中東にばかり意識を向けていると足を掬われる http://si.wsj.net/public/resources/images/OJ-AH357_IVORYm_16U_20160314123928.jpg 【社説】テロの最前線となったアフリカ 米欧の封じ込め作戦を尻目に、脅威は急速に広がりつつある 2016 年 3 月 17 日 15:18 JST イスラム過激派によるテロとの戦いといえば、米国民はずっと中東を連想してきた。だが、そうした地理的な連想は時代遅れになりつつある。アフリカでジハーディスト(聖戦主義者)の勢力が拡大しているのだ。オバマ政権の対応は遅れており、アフリカでの戦いに取り組む緊急性は増している。 そのことは3月5日の米軍によるソマリア空爆でも明らかだ。米軍は有人機と無人機を使って国際テロ組織アルカイダ系のイスラム過激派「アルシャバーブ」の軍事訓練キャンプを爆撃し、推計150人のテロリストを殺害した。その4日後には、ソマリア政府軍が米軍特殊部隊の支援を受け、アルシャバーブの別の訓練キャンプを破壊した。国防総省当局者は、いずれのケースでも、アルシャバーブによるテロ攻撃の差し迫った危険があるとの情報があったとしている。 ソマリア駐留の米軍特殊部隊の目的は、表向きはアフリカ連合平和維持部隊(AMISOM)の訓練・支援となっている。アルシャバーブは2013年のケニア・ナイロビのショッピングモールでのテロや、昨年のケニア・ガリッサの大学への襲撃を行うなど、東アフリカ全域の脅威となっている。 イスラム過激派組織「アルシャバーブ」の戦闘員たち(2010年、ソマリア・モガディシオ) ENLARGE イスラム過激派組織「アルシャバーブ」の戦闘員たち(2010年、ソマリア・モガディシオ) PHOTO: FEISAL OMAR/REUTERS アルシャバーブは欧米にとっても脅威である。あるメンバーは2010年、イスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を描いたとして、デンマークの漫画家を殺害しようとした。また、推計40人の米国市民がアルシャバーブに加わるためソマリアに入国したとみられている。アルシャバーブは米国のショッピングモールへの攻撃を呼びかけている。 オバマ政権は、ナイジェリアのイスラム過激派「ボコ・ハラム」との戦いのため隣国カメルーンに米軍兵士300人を派遣している。米軍が同国北部のガロウアに無人機の基地を置いていることは公然の秘密だ。リビアでは、米軍は2月にサブラタ近郊にある過激派組織「イスラム国(IS)」の訓練キャンプを爆撃し、ISの幹部1人と戦闘員48人を殺害した。国防総省はリビアのISに対する空爆を強化する計画を策定中と報じられている。 米国は13年、ニジェールにも無人機基地を設置した。同国は、イスラム過激派の活動が活発なナイジェリア、アルジェリア、マリ、リビアに囲まれており、過激派「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」との戦いで特に重要な拠点になりそうだ。AQIMは13日、コートジボワールで外国人が宿泊するホテルを襲撃した。アフリカ唯一の米軍の常設基地であるジブチのキャンプ・レモニエルは、数千人の兵力の拠点となっている。問題はそれで十分かどうかである。 ブッシュ政権は2007年、米軍の六つの地域統合軍の一つとして米アフリカ軍(AFRICOM)を創設したが、いまだに軍人・文民を含めてわずか2000人の組織で、大半はドイツに駐留している。最近のインタビューから判断すると、オバマ大統領はリビア介入を任期中で最大の失敗だとみている。ホワイトハウスはリビアにあるISの基地に対する大規模な空爆要請をはねつけてきた。 オバマ政権は、イエメンやイラク、シリア、アフガニスタンでのテロとの戦いに及び腰の姿勢をとっている。このままではイスラム過激派の脅威の拡大への対応が後手に回り、過激派を壊滅し封じ込めることができない恐れがある。米国はボコ・ハラムが昨年ISに忠誠を誓うまで、その脅威は地域に限定されたものだとみなしていた。当時のスーザン・ライス米国連大使は、マリがアルカイダ系の過激派組織に制圧されそうになるまで、フランスによる介入要請に取り合わなかった。マリはフランスの派兵によって救われた。 米国はアフリカでの潜在的なテロの脅威にすべて対処できるわけではないが、これ以上何もできないわけではない。リビアのIS支配地域に対して積極的な作戦を展開すれば、アフリカや欧州に対する明らかな危険を除去し、米国は国家樹立を目指すテロ組織を容認しないとのシグナルを送ることができる。また、ソマリアのアルシャバーブやナイジェリアのボコ・ハラムへの攻撃は、両国政府の立場を強化するだろう。 こうしたことを実行するためにはより多くのリソースが必要だ。世界の安全保障は、新たな脅威に対応できるだけの艦船・飛行機・兵士を備えた米軍に依存している。十分な予算も必要だ。オバマ大統領が後任者に引き継ぐ米軍は全くそうなっていない。次の大統領は、アフリカの「中東化」が他の地域にジハード(聖戦)を拡散させる鋳型にならないように、米国の軍事力を再び強化しなければならない。 関連記事 アルカイダ、「アフリカの成功物語」の国に照準 アフリカに広がるイスラム過激派の「ジハード」 アルカイダ、「アフリカの成功物語」の国に照準 テロ目標シフト 武装集団による銃撃事件が起きたコートジボワールの海岸で警戒する兵士 ENLARGE 武装集団による銃撃事件が起きたコートジボワールの海岸で警戒する兵士 PHOTO: REUTERS By DREW HINSHAW 2016 年 3 月 15 日 15:40 JST 過去12年間、サハラ砂漠を拠点する国際テロ組織アルカイダ系組織はアフリカ大陸の最弱で最貧の国を狙ってテロ攻撃をしてきた。ここにきて、同傘下組織は新たな種類の目標を暴力行使の対象に定めた。それは「アフリカの成功物語」を誇る国だ。 コートジボワールの観光地の海岸で13日、防弾チョッキを付けた武装集団が休暇を楽しんでいた人々を銃撃しながら一時間近く徘徊した。コートジボワールはアフリカ最大のカカオ豆生産国で、経済成長率第4位の国だ。 治安部隊が到着し、襲撃犯3人を射殺するまでに、一般市民少なくとも15人と兵士3人が殺された。殺害された市民の大半は地元の人々で、ビールを飲み、日曜日の午後の海岸を楽しんでいた。 フランスのオランド大統領が14日発表したところでは、殺された人々の中にはフランス人が4人含まれていた。また殺害されたドイツ人1人はヘンリケ・グロース氏と判明した。2013年以降コートジボワールにあるドイツ文化機関ゲーテ・インスティチュートの所長を務めていた。 コートジボワールのバカヨコ内相は、他の犠牲者はブルキナファソ、カメルーン、マリの出身者だと述べた。 コートジボワールの地図 ENLARGE コートジボワールの地図 西アフリカ地域では、アルカイダ系武装集団が同地域で最も繁栄した国に攻撃の照準を合わせ、市民生活に可能な限り高い犠牲を払わせようとしているとの不安が高まっていた。今回のコマンドスタイルの襲撃によって、その不安が的中した形だ。 テロリスト3人は防弾チョッキを着て腰に手りゅう弾をぶら下げ、駐車場に忍び寄った。そしてBMWやプジョーのセダンのそばに立っていた人々を銃撃した。海岸では、ビーチボールの脇で寝そべって日光浴をしていた人々を殺害し、泳いでいた人々に向けて発砲した。テロリストらの国籍は14日現在判明していない。 ベルギー人弁護士で毎年この地域で数週間過ごすというイブ・ロッソー氏は「彼らは海岸線沿いで飲食していたあらゆる人たちを狙撃していた」と述べた。 今回の襲撃は、アフリカでのイスラム原理主義テロ活動にとって転換点になりそうだ。2003年以降、アルカイダのサハラ下部組織「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」はマリ、モーリタニア、ニジェール、その他極めて貧困な内陸国に根付いていた。領土の一部がサハラ砂漠の一部になっている諸国だ。 実際、AQIMは過去4カ月間、内陸国のブルキナファソとマリに集中し、そこで外国人ビジネスマンに人気のホテルを攻撃してきた。いずれの攻撃も、ライバルの過激組織「イスラム国(IS)」との競争で、アフリカでの卓越したジハーディスト(聖戦主義)集団としてのAQIMの名前を上げるきっかけになった。 しかし、大西洋沿岸に位置するコートジボワール、セネガル、ガーナなどの諸国は、ジハーディストの暴力から免れていた。とりわけコートジボワールは経済ブームを享受し、過去4年間の年間平均成長率は9%に達している国だ。 武装集団による銃撃事件が起きたコートジボワールの海岸に横たわる遺体(英語字幕あり)Photo: EPA 同国では乗用車ディーラーの店舗、ショッピングモール、映画館が林立しており、他のアフリカ諸国から移民たちが集まってきた。彼らはメーター制タクシーを運転したり、ビストロ(飲食店)のテーブルに座って客を待ったりしている。航空大手エールフランス・KLMグループの新航空会社エール・コートジボワールはコーチ(エコノミー)クラスでシャンパンやクスクス料理を提供している。 過去数カ月間、フランス当局はAQIMがコートジボワールとセネガルを攻撃する計画だと警告してきた。いずれも旧フランス植民地で、民主主義が機能している国だ。コートジボワール当局者はテロ攻撃後の14日、テロ攻撃が差し迫っているとの秘密情報リポートを受け取っていたことを認めた。 13日、懸念が現実のものになった。テロが発生したのはコートジボワールの商業中心地アビジャンの東方25マイル(約40キロメートル)にある沿岸保養地グランバッサムだった。近年、旧植民地時代のこの港町は同国の富裕な人々の集まる場所になっていた。全てではないものの多くはキリスト教徒だ。 コートジボワール以外では、今回のテロ攻撃をきっかけに、これまでもっぱら欧州人をテロの標的にしてきたAQIMがアフリカ人を狙い始めるのではないかとの疑念が持ち上がった。 ロンドンにある英王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)のアフリカ問題アナリスト、アレックス・バインズ氏は「これは警鐘だ」と述べ、「セネガルのようなところでは治安を強化すべきだ。またガーナでテロが発生するのは時間の問題だろうと思う」と語った。 AQIMは犯行声明で、攻撃は「3人の英雄」によって指導されたと述べるだけで、詳細はほとんど明かさなかった。 コートジボワールのワタラ大統領は13日遅く、犯行現場となったグランバッサムを訪れた。同大統領は、ビーチストール(海岸の商店街)近くに駐車した軍用ジープ型車に囲まれながら、テロ対策作戦を強化すると述べた。 パリでは、フランス政府が14日、エロー外相とカズヌーブ内相を15日にコートジボワールに派遣すると述べた。コートジボワールにはフランス人市民約1万8000人が住んでいる。 関連記事 アル・シャバブ、ソマリアとケニアでテロ活発化 アフリカに広がるイスラム過激派の「ジハード」 「イスラム国」は秘密銀行網をどう構築しているか なぜチュニジアはIS戦闘員の最大供給源なのか 中東に蔓延する「羊の皮を着たオオカミ」 不安定化する米同盟国
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