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日本人には「リアリズム」の視点が欠けている
今、世界史と地政学を学ぶ理由(1)
2016年5月12日(木)
「世界史」と「地政学」がにわかに注目を集めている。メディアの報道を見ると「地政学的リスク」という文字があちこちで躍る。書店では「○○の世界史」というタイトルが棚を占める。地政学とは何なのか。世界史とはいかなる関係にあるのか。地政学と世界史を学ぶと、世界で起きているニュースはどのように理解できるのか。『世界史で学べ! 地政学』などの著書がある茂木誠氏に聞いた。
(聞き手 森 永輔)
「地政学」という文字を頻繁に目にするようになりました。この言葉の使われ方を見ていると、「世界史」と何が違うのだろうという疑問が浮かびます。
東京都出身。大学受験予備校の世界史科講師。iPadを駆使したビジュアルな授業に人気がある。近著に『世界史で学べ! 地政学』『ニュースの“なぜ?”は世界史に学べ』がある。(撮影:菊池くらげ、以下同)
茂木:まず「歴史」についてお話ししましょう。事実の羅列・記録は歴史ではありません。なので年表は歴史とは言えません。年表を歴史にするためには歴史観を加える必要があります。たくさんある出来事の中で、どの事実に注目するのか、ある事実ともう一つの事実はどういう関係にあるのかを解釈するための視点ですね。
私が高校時代に習ったのは世界史ではなくて年表だった気がします。その年表すら十分に覚えることはできませんでしたが。
茂木:同じ事実を見ても、その解釈の仕方は幾通りもあります。その解釈の視点の一つが「リアリズム」という考え方に基づいて歴史を見る方法です。「歴史には正義も悪もない。生存競争を続けているだけ」とする歴史観です。地政学は「リアリズム」の一つで、地理的条件に注目して国家の行動を説明します。
学者や教科書の執筆者は自分の歴史観を示すのを嫌がる傾向があります。歴史観は多様なので、異なる歴史観を持つ人から必ず批判されます。それを恐れて、事実の羅列に終始するのです。
他の国の歴史教育も、事実の羅列にとどまる傾向があるのですか。
茂木:例えば米国には検定制度がありません。だから、教科書会社がそれぞれの歴史観に基づいた教科書を出版しています。日本への原爆投下を「仕方がなかった」と解釈する教科書があれば、「必要なかった」と書いているものもあります。
日本の学会はこの半世紀にわたって事実に重きを置く実証主義とアイデアリズム(理想主義)に重心を置いてきました。アイデアリズムというのは、世の中は「進歩」「統一」「戦争のない世界」などの理想(アイデア)に向かって動いているという歴史観です。
例えば国連中心主義というのはアイデアリズムに基づいた考え方の典型例です。日本もこれに則って、第2次世界大戦までの行動を反省し、国連の一員として活動し、軍備を制限すれば平和に貢献できると考えてきました。
ところが、周囲を見渡すと、どうもそうなっていないことが肌感覚として分かってきました。それが、世界史と地政学が注目を集めるようになった原因なのだと思います。
悪である共産主義が打倒され、冷戦が終わった。自由と民主主義の世界が実現し、紛争はなくなるだろうと米国の思想家フランシス・フクヤマ氏が『歴史の終わり』で論じました。しかし、そんな世界は到来しませんでした。中東は大混乱に陥って、過激派組織の「IS(イスラム国)」が登場。中国は海洋進出を強化。ロシアもウクライナ問題に介入し、西側に対して再び対決姿勢を取るようになりました。
こうした現実を説明する手段として、リアリズムが注目されているのだと思います。
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学校では教わらないリアリズム
今、ビジネスパーソンが世界史と地政学を学ぶ意義は何でしょう。
茂木:ビジネスと地政学はかなり遠い関係にあると思います。ビジネスは「理性」の世界ですよね。数字に基づいて合理的判断する。市場があって儲かるところに出ていく。一方、地政学は不合理と感情の世界です。価格が多少高くても自国製品を使いたいとか、生産性が低くても国内での雇用を優先したいというのは感情です。「ナショナリズム」の世界と言い換えてもよいでしょう。しかしこれがリアルな現実なのです。
ビジネスパーソンにはぜひリアリズムの考え方を身につけていただきたいと思います。日本の学校では、小学校でも中学校でも、アイデアリズムに基づいた教育がなされます。「話し合えば、ジャイアンとも仲良くやっていける」と習うわけです。性善説に立っているわけですね。こうしたしつけの影響は大きい。結果として社会や世界に出た時に、騙されたり、いいように使われてしまったりするわけです。
世界にはずるいことをする国や、ダブルスタンダードで外国に接する国があることを世界史と地政学から学ぶ必要があるわけですね。英国は第1次世界大戦の時、トルコ人が牛耳るオスマン帝国を内部から崩壊させるべくアラブ人をけしかける一方で、同帝国の支配地域をアラブ人の意向を無視して列強で分割する協定をフランスやロシアと結びました。米国はイスラエルの核開発には目をつぶる一方で、イランや北朝鮮には厳しい態度を崩しません。
私は世界史と地政学を学ぶべき理由として、日本人は「大きな地図」を見る訓練ができていないことがあるのではと考えています。「小さな地図」はちゃんと見ています。しかし、大きな地図にはなかなか注意がいきません。
日露戦争が典型例です。朝鮮半島の権益を巡って日本と帝政ロシアが対立しました。日本人の頭の中には、日本とロシア、朝鮮半島、中国の一部からなる地図が思い浮かぶ。これが小さい地図です。
一方、日露戦争は、南下政策を進めるロシアとこれを阻止しようとする英国とが演じるグレートゲームの一部をなすものでした。英国は、クリミア戦争ではロシアと戦うオスマン帝国を支援、第2次アフガニスタン戦争ではロシアに支援されたアフガニスタンと対決。日露戦争ではロシアと戦う日本を支援しました。この「大きな地図」については、司馬遼太郎さんが書いた「坂の上の雲」も多くの紙幅を割いてはいません。
日本人は大きな地図を見られるように訓練する必要があるのではないでしょうか。
茂木:世界観の欠如ですね。日露戦争の時、ロシアとの講和に反対し、ロシアの当時の首都だったサンクトペテルブルグまで攻め込むよう新聞に意見広告を出した東大教授がいました。大きな地図を見ることができなかったのでしょう。
ただ、大きな地図を見られる人は限られています。世界に影響を及ぼすことのできる大国、例えば米国、英国、ロシアといった国のリーダーだけです。
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学ぶべきは近代以降の支配国の歴史
ビジネスパーソンが改めて世界史を学ぼうと考えたとき、どこから手を付けるのがよいでしょう。期間は長いし、国の数も多いので悩みます。
茂木:近代以降の帝国主義の時代、日本で言えば明治時代からの歴史を学ぶべきです。この時代を動かす原理は「国益」です。これは今にも通じます。古代や中世はとりあえず放っておきましょう。これらの時代を動かしていた原理は「宗教」で今とは異なります。
注目すべきは支配する側だった国、列強ですね。欧州では英国、フランス、ドイツ、オーストリア、イタリアの5大国。これにロシアと米国。あと日本を加えた8大列強です。
日本史を見ると、スポットライトが当たる時期というのは決まっています。NHKの大河ドラマは戦国時代と明治維新を繰り返し取り上げています。世界史にも同様の時期があるのでしょうか。
茂木:世界史、なかでも欧州史は統一と混乱の繰り返しです。最初の統一はローマ帝国が果たしました。これが崩壊して中世が始まる。中世はカトリック教会が再統一します。これをルターによる宗教改革が打ち壊した。カソリックとプロテスタントによる宗教戦争が拡大して混乱。これを収集して統一を果たしたのがナポレオンでした。ナポレオン体制が崩れると三国同盟と三国協商が対立する混乱の時代が訪れ第1次世界大戦へとつながります。第1次世界大戦でオーストリア、ロシア、ドイツの3つの帝国が滅びると、生き残った国々は国際連盟を結成して統一を図りました。
(次回に続く)
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/238739/050900165
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