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安倍トランプ会談に大騒ぎ “朝貢外交”実況の末期メディア
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/194263
2016年11月19日 日刊ゲンダイ 文字お越し
安倍首相もメディアも手のひら返したように…(C)ロイター
「米国のトランプ次期大統領と初めて会談するのが安倍首相。世界が注目しています」
18日朝のNHKニュースはアナウンサーのこんな仰々しいセリフで始まった。その後もトランプ・安倍会談をこれでもかと盛り上げ、ニューヨークへ同行した安倍シンパの女性記者が、会談終了前で内容も分からないのに安倍を褒めまくる。
民放テレビも似たような大騒ぎで、トランプタワー前に陣取った各局の記者が、安倍が最上階のトランプの自宅に招かれたことを大袈裟に伝えていた。安倍からトランプへの土産のゴルフクラブが、日本製の「本間ゴルフ」の最高級品(50万円)だということをVTRまで作って流す局もあった。
そして、最も異様だったのは午前8時51分。会談終了後に安倍がぶら下がり会見を行った時だ。テレビ東京以外が一斉に、他の番組を中断して、安倍会見の生中継に切り替えた。ところがその中身の薄いこと。非公式だからと会談内容は語らず、「胸襟を開いて」とか「温かい雰囲気で」とか曖昧な空気感だけ。そのくせ「信頼できる指導者だ」と断言するのだから驚いてしまう。それでも日本のメディアは、会談が“世界で1番目”ということだけで、無批判に安倍をヨイショするばかりなのである。
就任前なのに、わざわざこちらから出向くのも、非公式なのも異例。ちなみに今年9月に安倍が大統領“候補”のヒラリーと会った時は、会談内容がきちんと公表されている。今回、公表しないのは、水面下でTPPや安全保障などについて、「仰せの通りに」と恭順の意を示したからではあるまいかと恐ろしくなるのだが、いみじくも民進党の安住代表代行がこう言っていた。
「当選して1週間後に飛んでいくのは『朝貢外交』でもやっているつもりではないか」
■完全屈服でチクリもなし
ほんの10日前まで、官邸もメディアもヒラリー次期大統領を疑わず、「トランプなんかになったら日米同盟が危うい」「差別主義者にリーダーの資質はない」とバッシングしていたはずだ。それがここまでアッサリ手のひらを返すとは、あまりに無節操。日本はやはり対米追従しか考えていないのかと、あらためて世界が呆れていることだろう。
元外交官の天木直人氏が言う。
「安倍首相が日本を出発する際に『夢を語り合う会談』と言ったのには仰天しましたが、会談後の『信頼できる人』という言葉にはさらにア然です。米国内の半分がいまだ『トランプを大統領と認めない』と抵抗している状況であり、新政権の人事も固まっていない。世界中がトランプ氏の評価を見極めている中で、安倍さんは真っ先にトランプ氏を価値判断してしまった。米国との関係維持を焦るあまり、トランプ氏のいい面を評価することしか頭にないのでしょうが、これは大きな間違いです。世界は異常だと見ていますよ。メディアも酷い。いつものごとく、安倍さんに屈服するのではなく、『もっと慎重であるべき』とチクリとやることもできないのでしょうか。メディアにはこの大統領選が米国の転換期であるという意識が希薄すぎます」
世界は確かに、今回のトランプ・安倍会談に注目していた。それは、狂気のリーダーの外交姿勢を安倍を通して見定めるためだった。17日の英ガーディアン(電子版)も「世界の指導者 安倍・トランプ会談から指針を得ようと注目」という見出しの記事を掲載していたが、そこにこんな記述がある。
〈「女嫌い」のトランプにとって「男らしさ」は大きな意味を持つ。安倍の頑固で保守的なスタイルがトランプに受けるかもしれない。安倍はトランプが敬意を抱いていると思われる強権の指導者たちと仲良くやってきた経歴がある〉
自由や人権を重視する欧州からすれば、トランプと安倍が“似た者同士”というのは、皮肉なのだろう。
米国内も世界も警戒を解いていない(C)AP
日本だけが、飛んで火に入る夏の虫
大統領選勝利後のトランプが、現実主義にシフトしてきたという見方はある。だが、選挙期間中の暴言の数々は消えない。危険な国家主義者であり、女性蔑視論者であり、差別主義者であるという事実もだ。
実際、新設ポストの首席戦略官に、移民を強烈に批判する極右思想の人物を選んだ。政権移行チームが検討しているとされるイスラム系移民の登録制度について、トランプの有力支持者が第2次大戦中の日系人収容所を引き合いに出してもいる。
米国内でのマイノリティーの恐怖は頂点に達し、だから、大統領選の結果が出て1週間以上経つのに、米国内で反トランプデモが収まらないのである。
世界も身構えている。各国指導者が表面上、トランプに儀礼的な祝辞を送る中、独メルケル首相が批判をにじませたのは象徴的だった。
〈ドイツとアメリカを結びつけているのは、民主主義、自由、そして法律と人の尊厳を大事にする価値観だ。次期アメリカ大統領とは、このような価値観に基づいて緊密に連携したい〉
そんな中で安倍だけが、山積する懸念をチャラにして、われ先にとすり寄るのだから、トランプにとっては、飛んで火に入る夏の虫ってところだろう。もう見ちゃいられない。
国際ジャーナリストの春名幹男氏(早大客員教授)がこう言う。
「トランプ氏が世界のリーダーの中で安倍首相と最初に会ったのは、『日本人なら自分のことを悪く言わない』『日本なら抵抗しない』という安心感があるからでしょう。結局、トランプ氏側が狙った通りの会談となった。米メディアは『安倍首相はトランプを信頼するのか!』と驚いたと思いますよ。それを他国のリーダーに言わせたことに意味がある。トランプ氏は国内でどう受け止められるかしか考えていない。安倍さんはその片棒を担いだようなものです」
■マーケットと一緒に祭りに興じるメディア
米国第一主義のトランプは、米国内さえよければ他はどうでもいい、という政策を加速させるだろう。すでに約60兆円のインフラ投資をブチ上げているから、財政出動で米景気が上向くだろうと、金融市場は沸騰中。米国債乱発で金利が上昇し、ドル高・円安がますます進行するだろうと、日本の株式市場もイケイケで、きのうは10カ月ぶりに一時、1万8000円台を回復した。
だが、世界のマネーが米国内に集中すれば、新興国から資金が逃げ出し、経済は一気に悪化だ。新興国の債務のデフォルトは結局、日本にハネ返る。それを見越して「今だけ」の株高に踊る刹那はマーケットの常とはいえ、権力を監視すべきメディアまでもが、同じように“トランプ祭り”に興じ、軽薄で能天気なのだから、救いようがない。
政治評論家の森田実氏がこう言う。
「トランプ氏はトップリーダーに圧倒的に多い『カメレオン型』。選挙で言っていたことを平気で変えるタイプでしょう。安倍首相もクリントン氏が勝つと思い込んでいたのに、トランプ氏が勝利するとコロッと態度を変え、会いに飛んでいった。どちらも軽い政治家です。そんな2人の会談をお祭り騒ぎして持ち上げるメディアも軽すぎる。全てが滑稽でしかありません」
冷静さを失った首相とそれに媚びるだけのメディア――。この国はどこまで世界の笑いものになり、どこまで堕ちていくのだろうか。
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