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対「イスラム国」遠い結束:対立と野合、アラブとクルドに加えトルコ・欧米・露の思惑・野望・打算そして宗派
http://www.asyura2.com/16/warb17/msg/797.html
投稿者 あっしら 日時 2016 年 6 月 03 日 05:14:51: Mo7ApAlflbQ6s gqCCwYK1guc
 


[FINANCIAL TIMES]対「イスラム国」遠い結束
中東特派員 エリカ・ソロモン 米外交担当特派員 ジェフ・ダイヤー

 イラク北部のモスルを支配する過激派組織「イスラム国」(IS)の部隊は極めて脆弱に見える。西には進軍の用意ができている武装勢力があり、北、南、東にも陸軍と民兵部隊が20キロ先まで迫っているからだ。

 だがイラク軍と民兵組織によるモスル奪還は容易でない。周辺の勢力は激しい対立関係にあり、同地域の支配を巡り政治的野望や勢力闘争が渦巻いている。このことがISとの戦いの軍事作戦を妨げている。

 ISがモスルをはじめ、シリアとイラクの広大な地域を制圧し世界に衝撃を与えてから2年。以来、ISと戦う米主導の連合部隊は成果を上げてきた。米国防総省によると、ISは掌握したイラク領の46%、シリア領の支配地域の16%を失った。これは米政府関係者の想定より速いペースだ。そのため、地域の様々な勢力は戦争が終わったかのように自信を深めている。


紛争の終結妨げ、流血招く事態も

 ISが生み出した地域再編により、新たな領土を奪ったり、勢力圏を再確立したりする機会が生まれた。こうした野望は紛争の終結を妨げるだけでなく、今後、宗派間の流血の惨事と地域内の代理戦争を引き起こす不安を招く。

 ISとの戦いは3つの領域の奪還にかかっている。モスルとシリアのラッカ、トルコ国境に近いマンビジポケットと呼ばれる地域だ。だが、いずれも複雑な利害関係に覆われている。

 イラクは政府を支配する多数派のシーア派アラブ人と、少数派で権限拡大を求めるスンニ派アラブ人、独立を求める少数派クルド人に分裂している。モスル周辺の現状はその緊張を反映する。モスルはイラク中央政府と半ば自治を行っているクルド自治政府(KRG)が、かねて領有権を主張してきたいわゆる係争地域の一部だ。つまり、自分たちが奪い合おうとしていた領土をISから奪還するために同盟関係にあるが、両者の関係はよくない。
 

要所モスル奪還は「運良くて来年」

 KRGは渋々、モスルの南にある自分たちの拠点にイラク陸軍の部隊5000人を受け入れたが、同部隊が進軍しようとして失敗した時、クルド人は傍観しているだけだった。

 一方、トルコはモスルの北に置く部隊を増強し、イラク政府とその支援国イランの怒りを買っている。ISが制圧する以前のモスルはトルコの商業活動と諜報(ちょうほう)活動の主要拠点だった。モスルに拠点があれば、トルコと米国がテロリスト集団と見なし、トルコが30年戦ってきたクルド労働者党(PKK)が勢力を振るう地域の近くにトルコ政府は足がかりを持つことにもなる。PKKは今やイラク北部から国境を越え、シリアの姉妹組織が勢力を持つ地域にまで影響力を広げる。

 モスル出身のある識者は、奪還後のことを考え、連合軍は住民が信用する部隊を送り込む必要があると指摘する。こうした事情を考えると、今年中にモスルを奪還する計画は楽観的に見えるとあるクルド人は言う。「運が良くても来年だ」

 宗派間や民族間の緊張関係はマンビジポケットとして知られる地域にも存在する。これはトルコとシリアの国境沿いにアルライなどを通る90キロ続く地帯で、マンビジなどにも広がる。イスラム過激派たちがトルコへ入る最後の通過地点で、欧州への玄関口となっている。

 問題は連合部隊内の対立にある。この数週間で、トルコ人と連合部隊の支援を受けたシリア反政府組織がアルライを制圧した。米国とトルコの部隊は対立し、統制がとれていないため、彼らが支援するグループも緊張関係にあったという。そうした間隙を突き、ISが地域を再び取り返し、何千人もの難民が生まれた。マンビジポケットの西部ではそれ以来、ISとシリアの反政府勢力による勢力争いが続いている。

 欧米の連合部隊には強力な援軍がいる。PKKと関係があるシリアの組織で、YPGとして知られる人民防衛隊だ。YPGは連合部隊の航空支援を受け、ISの支配地域を少しずつ切り崩し、シリア東部のクルド人が支配する地域をほぼすべて奪還した。

 米国はシリアのアサド大統領の退陣よりISとの戦いを優先すべく、シリア民主軍(SDF)という旗印の下にYPGと手を組むようアラブ人武装勢力を引き込もうとしたようだ。しかし、トルコと強い絆を持つ大半のアラブ人武装勢力は、クルド人部隊とは違い、参加には慎重だ。
 
親米勢力間でも派閥争いが激化

 トルコが自国領内でPKKと戦っていることから、米国とクルド人の同盟は米国とトルコの協力関係にも影を落とす。

 地域の武装勢力は、親トルコ派と親米派とで対立している。親米派の間でも、国防総省派と中央情報局派の争いがある。「このように武装勢力間で分裂していて、どうして攻撃や防衛の地点で合意などできるだろう」。ある反政府勢力の指導者は言う。

 クルド人とアラブ人の緊張が生じる可能性は、ラッカ奪還に向けた連合部隊の動きに特に表れている。

 ラッカは圧倒的にアラブ人が多いが、ラッカを射程圏内に入れているのはクルド人が支配的なSDFだけだ。SDFにはアラブ人部隊がほとんどいない。

 「都市を奪うだけならラッカ奪還は容易だ」とある米政府高官は言う。「街を保持する部隊の編成の方が難しい。街を制圧し、すぐに去るわけにはいかない。それが何を意味するか、我々は(イラクとアフガニスタンで)学んだ」

 米国とクルド人の同盟を強力に支持したオバマ政権内の一派は批判にさらされている。アラブ人とクルド人の敵意はシリア北部全域で急激に増した。武装勢力がPKKの姉妹部隊を弱体化させることを望むトルコにあおられ、アレッポ周辺で激しい戦闘が起きている。たとえISを倒したとしても、この戦いの火を消すのは難しいだろう。

 連合部隊は周辺地域を掌握し、ラッカを兵糧攻めにしようとしているが、それでも周辺の街の掌握には、もっと大きなアラブ人部隊が必要になる。米国は最近、ISと戦うシリア人部隊を増強するため、250人の米兵を追加派兵した。

 かつてSDFと手を組むことを検討したシリアの野党勢力の一部は今、米国とロシアがアサド大統領を残留させようとしていると疑い、参加に反対している。ある野党顧問は「今の目標は、次の米政権まで踏ん張ることだ」と話す。

 モスルでは、住民が自分たちを解放しようとしている部隊を警戒する。ISのモスル制圧の責任を負わされるのを恐れているのだ。

 そうした緊張は、ISにつけ込む余地を与える可能性がある。宗派紛争はまだ勃発していないが、イラク政府に対する怒りは高まっている。「ISの台頭を許した力学には、まだ何の変化もない」とクルド人組織の幹部は言う。

(24日付)

[日経新聞5月29日朝刊P.13]

 

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コメント
 
1. 2016年6月03日 08:16:04 : 3ah459lR8Q : BQKXrt2t@gY[297]
トルコ駐独大使召還。
正に戦国の様相。

2. 2016年6月06日 16:32:17 : 8TjCmdg0pM : Jkh4sF2RRyI[4]
アメリカがイラクに対する一方的な武力攻撃に踏み込む前フセイン政権のときにはこんなひどい民族対立宗派対立はなかった。シーア派とスンニ派での結婚は当たり前だった。住民には生活物資が配分されていた。それが今では憎悪を煽り立てられ宗派間で殺し合いが常態化してしまった。クルドとの関係もいっそう険悪化した。

米軍の介入こそが地域を悲惨な状態に追いやった。その米軍は相変わらず戦争に介入しているが自国の兵の犠牲が大きくなり傭兵ばかりに頼るようになった。


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