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与野党のトップが見せた臨時国会の耐えられない寒々しさー(田中良紹氏)
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19th Dec 2016 市村 悦延 · @hellotomhanks
本日(12月17日)第192臨時国会が閉幕した。
日本政治の劣化が言われるようになって久しいが、
これほど拙劣な国会を経験したことがないというのがフーテンの感想である。
拙劣さは与野党にまたがっており、その主要な原因は与野党のトップ、
つまり安倍自民党総裁と蓮舫民進党代表の政治家としての力量のなさというか、
資質に大いに関係があると思う。
安倍自民党総裁は内閣総理大臣として行政のトップでもあるが、
フーテンが取材の一線にいたころの国会は、
三権分立の建前から行政のトップである総理が国会運営に介入することは慎まねばならないとされていた。
従って政府と与党は一体ではあるものの、
国会運営の一々は与党幹事長の下で表の存在である議院運営委員長と裏の存在である
国会対策委員長に委ねられていた。
そのため総理にとって党幹事長、議院運営委員長、国会対策委員長は
自らの政権運営を左右しかねない重要なポストであった。
しかし大統領型の総理を目指した中曽根康弘氏の頃から
三権分立を無視して総理官邸が国会運営に口出しするようになり、
当時衆議院の議院運営委員長であった小沢一郎氏が
「民主主義をないがしろにする」と強く反発したことを鮮明に覚えている。
安倍総理とその周辺もどうやら中曽根元総理と同様に国会運営に口を出し、
行政が国会をコントロールしようとしている。
与党はそれを表では批判できず、
しかし反発が底流にくすぶってこの臨時国会を混乱させる要素になったとフーテンは感じている。
安倍総理はこの臨時国会をTPP批准のための国会と位置付けた。
TPP批准は日ロの領土交渉に強い懸念を示すオバマ政権を説得する取引材料となるもので、
そのためアメリカ大統領選挙の前までに衆議院を通過させて批准を確実にし、
ヒラリー・クリントンが選挙に勝利すれば、連邦議会での批准を側面支援することができると考えた。
官邸の作成したシナリオが与党に降りてきて、
おそらく一部の与党議員には「俺たちは官邸の下請けではない」との思いが生まれる。
しかし与党の一員である以上、高い支持率を誇る安倍総理を表で批判することはできない。
それが「ほめ殺し」の形となって現れてきたのである。
TPP特別委員会理事の福井照衆議院議員は臨時国会が召集されたばかりの9月末、
所属する二階派の会合で「強行採決という形で実現するよう頑張らせていただく」と発言し、
直後に記者団には「総理の思いを述べたに過ぎない」と、
強行採決が安倍総理の意向であることをほのめかした。
10月に入りTPP協定批准が審議入りすると、
担当大臣の一人である山本有二農水大臣は
「強行採決するかどうかは議運委員長が決める」と、再び「強行採決」に言及し、
野党の反発を呼んで審議日程は狂い始める。
そのため官邸が思い描いた10月末の衆議院通過は不可能になった。
そして大統領選挙前までの衆院通過を急ぐ官邸の意向を受け入れたかのように、
与党は11月4日に委員会で強行採決を行う。
強行採決をすれば野党が反発してさらに日程が遅れることを織り込んだうえでの強行採決である。
こうしてTPPが衆議院を通過したのは大統領選挙後の10日にずれ込んだ。
官邸の国会シナリオは完全に狂わされ、
しかも大統領選挙に勝利したのはTPP脱退を選挙公約に掲げたトランプ氏で、
安倍総理の思惑は木っ端みじんに吹き飛んだ。
慌てた安倍総理は藁をもつかむ心境でトランプ氏に面会を求め、それがまたオバマ政権の怒りを買った。
そして衆院通過後の14日、最後っ屁のように竹下亘国会対策委員長が
「強行採決であった」ことを認める。
強行採決された案件を持ち込まれる参議院は与野党ともに衆議院に不満を抱く。
その不満が慎重審議で衆議院を慌てさせようという心理を生む。
臨時国会は延長せざるを得なくなり、
まずはロシアのプーチン大統領が来日して行われる日ロ首脳会談の前日までの延長となった。
すると官邸が維新を取り込もうと考えたのか、
「カジノ法案」を6時間足らずの衆議院審議で強行可決させ、それも参議院に送った。
与党の一角をなす公明党はまさかの展開にてんやわんやである。
自主投票で臨むしかなくなった。こうしたことがフーテンに安倍総理の政治的力量のなさを感じさせた。
だがそれに劣らず何を考えているのかさっぱりなのが蓮舫民進党代表である。
代表として初めて臨む国会で政治的資質のなさだけが浮き彫りになった。
国会が始まる前に蓮舫代表は「批判をするだけでなく提案型の野党になる」と言った。
フーテンは「野党時代の自民党が民主党のスキャンダルを徹底的に攻撃して
政権を奪い返したことを忘れたのか」、
「民進党がある限り二度と政権交代は起きない」とブログに書いたが、
国会が始まると何が提案型なのかさっぱりわからない。
一度だけ行われた党首討論では「安倍総理は息をするように嘘をつく」と
個人攻撃を行うのみで提案型とは思えない論戦を展開した。
そして蓮舫シンパには受けるかもしれない表現がその他の人々を「引かせてしまう」効果があることを
分かっていない。
さらに重大なのは臨時国会に臨む野党第一党としての戦略が見えなかったことだ。
安倍総理がTPPを最重要課題としていたのに対し、
当初はそれよりも「年金カット法案」を主戦場とみている姿勢だったのが、
「強行採決」の問題発言が相次ぐと今度はTPPに軸足を移す。
その分「年金カット法案」に力を集中させているようには見えなくなり、
「カジノ法案」では「徹底的に戦って何としても廃案に追い込む」と大見えを切った直後に、
与野党の国対が修正協議を行って採決を行う展開になるなど、
司令塔が全く不在の国会運営を国民に見せつけた。
これはもはや政治と言えるレベルになっていない。
ただ正論を言いつのるのが政治だと錯覚しているレベルである。
正論を言うのは学者や我々のようなジャーナリストの役割で、
その学者やジャーナリストに政治家が務まるかと言えばそれは違う。
政治家はどんなに汚い手段を使っても正論を実現するのが仕事である。
はっきり言えばウソとだましのテクニックがなければ務まるものではない。
それが分かっていないように見える与野党の国会攻防をフーテンは寒々しい思いで見た。
そして臨時国会は14日までの延長では足りなくなり、
賭博を合法化する「カジノ法案」を成立させるため二度目の延長を行い、
プーチン大統領が来日する15日未明に与野党が寒々しい論戦を行って「カジノ法」を成立させた。
この拙劣で寒々しい臨時国会は、これからの安倍総理と蓮舫民進党代表の政治運営に
ボディブローのようなダメージを与えるはずである。
また日ロ首脳会談の結果を見れば安倍総理はとても解散を打てる心境にはならなくなったと思われる。
しかしこんなレベルの政治が来年の秋以降まで続くと思うとそれも耐えられない話である。
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