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アメリカが「駐留費全額負担」を求めてきたら、こう言ってやればいい カネを払うだけなんてあってはならない
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50232
2016.11.20 半田 滋 現代ビジネス
選挙期間中、在日米軍の駐留費全額負担を求めると公言したトランプ新大統領。本当に求めてきた場合、日本側の追加負担額は約2600億円となる。払うことができない額ではないだろうが、求められたからといって、ただ払うだけでいいのかという疑問が湧く。
「請求書」を突き付けられた場合、日本はいったいどうすべきなのか。
20年以上にわたり防衛省(防衛庁)取材を担当している半田滋氏が、全額負担となった場合、代わりにアメリカに求めるべきことはなにか、また、アメリカが日本から離れようとしたときに、日本が採るべき行動はなにかを指摘する。
■100%なら1兆217億円
トランプ氏は米大統領選で「日本は米軍の駐留費を全額負担せよ」と繰り返し主張した。たとえ暴論であろうと、来年1月には正式に大統領になるのだから無視するわけにはいかない。
「これまでも相当な金額を負担しているのに何だ」と理不尽ぶりに怒るか、言うとおりに全額を負担するのか、あるいは加重な負担に耐えきれず、日本は自主防衛の道を歩むのだろうか。
まずは日本の負担額についてみてみよう。
米国防総省が公表した「共同防衛に関する同盟国の貢献度報告」(2004年版=これでも最新版)によると、02年度に日本が負担した米軍駐留経費負担額は44億1,134万ドル(5382億円、1ドル=当時の122円で計算)とされ、同盟国27ヵ国中でダントツの1位だ。続くドイツと比べ2.8倍、韓国と比べて5.2倍もの巨費を投じている。負担割合でみると、74.5%で、こちらも堂々のトップだ。
負担額は私有地の借料、従業員の労務費、光熱水料、施設整備費、周辺対策費などの「直接支援」と公有地の借料、各種免税措置などの「間接支援」に分かれ、それぞれ32億2,843万ドル(3,939億円)、11億8,292万ドル(1,443億円)となっている。
日米で計算方式が違うのか、02年度の日本の防衛費でこれらにピタリと当てはまる数字は見当たらないが、当時、在日米軍を担当していた防衛施設庁の予算をみると5,588億円で、米国防総省の示した総額とさほど変わりない。
現在の負担額をみると、16年度の日本の防衛費のうち在日米軍関係経費は施設の借料、従業員の労務費、光熱水料、施設整備費、周辺対策などの駐留関連経費が3,772億円、沖縄の負担軽減を目的とする訓練移転費などのSACO関係経費が28億円、在沖縄海兵隊のグアム移転費、沖縄における再編事業などの米軍再編関係経費が1,766億円で、これらの総額は5,566億円だ。
これに他省庁分(基地交付金など388億円、27年度予算)、提供普通財産借上試算(1,658億円、27年度試算)を合わせると総額7,612億円となる。
これらが日本側の負担割合の74.5%にあたると仮定すれば、100 %の負担は1兆217億円なので、追加すべき負担は2,605億円となる。
■米軍を「日本の傭兵」にする
決して少ない金額ではないが、第二次安倍晋三政権になって以降、過去10年間連続して減り続けた防衛費は増額に転じている。4年続けて増えた中には、1,000億円以上の増額となった年度もある。2,600億円程度の追加負担であれば、日本政府は支払いに応じるのではないだろうか。
その理由は簡単だ。政府は在日米軍を日本防衛に不可欠な抑止力と位置づけ、日本が他国から侵略される事態では在日米軍のみならず、米本国からの来援を前提に日本の安全保障体制を説明してきたからである。抑止力の中には、もちろん米国が差し出す「核の傘」も含まれる。
自衛隊を増強して自主防衛を図ろうにも、年間5兆円の防衛費にとどまる日本が、60兆円近い軍事費をかけている米国と同じ戦力を持つのは不可能に近い。核保有は日本が第二の北朝鮮になるのと同義語だ。これまでの政府見解を撤回しない以上、自主防衛には踏み出せない。
かといって護憲の人々が期待するような軍事によらない平和外交を安倍政権が目指すはずもなく、政府が米軍撤退を認めるという選択肢はまずない。
米軍駐留費をめぐる負担増は日本にとってマイナスだけではない。必要経費の全額負担により、米軍は限りなく「日本の傭兵」に近づくことなる。
もともと米軍駐留の根拠は日米安全保障条約にある。ざっくりいえば、この安保条約により、米軍が対日防衛義務を負う一方で日本は米軍に基地提供する義務を負う。
そして米軍は日本や極東の平和と安全のために駐留しているという建前だが、実際には「フィリピン以北」(政府見解)との極東の範囲をはるかに超え、古くはベトナム戦争へ、近年ではイラク戦争へと東南アジアや中東の戦争に何度も出撃している。
本来なら、日米両政府の事前協議が必要だが、日本政府は「出撃ではなく、移動に過ぎない」と米軍に有利な解釈を示し、事前協議は一度も開かれたことがない。何のことはない、在日米軍は日本を出撃基地として便利に使っているのである。
■尖閣衝突の際の確約を求める
そんな米軍の駐留経費を全額負担するとなれば、米国には日本の要望を聴いてもらわなければならない。
日本側が最初に求めるべきは、尖閣諸島の防衛だろう。東シナ海の尖閣諸島は日本が2012年9月に国有化して以降、中国政府が強く領有権を主張し、海警局などの公船を何度も日本の領海に侵入させている。日本側は中国公船対処の前線基地を沖縄県の石垣島に置き、海上保安庁の巡視船12隻体制を整えつつある。
ところがこの夏 中国はこの体制整備をあざ笑うかのように15隻の公船を一度に、領海を囲む接続水域に投入した。力と力の競い合いが続く限り、不測の事態が置きる可能性は常にある。
安倍政権が安全保障関連法を制定して米国の戦争に自衛隊が参加できるようにした理由は「米国から見捨てられる」という恐怖があったため、とされている。アジア回帰を標榜しながら、実効性がともなわないオバマ政権に対して「しがみつき」にかかったというのである。
安保法の制定に先立ち、日米は「防衛協力のための指針」(ガイドライン)を改定し、米国の戦争に日本が地球規模で協力することを約束した。
改定ガイドラインと安保法によって「米国の便利」を図り、さらに米軍駐留費の全額負担に踏み切るとすれば、その見返りとして、尖閣有事の際にも対日防衛義務を果たすよう確約を求めても理不尽ではない。
次に日本側は「(在日米軍は傭兵化するのだから)勝手に出撃・出動するはやめてほしい」と求めるべきだろう。例えば沖縄の海兵隊はフィリピンの島々へ毎年、遠征して存在感を示し、1991年にクラーク、スービック両基地を撤退した在比米軍の穴を事実上、埋めている。トランプ次期大統領は「米国とは別れました」と公言したドゥテルテ比大統領の心情を推し量り、静かに軍事協力の縁を切らなければならない。
傭兵化する以上、日本人のための米兵となるのは当然である。沖縄の基地にみられるような猛毒のダイオキシン、PCBによる汚染などはもってのほかであり、日本側の裁量による基地への立ち入りを受け入れてもらうのは論を俟たない。早朝、深夜の軍用機の離発着も日本側の許可がない限り、認められない。
■「米日決別」論議が現れる?
日米でこうした議論を続けていくと、米国はやがて気づくだろう。「日本に基地を置き続けて、米国にとっていいことがあるのか」と。
何よりトランプ氏は「米国は世界の警察官ではいられない」と語り、秩序維持への関心を示していない。
ビジネスマンの目でみれば、すぐにわかるはずだ。日本よりも中国を重視したほうが、経済的にはメリットが大きいのではないか、ということに、だ。
15年の中国の統計によると、米国への輸出は中国市場の18%を占めて第1位となっているが、米国からの輸入は8.9%で第4位に過ぎない。米国の統計をみても対中貿易は2,576億jの赤字だ。中国はため込んだドルで米国債を購入しており、世界一の米国債保有国となっている。
経済的に依存し合う米中両国が無人島でもある尖閣諸島の取り合いをめぐり、自国の国益を損なうような挙に出るだろうか。
日本側も「提供された基地が勝手に使えない」「部隊運用の自由が認められない」ことに在日米軍が不満といらだちを募らせていくことに気づくだろう。
となれば、米国から「米日決別すべし」のような議論が出てきてもおかしくはない。日本側も、なぜ米軍駐留が必要かを考えなければならないだろう。
■米軍は、そもそもなぜ日本にいるのか
そもそも米軍はなぜ、日本にいるのか。外務事務次官、駐米大使を歴任し、「ミスター外務省」と呼ばれた村田良平氏が2008年に上梓した『村田良平回想録』の中で、答えが示されている。少し長くなるが、安保条約について述べたくだりを引用してみよう。
「1952年4月発効のいわゆる旧安保条約は、日本を占領している米軍が、敗戦とともに主に占領目的で抑えていた日本国内の諸基地のうちこれはというものを、そのまま保持することを合法化する目的でのみ締結されたものであるといえる。
1960年の現行安保条約は、いくら何でも旧安保の内容はひどすぎるとして改訂を求めた日本側の当然の要求にもとづいた交渉で、米国が最低限の歩み寄りを行った結果である。
この条約もその本質において、米国が日本国の一定の土地と施設を占領時代同様無期限に貸与され、自由に使用できることを骨格としていることは何人も否定できないところである。これらの基地の主目的は、もとより日本の防衛にあったのではなかった。
日米安保条約は、国際情勢は著しく変わったのに、一度も改正されず、締結時からすでに48年も経っている。一体いつまでこの形を続けるのか(中略)
思いやり予算の問題の根源は、日本政府の『安保上米国に依存している』との一方的思い込みにより、その後無方針にずるずると増額してきたことにある。
米国は日本の国土を利用させてもらっており、いわばその片手間に日本の防衛も手伝うというのが安保条約の真の姿である以上、日本が世界最高額の米軍経費を持たねばならない義務など本来ない。もはや『米国が守ってやる』といった米側の発想は日本は受付けるべきではないのだ。」
トランプ政権が誕生する今こそ、村田氏の言葉をかみしめたいと思うのは筆者ばかりではあるまい。気になるのは安倍首相がどう考えているかだ。
首相は14日の参院環太平洋連携協定(TPP)特別委員会で答弁に立ち、「日米とも駐留米軍が果たす役割によって利益を得ていると考えるべきだ」と述べ、「駐留経費も日米間で適切な分担が図られるべきだと考えている」と協議に応じる考えを示唆した。
全額負担とまではいかないが、増額には応じる、ともとれる。仮にそうなら対米追従のシンボルとしての「追い銭」にほかならない。
米国が転換点に立つのに「米国と価値感を共有する日本」(政府見解)が現状追認でいいはずがない。米国の日本への関心が薄れる中、中国との間合いのとり方を含め、日本はあらたな外交、安全保障政策を模索すべきだろう。
例えば、一都八県の上空に広がる米軍の優先空域「横田ラプコン」がどれほどハブ空港化を目指す羽田空港の障害になっているのか、米軍再編により大半の実戦部隊が沖縄から消える海兵隊は抑止力といえるのか、であれば辺野古新基地は不要ではないのか、30もの都道府県にある米軍施設・区域(専用施設は14都道府県)は本当に必要なのか、などなど……。在日米軍のあり方を根本的に見直す好機は今なのだ。
今後、尖閣諸島をめぐる争いに米国の軍事力を期待できないとすれば、安倍政権が「存在しない」とする領土問題の存在を認め、日中交渉によって解決するしかない。米国に頼らない自立した外交戦略を構築するのは今をおいてほかにない。
トランプ・ショックは日本に再出発の機会を与えている。
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