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新聞社は今後も残っていくべきなのか?
著者に聞く
作家、本城雅人氏が最新作『紙の城』で描いた新聞社のリアル
2016年12月7日(水)
上木 貴博
2005年に起きたライブドアによるニッポン放送買収騒動。作家、本城雅人氏は当時、渦中のフジサンケイグループで「サンケイスポーツ」の記者だった。その体験を生かし、最新作『紙の城』(講談社)を書き上げた。舞台はまさにIT企業に買収宣告を受ける新聞社だ。紙の新聞とウェブサイトはいかに共存していくのか。ワークライフバランスが叫ばれる時代において、新聞記者という仕事はどうなっていくのか。元記者として、新聞業界のタブーにまで切り込んだ真意を尋ねた。
聞き手は上木 貴博
最新作『紙の城』では新聞社の買収攻防戦を現場記者の視線で描いています。執筆の動機は。
本城:本作で書きたかったのは、会社組織としての新聞社です。前作『ミッドナイト・ジャーナル』(講談社)では記者一人ひとりにフォーカスしましたが、今回は新聞社という会社の独特の雰囲気や一体感を取り上げたかった。新興のIT企業に買収されそうになるという設定は、反目し合っている部署や記者たちが共通の目的の下に、一丸となっていく瞬間を書くためのものです。
本城雅人(ほんじょう・まさと)氏
1965年神奈川県生まれ。明治学院大学卒業後、産業経済新聞社に入社。産経新聞浦和総局を経て、サンケイスポーツ記者。退職後の2009年に『ノーバディノウズ』が松本清張賞候補となる。代表作に『球界消滅』『サイレントステップ』『誉れ高き勇敢なブルーよ』などがある(写真:稲垣 純也)
本城:考えてみれば、新聞記者は変わった仕事です。事件現場や記者クラブでは、毎日のように競合他紙の同業者と顔を合わせます。商店街の店主同士ならともかく、金融業や製造業ではライバル社員の顔なんて普通は知りません。顔見知りのライバルを相手にスクープを抜いたり、抜かれたりする部分はスポーツに似ているなと思います。
新聞記者は会社に対する帰属意識が高いわけでもないのに、辛い仕事をついつい頑張ってしまう人たちです。それはジャーナリズムという使命感もあるのでしょうが、仕事に酔ってしまう瞬間が理由だと思います。
執筆にあたり、新聞社の取り上げ方には注意しました。私自身、記者に憧れて新聞社に入って20年間も働きました。今も毎日、紙の新聞を読んでいます。とは言え、近年では新聞というメディアのあり方に世間は批判的です。だから、新聞社の社会的な役割や重要性を持ち上げ過ぎないようにしました。そこを前面に出すと、世の中全体の感覚から外れてしまうだろうなと感じたからです。
作中に「押し紙(一部の新聞社による販売店に実際の販売部数を上回る予備紙を買い取らせる商習慣)」や「降版協定(過度なスクープ競争を避けるため、一定の時間が過ぎたら新しいニュースを記事にしない協定)」「新聞の軽減税率適用」など新聞業界の人が眉をひそめるような話も盛り込み、(新聞社の株式買収を制限する)「日刊新聞法」にある程度守られてきたという側面も書きました。その上で、新聞社は今後も残っていくべきなのかどうかを問いかけたかったんです。
新聞社は負けていないが、勝てるチャンスは逃した
本作は2005年のライブドアによるニッポン放送買収騒動を下敷きにしています。本城さんは当時舞台となったフジサンケイグループで「サンケイスポーツ」の記者をしていました。まさに自分たちの会社にITベンチャーの手が迫ってくるという経験をお持ちです。どのような心境でしたか?
本城:もう会社がなくなるんじゃないかと焦りました。当時は堀江貴文さんのイメージがずいぶん悪かったんです。ライブドアはポータルサイトを運営していたから、産経新聞やサンケイスポーツをグループから切り捨てるのじゃないか。そうなったら我々はどうなるのだろうとか、いろいろ考えましたね。
その頃はプロ野球担当でしたから、ライブドアが新球団「ライブドアフェニックス」で球界に入ろうとした際には取材もしました。よく言われますが、プロ野球の球団経営はそれぞれの時代を象徴する企業による「たすきリレー」です。業種で言うと、新聞社、映画会社、鉄道会社などに小売業であるダイエーが登場する流れです。
楽天やライブドアが参入を表明した時点では、収益性を重視するIT企業はそれほど球団運営にお金を出さないと見ていました。同じ理由で堀江さん率いるライブドアが新聞社を傘下に収めても、紙媒体を守らないのではないかと思っていました。実際には三木谷さん(浩史・楽天会長兼社長)も孫さん(正義・ソフトバンク会長)もチームを強化して優勝させているのですが…。
作中では「記者の顔が見える主観重視の記事」「横書きの誌面」など誌面改革案が登場しています。これは本城さんが考える新聞の生き残り策なのでしょうか。
講談社から今年10月26日に発行された本城雅人氏の最新刊「紙の城」
本城:これらは実際に私がいた職場でも議論になりました。かつて団塊世代が大量に退職する2007年に備えていた2002〜2003年頃です。実際には定年を迎えても再雇用などで働き続ける人が多く、団塊世代が急に新聞を読まなくなるという事態は起きませんでした。ただ、社内の危機感は強かった。「うちの新聞は変わりました」と表明するために横書きに変更するぐらいの覚悟を見せても良いのではと私は思っていましたが…。
そんな中で(紙媒体より先にウェブで記事を発表する)「ウェブファースト」という考え方はよく話題になりました。私は2001年の米同時多発テロ事件の際に米国にいましたが、現地の新聞は特ダネをどんどんウェブに載せていました。もしその段階で日本の大手新聞社がウェブファーストに舵を切っていたらどうなっていたか。新聞社が敗北したとは思いませんが、あの頃に勝てるチャンスを取りこぼしたのは確かでしょう。
先月の米大統領選でもたくさんの人がインターネットにアクセスしていました。様々な人が情報を発信していても、一次情報までたどると新聞社の記者による記事ということが多かった。今は新聞社が「Yahoo!」などに転載されることを期待して、記事を出しています。でもまだ挽回のチャンスはあると思います。オリジナルの記事を出しているのは新聞記者なんですから。
新聞社はブラック職場?
本作に登場する新聞記者は毎日のように深夜まで働き、休日も取材に飛び回っています。主人公も働き方が原因で離婚しています。ワークライフバランスが重視されたり、電通社員の過労自殺が世間の批判を浴びたりという時代において新聞記者はどうあるべきなのでしょうか。
本城:これは「永遠の矛盾」だと思います。新聞社は長時間のサービス残業を社会問題として紙面で追及する立場にあります。でも現実的には記者自身も、過酷な立場で働いている。例えば、かつて読売巨人軍にいた松井秀喜氏は朝10時から練習します。松井番の記者が試合後に原稿を書き上げるのが夜中の1時ぐらい。つまり1日15時間働くことになります。取材相手に「私は8時間働いたからこれで失礼します」と試合前に帰る記者がいたら、信用してもらえませんよね。
ただし、15時間ずっと緊張を強いられるわけではないから、工場の生産ラインで働く人と同じように論じることはできない。重要になるのは上司の存在でしょう。各記者の適性を踏まえつつ、業務負荷が大きい部署では頻繁に異動を行うとか、上司の配慮が一般の職場より求められます。それがないと簡単にブラック職場になります。
僕自身は記者という仕事が好きで、退職した今でも記者たちが登場する小説を書き続けています。記者には現場で最初に真実を知るチャンスを与えられています。小説で新聞記者を描くときには、若い読者に「この仕事は面白そうだな」と感じてもらえるように意識しています。
ネット時代に紙の新聞はどう生き残っていくのかを問いかける作品になっています。本城さん自身は、情報収集において紙とウェブをどのように使い分けていますか。
本城:読む時間だけならウェブの方が多くなりつつあります。ただ、ウェブは自分の関心に沿って読むので、それ以外は目に入りにくい。一方で、新聞には自分の関心事もそうでないこともまとめて並んでいます。だから広告も含めて様々な情報が頭に飛び込んできます。そこが紙の新聞の良さだと思っています。
紙の媒体はこれからも残るし、残すべきです。かつてある球団オーナーが球団数削減を求めた時、当時の古田敦也選手会長が「プロ野球の人気が落ちたと言っても、年間70試合近くの主催試合に最低でも1万人を集めるような娯楽はない」といった趣旨の発言をしました。武豊騎手も「有馬記念だけで10万人が集まるのですよ」と話していました。
新聞の発行部数は落ちてきたものの、まだ4000万部以上あります。そこは各社が誇りに思っていい。誇りに思いつつも、今が最後の改革のチャンスと捉えなければなりません。新聞社は金儲けが下手でしたが、動画配信などこれまでにない挑戦も増えています。ここで踏み止まって変わらないと今まで読んでくれた人たちへの裏切りになります。
私自身、これからも新聞記者が活躍する小説を書き続けますよ。
このコラムについて
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