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安倍首相の真珠湾訪問 拭えない胡散臭さとしたたかな打算
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/195325
2016年12月7日 日刊ゲンダイ 文字お越し
慰霊の資格があるのか(C)日刊ゲンダイ
「二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない。その未来に向けた決意を示したい、こう思います」
安倍首相はこう言って、今月26、27日にハワイに飛び、真珠湾を訪問することを発表した。大新聞はこのニュースを1面から大きく紙面を割いて報じ、「現職首相で初」「日米和解 世界へ発信」などと大騒ぎだが、ちょっと待ってほしい。
75年前の1941年12月8日、日本の攻撃機が真珠湾にあるアメリカ海軍基地を奇襲攻撃したことが、太平洋戦争開戦のきっかけになった。その地を訪れ、慰霊することに誰も異論はない。
だが、安倍は米議会調査局が「ストロング・ナショナリスト」と認定し、世界中から「歴史修正主義者」と見られてきた首相だ。それが、歴代首相がためらってきた真珠湾訪問を唐突にブチ上げた。なぜ今なのか。かの戦争を侵略戦争と認めない歴史修正主義者が、どういうつもりで慰霊などと言うのか。胡散臭さが拭えないのである。
元外務省国際情報局長の孫崎享氏が言う。
「平和パフォーマンスで支持率を上げ、解散に持ち込もうという政治的打算が見え隠れします。15日に行われるロシアのプーチン大統領との首脳会談で北方領土問題を進展させ、解散・総選挙に臨む思惑だったのに、アテが外れて、何の成果もなさそうなので、新たな外交の目玉として真珠湾訪問を持ち出してきた。ただ、真珠湾は政治の道具として弄ぶテーマではない。日本政府がまず行うべきは、なぜ真珠湾攻撃のような愚策を行い、多くの犠牲者を出す過ちを犯したのかを検証して真摯に反省し、それを述べることですよ。そういう心からの反省もなく、形ばかりの政治ショーに戦争の悲劇を利用するなんてもっての外だし、あまりに恥知らずです」
■過去を直視せず歴史にフタ
昨年の戦後70年談話もそうだったが、安倍の「反省」は口先だけだ。言わないと国内外から批判されるから、必要とされる場面で一応は口にするが、過去の指導者がやったことは自分と関係ないという態度がアリアリで、日本の戦争責任を棚に上げ、「戦争の惨禍を繰り返さない」という普遍的な一般論にスリ替えてしまう。安倍がよく使う「未来志向」というのも、要するに、過去を直視したくないから、不都合な歴史にフタをしてしまおうという意味だ。
「そもそも、安倍首相は真珠湾奇襲で日米開戦に至るまでの歴史的な流れを理解しているのでしょうか。根底には、米国が日本に対し、『ハルノート』で中国から撤退するよう突きつけてきたことがある。アジアにおける侵略戦争が、日米開戦の引き金になったのです。慰霊というならば、真珠湾の前に南京に行くべきではないでしょうか。来年は盧溝橋事件から80年。慰霊のために中国を訪問するには絶好の機会ですが、侵略戦争も南京大虐殺も認めたくない安倍首相には、絶対に無理でしょう。真珠湾にしても、国会で『ポツダム宣言を読んだことがない』と公言し、戦後レジームの転覆をもくろむ首相が、どんな心づもりで慰霊するというのか。トランプ次期大統領に尻尾を振りまくったことや、ロシアとの接近でオバマ大統領を怒らせてしまったから、レガシーづくりに協力してやろう。自分の支持率アップにもつながって一石二鳥だというような軽い気持ちなら、犠牲者を冒涜しています」(政治評論家・本澤二郎氏)
安倍の歴史認識や欺瞞には一切触れず、「日米関係の深化」「歴史的和解」と騒ぐ大メディアの礼賛報道も気味が悪い。大体、「和解」って何なのか。これまで、安倍もメディアも「日米同盟は強固で揺るぎない」とか言ってたのは嘘だったのか。
ホワイトハウスは、日本とほぼ同時に安倍の真珠湾訪問を発表したが、記者から「日米関係への影響や深化」について聞かれた報道官は、「何でそんな話になるの?」ってな反応で素っ気なかった。「どうしても来たいなら、お好きにどうぞ」という程度の話なのだ。
オバマ大統領は今年5月に広島を訪問(代表撮影)
場当たり外交や言行不一致を批判しない大メディア
歴史作家の保阪正康氏は、かつて本紙のインタビューでこう言っていた。
〈安倍さんの本質は歴史修正主義的体質です。あの戦争は聖戦であり、侵略戦争ではないと固く信じている。今の日本は権力と歴史修正主義が一体化するという、いびつな形になっています〉
〈(米国の)共和党の面々は「侵略に定義がないというのなら、じゃあ、真珠湾について説明してもらおうじゃないか」と憤ったそうです。歴史修正主義者と見られている安倍さんは、米国にも十分信用されていないように思います〉
安倍がかたくなに侵略を認めようとしないのは、敬愛する祖父、岸信介の影響が大きい。A級戦犯容疑者として収監された岸は、獄中で「大東亜戦争を以て日本の侵略戦争と云うは許すべからざる」と書き残している。
「岸信介は、真珠湾攻撃の日米開戦当時、商工大臣として東条内閣の一員でした。嘘と詭弁で国民を騙し、無謀な戦争に突き進んでいった開戦責任は重い。そのDNAを思想的にも受け継ぐ安倍首相は、他の誰よりも、真珠湾慰問の資格がないはずです。安倍首相の政治手法というのは、話題になって一時的に支持率が上がれば、将来どうなっても知らないという態度で、手当たり次第に食い散らかしていく。真珠湾訪問もそうですが、場当たり外交や言行不一致を批判することもなく、劇場型政治に乗っかって騒ぐだけのメディアは、非常に罪深いと思います」(孫崎享氏=前出)
安倍は真珠湾訪問を発表した際、「先のオバマ大統領の広島訪問に際して、核なき世界に向けた大統領のメッセージは、今も多くの日本人の胸に刻まれています」とも言っていたが、これも出任せだ。少なくとも安倍の胸には刻まれていない。日本が今年10月、国連の「核兵器を法的に禁止する条約の制定を目指す決議案」に反対票を投じたのが証拠だ。
■「大東亜戦争は米英に抗する自衛戦争」
「国際社会からすれば、『唯一の被爆国が、なぜ反対?』と理解不能でしょうが、米国と足並みを揃えて武力を行使し、あわよくば核兵器も保持したいのが安倍首相です。そのために憲法違反の安保法制を強行し、武器弾薬を世界に売りさばこうとしている。平和国家を戦争ができる国に変えておきながら、『二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない』などとほざくのは、笑止千万なのです。安倍政権では、閣僚の大半が極右団体の日本会議の関連議連に名を連ねている。戦前回帰を目指し、侵略戦争を賛美しているのが日本会議です。彼らと思想や歴史観を共有している安倍首相の真珠湾訪問を素直に受け止めろという方が無理で、内実は、おぞましいの一言に尽きます」(本澤二郎氏=前出)
日本会議が昨年発表した「終戦七十年にあたっての見解」には、こう書かれている。
〈大東亜戦争は、米英等による経済封鎖に抗する自衛戦争としてわが国は戦った〉
〈戦後のわが国では、過去の歴史に対して事実関係を無視したいわれなき非難を日本政府および日本軍に向ける風潮が横行してきた〉
〈終戦七十年を迎えて、わが国にようやくかかる風潮と決別し、事実に基く歴史認識を世界に示そうとする動きが生まれてきた。安倍首相の一連の言動にもその顕れは観取できる。何よりも歴史的事実に基づかない謝罪は、英霊の名誉を傷つける〉
菅官房長官ら政権幹部がしきりに「真珠湾訪問は慰霊のためで謝罪ではない」と繰り返しているのも、日本会議をはじめとするシンパの右派に配慮してのことだ。
6日付の朝日新聞によれば、安倍は真珠湾訪問を電撃発表した後、周辺に「これで『戦後』が完全に終わったと示したい。次の首相から、『真珠湾』は歴史の中の一コマにした方がいい」と話したという。
過去と真摯に向き合おうとせず、形だけのパフォーマンスで清算したことにしてしまう。そんないい加減な態度で、解散戦略が絡んだ卑しい打算の慰霊をされても、戦争犠牲者は浮かばれない。
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