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【第48回】 2016年12月23日 岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]
安倍政権の「チマチマした改革路線」を大胆に蘇らせる法
2017年度予算の政府原案では、一般会計の予算額は過去最高を更新。アベノミクスでは、増大する社会保障費などの改革がなぜ進まないのか
安倍政権はバラマキ政権
膨らみ続ける一般会計予算
22日に2017年度予算の政府原案が決定され、一般会計の予算額は97.4兆円と過去最高を更新しました。と言っても、多くの方は“過去最高”という表現だけではイメージがわかないのではないでしょうか。
しかし現実には、アベノミクスが金融緩和と財政出動に頼りすぎた結果、安倍政権は典型的なバラマキ政権になっています。たとえば10年前、すなわち安倍さんが最初に総理になった2006年度の予算と今年度予算、そして来年度予算を比較すると、以下のようになります。
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つまり、2006〜2016年度の10年間で一般会計予算は21%も増加しているのです。この10年の間に人口は減少を続け、名目GDPも減少していることを考えると、縮みつつある国で予算だけが2割以上も増えてしまったというのに、来年度予算ではそれをさらに増やしたのです。
もちろん、予算の増加には理由があります。1つは、この10年の間にリーマンショック、東日本大震災と大きな外的ショックが発生したため、大規模な財政出動が必要だったことです。ただ、外的ショックが起きた年に大規模な財政出動が必要なのは当然ですが、時間が経ったら予算額を元の水準に戻すべきなのに、増えた予算を官僚と政治家が既得権益化してしまったため、平時になっても予算が膨張したままなのです。
その意味では、今の安倍政権だけを非難するのはアンフェアで、小泉政権が終わって以降、民主党政権も含め10年以上もバラマキ政権が続いているのが現実なのです。
ちなみに、その間の歳入構造を見ると、
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と、税収は10年間で14%しか増えていないため、国債発行額は35%も増えています。だからこそ、国債発行残高は10年間で59%も増加してしまいました。
もちろん、経済成長率を高めることができれば、それは税収増を通じて財政再建に貢献します。しかし、逆に言えば経済成長だけで財政再建は無理ですので、それに加えて政府の支出の削減や増税も必要になります。
そう考えると、来年度予算でも鷹揚にバラマキを続ける安倍政権が自民党総裁任期延長で2021年まで続き、2020年の東京オリンピックまで同じことを続けるとしたら、それで本当に財政再建ができるのか、6歳と4歳の子を持つ親として心配になってしまいます。
高齢化で急激に膨張する
社会保障支出をなぜ削減できないか
ところで、予算が膨張を続けるもう1つの理由として、高齢化の進行に伴う社会保障支出の急激な増加があります。実際、この10年で一般会計の社会保障支出は55%、社会保障給付費(医療、介護、年金など)は33%も増加しており、一般会計予算の増加のペースをはるかに上回っています。
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したがって、財政再建のリアリティを高めるためには、一般会計の社会保障支出や社会保障給付費の増加をできる限り抑制することが必要となります。
それにもかからず、17年度予算では社会保障支出は0.5兆円も増加しています。17年度の社会保障給付費もおそらく数兆円増加するのでしょう。
それでは、政府は社会保障支出の抑制に毎年取り組んでいるはずなのに、逆に増加が続くのは何故でしょうか。メディアの解説では“高齢化の進展のペースが早いから”となりますが、それで済ませていいのでしょうか。
私は個人的に、それ以上に問題なのは、社会保障支出削減に向けた努力が官僚と族議員の主導によるチマチマとした小手先の対応に終始しているからではないかと思っています。
実際、政府は来年度予算での社会保障支出の伸びを抑制しようと、高額療養費制度での自己負担の引き上げ、後期高齢者医療制度の保険料引き上げ、介護保険の保険料への総報酬割の導入など、様々な論点に取り組みました。ちなみに、先の臨時国会では年金改革法案を成立させ、年金支給額の削減も始めようとしています。
これらに取り組むこと自体を否定する気はありませんが、それでも、やはり微々たる金額の調整ばかりであり、“改革”というより“多少の改善”のレベルに過ぎません。
ついでに言えば、安倍政権が最も熱心に取り組んでおり、社会保障とも密接に関連する働き方改革にもまったく同じことが言えます。同一労働同一賃金を実現しようとしていますが、その内実は非正規の賃金水準を上げるだけで、生産性の低い正規雇用の賃下げや解雇規制の緩和にまでは踏み込んでいません。その他のテーマも長時間労働の是正など取り組みやすいものばかりですので、これでは名前で“改革”を謳っていても、実際には“働き方の改善”の域を出ません。
社会保障制度改革に向けた
フィンランドの大胆な取り組み
こうした政府の自称“改革”が、いかに実際にはチマチマした改善に過ぎないかを実感していただくため、フィンランド政府のダイナミックな社会保障改革の取り組みを紹介したいと思います。
多くの方がご承知のように、フィンランドは社会保障が充実した高福祉高負担の国ですが、逆にそれが働き方に弊害をもたらしている面もあるという問題意識が高まっています。失業者は手厚い失業手当を受け取りつつ職業訓練を受けられますが、失業手当を受給している間は仕事をして収入を得ることを禁じられているため、これが労働意欲を阻害していると問題になっているのです。
フィンランド中部の都市オウルは、かつては携帯電話のノキアの拠点があったこともあり、ワイヤレスコミュニケーション関連のハイテクベンチャーが増えつつあり、ハイテク都市としての再生を目指しています。
ノキアは最盛期にオウルで5000人を雇用していましたが、ノキアの事業を買収したマイクロソフトはその雇用を半減させたため、失業率は16%と高いものの、優秀な技術者が数多く住んでいるからです。
しかし実際には、オウルで起業したスタートアップ企業は、マイクロソフトをレイオフされた優秀な技術者をなかなか雇用できずにいます。新規に雇用しようとしても、4人家族を養う人の場合で失業手当は失職前の収入の73%をもらえるため、優秀な技術者ほど良い雇用機会を待ち続け、あまり給料が高くないスタートアップ企業に来てくれないのです。
そうした現実を踏まえ、フィンランド政府は社会保障をスリム化するとともに、社会保障が労働意欲を阻害しないようにするという問題意識から、社会保障の改革を目指した新たな実験を来年からオウルで始めることにしました。
具体的には、2000人を対象に実験的に2年間にわたってベーシックインカムを給付し、その労働意欲への影響などを観察して、その成果を将来の社会保障改革に反映させようと考えているのです。
すでにドイツやオランダ、米国などでベーシックインカムに関する実験が行なわれ、様々な賛否の意見があるのは承知の上で、それでも現行の社会保障システムが内包する問題を解決しようと、ベーシックインカムを実験的に導入するのです。
日本の国民はそろそろ
ブチ切れたほうがいい
現行の制度や仕組みに拘泥することなく、政策の問題点の解決に向けて大胆な取り組みを始めつつあるフィンランド政府の改革姿勢と意欲は高く評価できますし、こうした大胆な取り組みこそが社会保障制度の本当の改革につながるのではないでしょうか。
それと比べると、日本での社会保障支出の削減に向けた取り組みは、現行制度の維持が前提のチマチマした改善に過ぎず、これでは当然ながら大胆な削減は不可能です。それで本当に財政や社会保障の持続性が確保できるのかとなると、やはり疑問に感じざるを得ません。
そして、日本で社会保障制度の改革が進まず、チマチマした改善ばかりが繰り返される理由は明確です。官僚と族議員に任せていては無理なのです。それを打開するには、官邸が主導してフィンランドのように大胆な社会保障制度改革に取り組むしかありません。
このコーナーでこれまで何度も、官邸主導で改革を進める必要性を言ってきましたが、もう4年も経ってしまいました。その間、成長戦略でも大した改革は進んでいません。もし来年も、社会保障制度の改革や成長戦略の改革が官僚と族議員任せで今までと同じように進まなかったら、いい加減国民の側はブチ切れるべきではないでしょうか。
http://diamond.jp/articles/print/112511
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