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全農悪玉論で改革は進むのか
ニッポン農業生き残りのヒント
カギ握る「下からの変革」、ヒントはJA邑楽館林に
2016年12月16日(金)
吉田 忠則
自民党の農林部会長に小泉進次郎氏が就いたのが昨年10月。以来1年余り、農業改革をめぐる論議は、国際的にみて高いとされる農薬や肥料など農業資材の値段の引き下げ問題を中心に進められてきた。とくに焦点になったのが、資材の購買を手がける全国農業協同組合連合会(JA全農)の組織や事業の見直しだ。
目的はできるだけ資材を農家に安く提供し、農産物をできるだけ高く売ることにある。一連の論議の背景には、全農が期待されている役割を十分に果たしていないとの問題意識がある。
全農と非全農系から見積もりを
JA邑楽館林は資材価格の引き下げに長年取り組んできた(群馬県館林市)
そのことを考えるヒントにするために、今回は邑楽館林農業協同組合(JA邑楽館林、群馬県館林市)の取り組みを紹介したい。「農家の所得を少しでも増やすため、農産物を1円でも高く売り、資材を1円でも安く提供するよう努力してきた」。江森富夫組合長はそう話す。
もし聞かれれば、農協の組合長はみんな同じように答えるかもしれない。「農家のために努力していない」と話す農協の幹部などいないだろう。だが、JA邑楽館林の取り組みには、胸を張ってそう言えるだけの裏づけがある。
全農改革に関する報道では、あたかも全農が農業資材や農産物の流通を独占し、それを傘下の農協に押しつけているかのような記事が散見された。ところが、JA邑楽館林は「全農から強制されてなどいない」と反論する。
実際、この農協は400種類を超す農薬の値段について、全農と非全農系の卸会社から毎年見積もりをとり、安いほうから買うという取り組みを長年続けている。少なくとも、JA邑楽館林に関する限り、全農が資材の購入を押しつけているという事実はない。
見積もりの結果、約6割は全農から仕入れ、残りの4割は非全農系から購入している。6割は全農のほうが安いからだ。これも、一連の報道で伝えられてきたイメージとは違うのではないだろうか。JA邑楽館林からは「4割のほうばかりが誇張されて、全農の資材は高いと批判するのはおかしい」との声がもれる。
あえて仮定すれば、双方から見積もりをとるJA邑楽館林のやり方に対応するため、全農が資材をできるだけ安く提供するよう努力している可能性はある。もしそうなら、ほかの農協も同じ方法をとればいいだけの話だ。
日々大量の野菜が出荷されるJA邑楽館林の施設(群馬県館林市)
一方、資材価格をめぐっては「全農が割高なため、全農から仕入れる農協はホームセンターより割高」との指摘もある。実際はどうか。JA邑楽館林はそうしたことがないよう、周辺のホームセンターなどの値段を定期的に調べ、おおむね自分のほうが安いことを確認している。
読者のなかには「できすぎた話だ」と感じる人もいるかもしれないが、こういう試みが生まれ、続いてきた背景にはそれなりの事情がある。きっかけは40年余り前、青果物の大型の集出荷センターを新設したことにある。問題はなぜセンターをつくったかだ。
各地の市況を比べて「有利販売」
背景は2つある。じつは当時、近くに産地市場が3つあり、キュウリやナスを農協ではなく、市場に直接出荷する農家が少なからずいた。農協外の流通に回っていた農産物を、農協に集めるための切り札としてつくったのが集出荷センターだった。
もう1つは、農協の既存の施設を利用するが、農産物の販売はみずから手がける農家のグループが複数あったことだ。農協からすれば、施設の利用料は徴収できるが、販売手数料は入らない。一方で農家の側も、夜中まで出荷作業に追われるなど、過重労働に悩まされるという問題を抱えていた。
この2つの勢力を取り込み、集荷量を増やすにはどうしたらいいか。もちろん、新しい青果物センターが大きくて使い勝手がいいだけでは農産物は集まらない。そこで掲げたのが、「有利販売」だ。農家がみずから売るといっても、販売先はせいぜい東京市場。そこでJA邑楽館林は、各地の市況を見比べて、より高い先に売る仕組みをつくったのだ。
これが「農産物を1円でも高く売る」という意味だ。JA邑楽館林には、かつて「全国が市場」という標語が額に入れて飾ってあったという。「農薬や肥料などの資材を1円でも安く提供する」という取り組みも、これとセットで始まった。どちらも、農家の所得を増やし、求心力を高めるための措置だ。
こうした努力は、いまも止まることはない。昨年も家畜のエサにする配合飼料の仕入れ先を増やし、価格の比較で仕入れ値を下げることに成功した。
ほかの分野と同様、畜産農家も高齢化で軒数が減る一方、農協以外から飼料を買っている農家も少なくない。そこで、シェアを高めるため、飼料の仕入れ先ごと農家との関係を強化したのだ。飼料の販売会社には、農協が間に入ることで代金回収にかかる人件費が減るといったメリットを提示した。
JA邑楽館林はこれまでも、農家が飼料を配合する際の原料になる単味飼料は、全農系以外からも見積もりをとって仕入れてきた。小麦を製粉する際に発生する「ふすま」やトウモロコシ、大豆、大麦などだ。これに対し、すでにできあがった配合飼料は「成分が違うので単純比較できない」として比較を見合わせてきた。シェアを増やすため、今回この分野でも一歩踏み込んだわけだ。
「村の論理」より経済合理性で
農業資材の価格の引き下げというテーマに関し、小泉氏は政府の規制改革推進会議とも連携しながら、全農に事業や組織の見直しで数値目標を含む年次計画を立てさせ、政府・与党が定期的にチェックするという成果を勝ち取った。それと比べ、JA邑楽館林の取り組みはどう位置づけ、評価すべきだろう。
まず大きいのは、JA邑楽館林には農産物の販売でライバルがいたことだ。農家が野菜を直接出荷する産地市場だ。さらにかつては農協の力が弱かったため、農協の施設は使いながらも、販売はみずから手がける農家のグループがあったこともプラスに働いた。
ひと言でいえば、「下からの変革」だ。農家は農協を利用すべきかどうかを他の選択肢とてんびんにかけ、農協は期待に応えようと努力する。その同じ文脈で、農協は全農と他の卸会社を比べ、できるだけ有利に資材を調達しようと努める。競争を背景にした緊張関係が、「1円でも安く仕入れ、1円でも高く売る」という努力を促す。
こういう取り組みを各地に浸透させることができれば、農協の意識改革が大きく進む。そのために必要なのはライバルの存在であり、「村の論理」よりも経済合理性で動くプロ農家の集団だ。そういう環境で農協は鍛えられる。
では小泉氏が1年余りかけて実現した改革の意義はどう考えればいいのだろう。そのことは次回のテーマにしたい。
新たな農の生きる道とは
『コメをやめる勇気』
兼業農家の急減、止まらない高齢化――。再生のために減反廃止、農協改革などの農政転換が図られているが、コメを前提としていては問題解決は不可能だ。新たな農業の生きる道を、日経ビジネスオンライン『ニッポン農業生き残りのヒント』著者が正面から問う。
日本経済新聞出版社刊 2015年1月16日発売
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/252376/121400075/
イスラエル企業は黒子に止まるのか
記者の眼
日本がはまる「めんどくさい」
2016年12月16日(金)
寺岡 篤志
中東の技術大国として知られるイスラエル。しかし、日本との経済関係の歩みは速いとは言えない。その背景にあるのが、イスラエルの国民性や抱える火種への忌避感だ。
セガゲームス、任天堂、スクウェア・エニックス、バンダイナムコスタジオ、コナミデジタルエンタテイメント、カプコン———。11月下旬、日本の名だたるゲーム会社のシステムエンジニアが東京・港のホテルに一堂に会していた。
イスラエルの中堅IT企業、インクレディビルドの日本法人立ち上げを祝うパーティーだ。インクレディビルドのエヤル・マオールCEOは「日本は画像処理などのゲーム技術が発達している重要な市場。現地法人の設立で既存国客へのサポートの迅速化、市場の拡大がさらに進む。開発・販売の両面で提携できる日本企業も探したい」と意義を語った。日本法人の立ち上げはイスラエル政府が昨年始めた日本への進出補助金プログラムを利用した第一弾。ルツ・カハノフ駐日イスラエル大使は「両国の経済関係者の進展を嬉しく思う」と歓迎した。
インクレディビルドのマオールCEO(右から2人目)やカハノフ駐日大使(右)ら
インクレディビルドが主にゲーム会社に提供している分散コンピューティングシステムは、ヒトが書いたプログラムをコンピュータの言語に変換する「コンパイル」という作業を高速化する。「軽トラとスポーツカーぐらい速さが違う」「導入で作業時間は6分の1に減った。もう手放せない」。参加した日本企業のエンジニアからはこんな声が上がっていた。同社が日本市場に進出したのは約10年も前。日本の大手商社などと連携し、冒頭に挙げたような日本の大顧客を獲得してきた。
イスラエルにはインクレディビルドのような黒子企業が多い。人口、国土、資源、輸送手段などの制約により、イスラエルはハードウェアよりもソフトウェア産業が優先的に育成され、自国の市場の小ささから最終製品まで手掛ける企業も少ないためだ。
こうした黒子企業は、アラブ国家によるイスラエルへのボイコット包囲網への対抗策となった。パソコン、ウェブサービス、自動車など生活に欠かせない商品に要素技術を提供することで、ボイコットは形骸化していった。
イスラエルは「めんどくさい」?
一方で、日本におけるイスラエルの存在感の希薄さにも繋がっている。インクレディビルドは日本での長年の実績と大きな顧客基盤を持ちながら、まったくと言っていいほど国内では無名だ。日産自動車のミニバン「セレナ」の自動運転支援システムの要素技術がイスラエル発であることを知る日本人も多くはないのではないか。
黒子企業が大々的に消費者に名前を売らないのは当然のことかもしれないが、イスラエルに拠点を置くサムライインキュベートの榊原健太郎CEOは「日本とイスラエルの技術が融合したヒット商品が世に広まらないと、2カ国間の経済関係は進展しない」と指摘する。日本企業がイスラエルとのビジネスに踏み切るために背中を押してくれる事例が必要というわけだ。黒子企業も最後には頭巾を脱いで表舞台に出てこなければ、これは果たせない。榊原氏の発言の背景を、イスラエル企業との技術開発を手掛けているある日本メーカーの社長の言葉が端的に言い表している。「あの国はほんとめんどくさいんだよ」。
国民性とアラブ国家の摩擦がハードルに
イスラエル、天才を生み出す「3つの秘密」でも伝えたとおり、ユダヤ人の個性を端的に表す「フツパー」という言葉がある。確立された日本語訳はないが、概ね「地位に関係なく直言する人」といった意味合いだ。現地の日本人駐在者に言わせれば「『KY』が最も適した訳」だそうだ。日本メーカー社長も「まるで俺を社長だと知らないような物言いなんだ」と嘆息する。例えイスラエルの技術に惚れ込んで日本企業が提携を結んでも、両者の国民性の違いが壁になる。
そして、パレスチナ問題に代表されるアラブ国家との摩擦。提携に踏み切る以前にイスラエル自体に対して「めんどくさい」と思わせてしまうアレルギーの要因になっている。日本とイスラエルの2カ国間ビジネスを手掛けるユダヤ人は「イスラエルの技術を紹介する際に、戦争で培われた技術だろうという評価がついて回る」と話す。
隠れイスラエル駐在企業も?
政治的にも民族的にも極めて深刻な問題に対して敢えて「めんどくさい」と不謹慎な表現をするのは、必ずしも軍事技術への深刻な嫌悪感を持つ会社ばかりではないのではないか、という疑念が記者にあるからだ。イスラエルに駐在する日本人ビジネスマンが「看板を掲げずにイスラエルに駐在員を置いている日本企業もある」と指摘するように、レピュテーションリスクが忌避感の大きな要因と思われる。
昨年の安倍晋三首相のイスラエル訪問後、インクレディビルドが利用したような補助金制度や人材交流事業が次々に立ち上がっている。しかし、外堀は埋まっていても踏み切る日本企業はまだ多くない。
2つのリスクを御する方法を日本企業は見出せていない。というより、そもそもリスクを消し去る妙手なんてないのかもしれない。上述の日本メーカー社長は「イスラエル企業とうまくやるコツは我慢することに尽きる。我慢さえすれば、ものすごいモノが出てくるんだから」と話す。
2カ国間のビジネスに携わる多くの関係者の解答も皆一様にシンプルだ。ある大手企業のベンチャー投資担当者は「当面の目標はトップをイスラエルに連れて行くこと。行けばすぐにでも提携を決めたい企業がたくさんみつかる」と話す。実際に行かなければ分からない。当たり前すぎる解答なのだが、いまだその当たり前から始めなければならないのが、2カ国関係の現在位置なのかもしれない。
このコラムについて
記者の眼
日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/121500376/
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