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WEDGE REPORT
「日本の若者は政治に関心がない」は本当か?
2016/12/19
清水唯一朗 (慶應義塾大学総合政策学部准教授)
「今時の若い者は政治に関心がない。この国の将来をどう考えているのか」。中年男性を中心によくこんな不安とも小言ともつかない話を耳にする。昨年、選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられたが、この時も「若者の政治に対する関心を高める必要がある」から選挙権年齢を引き下げるという説明がしばしばなされた。果たして本当に若者は政治に関心がないのだろうか。
結論を先取りすれば、この言説は国際的に見ても、国内的に見ても否定される。
まず国内から見てみよう。たしかに若者の投票率は他の世代に較べて低い。2016年の参議院議員選挙では全体の投票率が54.7%であったのに対して、20代は35.6%に止まった。全体に較べて19.1%低いことは看過できない状況である。
しかし、叙上のような警世を口にする今の50代が「若者」であったころはどうだろうか。今から27年前、1989年の参議院選挙の投票率は、全体で65.02%であるのに対して20代は47.42%に止まっている。20代と全体の差は18.35%であり現在と大差ない。昔の若者も政治に対する関心は薄かった。自分のことを棚に上げた説教は避けたいものだ。
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政治への関心が高い日本の若者
次に国際比較をしてみよう。2008年に行われた世界青年意識調査では、58%の日本の若者が「政治に関心がある」と答えた。これはアメリカ(55%)、韓国(50%)、イギリス(33%)など他の調査対象国と較べて最も高いものであった。政権交代への期待が感じられる。
もっとも、5年後の2013年調査ではこの数字は50%に下落し、対照的にアメリカは59%、韓国は62%、イギリスは55%と上昇した。とはいえ、他国との差はきわめて小さい。これらの国と較べても、日本の若者が政治に関心がないという言説はまやかしであることがわかる。
では、この言説はどこからやってくるのだろうか。世界35カ国を対象に40年近く行われてきた世界価値観調査を分析した田辺俊介氏、高橋征仁氏らは、政治に対する関心が学歴や年齢に比例して上昇することを指摘している。どの国でもどの時代でも、若者の政治に対する関心は、中高年のそれに対して低く現れる普遍的な現象ということだ。
ただ、田辺氏らは興味深い指摘もしている。日本ではこの上昇度合いが他の国に較べて大きいというのだ。若者の政治に対する意識は国際的に見ても低いものではないが、中高年になるほど他国に比して高くなるという傾向は興味深い。「意識高い系」は日本の中高年にこそ当てはまるのかもしれない。
一方で、各国の状況を見ると、若者が政治を動かすシーンも目立っている。この間、香港では雨傘革命が起こり、台湾ではひまわり運動があり、スペインでは大学発の政党「ポデモス」がキャスティグ・ボードを握り、韓国では学生が主体となって大統領辞任要求デモを行っている。
昨秋、私は台湾の大学で教鞭を取っていたが、台湾の学生たちは溢れんばかりの熱意と深い国際法上の知見を持って、自分たちの国家のあり方を論じてくれた。3月に訪ねたスペインの学生たちは既存政党による政治の限界を語り、年末にソウルで出会った大学院生たちも大統領制が抱える構造的欠陥や民主主義の制度内においてデモを行うことの意義について熱心に解説してくれた。
日本ではどうか。2015年夏のいわゆる安全保障関連法案審議をめぐる首相官邸前でのデモンストレーションでは学生団体の積極的な活動が注目された。各国の日本研究者も、主張をしなくなっていた日本の青年たちがついに立ち上がったと、ある種の期待を持ってこれを迎えていた。しかし、彼らは香港や台湾、スペインのように政党を立ち上げて国会に議員を送ることはなく、翌年には活動を停止し、解散した。
彼らの「挫折」を嘆く向きもある。しかし、それは永田町にしか「政治」を見いださなくなっている、メディアに犯された大人たちの狭い政治観がなせるものだろう。若者たちの関心はそこにはない。
投票に行っても何も変わらない、デモをしても政治は変わらない。こうした社会を作ってきたのは今の大人たちである。「国の政策に対してどの程度民意が反映されていると思うか」という内閣府の調査に対して、反映されていないとする回答は1983年の51.1%から2015年には66.8%まで上昇している。政治に自分の意見が届いていると感じる「政治的有効性感覚」はきわめて低下している。くわえてこの世代は1980年代後半以降、政治腐敗が立て続けに報じられるなかで育った。政治に期待せず、それと距離を置くことは当然であろう。それにも関わらず国際平均と同じ水準で「政治に関心がある」と答えていることは驚異的と言うべきだろう。
では、その高い関心はどこに向かっているのだろうか。彼ら彼女らは政治とは異なるパスを持って、自分たちが直面する問題に正面から向き合い、それを動かそうとしている。いくつか実例を紹介してみよう。
目下、女子大生を悩ます最大の問題
目下、女子学生を悩ます最大の問題は仕事と家庭の「両立」である。一方で「一億総活躍」といわれ、一方では出産と育児を求められる。学生たちは「両立」できる自分を目指して奮闘する。ところがこれまで彼女たちが相談してきた母親は、この問題にあってロールモデルたり得ない。その多くが就職してほどなく結婚し、専業主婦として育児に専念してきたからだ。彼女たちの将来への不安は増幅する。
それならば、育児世代の共働き家庭を訪ねて一日体験をして、様々な相談をすればよいのではないか。これを「家族留学」と名付けて展開する学生団体が「manma」である。代表を務める新居日南恵氏はいまだ学部生だが、政府審議会の委員も務めるなど、学生であることを存分に生かして活動している。
地方の衰退が問題視されるなか、ありきたりな地方活性化ではなく、地方にある優れた産品を都会の若者が買いたくなるようにリデザインする「ハピキラFACTORY」も、代表の正能茉優氏、山本峰華氏が学部生のときに立ち上げた。
ふとした偶然から訪れて大好きになった地方の町と一緒に仕事をする。そのことで地方も、自分たちも楽しい人生を送ることができる。二人とも大企業に勤務する一方で社長業を続け、兼業による多様なライフスタイルの提言をしているほか、後輩たちを「日本かわいいプロデューサー」として育てるなど、将来に向けた活動も進めている。
日本の若者は「大文字の政治」とは距離を置く
台湾で、スペインで、韓国で学生たちと話したときに、統治構造をはじめとする「大文字の政治」に対して深い関心と理解を持っていることに驚く一方で、彼らが少子高齢化や地方活性化といった具体的な政策に対する興味と知識が乏しいことに気づいた。
他方、日本の若者は「大文字の政治」とは距離を置く。それを人は「日本の若者は政治に関心がない」と言うのだろう。しかし、それは公共に対する無関心を意味するものではない。上記の取り組みを見れば明らかであろう。
もっとも、政治に向き合おうという動きもある。高校3年生が立ち上げて4年間活動を続けている「僕らの一歩が日本を変える。」はその代表例であろう。彼らは香港や台湾の学生とも交流し、活動の幅を広げている。ボートマッチシステムを導入している政治情報サイト「日本政治.com」も大学生が立ち上げたものだ。彼らにとっては、少子高齢化も、地方活性化も、政治参加も、自分たちの世代が直面する課題である。
彼ら彼女らと話していると、この層が「ゆとり教育」の勝ち組であることに気づかされる。ゆとりとして得た時間に、彼らはさまざまな経験をし、刺激を受け、意欲的な大人たちと交流した。そして2005年の郵政選挙、2009年の政権交代、2012年の再交代を見てきた彼らは「政治だって変えられるもの」という感覚を持っている。そして2011年の東日本大震災が彼らをして、公共のために何かをするという気持ちを抱かせた。
震災後、大学のキャンパスには「何かを実現したい」と考える学生が溢れるようになった。講義に出ず、サークルに没頭し、モラトリアムとしての大学生活を送った世代が思い描く大学生の像はもはや過去のものとなりつつある。彼らは自分の課題にぶつかっては、それを乗り越えるために教室にやってくる。サボったり、ノートを回したりする姿はそこにはない。
すでに、政府や一部の企業は、この意欲的な学生たちと協働をはじめている。「若者は政治に関心がない」のではなく、見ている次元が異なるのだ。その違いを超えて、むしろ彼らをパートナーとして社会を変える時代が来たと捉えたらどうだろうか。世界的に見て「意識高い系」になりやすいと分析された日本の中高年にとって、これは朗報なのかもしれない。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8479
食品輸入規制問題でかみ合わない日台、「急がば回れ」
いまだに「日本食品は放射能に汚染されている」
2016/12/21
小笠原欣幸 (東京外国語大学准教授)
台湾で新政権が発足し7カ月になる。安倍政権と蔡英文政権は日台連携の思惑が一致しているので日台関係拡大の期待が語られたが,実は大きな進展は見せていない。
現在日台間の最大の問題は,台湾側の日本食品輸入規制である。福島原発事故後各国が日本食品輸入規制を導入したが,最近は規制を緩和・撤廃する方向にある。しかし台湾は福島,栃木,群馬,茨城,千葉の5県の食品(生鮮,加工共)の輸入禁止を続け,昨年逆に規制を強化した。馬英九政権が規制解除に動かなかったため,日本側の期待は蔡政権に向けられた。
11月に蔡政権が福島以外の四県の食品について規制を緩和する方針を示したが,激しい抗議行動が巻き起こり,押し込まれた蔡政権は解決を先送りにした。日本側関係者の失望は非常に大きい。日本側には東日本大震災で破格の支援をしてくれた台湾への感謝の気持ちが広く存在している。それがために被災地の風評被害を広げるような台湾側の対応に困惑させられている。
(画像はイメージです:iStock)
食の安全に神経質
この問題は双方の議論がまったくかみ合わない。本来の争点は,日本からの輸入食品中に基準値を超える放射性物質が含まれているかどうかであるはずだ。台湾の衛生当局の検査では日本の輸入食品から放射性物質は検出されていないのだがその事実はほとんど注目されず,輸入食品の中に5県の産品が含まれているかどうかばかりが注目され,見つかるとスーパーの棚から同種食品を撤去する騒ぎを繰り返している。日本から見ると台湾の議論は感情的で方向がずれていると映る。
台湾では食の安全について人々の警戒感が極端に強い。台湾メディアは5県の食品を「核災食品」と報道し,市民団体も人々の不安を煽り,野党国民党は政治的目的で抗議活動を展開したので,「日本食品は放射能に汚染されている」という誤解やデマが独り歩きしているのが実情である。
日本側の交渉方針は,WTOの自由貿易ルールに違反している可能性が高い輸入規制を台湾側が解除してこそ,日台間の経済協力の協議のレベルを上げることができるとしている。つまり交渉の入り口である。
かたくなな台湾
これは当然の対応であるが,台湾の民衆の眼には,日本が危ない食品を売りさばこうとして台湾に圧力をかけていると映る。台湾では食品安全の問題は貿易問題とは別という意識が強い。現状では,日本側が輸入規制解除を求めれば求めるほど台湾側はかたくなになり,日本への反発が高まる。
背景には,近年の「台湾アイデンティティ」の高まりもある。アイデンティティというのは他者にバカにされたくないという強い感情であり,中国にもアメリカにも日本にも向かうものである。中国は中台サービス貿易協定の批准ができなければその先の交渉に進めないとして馬政権に強い圧力をかけ,学生らによる国会占拠=ひまわり運動を招いた。日本側としてはこの問題では理が日本にあるので台湾の姿勢にいらだちを覚えることも多いが貿易のルールという大義で直進すれば,上から目線ということで「台湾アイデンティティ」を刺激しかえって事態の解決を遠ざける可能性がある。
ここは柔軟に並行的な協議を進めるべきではなかろうか。日台の経済協力拡大が双方のプラスになることが見えることによって台湾のかたくなな姿勢も変化してくるであろう。日本の消費者が台湾産のマンゴーをおいしそうに食べている映像が広がれば,台湾でも反応は変わってくる。急がば回れである。
国民党との付き合い方
馬英九政権は「友日」を唱え,日台漁業協定を締結するなど日台関係の前進に貢献があった。しかし,最後の1年は,歴史認識,慰安婦,海洋問題で執拗な日本批判を繰り返す一方,中台首脳会談に象徴されるように中国傾斜が目立った。このため日本側での馬英九評価は低下した。洪秀柱国民党主席は日本に対し日常的に批判を続けている。
今回の食品問題で,国民党の立法委員らは蔡政権に対抗するため民衆の不安を利用して日本食品そして日本全体を貶める言動を展開した。国民党の抗議活動の現場を取材した日本メディアの記者はデマ宣伝のあまりのひどさにあきれている。多くの日本国民の眼に国民党は「反日親中」という印象が強まるであろう。
日本の行動パターンからすると表面上は変わらないが,日台交流の現場で,日本の議員,自治体,各種団体が「反日的な」国民党との交流を避ける傾向が出てくるかもしれない。国民党を見切って民進党と交流をしていけばよいという意見が広がるかもしれない。
しかしこれは望ましいことではない。国民党も台湾の民意のある部分を代表している。非友好的,気に入らないからといって交流をやめてしまえば中国と同じになる。中国は国民党とだけ交流し,民進党とは交流も対話もボイコットしている。日台関係は民主主義の価値を共有しているから貴重なのであって,日本側は台湾の主要政党との交流・対話を常に続けるべきである。
日本側の情報発信を
日本食品規制問題での台湾メディアの報道を見ていると,日本の実情とかけ離れた報道がなされていることに驚く。これは日本側からの積極的な情報提供が少ないことも影響している。台湾メディアの誤った報道,政党や団体の誤った主張に対しては,日本政府の出先機関の交流協会がその都度記者会見を開き,安全性についての根拠,数値データなどを提供し,懇切丁寧に説明する必要がある。これは台湾の内政の問題なので,日本側の介入と受け取られないよう慎重に対処しているのだと思うが,中国語メディアではその都度反論していないと負けになる。台湾には中国寄りのメディアもあり,簡単な効果は期待できないが,日本側が反論していれば,少なくとも記事には載る。
トランプ政権の登場で日本も台湾も米中の動きにこれまで以上に揺さぶられる予感が漂う。日台の協力はますます重要になる。台湾は,よい点も悪い点も含め日本への理解が非常に深い。台湾=親日という思いに安住することなく,隣人の不安に思いを寄せることも必要だ。日本の食の安全への取り組みはしだいに理解してもらえるであろう。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8500
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