がある。通常の米中軍事対話がハワイで開かれたし、中国は今年、RIMPACに戻ってくる。アメリカは今後とも、中国との軍事交流を拡大させていきたい。
実際、原則に基づいたセキュリティ・ネットワークを通じて、米中は共通の挑戦に直面している。ロシアの憂うべき行動や、北朝鮮の核ミサイルの挑発などだ。われわれは皆で協力しあって、原則のある地域の将来を構築していこうではないか」
以上が、カーター国防長官のスピーチの骨子である。
前後に美辞麗句を並べながらも、「中国は南シナ海に孤立した万里の長城を築いて終わる」と言い切った。アメリカの高官が、これほど厳しい表現で、中国の南シナ海の埋め立てを非難したことはない。
シンガポールの国防大臣と握手する孫建国副参謀長(右)〔PHOTO〕gettyimages
■「アジア各国は、冷戦時代の思考から脱却しなければならない」
これに対して翌5日、中国の孫建国副参謀長が登壇した。前半は、中国がいかに世界と地域に貢献しているかということを述べた。
「私はこの二日間の立て続けの会談で、よく声が出なくなってしまった。先にそのことをお詫びしたい。
まず言いたいのは、アジア太平洋の人々は、興衰の同伴者だということだ。世界の人口の40%、GDPの57%、貿易総量の48%を占め、世界最速で、潜在力が最大で、最も活況を呈した地域だ。
中国はこの地域に対して、『一帯一路』を提唱し、AIIB(アジアインフラ投資銀行)を設立し、シルクロード基金を設立した。中国軍も、常に世界平和と地域の安定に貢献してきた。
中国は、国連安保理の5大国中、最大の人員と、2位の経費を拠出している。国内では、30万人の軍人を削減した。兵士一人あたりの経費は6万ドル程度で、米英仏日などの20ドルから30ドルと較べると格安だ。
中国には、覇権を取ろうという野心はない。アメリカとは、相互信頼、提携、衝突しない、持続可能という新型の中米軍事関係を築こうと努力している。日本とも防衛協力を回復させているところだ。
中米両軍は、『海空遭遇安全行為準則』を定め、『重大軍事行動相互通報体制』を拡充させている。中国は2017年にASEANの軍隊と、湛江や他の場所で海上捜索救助訓練を行う予定だ。
アジア各国は、冷戦時代の思考から脱却しなければならない。第三者と衝突せず、対抗せず、敵対せず、ダブルウインの安全提携を目指すべきだ。それは、対抗でなく対話、結盟せず同伴の新たな交流の道だ」
■「われわれは、事を起こすことを恐れない」
続いて後半は、南シナ海における中国の立場の説明と、名指しこそしなかったものの、アメリカへの非難を行った。
「最近、南シナ海の問題が注目を集めている。私が強調したいのは、中国と周辺国の長年の努力によって、南シナ海は安定していて、航行の自由に一切の影響はないということだ。交渉と協議によって平和的に争議を解決すべきであり、南シナ海の平和と安定を堅持すべきだ。
中国とASEANは、南シナ海の平和と安定を維持し保護する能力を有している。そのため域外の国は、建設的に行動すべきで、その反対であってはならない。
現在、南シナ海の問題がホットになっているのは、個別の国家が私利私欲に走って、無茶な行動に出ているからだ。フィリピンは国際仲裁案を提起した。私は強調するが、そのようなやり方は仲裁の方法として不適当だ。中国とフィリピンは、両国の交渉と、『南シナ海行動宣言』によって解決を目指すべきだ。
中国は何度も表明しているが、仲裁には参加しないし、その結果を受け入れることもない。それは国際法に反した行為ではなく、国際法が定める権利を行使する行為だ。
注意してほしいのは、某国が南シナ海で『航行の自由作戦』と称して、公然と武力行使していることだ。そして同盟国を巻き込んで中国に対抗し、中国に国際仲裁の判決を受け入れるよう圧力をかけている。
中国はこうした行為に、断固として反対する。われわれは、あえて事を起こす気はないが、事を起こすことを恐れるものではない。中国は自国の主権と安全の侵犯を許さないし、少数の国家が南シナ海を攪乱するのを座視することもない。
重ねて申し上げるが、中国の南シナ海における政策は変わらなかったし、これからも変わることはない。争議の当事国でもない国は、私利私欲のためにわれわれの進んでいる道を破壊すべきではない」
このように、アメリカを名指しすることはなかったが、アメリカに対する強い対抗心を見せたのだった。
■いまそこにある危機
孫建国副参謀長は冒頭で、「この二日間で立て続けに会談を行って声が出ない」と詫びたが、確かに軍人でないと不可能なくらいのタイトなスケジュールで、各国の国防相らとの会談をこなした。具体的には、以下の通りだ。
@イギリスのホートン参謀長と、昨年10月に習近平主席が訪英して以来の「中英黄金時代」を確認
Aラオスのスウェン副国防相兼総参謀長に、両軍のさらなる交流と軍事援助を約束
Bベトナムの阮志咏副国防相と、軍事学術交流と国境国防交流を確認
Cブルネイのアチズ副国防相に、軍事訓練などの協力を約束
Dシンガポールの黄永宏・新国防相と、地域の安全に協力することを確認
Eロシアのアントノフ副国防相と、両軍の海上合同軍事演習など、友好を見せつけた
Fタイのソンマイ最高司令官と、地域の安全と安定について合意
Gニュージーランドのブランリー国防相と、両軍の対話前進を確認
Hインドネシアのリアミジャルド国防相と、軍事交流のさらなる提携を確認
Iオーストラリアのビンスージン国防司令官と、両軍の交流強化を確認し、年内の訪中を要請
Jカンボジアのディバン副首相兼国防相と、軍事を含めた両国の運命共同体を確認
KNATOのパウエル主席に、対話継続、人員交流強化、多方面での提携、海賊問題などでの協力を提案
L日本の三村亨防衛審議官に、中日関係を高度に重視していることをアピールし、南シナ海問題に関わらないよう要請
Mスイスのパルモラン国防相と、軍事交流強化を提案
Nフランスのガイディナ国防安全書記長と、シリア問題などを協議
OEUのカスカラクス軍事委主席と、マリの平和維持活動などを協議
P韓国の韓民求国防長官と、朝鮮半島の安全について協議
以上である。孫建国副参謀長は、この17人に対してそれぞれ、南シナ海に関する中国の立場を説明し、合わせてアメリカ批判をブッたのである。中国の畏るべき執念を感じざるを得ない。
オバマ政権は、あと半年余りだが、前述のように、強硬派の国防総省主導で進むため、今年後半は、「航行の自由作戦」を拡大していくだろう。一方の中国も、南シナ海での埋め立てをますます加速させていくことが想定される。
そうなると、南シナ海における「米中激突」は、まさに「いまそこにある危機」ということになってくる。ある日本政府関係者は、こう漏らした。
「先の伊勢志摩サミットでの日米首脳会談で、オバマ大統領は、『日本も自衛隊を南シナ海に派遣する覚悟はできているんだろうな』と、安倍総理に問い質した。南シナ海問題は、日本にとっても、いよいよ対岸の火事ではなくなってきた」
たしかに、南シナ海が中国の「内海」となれば、中東から日本へ至るシーレーンを中国が支配することになり、日本の生殺与奪を中国に握られる。南シナ海問題を、日本の問題として考える時が来ている。
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