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【第160回】 2016年12月29日 高橋洋一 [嘉悦大学教授]
2016年のアベノミクスは70点、GDPが今一歩だ
人によって定義が異なる「景気」
筆者が重視する指標とは
photo:首相官邸HPより
筆者は、しばしば一般の人と経済の話をするが、これがなかなか面白い。
先日も、ある人から「景気」が悪いので、なんとかしてほしいという話を聞いた。
実のところ、景気という言葉は一癖あると思っている。「景気」という言葉は、鴨長明の『方丈記』に出てくるが、「空気の景色」を意味するとされている。いってみれば、雰囲気という感じだ。だから、誰もが「景気」と言っているが、その意味はその人のイメージによってまちまちだ。
英語では日本語の「景気」に相当するしっくりくる言葉がない。「business」や「economy」などが適宜使われている。
冒頭の人の「景気」は、businessの意味だったようだが、子細にその人のビジネス(商売)の状況を聞くと、それほど悪くない。そこで改めて尋ねると、どうも業界を取り巻く「雰囲気」だった。よく、景気は気からといわれるが、まさにこの「雰囲気」としての「景気」が悪いといっていたようだ。
筆者の本職は「経済」ではなく。「数量分析」である。たまたま対象として「経済」は多いが、対象は「政治・選挙」から「国際政治・戦争」まで広範囲になっている。
「景気」についても、「雰囲気」という漠然としたイメージではなく、主として二つの経済指標で考えている。そうでないと、何を話しているのかわからなくなってしまうからだ。
筆者はもともと数学出身なので、言葉を定義しないと気が済まない。言葉・概念の「定義」が真っ先にあり、その後に、主要主張である「定理」、その後に「証明」というのが数学のスタイルだ。文系の人は、言葉を定義せずに自分のイメージで語る人が多くて難渋している。文系の人のある本を読んだら、言葉の定義がまったくなく、最後に、本の結論として言葉の定義が出てくるのはびっくりしたことがある。一体何を書きたかったのか(笑)。
二つの経済指標とは、「雇用」と「GDP」だ。最も重要視するのが雇用で、その次がGDPである。筆者は、かつて首相官邸で勤務したこともあるが、各省から膨大な経済指標が上がってくる。それを総理に説明するわけだが、時間の関係もあり、どうしても厳選せざるをえない。そのとき、雇用が最優先、その次にGDPだった。その他のものは、時間の余裕があるときには説明するが、何か問題が起こらなければ放っておいた。
「雇用」と「GDP」
二つの経済指標を見る理由
なぜ、これら二つの経済指標を重視するのか。
第一に、景気の良し悪しのイメージを抱くときに、最悪の場合として今から80年程前の「大恐慌」がある。この悲惨さをイメージすると、多くの人が失業したことが浮かんでくる。
人々に職があるかどうかが、最も重要だ。はっきり言えば政府の責務として、「雇用の確保」は最低限求められる。だから、雇用の経済指標が重要である。その例として、失業率や就業者数で見ると便利である。
雇用の量さえ確保できればいいので、これが最優先だ。量が優先されるので、質はその次だ。経済理論では、雇用の量の確保を優先して、失業率をその社会の最低ラインにまで下げることができれば、雇用の質は自ずと上がってくる。つまり、実際の失業率が社会の下限である「構造失業率」まで下がれば、正規雇用が増え、賃金も上昇して、雇用の質は改善することがわかっている。
だから、世界の先進国では、「構造失業率」がどの程度なのかを計測して、そこに至るまで金融緩和するというスタンダードができている。筆者も数量分析の端くれなので、日本の構造失業率は2.7%程度であると推計している。
これは、2016年5月19日付けの本コラム(日銀の「失業率の下限」に対する見方は正しいか)で書いている。
こうした数量的な論調は、日本の論壇ではほとんど見られず、感覚的に金融緩和すべき、すべきでないという論調ばかりなのは残念である。特に、日本の一流大学の学者が酷い。
労働市場全体を見ると、大企業の正規職員はコアのところで、経済変動があって雇用が変化することは少ない。ところが、アルバイトなどの非正規になると、雇用の変化がしばしばでてくる。大学の就職市場になると、限界的なところで、就職率の変動は経済変動に応じて大きい。
一流大学では労働市場はよくわからない
身をもって実感した「景気」の改善
これは、一流大学より、それ以外の学校などの方が観測しやすい。筆者の属している大学は、お世辞にも世間でいわれるような"いい大学"とはいえない。その点、限界的な労働市場の状況はよく見える。
例えば、4〜5年前の民主党政権時代、学生の就職率は良くなかった。ところが、今や就職率は100%に近い状況だ。この間、学生の学業が向上したわけではなく、政権交代で金融政策が変更になったという要因だけで、就職率の向上を説明できる。
大学の就職率は、前年の失業率に逆相関でかなり連動している(下図)。
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アベノミクスによる金融緩和の恩恵をもっとも受けているのが、大学生の新卒者である。かつて、就職状況が厳しいときには、私の所属する大学でいわゆる「ブラック企業」でも就職をいとわないという風潮があったが、今では就職状況が改善したため、学生たちの間では「あの企業はブラックだから気をつけて」という会話が出ていると、就職担当教授は言っていた。まったく喜ぶべきことである。
筆者は、こうした状況を見て、ああ「景気」が良くなったのだと実感している。一流大学ではいつでも就職率は高いはずで、おそらくこうした「景気」の体感ができないのだろう。ある一流大の教授が、民主党政権下でも、完全雇用だと豪語していたのが忘れられない。アベノミクスの金融緩和に批判的な論者は、例外なく雇用を見ないで「景気」を語っている。
しばしば見られる
論評に値しないアベノミクス批判
アベノミクスへの批判でよく聞くのが、「いくら金融緩和しても、経済は上向かない。インフレ目標も達成していない」という批判だ。しかし、この批判は失業率の低下を無視しており、論評に値しない。失業率が下がっているのに、物価が上がっていないのは、たいした問題でない。
インフレ目標があるのは事実であるが、失業率を下げようとするとき、インフレ率が上がる傾向があるので、その際、注意しなさいという歯止めである。この点を忘れている人が多すぎるのではないか。
第二に、雇用が確保できれば、所得が増えるに越したことはない。それはGDPで確認できる。GDPには、「三面等価の原則」があり、一国の経済活動を支出面、生産面、分配面で見ると同じ値になり、それがGDPとなる。
GDPの支出面と生産面は、まさに「国の経済活動全体」を表すものとして適している。それが分配面という「国民の所得」の総計になるのだから、国民の懐具合の代表例にもなる。この意味で、GDPは一国経済を見るときに好都合である。
一般の人もマスコミも
「景気」は「半径1メートル」の世界
もっとも、一般の人が「景気」という場合には、身の回りの「半径1メートル」の世界である。それ以外のところは体感できるはずがないので、マスコミ報道などの「雰囲気」が出てくる。マスコミ報道も所詮は書く人の「半径1メートル」の世界である。このため、GDP統計の意味が出てくるわけだ。
GDPの推移を見ると、2014年4月以降さえない。その要因は明らかで消費増税である。しかし、マスコミなどでは、「消費増税の悪影響はもうないはずだ」という都市伝説のような話が出回っている。かつて財務省関係者から、消費増税の影響は長くて3〜6ヵ月というデマ情報が流され、それに踊らされているのだ。マスコミは新しいことを追い、過去を忘れがちである。理論的なことを言えば、消費増税は恒久的に影響があり、データからでも2〜3年は悪影響がはっきりと見られる。
いずれにしても、雇用とGDPの二つで「景気」を見れば、2016年の経済状態がしっかり把握できる。雇用はいいので、経済政策を評価すれば落第ではない。しかし、GDPは今一歩であるので、100点満点で70点程度だろう。
http://diamond.jp/articles/-/112748
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