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鈴木宗男さんに謝らなきゃ
http://www.newsweekjapan.jp/pakkun/2017/01/post-20.php
2017年01月10日(火)16時20分 パックンのちょっとマジメな話 パックン(パトリック・ハーラン) ニューズウィーク
<「プーチン大統領は力でクリミアを併合してはいない」という元衆院議員の鈴木宗男さんの発言に驚き、失礼な態度を取ってしまったことを反省中。でも北方領土問題も同じような問題なわけで......>(写真:プーチンを「信頼できるリーダー」と考えている鈴木宗男氏)
あけましておめでとうございます!
新年、心を一新するために、まずやらないといけないことが一つある。それは鈴木宗男さんに謝ること。みんなも一回、二回はあるだろうけど、鈴木さんに対して、結構失礼な言い方をしてしまったのだ。謝らないと。
宗男さんのことは僕なりに評価している。過去にいろいろあったが、地元のため、北方四島の返還のために長年尽力していることは事実だ。とにかく彼の愛郷心は間違いない。さらに、僕の大好きな先輩芸人、プリンプリンさんが宗男さんのモノマネをすると超面白い。それだけでも宗男さんに強い親近感が湧く。
その宗男さんと先月、BS朝日の「いま世界は」でご一緒させていただいたときに、一瞬プリンプリンさんに見えたせいか、生意気な口をきいてしまったのだ。
【参考記事】崩壊から25年、「ソ連」が今よみがえる
まず、状況を説明しよう。先月の日ロ首脳会談の成果について議論しているところで、僕は「ビザ(査証)なしで経済活動ができるようになるというのは、外交に精通する専門家から見て大きな進歩かもしれない。しかし多くの日本国民に、そして世界の皆さんにはそういう風に見えません。一方、クリミアの併合、シリアでの民間人への空爆、アメリカ大統領選介入などなどで世界の問題児とされているプーチン大統領にとって、訪日して首脳会談を行うことは国際社会への復帰という点で大きな得になるでしょう。これといった国益も得ないまま、日本はロシアと関係改善をしてもいいのですか?」という旨を宗男さんに尋ねた。そこで、なんと!・・・CMに入った。引っ張るよね、テレビって。
CM明けに、司会が僕の話を受けて「プーチンは信頼できるのか?」と再度聞いたところ、宗男さんは「僕は、約束を守る、信頼できるリーダーだと思っています」と。僕は「ウクライナとの約束、条約を無視していますが、そのあたりはどうですか?」と追った。そして、爆弾発言が来た! 「アメリカの情報というか、日本の報道も乗せられちゃってですよ、事実じゃないことを(言っている)。クリミアは力で併合したと言われていますけど、プーチンは軍隊を出していません」と宗男さんがおっしゃった。
ここだ! 僕の失礼な態度の瞬間。びっくりしすぎて、身を乗り出し、口を大きく開けて「は!?」と言ってしまった。宗男さん、ごめんなさい!
ご存じの通り、2014年2月27日にロシアの「覆面特殊部隊」がクリミアの議会を制圧した。もちろん地元の反政府勢力も協力したし、議会制圧のあとに特殊部隊の監視下で住民投票が行われ、併合を選ぶ結果になったのは事実だ。だがロシアが国際法を破り、力によってクリミアを併合したことはもはや国際社会の常識になっている。だからアメリカもEUも日本もロシアに対して厳しい経済制裁を科し、G8から追放したのだ。
万が一、宗男さんがその常識を覆すような情報を持っていれば、ぜひ聞きたい。ぜひ世界の間違いを正していただきたい。プーチンが潔白であることが分かれば、誰もが日本とロシアの接近に文句は言わない。しかし、その「間違った常識」を正すまではやはり、世界から懸念されることは避けられないはず。
そんなことを言えばよかったのに、「は!?」しか出てこなかった。失礼な上に大馬鹿野郎だったね、僕。本当にすみません。
【参考記事】遅刻魔プーチンの本当の「思惑」とは
しかし、一番驚いたのはそのあとだ。宗男さんはこう続けた。「クリミアの住民投票の結果、クリミアの住民はポロシェンコ(大統領)のウクライナよりもプーチンのロシアがいいと言って、ぜひロシアに併合してもらいたいということ(になった)」。さらに、締めとして「私は(クリミア併合は)何も問題ないと思っています。住民投票の結果ですから」と述べた。
僕はショックで「は!?」すら出てこなかった。一瞬、凝り固まってしまったのだ。そしてその一瞬だけ、妄想した。宗男さんご本人じゃなくて、プリンプリンさんのモノマネだという妄想を。見事なボケだから、相手が突っ込んで、会場が爆笑になるはずだと思った瞬間、白昼夢だったことに気づいた。
これもご存じでしょうが、オスマン帝国の一部だったクリミア半島は18世紀にロシアが支配した。そしてロシア系の人々が大勢移ってきて、もともと住んでいたタタール人は少数派に。ソ連時代の第2次大戦中には、タタール人が他地域に追放される出来事もあった。50年代にクリミアはウクライナの一部となり、ソ連崩壊の際にロシアとウクライナが、クリミアのウクライナ帰属も含めて、お互いの主権と国境を認める条約を結んだ。
では、クリミアの住民投票が2014年の併合の正当な理由になるとしたら、北方領土はどうなるのかな? 四島もロシアに支配され、もともと住んでいた日本人が追い出された後にロシア人がたくさん移り住んだ。クリミアと共通点がとても多いよね。もし、安倍さんの猛プッシュの末に、四島、または二島が日本に返還されるとしよう。日本帰属を認める条約が結べても、その後は日本政府の意向や条約の内容と関係なく、島々の住民投票の結果次第でまたロシアが併合していいことになるのか?
宗男さんのおっしゃることの延長線には、こんなジレンマが潜んでいる。
モノマネじゃなかったんだから、あの発言に対して上記の内容で鋭く突っ込めたらBS朝日のスタジオも爆笑の渦になったのかな? 無理かもね。普通の反論でもよかったのに、言葉を失い、貴重な議論のチャンスを逃してしまった。
態度も失礼だったし、お笑い芸人としても、パネラーとしても力不足だった。本当に情けなかったと思う。大失態だ。次にプリンプリンさんにお会いしたら謝っておこう。
プロフィール
パックン(パトリック・ハーラン)
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。
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