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オトナの教養 週末の一冊
給食費未納の子どもが給食を食べられないのは仕方ないのか
『給食費未納』 鳫咲子准教授インタビュー
2016/12/22
本多カツヒロ (ライター)
昨年、埼玉県北本市の公立中学校が給食費を3カ月以上滞納する家庭の生徒に対し給食の提供を中止すると報じられた。これに対し、世間の反応は「保護者のモラルが欠如している」といった批判が相次いだ。果たしてこの裏側にはどのような問題が隠れているのか。
『給食費未納 子どもの貧困と食生活格差』(光文社新書)を上梓し、子どもや女性の貧困等の調査研究を行っている鳫(がん)咲子・跡見学園女子大学マネジメント学部准教授に給食費未納と、その対応方策について話を聞いた。
――今年、三重県鈴鹿市の教育委員会が野菜の高騰により給食を2日間中止するとの方針を示し、その後撤回すると報じられました。また大阪市では給食費の滞納分を弁護士が回収し、回収額に応じた出来高制で報酬を支払う制度が11月から実施されるなど給食費未納が問題化しています。子どもと女性の貧困を研究している立場として、これらのニュースを聞いた時、どんな印象を受けましたか?
『給食費未納 子どもの貧困と食生活格差』
(鳫咲子、光文社)
鳫:鈴鹿市のケースは、保護者や児童がいかに学校給食を頼りにしているか示していると思います。しかし、横浜市などを始め、全国の公立中学校では未だに主食、おかず、ミルクの揃った完全給食が実施されていない地域が2割ほどあります。そうした事実を知ったら、皆さんもっと驚くのではないでしょうか。
――確かに、小中学校共に給食のある地域で育った私も、給食が実施されていない中学校が2割もあると本書で初めて知り驚きました。しかも、本書によれば給食のない地域の子どもたちの中には、朝食を家で食べず、昼食のお弁当も持参していない子どもも少なくないと。成長期で一番お腹が空くはずの中学生がどのような食生活を送っているのかとても心配になりました。
鳫:弁当を持たせない保護者は昼食代として数百円のお金を渡し、子どもは給食並みに栄養の整ったお弁当を買うかわりにスナック菓子などで表面上お腹を満たす可能性があります。中には昼食代も渡していないケースもあります。
また、パートに出ているお母さんも多く、お弁当を用意することは難しいのが実情です。また、夏季は弁当が痛みやすいなどの問題もあります。
一方で、デコ弁に代表されるような手の込んだ弁当を作る保護者も中にはいて、食生活格差が大きくなっているのではないかと考えられますね。
――ジャンクフードばかりだと将来にも影響が出ますね。
鳫:そうです。勉強はもちろん健康面への影響が心配です。こども食堂を運営している方に話を聞くと、やんちゃな子どもに温かい物を食べてもらうと、普段ジャンクフードが多いのか、みんな顔が穏やかになるとも言います。
――昨年、埼玉県北本市の公立中学校が給食費を3カ月以上滞納する家庭の生徒に対し給食の提供を中止すると決定したことが報じられると、給食費未納の保護者に対し「本当は払えるのに払わない」や「モラルが欠如している」などという批判がネット上を中心に巻き起こりました。こうした指摘は妥当なのでしょうか? それとも経済的な困窮が原因と考えますか?
鳫:ネット上では「保護者がベンツに乗っているのに払わない」「高級ブランド品をお母さんが所持しているのに払わない」という意見を見かけます。このようなケースは実際には多くはないと思いますが、見た目だけで、その家庭の事情がすべてわかるわけではありません。
経済的に困窮している家庭では、家計管理が上手く出来ていないケースがままあります。生活保護や就学援助制度を受けているケースでも家計管理の問題があります。就学援助制度とは、経済的理由で就学が困難な小中学生の保護者に、市町村が給食費や学用品費、通学費、修学旅行費、一部の医療費に当たる現金給付を行う制度です。そうした援助は数カ月分まとめて支給されることが多く、支給時には、給食費を払ったり、必要なのに普段買えないものを買ったりできます。しかし、家計管理が上手く行えない家庭では、まとめて支給されるお金で無駄遣いをして、次の支給まで計画的な支出が出来なくなってしまうこともあります。
――実際に給食費を滞納している割合はどれくらいなのでしょうか?
鳫:未納率は全国平均で0.9%と決して高くはありません。
本来、給食費を「払う・払わない」というのは、滞納している保護者と自治体との問題なはずです。ところが、結果として不利益を被るのは子どもです。つまり、そういう給食費を滞納する保護者の子どもだから、家族責任で子どもが不利益を被るのは仕方がないといった意見があまりに強調されすぎていると思います。
また、実際に未納問題が生じるということは、生活保護や就学援助といった制度が上手く機能していない面があると考えられます。
――具体的にどのようなケースが考えられますか?
鳫:まず日本の福祉は申請主義ですから、保護者が生活保護や就学援助制度を自ら申請しなければならない。そのため制度や申請方法を知らずに、保護されるべき世帯が漏れている。
ただ、実際には就学援助に関し、学校長の所見により認められるケースもあるにはありますが、どの程度実施されているかは自治体次第です。
また、特に保護者が経済的な問題を抱えている自営業者の場合、就学援助を受けようにも課税証明を出せないケースもあります。課税証明を取得するために自治体に申告すると、国民健康保険料などの督促があるのではないかと恐れているためです。
給食費以外では、修学旅行費の未納が結構あることが知られています。ただ、給食費と違いデータがないために、全体像の把握は出来ていません。しかし、旅行費が払えないため修学旅行を断念しているケースは少なくないようです。
――生活保護や就学援助は地域差があるのでしょうか?
鳫:あります。例えば、小さな町や村は小さいコミュニティですから、外聞を気にして生活保護申請をためらいがちです。就学援助すらも難しいと聞きます。
例えば被災した石巻市では、被災前、就学援助を受けている割合が13%で、給食費の未納も200件ほどあったそうです。しかし、被災後、被災児童生徒就学援助事業が開始されると、受給割合が40%まで増え、未納は100件以下に下がったそうです。被災前は、それだけ就学援助を受けるハードルが高かったということです。
しかし、こうした援助を受けるハードルが高い小さい町や村をはじめ、最近になって全ての子どもに対し給食の無償化を導入する自治体が増えています。その数は全国で約2割にものぼります。誰かを特別に支援するのが難しい小さな町や村を中心に、子育て支援の枠組みで、給食費や保育料の無償化が少しずつ進んでいます。
――元々、給食制度というのはどういった考えからスタートしているのでしょうか?
鳫:明治以降の学校給食は「貧困児や欠食児童救済」を目的に始まり、そうした児童に関しては無料でした。しかし貧しい家庭の子を選別するのは非常に難しく、やがて全ての子どもの栄養改善を目的とした給食が普及すると保護者負担が始まり、普遍的給食として設けられました。
――鳫先生は給食費未納を防ぐためには、どのような制度を構築すべきだとお考えですか?
鳫:そもそも義務教育は無償と憲法でうたわれていますから、給食を全ての児童に無償で提供すべきだと考えています。
では、その予算をどうするか。例えば、児童手当から給食費を一律に天引きすれば、未納は防げますが、その分現金収入が減りますから、低所得家庭にとっては厳しい結果になります。また、給食費を税金から投入すれば反対する人もいると思います。しかし、給食にかかる費用のうち、人件費や施設設備費は既に税金で賄われ、食材費のみが保護者負担となっています。
現在、子どもの医療費を無償化している自治体は増えています。この金額と給食費無償化の金額は同じくらいと考えられます。
給食は子どもの食事におけるセーフティネットになっていると思います。それを親が払う、払わないで左右され、子どもに辛い思いをさせるのは非常に良くない。セーフティネットとして考えていけば、無償化するために、何をするのか、知恵を絞って考えていく必要があります。給食の対象も増やしていければと思いますね。
――給食の対象を増やすとはどういうことでしょうか?
鳫:給食のない夏休みに、昼食を食べられないために体重が減る子どもがいます。こうした事態を防ぐために、埼玉県越谷市では希望者のみですが、夏休み期間中に学童保育で夏休みの給食センターを活用し給食を提供しています。
ただ、なかなか広がらないのが実情で、やはり未納問題が生じるからだという懸念があるのでしょう。同じく中学校で給食が実施されていない地域でも、未納問題が普及のネックになっています。
今後、子どもはさらに減少します。そうなると現在の給食施設の供給可能量は余るので、給食を高校生まで拡充し、それでも余るようならば、地域のひとり暮らしのお年寄りにまで伸ばし、地域の食堂をセーフティネットとして設置する仕組みも良いのではないでしょうか。
北欧には、有料ですが地域の給食センターのような場所があり、障がいのある人達を調理に雇用しています。
――文部科学省は給食費未納問題をどう考えているのでしょうか?
鳫:これまで自治体は悪質な事例については訴訟を起こしていますが、その他について文部科学省は親のモラルの問題であるとしてきました。
未納という経済的な問題が、ネグレクトや保護者のメンタルヘルスの問題のシグナルと捉え、福祉につなげていくべきだという方向性を文部科学省にも持って貰いたいものです。それだけ食というのは子ども生活にとってコアな部分なのです。
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