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トモダチ作戦で揚陸艇に乗り込み気仙沼大島に着岸した31MEU救援部隊(写真:米海軍)
張り子の虎にしてはいけない日本の水陸両用能力 装備だけ調達しても海兵隊にはなれないと危惧の声
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46349
2016.3.17 北村 淳 JBpress
3月を迎えると、「トモダチ作戦」に参加した海兵隊将校たちとの間で日本と水陸両用戦能力というテーマがしばしば話題に上る。彼らは次のように語る。
「大震災当時、もし日本に海兵隊的能力、少なくとも水陸両用能力が存在していたならば、かなり多くの人々の命を救うことができたにちがいない」
「さらに残念なのは、たまたま『31MEU』(第31海兵遠征隊)が東南アジアで作戦中で不在だったことだ。31MEUが緊急展開できていただけでも2000名の命を救うことができたと思う」
■日本に海兵隊的能力が存在していれば・・・
東日本大震災が発生した当時、沖縄を本拠にしていたアメリカ海兵隊の実働部隊本隊である31MEUは東南アジアで活動中であった。そのため、被災地救難支援活動へ緊急展開できたのは、ヘリコプターや輸送機を中心とする留守部隊であった。
留守部隊は翌日の3月12日から支援活動を開始し、14日には仙台に前進司令部を設置し、海軍や空軍とも協力して本格的支援活動を開始した。いわゆるトモダチ作戦である。
16日には、海兵隊と嘉手納から派遣された空軍特殊戦術飛行隊によって仙台空港が使用できるようになり、17日には東南アジアから揚陸艦に分乗して急行してきた31MEUも秋田沖に到着し、支援活動を開始した。やがて太平洋側に回り込んだ31MEUは揚陸艦から被災地に揚陸艇やヘリコプターでアクセスして、本格的な救援支援活動に従事した(拙著『写真で見るトモダチ作戦』並木書房http://qq3q.biz/sIpS)。
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このトモダチ作戦に参加した海兵隊将校たちが「イラクやアフガニスタンの戦場とは直接比較はできないが、破壊規模という点ではレベルが桁違いなほどで、歴戦の海兵隊将校といえどもこれまでになく大きな衝撃を受けていた」と口々に言う。
それに加えて、冒頭で紹介したように、日本に海兵隊的能力が存在していたならば、より多くの人命を救うことができたとの感想を口にするのだ(もちろん、この種の感想はあくまで仮定の話であり、日本に海兵隊的能力が存在していたならば数千人の人命が救われたのかどうかは分からない)。
■悔しさを口にする背景
なぜ「海兵隊的能力があれば、多くの人命を救えたにちがいない」という声が上がるのか?
じつは、トモダチ作戦が実施されるより数年前から、アメリカ海兵隊では「島国国家、日本の防衛にはアメリカ海兵隊的な能力を有した組織が必要である」といった意見を日本側に向けて発信していた。筆者もその意見には賛成であり、推進活動の一環として『アメリカ海兵隊のドクトリン』(芙蓉書房出版、2009年)を上梓したり、『米軍が見た自衛隊の実力』(宝島社、2009年)で海兵隊側の構想を紹介したりした。
そして、2010年春にはNHK沖縄の取材チームを太平洋海兵隊司令部に案内した(取材班は2週間にわたって緻密な取材を実施した)。その際、海兵隊の司令官はじめ幹部将校たちはインタビューに答え、「我々海兵隊の各種能力は、もちろん戦闘のためのものではあるが、日本のような島国における大規模自然災害に際しては、まさに獅子奮迅の働きをする。日本は海兵隊的能力を構築することが急務であると考える」といった趣旨の話をしていた。
しかしながら、そのような海兵隊の声は日本政府や国会などに届きようがなく、日本は海兵隊的能力を保持しないまま「3.11」を迎えてしまったのだ。
このようなバックグラウンドがあるため、多くの海兵隊将校たちが「海兵隊的能力があれば、多くの人命を救えたにちがいない」との声を上げているのである。
■海兵隊的能力とは何を意味するのか?
ところで、海兵隊将校たちが口にしている「海兵隊的能力」とは何を意味しているのか。
それは、「揚陸艦などをベースにして海から陸にアクセスする水陸両用能力」「陸上・航空・海上の戦闘・補給資源(装備・人材)による統合運用能力」、それに「様々な突発事案に即応した緊急展開能力」の3つのカテゴリーの軍事的能力である。
3.11当時の日本にそれらの能力があったのかというと、水陸両用能力はほぼゼロ、水陸両用能力と密接に関連する統合運用能力も極めて低調であり、緊急展開能力のうちでもアメリカ海兵隊CBIRF(化学兵器、生物兵器、放射性物質兵器、核兵器、爆発物事案に対処する即応部隊)のような対放射能汚染対処即応能力もほぼゼロという状況であった(本コラム「米国『トモダチ作戦』が照らし出す日本の有事対応能力の限界http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/5691」「なぜもっと早く米軍『CBRNE』部隊へ支援要請しなかったのかhttp://jbpress.ismedia.jp/articles/-/5795」「被災地で自衛隊がアメリカ海兵隊に後れを取った理由http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34746」参照)。
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このため、太平洋海兵隊をはじめとする海兵隊側は、トモダチ作戦を通してだけでなく、その後も機会あるごとに日本国防当局に対して海兵隊的能力構築の必要性を強調し続けた。
■陸自がひときわ力を入れる強襲上陸作戦能力
そうした海兵隊側の呼びかけも後押しとなり(もちろんそれだけではないが)、日本国防当局は海兵隊的能力の構築に向けて大きく舵を切り始めた。
ただし、日本側が「飛びついた」のは水陸両用能力の構築である。とりわけトモダチ作戦以来アメリカ海兵隊が直接コンタクトを強化している陸上自衛隊が、熱心に水陸両用能力の習得に励んでいる。
今年もカリフォルニアで開催された海兵隊と陸上自衛隊の合同訓練IRON FIST 2016(写真:米海兵隊)
陸上自衛隊がひときわ習得に力を入れているのは、水陸両用戦の“花形”である強襲上陸作戦能力である(揚陸艦から敵勢力が陣取っている海岸地域に揚陸艇や水陸両用装甲車で殺到して橋頭堡を確保し、引き続き揚陸用ホバークラフトやヘリコプターそれにオスプレイなどで増強部隊を送り込み海岸地域を占領し、大規模な陸軍部隊の受け入れ態勢を整える)。
しかしながら、地対艦ミサイルや対戦車ミサイルが発達した現代において、敵が待ち受けている海岸線に、揚陸艇や水陸両用装甲車に分乗した海兵隊が殺到する強襲作戦などは起こりえないと考えられている。アメリカ海兵隊自身も、「敵の防御が欠落している“ギャップ”を見つけて、迅速に上陸を敢行することこそ、現代の上陸作戦(強襲ではなく襲撃と呼ばれる)の主たる姿である」と考えている。
とはいっても、沖合の揚陸艦などから揚陸艇や水陸両用装甲車、それにヘリコプターやオスプレイなどで海岸地域に殺到する上陸能力は、島国日本における大規模自然災害での緊急救援作戦には極めて威力を発揮する。したがって、「戦闘よりも災害救援に投入される度合いが大幅に多い自衛隊にとっては、必要なステップと言ってもよい」という海兵隊側からの指摘はあながち間違いとはいえない。
■装備を調達すれば海兵隊になれるのか?
ただし海兵隊から見て、自衛隊の取り組みを高く評価すると同時に、若干の危惧が存在していることもまた確かである。
他国の軍隊の状態について、海兵隊側が公式に自衛隊側に危惧の念を伝えることはもちろんないが、同盟軍の戦力を評価する会合やプライベートな場などでは、数々の問題点が指摘されている。
たとえば「水陸両用能力は、高度な統合運用能力なしには発揮し得ない。陸上自衛隊と海上自衛隊それに将来的には航空自衛隊との緊密な統合運用能力が構築されなければ、真の水陸両用作戦は実施できない」といった声は頻繁に耳にするところである。
それよりも深刻と言えるのは、装備調達優先の姿勢である。海兵隊側は次のように指摘する。
「オスプレイや水陸両用装甲車を調達したら海兵隊化されると勘違いしてしまうのは大きな誤りだ。それらの装備を何のために、どのように使用するかのノウハウや、より大きく言うならば日本における水陸両用組織のドクトリン(行動哲学)が定まっていなければ、形だけのまさに張り子の虎のようなものになってしまう」
水陸両用装甲車AAV-7を52両調達しただけでは海兵隊にはならない(写真:米海兵隊)
大震災から5年を経た現在、被災地復興においてもかさ上げ地造成や防潮堤建設という「ハードウエア」重視で、被災者の心のケアやコミュニティ形成といった「ソフトウエア」の立ちおくれが指摘されている。それと同じく、自衛隊における水陸両用能力の構築も「なぜ水陸両用能力が必要なのか?」「どのようにして水陸両用能力を用いるのか?」といった「ソフトウエア」の側面に対する再検討が必要である。
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