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日本が自由貿易を主導してトランプを説得するという身の程知らずー(田中良紹氏)
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24th Nov 2016 市村 悦延 · @hellotomhanks
アメリカ大統領選挙の結果を読み違え、
結果が出る前にTPP協定を衆議院で強行通過させた安倍政権は、
TPP撤退を選挙公約に掲げたトランプが次期大統領になったことに慌て、摩訶不思議なことを言い始めた。
保護主義の台頭を抑えるため、日本がTPPに代表される世界の自由貿易を主導し、
トランプ次期大統領を粘り強く説得していくというのである。
まるで日本が自由貿易のリーダーであるかのようで、
アメリカ人が聞いたらびっくり仰天腰を抜かすのではないか。
安倍総理はクリントン大統領誕生を信じ、
オバマ大統領がアメリカ議会でTPP批准を実現する側面援助として、
日本がそれに先んじて今国会でのTPP批准を実現する方法と日程を考えた。
オバマ大統領に最も喜ばれる日程は、大統領選挙前に批准を確実にすることである。
そして喜ばれる方法は、昨年の安保法制と同じように強行採決をやって強い意志をみせることである。
安倍総理の意向は与党内部に深く浸透し、
TPPの審議に関わる与党の人間は「強行採決」の四文字が頭から離れないようになった。
それが仇となり担当大臣まで「強行採決」を口にして審議の停滞を招いたが、
しかし大統領選挙前に強行採決で衆院通過を図ることはできた。
これで今国会の批准は確実である。
ああそれなのに、大統領選挙の結果は「TPP脱退」を選挙公約にしたトランプが勝ってしまったのである。
トランプの勝利で「TPP脱退」は米国民の「民意」となった。
それを外国人が、とりわけ日本人が説得して覆すことなどあり得る話ではない。
やれば足元を見られて逆に徹底的に揺さぶられ、日本の国益を吸い上げられるのが関の山だ。
ところが今国会で批准すると決めてしまい、強行採決までしてしまった安倍総理には引っ込みがつかない。
54万円もするゴルフクラブのお土産を持ってトランプとの「面会」に押しかけた。
その行動をトランプがどう見たかはわからないが、安倍総理はトランプを「信頼に足る指導者」と持ち上げた。
ところが直後にトランプはインターネット動画で「TPP脱退」を明言する。
トランプにしてみれば、ペルーのリマで開かれたTPPの閣僚会合もAPECも、
クリントン元大統領やオバマ大統領が力を入れた会議であり、
しかもそこでトランプの保護貿易主義が問題視されていた。
「なにおっ!」と思ったトランプが次期大統領としての方針を各国の指導者に対して
明確にぶつけてきたということだ。
安倍総理は帰国すると自由貿易を主導してトランプ次期大統領を粘り強く説得していくと言い始めた。
そうでも言わないと今国会が何のための国会かということになり、
アメリカの現政権にすり寄ることしかできない安倍総理の外交能力のなさが
浮かび上がってきてしまうからである。
しかしそれにしても日本が自由貿易を主導するとは驚いた。
世界の自由貿易を主導してきたのは経済でも軍事でも世界最強の国アメリカである。
豊かな大地を持つアメリカはその恵みを輸出し、資本主義のトップランナーになることができた。
自由は強者をさらに強くする。だからアメリカは自由貿易を主導し、
新興国を市場に呼び込むことでそこから利益を得ようとした。
一方の日本は資源に乏しく資本主義に遅れを取った国である。
強者の餌食にならないよう細心の注意を払わなければならない。
常に自分と同等の基準を要求してくるアメリカに対し様々な手段を弄して自国経済を守る必要があった。
戦後の日本に僥倖をもたらしたのは冷戦時代の米ソ対立である。
世界の共産主義化を恐れるアメリカはヨーロッパではドイツ、アジアでは日本を「反共の防波堤」とし、
両国経済を発展させることで共産主義の浸透を防止しようとした。
ドイツと日本は相前後してアメリカに次ぐ世界第二位の経済大国に上り詰める。
しかも日本は平和憲法を盾にアメリカが要求する軍事負担を抑え、
国家ぐるみで賃上げに力を入れて一億総中流社会を創り出し、
気が付けば世界一の金貸し国になっていた。
そのころの日本は様々な手段で輸入を抑え、輸出にだけ励む貿易立国であった。
これがアメリカの怒りを買いアメリカは常に日本の保護貿易主義をやり玉に挙げた。
一方で移民国家であるアメリカは移民の流入によって賃金水準を低く抑えられる国である。
経済競争に勝つためにはコストを低く抑える必要があり低賃金は競争を有利にする。
そして低賃金でも物価を安くすれば労働者の生活は困らない。
そのため新興国から安い製品を輸入する必要がある。
つまり富裕層には先進国が作る高級品を、低賃金層には新興国の安い製品を買わせれば
問題はないと考える。これがアメリカの自由貿易主義の根底にある。
だからアメリカは春闘で賃金を毎年上げる日本の労働慣行を
「馬鹿な奴らだ。賃金を上げれば競争に負ける」と笑っていた。
そして様々な障壁に守られた日本の市場をこじ開けるためアメリカは日本の経済構造そのものを
アメリカと同じ仕組みに変えようとする。
それが80年代から続く「構造協議」や「年次改革要望書」であり、その延長上にTPPがある。
冷戦が終わりグローバリズムの時代が到来すると、
「唯一の超大国」アメリカの考え方が世界を覆うようになった。
低賃金を求めて資本は国境を越え、中国、ベトナム、バングラディシュ、ミャンマーなどを
次々に国際市場に引き込む。おかげで安い製品が世界にあふれ、どの国にも低賃金が蔓延するようになった。
それがデフレを生み、また先進国の中間層は雇用を奪われて没落する。
そして富裕層と貧困層の格差が限りなく広がるようになった。
自由主義は強いものをさらに強くするが、自由貿易が行き過ぎると各国は国内の格差が拡大し、
それが貧困層に資本主義そのものの限界を感じさせる。
そのことが問われたのがアメリカ大統領選挙での「トランプ現象」だとフーテンは思う。
アメリカが世界の覇権を握るために進めたグローバリズムで国民は幸せになったのか。
まるで逆ではないか。その声を代弁したのがトランプであり、サンダースであった。
だからトランプを自由貿易と保護貿易の対立軸でとらえることにフーテンは反対である。
行き過ぎた自由貿易を一時ストップしてグローバリズムの前のアメリカに戻ろうとしているだけだと思うのである。行き過ぎた保護主義も問題だが行き過ぎた自由貿易もまた問題なのだ。
それにしてもさんざん保護貿易で経済を豊かにしてきた日本が、アメリカ型の経済構造に変えられて、
いまや自由貿易のリーダーを自認しているが、そのことで国民が豊かになっているわけでは決してない。
むしろ「デフレからの脱却」を叫ぶ安倍総理が気づくべきは、
行き過ぎた自由貿易がデフレをもたらすという昨今の世界経済の動向なのである。
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