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「廃炉コスト21兆円」を国民に払わせようとする経産省の悪だくみ 国民に謝罪するのが先じゃないですか?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50433
2016.12.13 町田 徹 経済ジャーナリスト 現代ビジネス
■廃炉コストは見積もりの4倍に
経済産業省は先週金曜日(12月9日)、東京電力・福島第一原発(1F)の溶け落ちた核燃料デブリを取り出す工程が近付き、過少見積りを放置すると政府が過半数の議決権を持つ東京電力が債務超過に陥るリスクが強まってきたため、「廃炉」コストを従来の4倍の8兆円に増額して電気料金に転嫁する方針を公表した。
あわせて「賠償」、「除染」、「使用済み燃料の中間貯蔵」などのコストも増額した結果、1Fの事故処理費用は総額で21.5兆円(推計)と3年前(11兆円、同)のほぼ2倍、5年前の約3.6倍(6兆円、同)に急膨張した。
同省は、この巨費を「東電改革による資金確保が原則」と自助努力で賄うかのような説明を前面に押し出しているが、実態は、 “国営・東電”への関与を強化・長期化して同社中心の業界再編を目論む一方、肝心の資金については、時間をかけて電気料金と税金に転嫁、最終的に国民につけ回す方針だ。
国営・東電が業界トップという状態のまま、今年4月に電力小売り自由化をスタートさせたのは問題だった。加えて、同社を軸に業界再編を後押ししたのでは、電力市場は市場の態を成さなくなる。
さらに、国民に負担拡大を求めるなら、これまでの計画が失敗した原因と責任を明確にして、国民に謝罪することが前提だ。
1990年代の銀行の不良債権処理では、旧大蔵省が解体され、銀行の経営陣は身を引いた。今回に当てはめれば、経産省・資源エネルギー庁の解体と、現役の経産省官僚の天下り役員も含めた東電の全役員の退陣に相当する。
また、原発事故処理の原点に戻り、改めて資本主義の原則に沿って東電の破たん処理を模索するのが筋だろう。いずれにせよ、今度こそ、原発を巡る国民的な議論が求められている。
経産省が9日に新たなコスト見積もりなどを示したのは、同省の有識者会合である「東京電力改革・1F問題員会」(東電委員会)、総合資源エネルギー調査会(経産大臣の諮問委員会)の下部組織、自民党の原子力政策・需給問題等調査会(額賀委員会)の3つだ。
この3つを使って、同省方針に基づく原発の後始末を強引に既成事実化する意図が伺える。
本稿では、まず、東電委員会に出された「提言原案骨子案」「参考資料」をもとに経済産業省の主張をフォローし、4種類の1F事故の処理費用の増加ぶりと、費用の捻出方法をチェックしておきたい。
■新たな天下り先を確保するため?
第1に、2兆円から8兆円に膨らんだ廃炉費用だが、経産省の相変わらずの無責任な態度には呆れてしまう。次回の膨張に備えて逃げを打っているのだろう。経産省は、「『有識者ヒアリング結果報告』を引用したもの。経済産業省として評価したものではないことに留意』との注釈をつけている。
こうした表現は、官僚に求められる手堅い責任回避策なのかもしれないが、国民としては、この役所に原発事故処理という重責を担う資質があるのか疑問が生じる書きぶりと言わざるを得ない。責任持てないという数字で、国民負担を迫るなど無責任の極みだろう。
実際、有識者ヒアリングで出た数字は、過去の事例(米スリーマイル島原発事故)を参考にした有識者の試算で、スリーマイル島原発事故と1F事故ではその深刻さがまったく違うので、1Fの廃炉費用が今後さらに膨らむ可能性は大きいとされる。
また、自由化により総括原価主義に別れを告げたのだから、発電や小売りなどの競争分野はもちろん、まだ規制の残る東電の送配電部門でも合理化努力をして、利益が出れば利用者に還元すべきところだ。が、経済産業省はこれらを還元させず、廃炉事業に優先的に充当させる方針だ。
つまり、東電の送配電網を経由する電気の利用者に高めの電気料金を設定して、ツケを回すわけだ。
また、東電管内では、家庭や事業所に電気を届ける託送業務でも、ユーザーがどこの電気の小売事業者と契約を結ぼうと関係なく、廃炉コストを料金に上乗せして廃炉資金の確保に努めさせるという。
ちなみに、経済産業省は一連の資料に、廃炉資金を確保・積み立てておくための「管理型積立金制度」という新たな制度・組織を創設する方針を盛り込んだ。すでに賠償を支援する「原子力損害賠償支援機構」が現存するのだから、さすがに新たな機構作りまではやらないだろうが、新たな天下り先の確保につなげる魂胆が浮き彫りだ。
このほか、廃炉の関係では、今回の8兆円とは別に、廃炉に使うロボットの研究開発費用などとして、今年度の補正予算までの累計で0.2兆円の研究開発支援が交付されている。これからも科学技術・基礎技術の開発などの名目で、こうした支援が続く見通しである。
■国民は舐められている
第2に、これまで5.4兆円とされてきた賠償コストが、今回、7.9兆円に膨らんだ。理由は、「商工業、農林漁業に関する営業損害・風評被害の収束の遅れ」や、「帰還・移住のための住宅確保に係る新たな賠償項目の追加」だ。
増加分の2.5兆円については、東電に貸し付ける交付国債枠が4.5兆円増の13.5兆円となるので、この交付国債を賠償だけでなく除染、中間貯蔵の当面の資金繰りにも活用することになる。
ただし、今回、経済産業省は、東電事故の処理資金は「過去にすべてのユーザーに負担してもらい、積み立てておくべき性格のものだった」との議論を展開している。
東電以外の事業者の管内でも、託送料金に幅広く上乗せする形で、新電力と契約しているユーザーにまで網をかけて、年間600億円の資金を期間40年で回収するために持ち出した理屈だ。
後出しじゃんけんの感を免れず、当時から明らかにしていれば脱原発運動の激化も避けられなかったと見られるが、マスコミがこんな細部まで丁寧に報じて、関心が高まるわけがないとタカをくくっているのが、よくわかるやり方だ。
ちなみに、これを標準家庭の負担額に換算すると、40年間にわたって毎月18円を負担させられることになるという。認めれば、なし崩し的に増額されるリスクがあることをわれわれ国民は肝に銘じる必要がある。
■絶対に回避すべきこと
第3が除染だ。除染は、これまで総額で2.5兆円必要とされてきたが、今回、4.0兆円に拡大した。その理由は、「需給のひっ迫に伴う労務費と資材費の上昇」、「除染対象物の追加」仮置き場撤去時の廃棄物発生量の増加」などとなっている。
資金繰りに交付国債を使うのは、賠償や中間貯蔵と同じだ。最終的な費用の回収は、東電に経営改革を迫って経営を効率化し、将来、東電の株価を上げて、その売却益を拡大させることで賄うという。
もう一度、筋論を言おう。東電は破たん処理をして、廃炉や賠償、中間貯蔵も含めて国が主体となり、直接、被災者と向き合って、事故処理に当たるべきである。原子力損害賠償法の立法趣旨は、そういうものだったはずである。
第4が、中間貯蔵だ。これまでの1.1兆円から1.6兆円に膨らんだ。コスト増の要因は、「輸送時の安全対策や貯蔵施設の仕様等の検討状況を踏まえた資金の増加」という。
この費用について、経産省は「国費(エネルギー特会)で対応」としており、電気料金に付加して徴収されている電源開発促進税などの増税で国民が負担させられるものとみられる。
最終的に国民にツケを回す事故処理コストの巨大さと並んで大きな問題なのが、経産省が東電に迫る「非連続の経営改革」の中身だ。
経営が連続しないのは破たんするような時だけなので、ネーミングからして滑稽だが、いきなり「再編、統合に向けた共同事業体の設立」というタイトルを掲げ、送配電事業、原子力事業における業界再編を促しているのは、ブラック・ユーモアでは済まされない。
本来、国営・東電は、グループの会社や事業をばらばらに解体して、一定の入札資格の下で、内外の企業の競争入札にかけて売却すべき対象だ。
1F事故の後始末におカネが必要という理由で、バックに経産省が付いて業界再編を進めたのでは、電力市場の競争メカニズムは失われ、国営独占市場に転落しかねない。
しかも、歴史的な原発事故を起こしながら、反省なくメルトダウン隠しをつき続けたような企業文化がアライアンスの相手企業に感染したら大変である。そもそも東電の国有化を許し、現役官僚まで役員として派遣することを認めたのが大失敗だったのだ。経産官僚たちは味をしめ、統制できる範囲の更なる拡大を狙っている。
■問われるのは安倍政権の姿勢
ここで特筆しておくべきは、世界最大の発電容量を持つ柏崎刈羽原発の再稼働問題である。筆者は、これまで「中部、東北など他電力に同発電所を売却し、運営主体を東電でなくすことが、柏崎刈羽原発再稼働へ向けた信頼回復策として不可欠だ」という趣旨の原稿を何度も書き、テレビ、ラジオ、講演でその趣旨の発言を繰り返してきた。
これに対して、経済産業省が目論む、東電が主体となり、他社を巻き込む形で、他社の信用を利用しようとする再稼働案は大きな間違いだ。
「先進的な他電力の協力も躊躇なく要請」などと、東電委員会の提言原案骨子に書き、白旗を掲げたようなフリをして、うらで長いものに巻かれろとライバル企業に圧力をかける同省の態度は目に余る。
水を向けられた形の東北電力の原田社長は11月30日の定例記者会見で、「連携・再編についてはまったく念頭になく、そうした検討はしていない」ときっぱり否定したという。経済産業省というオカミに逆らうのは覚悟のいることだろうが、間違った政策に与することのないよう頑張ってもらいたい。
これほど巨額に及ぶ事故の処理は最終的には国民が広く負担しなければ、問題は解決できないかもしれない。
しかし、だからと言って、乱暴かつ安易に、1F事故の後始末コストを国民にツケ回そうとするようでは、人心は政権から急速に離れていくだろう。経産省的なやり方を黙認すれば、安倍政権の正念場にさえ成り得ることを肝に銘じていただきたい。
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