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「国の借金1000兆円超」をゴリ押しする、財務省の巧みな情報誘導 こんな手口で国民をゴマかしています
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50220
2016.11.16 磯山 友幸 経済ジャーナリスト 現代ビジネス
■これが情報誘導の手口だ
財務省は11月10日、国債と国の借入金、政府短期証券を合計した「国の借金」が、9月末時点で1062兆円と、過去最多になったと発表した。
これを受けて大手メディアは「『国の借金』9月末で1062兆円 国民1人あたり837万円」(日本経済新聞)、「『国の借金』1062兆円 過去最大、1人837万円」(共同通信)などと報じた。
「国の借金」は3ヵ月ごとに発表されており、そのたびに「また借金が増えた」「日本国の財政はこのままでは破綻する」などと危機感が煽られ、あたかも雪だるま式に借金が増えているかのような情報が流されている。
もちろん、日本の財政赤字が問題ないと言うつもりはないし、借金の一方で資産があるので、まだまだ借金を増やしても問題はない、という意見に乗るつもりもない。データを出す財務省も、ただ危機感を煽るだけでなく、正確な分析を示して、どうすれば「国の借金」を増やさずに済ませることができるのか、正直ベースの議論を喚起すべきだ、と感じる。
まずは財務省が常套手段としている「情報誘導」を指摘しておこう。共同通信の記事の後半にはこんなくだりがある。
「経済対策の財源として建設国債などを発行するため、2016年度末には1119兆円台を超えると財務省は見込んでいる」
統計の発表と共に財務省は「補足説明」という資料を配っているが、そこには28年度末(2017年3月末)の見込みとして1119.3兆円という数字が書かれている。9月末の実績が1062.6兆円なので、半年で56兆円余り増加を見込んでいることになる。本当に50兆円以上も半年で増えるのか。
答えを先に言えば、まず、あり得ない。
■ズレはなんと118兆円
2006年度以降、「国の借金」の年間の増加率は5%を超えた例はない。
第二次安倍晋三内閣が発足した2012年末以降でみれば、12年度3.3%増→13年度3.4%増→14年度2.8%増と推移、今年3月末で終わった15年度はマイナス0.4%と、わずかながら減少に転じた。仮に来年の3月末に1119兆円になったとしたら、年率で6.6%増である。これまでの財政運営を変えて、よほどタガを緩めない限り、6.6%増という数字にはならない。
四半期ごとに発表している残高と、それぞれを1年前の残高と比べた増加率をグラフにしてみると、第二次安倍内閣以降、増加率は着実に低下している。今年3月末と6月末はそれぞれ前年同月比で0.4%のマイナスになった。9月末は増加したものの、1年前と比べて0.8%増である。
これを年率で6%を超す増加にするには、よほどの大盤振る舞いによる国債の大増発が必要になる。そんな財政運営を許すようだと、麻生太郎財務相や佐藤慎一財務次官は「無能」ということになってしまう。
実は、毎回、補足説明として公表している「見込み」がまともに当たった例はない。14年度の間は15年3月末の「見込み」を1143兆円としていたが、実際の数字は1053兆円だった。90兆円もズレたのだ。
15年度に入ると、性懲りもなく16年3月末は1167兆円になるという「見込み」を公表し続けたが、結果は1049兆円になった。ズレは何と118兆円である。
まともな見込みが作れずに予算が組めるはずはないのだが、毎年同じ事が繰り返されている。そして今は1119兆円という「見込み」が独り歩きしている。
日本のメディアは過去の実数よりも、将来どうなるのかという「見込み」を記事にしたがるので、財務省が作る過大な数字にすっかり捉われ、「借金が増え続けて大変だ」という記事を書くことになる。
■国の借金、本当はこれが心配
もちろん、それは財務官僚の巧みな誘導にハマっているわけだ。財務省からすれば、借金の増加を止めるためには、何としても消費増税が必要だ、という結論にしたいのだろう。
安倍首相の決断によって消費税率の再引き上げは2019年の10月に延期されたため、「借金で大変だ」というキャンペーンは下火になっている。だが、2019年が近づいてくれば、メディアには再び、「このままでは国債が暴落する」「ハイパーインフレがやってくる」といった類の論調が増えてくるのは明らかだ。
繰り返しになるが、私は財政再建をしなくても大丈夫だ、と言っているわけではない。危機感を煽って増税することでは財政再建につながらないと思っているだけだ。
アベノミクスによる円安効果などで企業収益が大幅に改善し、法人税収などが大きく増えたことが、「国の借金」の増加ピッチを鈍化させたのは間違いない。ところが、2014年4月の消費増税によって、それまで好調にみえた国内消費が一気に冷え込んだのは明らかだ。増税しても消費を冷やしてしまっては税収は増えない。
その後も厚生年金などの社会保険料の引き上げが続き、個人の可処分所得を減らし続けている。そんな中で、消費税を再増税したら大変なことになっていただろう。
だからといって、もろ手を挙げて安倍内閣を評価しているわけではない。特に今年9月の「国の借金」のデータは、きちんと分析する必要がある。というのも、3月末、6月末と前年同月比でマイナスだった残高が、9月になって0.8%の増加に飛び跳ねたのである。
7月の参議院選挙向けとも言われた補正予算などで、財政支出が「バラマキ的」になっているのではないか。きちんと検証するべきだろう。一方で、企業収益の改善ピッチが鈍化したことで、法人税収の伸びも頭打ちになる可能性が強まっている。
また、株価が右肩上がりでなくなったことで、有価証券売却益にかかる所得税なども減っているとみられる。つまり、「国の借金」の増加率が再び拡大する懸念が生じているのだ。
■本気で借金を減らす気があるんですか?
一方で、霞が関が本気で国の借金を減らそうとしているのか、首をかしげたくなることがある。
例えば10月25日に東京証券取引所に上場したJR九州。国が保有してきた株式のうち1億6000万株を1株2600円で売り出し、4160億円を市場から吸い上げたのである。
借金まみれの国が、なけなしの財産を売却したのだから、「国の借金」の返済に当てるのかと思いきや、すべて国土交通省が所管する「鉄道建設・運輸施設整備支援機構」に入るのだという。もともとJR九州や四国、北海道は経営基盤が弱く、上場することなど想定されていなかったから、機構が株式を保有する格好になっていた。
結局、4000億円は旧国鉄社員への年金や恩給、作業災害補償などのほか、JR北海道やJR四国、JR貨物の経営支援に使われるという。つまり、国交省のポケットに入ってしまったわけである。
過大な債務を抱えた企業が当然の手順としてやるのは、保有している資産を洗い直して売却できるものは売却し、それを負債の返済に充てることだ。第二次以降の安倍内閣では、公務員制度改革を棚上げし、行政改革は掛け声すら聞こえないあり様だ。
アベノミクスで税収が増えた分、霞が関のタガが緩んでいるのではないか。そう思えてならない。
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