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これから大きくなるのは地政学リスク 沖縄チャンス サイバー不安定化 減税策 金融冬 TPP 豹変 柔 EU窮地 もしトラ
http://www.asyura2.com/16/senkyo215/msg/706.html
投稿者 軽毛 日時 2016 年 11 月 10 日 01:48:59: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

もしトランプが大統領になったら…

これから大きくなるのは地政学リスク

トランプの米国:中国は尖閣問題で米国の出方を探ってくる
2016年11月10日(木)
田村 賢司
笹川平和財団特任研究員 渡部恒雄氏に聞く


渡部恒雄(わたなべ・つねお)氏
笹川平和財団特任研究員
1963年生まれ。東北大学歯学部卒業後、歯科医師に。その後、米国留学。ニューヨークのニュースクール・フォー・ソーシャルリサーチで政治学修士課程修了。1995年に米・CSIS(戦略国際問題研究所)入所。日本の政党政治や外交政策、米国政治、アジアの安全保障、日米関係を分析。三井物産戦略研究所主任研究員、東京財団上席研究員などを経て現職。
 トランプ氏の経済政策は、本当に実現できるのかと思うようなものが多い。NAFTA(北米自由貿易協定)離脱のような言い方などはその最たるものだ。

 しかし、グローバル化の進展とともに広がる格差の下方に置いて行かれた人たちは、何かを変えてくれると期待した。何をやるかは分からないが、とにかく何か変えてくれるというものだ。そこがヒラリー・クリントン氏にはなかったものだ。

 経済政策の分かりにくさ以上に分からないのが、トランプ氏が外交で何をやってくるかだ。トランプ大統領の誕生で起きる最も大きな変化は、地政学リスクの高まりではないか。

 ロシアや中国と米国との関係は冷え込むだろう。日本など同盟国の現在の防衛力を前提として、これまでの米国の役割を続けるかどうかもよく分からない。

 中国は今年、沖縄県尖閣諸島周辺に公船を大量に出して圧力をかけてきたが、今後はトランプ氏がどのように対応してくるかを見極めようとするはずだ。ただ、トランプ氏という人物は激情型だ。うかつに中国やロシアが刺激をすると、どのような手段に出るか読めない。冷静なインテリ型のバラク・オバマ大統領とはそこが違う。

 地政学リスクは高まるが、その結果、各国がどのように動いていくのか。今は誰にも読めないのではないか。

 日本ではトランプ氏と安倍政権の間に人脈がないと言われるが、何もないわけではない。私には米国議会や政策立案者に多くの知人がいるが、トランプ氏の政策アドバイザーは日本に来て政府関係者と話をしている。悲観ばかりする必要もない。

(聞き手:田村 賢司 )

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/101200023/110900024

米国が選んだ「劇薬」、沖縄のチャンスに

もしトランプが大統領になったら…

トランプの米国:嘉手納基地はボーイングの整備工場にする案も
2016年11月10日(木)
寺岡 篤志

前泊博盛(まえどまり・ひろもり)氏 1960年、沖縄県宮古島市生まれ。明治大学大学院博士前期課程(経済学)修了。1984年に琉球新報に入社し、社会部や政治部の記者として、防衛省、外務省、旧沖縄開発庁の取材に従事。編集委員、論説委員長を経て、2011年から沖縄国際大学経済学部教授。専門は基地経済の研究。沖縄からの基地撤廃を訴えている。
1カ月前の想定の中の話が、本当に現実になってしまいました。どのように受け止めていますか。

前泊博盛氏(以下、前泊):人格・品格を備えて初めて、風格を備えた政治家になる 、というのが私の持論です。トランプ氏は残念ながら品格は皆無だし、人格にも疑いがある。誰もが最後に勝つのはヒラリー氏だ、と思っていたでしょう。それだけ米国が劇薬を求めているということなんでしょうね。

 ヒラリー氏が富裕層への反発の標的になったことがまずかった。フィリピンの大統領選を見ても、ポピュリズムの台頭が起きているのは間違いない。日本は民主党政権で失敗したのでもう懲りているでしょうが。

大統領になっても、米軍駐留経費の負担増を求める方針は変わらないと思いますか。

前泊:ポストが人を育てることはある。それなりの言動をするようになると期待したい。日本の負担金の多さや日米安保の実体を学んでどう変わるか。ただ、トランプ氏が唱えている日米安保の片務性、つまり米国だけが日本の防衛義務を負っているという指摘には理がある。日本へ何らかの応分負担を求めてくるでしょう。

沖縄はどう行動すべきだと思いますか。

前泊:ヒラリー氏が当選していれば、沖縄政策の現状維持は明らかだった。トランプ氏はまだ未知数で、カードを出し切っていない。翁長(雄志)知事もすぐには動き出せないでしょう。

 ただし、変化はチャンスに変えることができる。沖縄が米軍基地問題という長年の宿痾から逃れるチャンスが生まれるかもしれない。おそらく米国の国益委員会は新たな対日本、対中国、対北朝鮮、対アジアの枠組みを考え出すはずだ。昨年開設した県ワシントン事務所を活用して、有効なロビー活動を展開することが重要だ。

どのような具体策がありますか。

前泊:私が従前唱えているのは嘉手納飛行場の経済拠点化だ。例えば沖縄の地理的優位性を生かして、米ボーイングのアジアのネットワークにおける整備拠点にするというのはどうだろうか。

沖縄にトランプ大統領誕生によるリスクはないのでしょうか。

前泊:もちろんある。日米安保の双務性が唱えられるようになれば、沖縄における自衛隊の配備増強が進む可能性だってある。沖縄の軍備強化は、紛争時に第一に狙われるリスクを増やすことに繋がる。

(聞き手:寺岡 篤志)
在沖縄米軍基地の全廃を訴える前泊博盛・沖縄国際大学教授には、特集「もしトランプが大統領になったら…」の中で、米大統領選でトランプ氏が勝利した場合の影響などについて語ってもらっています(トランプの請求に日本は従うことしかできない/2016年10月18日公開)。併せてこちらもお読みください。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/101200023/110900025/


サイバー空間の不安定化に拍車

もしトランプが大統領になったら…

トランプの米国:日本と韓国で始まる「核保有」議論
2016年11月10日(木)
小笠原 啓

土屋 大洋 氏
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授(兼 総合政策学部教授)。専門は国際関係論、情報社会論、公共政策論。1999年3月、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程修了。博士(政策・メディア)。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)主任研究員や情報セキュリティ政策会議有識者構成員、慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所(G-SEC)副所長などを経て、2011年4月より現職。
ドナルド・トランプ氏が米大統領選を制しました。「トランプ氏のサイバーに関する“嗅覚”は非常に鋭い」と分析していましたが、選挙戦にどんな影響があったのでしょうか。

土屋:前回の選挙戦ではバラク・オバマ大統領がツイッターやフェイスブックを駆使して大統領の座に就きました。ところが今回、後継者であるヒラリー・クリントン氏はそのノウハウを踏襲できませんでした。むしろ、インターネットを上手く使いこなしたのはトランプ氏。ツイッターのフォロワー数で、トランプ氏がヒラリー氏を上回っていることが象徴しています。

 今回の選挙戦では、米国のエリート層が考えている世界観と一般大衆が見ている現実の間に、激しいギャップがあることが浮き彫りになりました。(大衆迎合主義を意味する)「ポピュリズム」が、インターネットによって増幅されたのは間違いありません。トランプ氏はネットとポピュリズムの本質を直感的に理解していたのでしょう。

トランプ氏は一方で、「米国には攻撃用サイバー兵器が必要」と選挙期間中に発言し、従来の方針を転換する可能性を示唆しました。

土屋:大統領就任前なので予測は難しいのですが、トランプ氏がサイバー兵器を安直に使う可能性は否定できないと思います。核兵器のボタンを押すよりも手軽だからという理由で、サイバー攻撃を積極化しかねない。

オバマ政権が保った危ういバランス

 オバマ政権は過激派組織「イスラム国(IS)」に対してサイバー攻撃を実施していますが、当初はなかなか踏み込めなかった。イランの核燃料施設をサイバー攻撃する際も、かなり逡巡したと言われています。

 ロシアや中国もサイバー攻撃に手を染めていますが、オバマ政権が「自重」していたことで抑止力が働き、破壊的なサイバー戦争にまで発展しなかった面があります。トランプ政権がサイバー攻撃を積極化させるようなことがあれば、危うい所で保たれていた均衡が崩れることになるでしょう。サイバー空間の状況は今よりも不安定になると思います。

在日米軍や在韓米軍の見直しについても、トランプ氏は繰り返し言及しています。

土屋:日本の保守層の一部は歓迎するかもしれませんね。在日米軍が縮小されるなら、防衛費を増やして自衛隊を拡充する道が開けます。核武装は現実的には難しいでしょうが、日本国内で検討が始まるかもしれません。

 韓国でも自主防衛の議論が高まるでしょう。先週、韓国の複数の専門家と議論したのですが「米軍が撤収するなら、核保有のオプションも考えないといけない」と言っていました。

 ただし米軍の撤収は一筋縄ではいきません。トランプ氏が考えそうなのは、今の部隊配置を変えずに日本と韓国に駐留経費を全額負担させること。そうなると、日本にとっては金銭面の負担が増えるだけ。日本の保守層が望むような展開になるとは限りません。

(聞き手:小笠原 啓)
土屋大洋氏には、特集「もしトランプが大統領になったら…」の中で、米大統領選でトランプ氏が勝利した場合の影響などについて語ってもらっています(オバマから引き継ぐ「サイバー攻撃」能力/2016年10月14日公開)。併せてこちらもお読みください。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/101200023/110900030




議会と手を握れるか、接点は「減税策」

トランプ氏の米国:みずほ総研の安井明彦氏に聞く
2016年11月10日(木)
白壁 達久
「もしトラ」が、現実のものになりました。今回の大統領選挙の結果をどう見ますか。

安井 明彦氏(以下、安井):今回の選挙は「嫌われ者同士の戦い」と言われていました。勝敗を分けたのは「注目」だと個人的に感じます。


安井 明彦(やすい・あきひこ)氏
みずほ総合研究所 調査本部欧米調査部長 1991年東京大学法学部卒業、同年富士総合研究所(当時)に入社、97年在米国日本大使館専門調査員。みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長などを経て、2014年から現職(写真:北山 宏一)
 選挙戦では、序盤からトランプ氏の過激な言動に注目が集まりました。それを見た米国民の中で、「これでは大統領には向かないだろう」という感情が芽生えてきた。つまり、序盤から中盤はトランプ氏への信任投票に近いものがあった。その結果、ヒラリー・クリントン氏の優勢が続いた。

 ところが、選挙前になって、本当にヒラリー氏が大統領になるかもしれないとなった時点で、注目がヒラリー氏に集まるようになった。そして「この人でいいのか?」と有権者が感じ始めた。選挙戦がヒラリー氏の信任投票へと変わったときに、また「メール問題」が勃発。そこで形勢が逆転したのではないでしょうか。

 「最終的に注目が集まった嫌われ者が負ける選挙」だと感じます。

議会も共和党が上下両院を制したが…

トランプ氏の考えや実力が投票に結びついたわけではない。

安井:そうですね。ヒラリー氏の最大のウリは「トランプじゃない」点だった。逆に言うと、それ以上のウリがなかったから負けた。トランプ氏の熱狂的な支持者には、民主党政権8年間で蓄積した不満があります。

 一方、ヒラリー氏は基本的に現状維持の政策を掲げていた。不満を持つ人たちにそれは通じない。政治家としての実績を持つヒラリー氏より、政治家でないトランプ氏を選んだ。ここに、大きな変化への期待が表れている。

前回のインタビューでは、トランプ氏の減税策について聞きました。掲げる減税策を進めるには、議会で通す必要があります。実現性をどう考えますか。

安井:議会は上下両院ともに共和党が制しました。大統領と両院の議会が同じ政党であれば、本来であれば、ねじれがないため法案は通しやすい環境にあります。

 ただ、下院議長のポール・ライアン氏は選挙戦中にトランプ氏を支持しないと発言をするなど、共和党の中でも割れている部分があり、簡単にはいかない可能性がります。

トランプ氏と共和党、歩み寄れるか

米国民に選ばれた大統領である限り、議会共和党も無視はできません。

安井:むしろ、議会の共和党議員の責任が重くなる気がします。何でも反対するわけにはいかないし、一方でトランプ氏が掲げる過激な案を阻止しなければいけない立場ですから。米国をまともな方向に持っていく責任が共和党に重くのしかかってくる。

議会とトランプ氏が協調できる部分はどこにあると考えますか。

安井氏:やはり、減税策ではないでしょうか。掲げる減税の規模は、トランプ氏が10年で約6兆1503億ドル(約640兆円)です。共和党も独自に税制改革案を掲げており、10年で約3兆1009億ドル(約322兆円)です。規模は倍近く違いますが、減税という方向性で見れば、同じです。

 トランプ氏は選挙戦中に、減税額の規模を9兆5170億ドル(約990兆円)から6兆1503億ドルへと下方修正しています。まだ額は大きいですが、議会へ歩み寄った姿勢があります。トランプ大統領誕生後、どちらがどう歩み寄るかは分かりませんが、両者にとってこれが接点になる可能性はあると思います。

トランプ氏は政治手腕が未知数で、政治や経済の見通しが不透明な中で、日本はどのように対応していくべきでしょうか。

安井氏:トランプ氏は規制緩和を進める方針を示しています。ただし、これまでも「まともなトランプ」と「そうでないトランプ」が交互に出てきているので、期待はしづらい。一般の企業経営者は、しばらく様子見が続くでしょう。

 外交は難しいですね。「米国が頼りにならない世界」になる可能性が高い。環太平洋経済連携協定(TPP)も止まるでしょう。だからと言って、「米国が変わるのを待つだけ」では何も良いことはない。トランプ氏率いる米国をどう振り向かせるか。そこが問われる。

 アジアでは政権交代が続き、環境がやや不安定になっている。一方、日本の政権は安定度が高い。存在感を示す機会になるとも考えられます。

(聞き手:白壁 達久)
みずほ総研の安井明彦氏には、特集「もしトランプが大統領になったら…」の中で、米大統領選でトランプ氏が勝利した場合の影響などについて語ってもらっています(トランプ氏の減税策、景気にプラスとならない/2016年11月8日公開)。併せてこちらもお読みください。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/101200023/110900033


金融関係者には「冬の時代」が続く

もしトランプが大統領になったら…

トランプの米国:日本郵政・長門正貢社長に聞く
2016年11月10日(木)
山中 浩之
 「まさか」が現実になった。ドナルド・トランプ氏が第45代米国大統領に就任する。今回の背景について、米国駐在を通して現地の金融界に知己が多い、日本郵政社長・長門正貢氏に聞いた。

長門正貢(ながと・まさつぐ)1948年生まれ。1972年4月日本興業銀行入行、1976年フレッチャー法律外交大学院(国際関係論)修士取得。2001年日本興業銀行常務執行役員を経て2002年にみずほ銀行常務執行役員。2003年みずほコーポレート銀行常務執行役員。2006年6月富士重工業専務執行役員。同社専務、副社長を経て、2011年6月シティバンク銀行副会長。2012年1月同社取締役会長。2015年5月ゆうちょ銀行取締役兼代表執行役社長、2016年4月より現職。
 驚きの結果となりました。10月に世界銀行の総会で渡米されたあと、現地の金融界が大統領選挙をどう見ているかを伺ったのですが(こちら)、現地では「ヒラリーで決まりだろう」という意見が専らだったそうでしたね。

長門正貢社長(以下長門):ええ。僕も「Anything can happen.」と保留をしておいてよかったです。ラリー・サマーズ(元米財務長官)に、トランプが大統領になる可能性はどうか、3回聞いたと言いましたよね。5月は曖昧に「分からない」、9月末の来日の時は「せいぜい3割」、そして世銀総会の最終日のイベントでは「もう、その可能性はほとんどない」と言い切っていました。金融界全体を通しても、そういう雰囲気でした。

 これはつまり、米国のエスタブリッシュメント、金融界のエリートたちが、いかに大勢を見誤っていたのかを示しているのだと思います。ヒラリー・クリントンを初めとする米国の指導者層は、市井の人々が、どれほどグローバリズムに不満を持ち、富の集中、格差の拡大に怒っていたのかを測り損なっていた。「いくらなんでもトランプを大統領にするほどではないだろう」と思っていた。「いくらなんでもEU離脱を選ぶことはないだろう」と思っていた、ブレグジットとまったく同じ構図ですよね。

“予想外”だった3つのポイント

 うちの「もしトラ」担当デスクが「世論調査も、株価の動きも、ブレグジットと同じなんだよね。まさかとは思うけど…」と昨日(8日)に言っていたら、その通りになってしまいました。どちらにも、本当の世情は反映されていなかったんですね。

長門:選挙を見ていて予想外だったことが3つあります。ひとつはヒラリーの不人気振り。人気が無いとは聞いていましたがこれほどとは、日本にいるとなかなか分かりません。ビル・クリントン大統領のファーストレディとして登場したころから、オバマ政権の国務長官として今に至るまで、長く政治の世界で活躍したので、飽きられていたのでしょう。ブッシュファミリーも、一番出来がいいと言われたジェブ・ブッシュが早々に脱落したのは「もうブッシュはいい」という気分があったと思います。長期にわたって政権に関わったことに加え、振る舞いがアグレッシブだったので、何かと不満が多い現体制の象徴としても見られたでしょうね。

 もうひとつは、女性、マイノリティーへの暴言が、思っていたほどの悪影響を選挙に与えなかったように思えることです。ヒラリーが攻め口として大いに論難しましたが、たいしたダメージにならなかったようで、これは彼女の作戦ミスでしょう。理由の分析はほかの方にお任せしますが、ひとつには、選挙民にとっては「きれいごと」よりも、現状への怒りの方が勝ったということかもしれません。

 3つめは、これはまったくの主観ですけれど、土壇場に来て「ビジネスパーソンとしてのトランプ」への期待が効いたように見えることです。これは「政治のプロ」への失望感と裏腹ということですがね。

 トランプの事業家としての才能には、いろいろ疑問が付いていることは確かです。が、とにもかくにも彼は生き延びてきた。それだけの実績はあると認めて、政治の世界に染まった玄人よりも、我々にも分かる数字の世界で勝負してきたビジネスの人間にやらせてみたい、という気持ちが、逆転勝利の一押しになったのではないでしょうか。

 じゃ、もしかしたらさらに著名な経営者が立候補していたら。

長門:そうですね。金融関係者でなければあっさり勝っていたかもしれませんね。

 日米関係はどうなるのでしょう。先のお話では「トランプが大統領になったくらいで揺らぐほど、米国の政治システムは柔ではない」「米国の国力低下で、大統領ひとりの交代が世界経済を揺るがすことはできなくなっている」ということでしたが。

まずは実務者同士のコネクション構築を

長門:現実になったことには驚きましたが、その意見は変わっていません。すこし補完しますと、「国力が低下したんだから、世界のことより米国自身のことをもっと考えよう」というのがトランプの方針、といいますか、ヒラリーが勝ってもそうなったはずです。世界や日本に対する、米国の寛容さが薄れます。これは、この勝利を生み出した米国民の声ですから、誰が大統領になろうが従わざるを得ません。

 日本にとっては米国が寛容な方がありがたいわけで、対米関係は厳しいものになるのは間違いない。とはいえ、米国の政治スタッフたちは力量もあるプロですから、いきなり彼の暴論、暴挙が現実になることはありえません。

 となると、これから重要なのは、共和党政権下で実務を担うキーパーソンと、いかに信頼関係を紡ぐかということになります。民主党政権の8年間で、日本と共和党関係者の働き盛りの世代との縁が切れている可能性が高い。早急に、本音で話せるコネクションを実務者同士で作り上げねばならないでしょう。

 とにもかくにも「エリート」と「それ以外」の間に大きな溝が広がっていることが、ブレグジットに続いて、またも世界に示された選挙になりました。前回のお話にも出ましたが、エリートの象徴と目される米国の金融関係者、企業にとっては、厳しい冬が続くことになりそうです。

(文中敬称略)

(聞き手:山中 浩之)
日本郵政の長門正貢社長は、連載コラム「読書の時間はありません」の中でトランプ氏の話題を、「“トランプの家”でも米の政治スタッフが支える/2016年10月19日公開)」にて参考図書と合わせて取り上げています。特集「もしトランプが大統領になったら…」と、併せてお読みください。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/101200023/110900020/



サントリー新浪社長「日米経済の現実直視して」

トランプの米国:新政権への要望
2016年11月10日(木)
藤村 広平

 ビームサントリー社を有するサントリーホールディングス(HD)をはじめ、多くの日本企業にとって米国は最大の投資対象国です。日米両国の関係は政治・経済の両面において、お互いにとって最も重要な関係であるということは動かしがたい事実。新政権になっても、この事実に基づいて、両国間の戦略的かつ互恵的なパートナーシップを政府と民間がともに深化させていくことが重要です。

 新政権には「内向きな米国」となることなく、アジア太平洋の安定と繁栄を日本と共に積極的にリードしてもらいたい。とりわけ通商政策については、切っても切れない関係にある日米経済の現実を直視したうえで、お互いウィン・ウィンとなる貿易投資関係を構築していただくように期待したい。

(まとめ:藤村 広平)
サントリーホールディングスの新浪剛史社長には、特集「もしトランプが大統領になったら…」の中で、米大統領選でトランプ氏が勝利した場合の影響などについて語ってもらっています(サントリー新浪社長が語る「トランプとTPP」/2016年10月17日公開)。併せてこちらもお読みください。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/101200023/110900023


もしトランプが大統領になったら…

TPPの成否で船舶需要に影響も

トランプの米国:ジャパンマリンユナイテッドの三島愼次郎社長に聞く
2016年11月10日(木)
寺井 伸太郎

 トランプ氏の大統領就任は日本の造船産業や防衛産業にどのような影響を与える可能性があるのか。造船大手、ジャパンマリンユナイテッドの三島愼次郎社長に聞いた。(聞き手は寺井伸太郎)

日経ビジネスオンラインは「もしトランプが大統領になったら…」を特集しています。
本記事以外の特集記事もぜひお読みください。

ジャパンマリンユナイテッドの三島愼次郎社長(撮影:大槻純一)
トランプ氏が当選したことでどのような影響がありそうか。

三島:選挙戦でトランプ氏は過激な内容の発言をしてきたが、就任後の具体的な政策はまだ読めない。優秀なスタッフが周囲を固めるのだろう。軌道に乗ってみないとわからない面はある。

 まず気になるのは為替への影響だ。これまでトランプ氏は保護主義的な政策を掲げており、トランプ氏イコール円高のイメージが強い。早速、相場は円高に振れている。急激な変動は造船をはじめドル建て取引が多い産業にとっては厳しい。

造船業界にどのような影響がありそうか。

三島:まずは環太平洋経済連携協定(TPP)が考えられる。TPPによって貿易が活発化し、海上荷動きが拡大すれば船舶需要も当然伸びる。トランプ政権によってTPPがどのように推移するか注視していく。

トランプ氏は日本に対し、在日米軍の駐留費負担増や自主防衛強化を求める考えを表明している。イージス艦など海上自衛隊向けに多くの艦船を建造するジャパンマリンユナイテッドにとっては追い風となるのか。

三島:駐留費負担増の問題と海上防衛や防衛予算の件は別問題と考えている。艦船の発注については、東アジアにおける不安定要因などを踏まえ、海上防衛力を強化した方が良いかどうかを日本政府が判断するだろう。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/101200023/110900026/


 
石破氏:「トランプ大統領」は豹変する

もしトランプが大統領になったら…

トランプの米国:自民党も民進党もパイプ作りはこれから
2016年11月10日(木)
坂田 亮太郎

 「まさか」が再び世界を襲った。英国の欧州連合(EU)離脱=Brexit(ブレグジット)に続き、超大国の米国で次期大統領に共和党候補のドナルド・トランプ氏が選ばれた。事前の予想では、民主党候補のヒラリー・クリントン氏が優勢と伝えられてきただけに、世界に与える衝撃は計り知れない。

 日経ビジネスオンラインでは「もしトランプが大統領になったら(もしトラ)」という仮定の下、10月中旬から識者のインタビュー記事を掲載してきた。まじでトランプが大統領に決まった今(まじトラ)、改めて識者に今後の行方を聞いた。

 トランプ氏は選挙期間中、日米安全保障条約の見直しにも言及した。そこで元防衛大臣の石破茂衆院議員に、今後の日米関係などを尋ねた。世界最大の経済・軍事大国である米国の大統領は、同盟国である日本の経済や安全保障に多大な影響を与えるのは間違いない。
事前の予想を裏切って、トランプ氏が勝ちました。まず、どんな感想を抱きましたか?

石破:やはり、選挙というものは何でも起きると言うことです。米国でも日本でも、古今東西を問わず、選挙はやってみるまで分からない。それを世界中の人々が今、噛み締めているでしょう。


石破茂(いしば・しげる)氏
1957年生まれ、59歳。鳥取県八頭(やず)郡八頭町郡家(こおげ)出身。79年、慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、三井銀行(現三井住友銀行)入行。86年、旧鳥取県全県区より全国最年少議員として衆議院議員初当選、以来10期連続当選。農林水産政務次官(宮澤内閣)、農林水産総括政務次官・防衛庁副長官(森内閣)、防衛庁長官(小泉内閣)を経て、2007年に福田内閣で防衛大臣。国会では、規制緩和特別委員長、運輸常任委員長、自民党では過疎対策特別委員長、安全保障調査会長、高齢者特別委員長、総合農政調査会長代行等を歴任。その後も2008年に農林水産大臣、2009年に自由民主党政務調査会長、2012年に同幹事長、2014年に国務大臣 地方創生・国家戦略特別区域担当(2016年8月に退任)。趣味は、料理(カレーには自信あり)、読書(特に漱石、鴎外、井上靖、五木寛之、福井晴敏)、遠泳。好きな食べ物はカレーとコロッケ(写真:菊池 くらげ、以下同)
石破:なにしろ、開票が始まるまでほとんどのメディアが、「ヒラリー勝利」と報じていましたよね。開票が進むにつれて、状況が徐々に変わり、トランプ氏が勝った。こんな結果を予測していた人はいなかったはずです。

トランプ氏が大統領になることが決まった今、改めて日米関係の今後についてお伺いします。日本国内では、防衛費の負担増などにつながると懸念する声が大きいです。

石破:トランプ氏に対する人物評を修正していく必要があると思います。参考になるのが、早い段階からトランプ支持を打ち出していたルドルフ・ジュリアーニ氏(元ニューヨーク市長)の話です。今年4月に読売新聞の取材を受けた際、日本だけでなく米国も日米安全保障条約の恩恵に浴しているということを、トランプ氏は急速に理解してきているという話をしていました。

 これが実態なのです。トランプ氏も最初はよく分からなかったので、過激なことを言っていたかもしれない。しかし、選挙戦を通じて様々な人と意見交換をする。スタッフの数も増えて、入ってくる情報の量も質も変わってくる。これからは次期大統領として、更に多くの情報に接することになるでしょう。そうすれば自ずと、日米同盟の重要性が分かるはずです。

石破:同じような話は10月に来日したマイケル・フリン氏も言っていました。フリン氏はDIA(米国防情報局)の元長官で、トランプ氏の側近として軍事顧問を務めています。フリン氏と私は3時間近く、じっくりと意見交換をしました。

 フリン氏の言を借りれば「心配するな」ということでした。トランプ氏は選挙中なので過激なことをいろいろと言っているが、同盟国との様々な事情もよく分かっている。大統領になるとなれば周りに優秀なスタッフも集まってくるので、彼らが立案する政策も含めて、「トランプ大統領」の評価を下すべきでしょう。

「お前ら、インテリの言うとおりにはならない」

石破:だからと言って、日米関係がこのままでいいと言うことにはなりません。それはトランプ氏の価値観とも合致しないでしょう。同盟関係をより強固にしていくために双方が何をすべきか。日本も相当な努力をしなければなりません。前回も申し上げましたが、カネを払って日本の国土を米軍に守ってもらうという発想は、米軍を傭兵のように扱うと言うことです。これは米国の軍人を、侮辱していることです。

 日本はこれまで安全保障に関して、「損するか」か「得するか」だけを考えてきたきらいがあります。確かに日本は、米国の他の同盟国よりも駐留米軍の費用を多く負担してきました。「ホストネーションサポート(受け入れ国支援)」といわれるものです。

 ドナルド・トランプ氏が次の大統領になることが決まったのですから、日本側も国防について真剣に考えていかなければなりません。

日本の政界で、トランプ氏と関係が深い人がいるのでしょうか。

石破:さあ、聞いたことがありませんね。自民党も民進党も、これからパイプを築いていかなければなりません。

世界経済に及ぼす影響についてお伺いします。トランプ大統領が誕生することを受けて、日経平均株価は本日(11月9日)、1000円近く下落しました。為替相場も対ドルに対して円が一時、3円近くも高くなりました。

石破:これから一本調子で円高が進んでいくなんてことは、まず起きないでしょう。まずはトランプ氏がこれからどんなメッセージを発するか。閣僚などにどのような人材を起用するのか。こうしたことを注視していくことが重要です。

 今回の選挙戦を通じて改めて感じたのは、アメリカという国の社会の変質です。米国の有権者は、インテリとか、ウォール街とか、メディアとか、権力者側にいる人の話を信用しなくなってきた。「もうお前ら、インテリの言うとおりにはならない」ということを行動で示した結果が、トランプ勝利につながったのです。

 思えばこの数年で、経営者と労働者の格差が開き過ぎました。金融緩和を進めて労働者の賃金は増えたんでしょうか。あらゆる政策がウォール街の一部の金持ちのために進められてきたのではないか。メディアだってその流れに加担してきたんじゃないか。そうした疑念が渦巻き、大きな流れとなったのです。

これまでとは全く異なる大統領が率いる米国と付き合っていく

日本ではTPP(環太平洋経済連携協定)の国会審議が進められていますが、トランプ氏はTPPに明確に反対しています。TPPの成立は、風前のともしびではないでしょうか?

石破:これだって、何が起きるか分かりませんよ。

 選挙期間中に言ってきたことと、大統領になってから実際にやることは大きく変わるなんて、よくあります。例えばロナルド・レーガンは大統領選挙のときに、中国に対抗して台湾と国交を回復すると言いました。ジミー・カーターだって、選挙中には韓国から米軍を引き揚げると言っていました。しかし実際彼らが大統領になってからは、一切そんなことはしていないわけです。

前回のインタビューで、トランプは「トランプ」という存在を演じているだけだと仰っていました。今後トランプ氏は、豹変するのでしょうか。

石破:(9日未明に支持者の前で勝利宣言した)今日の演説を聞いて、「トランプって結構まともな人だ」と感じた人もいたんじゃないでしょうか。日本では、ワイドショーだけではなくニュース番組でも、過激な発言をした部分だけが繰り返し流れますが、そんな単純な話ではありません。

 とにかく今言えることは、これまでとは全く異なる大統領が率いる米国と日本は付き合っていくということです。右往左往するのではなく、日本国として何をなすべきか。安全保障政策も経済政策も、今まで以上によく考えて臨まなければなりません。

(聞き手:坂田 亮太郎)
石破茂衆院議員には、特集「もしトランプが大統領になったら…」の中で、米大統領選でトランプ氏が勝利した場合の影響などについて語ってもらっています(石破氏:トランプは「トランプ」を演じている/2016年10月14日公開)。併せてこちらもお読みください。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/101200023/110900031


 

トランプ氏、真の姿は柔軟なビジネスマン

もしトランプが大統領になったら…

トランプの米国:思想界の気鋭、萱野稔人氏が斬る大統領選
2016年11月10日(木)
日野 なおみ
トランプ氏が大統領選で勝ちました。


萱野稔人(かやの・としひと)
津田塾大学教授。哲学者。1970年生まれ。早稲田大学卒業後、渡仏。2003年、パリ第10大学にて哲学の博士課程を修了。2007年から津田塾大学准教授、2013年から現職。衆議院選挙制度に関する調査会委員などを歴任(写真:朝日新聞社)
萱野稔人氏(以下、萱野):個人的には、この結果にあまり驚いていません。起こり得るだろうと思っていたことが実際に起こった、という感覚です。

いつ頃からトランプ氏は優勢だったのでしょう。

萱野:テレビ討論の頃には決着が付いていたのではないかと思っています。大統領選の直前、FBIはクリントン候補に対して、メール問題の再捜査に踏み切りました。それ自体は今回の選挙結果に、大きな影響を与えなかったはずです。

 日本国内では、トランプ氏を支持するのは貧困層の白人男性だと報じられていました。けれど実際に属性別の世論調査を見ると、もともと白人女性などは、クリントン氏よりもトランプ氏の方を支持していた。

 高所得者ほど共和党候補のトランプ氏を支持し、低所得者が民主党候補のクリントン氏を支持していた。伝統的な共和党支持者がそのまま共和党候補であるトランプ氏を支持し、そこに、日本で報じられたような低所得の白人男性が加わって、トランプ氏の票が伸びたと見ています。

トランプ氏は柔軟なリアリスト

トランプ氏は米国大統領にふさわしいのでしょうか。

萱野:トランプ氏は、好意的に言うならば、共和党の中では比較的リベラルな考え方の人物だと思っています。

 例えば2012年、カナダのミス・ユニバースの選考に、性転換者が出場したことがありました。彼女は最終予選まで残ったけれど、性転換手術を受けていたことが発覚し、失格になりました。性転換者を失格にしたことで、ミス・ユニバース機構は、世界中から非難を浴びました。けれど、ミス・ユニバース機構の共同代表だったトランプ氏は、そうした世論を受けて、すぐに彼女の失格を取り消し、性転換者の出場を認めた。つまり共和党の中で、トランプ氏は性転換者などを含めたLGBT層に理解があるリベラルな存在です。

 また選挙戦の途中まで、トランプ氏は日本の核武装を容認するような発言をしていましたが、これも途中から言わなくなりました。報道を見ていると、日本の政府関係者がトランプ氏に接触し始めてから、こうした発言がなくなったようです。

 さらにトランプ氏は副大統領候補にインディアナ州知事のペンス氏を選びました。ペンス氏はキリスト教保守派の右派であり、リベラルなトランプ氏とは本来、宗教的には相容れない。それでもトランプ氏は、共和党の支持を取り付けるために、あえて思想の異なるペンス氏を副大統領候補とした。

 これらの事実を見ても、トランプ氏が極めて柔軟な人物だということが分かります。経済界で成功した人が持つある種の環境適応能力を、トランプ氏も持っているということなのでしょう。移民問題にしても、アメリカ国民が移民に対して問題意識を持っていると感じたからこそ、トランプ氏はそこを突いた。人々が何を求めているのか敏感に察知して、移民問題を取り上げたり、同盟国に安全保障費を負担させろと訴えたりしてきたわけです。目的のために合理的な判断を下すのがトランプ氏の姿だと、私は思います。

過激な発言の真意

 実際、トランプと直接面識がある人は、彼を「とても紳士的な人物」と言っています。人の話をしっかりと聞く、とも。人の話をじっくりと聞いて、相手の求めるものを理解した上で、さらに高等な交渉をする。トランプ氏は賢いビジネスパーソンなんです。

 そう考えると、実は選挙期間中の過激な発言の「真の目的」も理解できるはずです。無名の一事業家が大統領になるためにはどうするべきか。ホワイトハウスまで駆け上がるには、目立つエキセントリックな発言を繰り返して注目を浴びる必要があった。問題発言で知名度を高め、国民の共感を集めることが、大統領になるための合理的な戦略だと考えたのではないでしょうか。だとすると、それもトランプ氏の環境適応能力の高さを示しています。

 そして、目的としていた大統領に就くことになった。今後は彼が掲げる目標も変わるでしょうから、トランプ氏の発言や行動にも変化が出るはずです。つまりトランプ氏のこれまでの問題発言を真に受けて、そんなに大騒ぎをする必要がないと、私は考えています。日本は今後、トランプ氏に対して、話せば十分、分かる相手だと思って交渉を進めるべきでしょう。トランプ氏は、目的にふさわしいという点で合意さえできれば、いくらでも柔軟に政策を変えるでしょうから。

 今回の大統領選では、多くのメディアがトランプ氏の過激な発言にばかり目を奪われ、「トランプなんか大統領になるべきではない」と考えました。そして、その意識がいつの間にか、「トランプなんか大統領になれるはずがない」という先入観とすり替わり、社会を見る目や、トランプ氏を見る目を曇らせてしまった。現実を直視せず、見たいものしか見ていなかったし、見たいようにしか見ていなかった。

曇った眼

 世論調査などでも、クリントン候補が優勢となっていました。一部では隠れトランプ支持者が「自分はクリントン支持だ」とウソをついたため、世論調査と投票結果にギャップが出たとも言われています。こうした隠れトランプ支持層が存在することを、メディアは見抜くべきだったのではないでしょうか。

 実際、米ハーバード大学にも共和党支持者は一定数いて、細々と活動をしています。“ポリティカルコレクトネス”が吹き荒れる中で共和党支持者だと分かると批判を受けてしまう。そのため細々と活動をするから、共和党支持者の動きは表に出てきづらくなっている。けれどこうした動きも、メディアは冷静に分析しなくてはならなかったはずです。今回の選挙戦の報道では、反省すべき点がいくつもあると感じました。

トランプ候補が大統領になることで、世界秩序はどのように変わるのでしょう。

萱野:前回の記事(「トランプ氏は、未来の予言者」)でも、トランプ氏は、米国が今後、世界の警察官をおりるべきだと考えていることについて説明しました。クリントン氏よりもトランプ氏の方が内向きの政策に転じる可能性は高い、と。

 ただ繰り返しますが、米国が世界の警察官をおりるという考え方そのものは、現在のオバマ大統領の方向性とさほど変わりません。日本との関係についても、政策の一貫性が毀損されることは実現しづらいでしょうから、この先突然、日米関係が180度変わることもあり得ない。政策的な一貫性は当面維持されますから、日本がそんなに大騒ぎする必要はありません。

 トランプ氏の武器は素早い環境適応能力です。与えられた環境の中で最大限の成果を出すにはどうすべきかを考える実務家肌の人物なので、選挙中に主張していたことでも、それが実現不可能だと分かると、柔軟に主張を変えるはずです。外交についても前提条件を認識するようになれば、突拍子もないことは主張しなくなるはずです。

 ただし、長期的な観点では、この先米国が内向きになることは避けられません。アメリカは今後、世界の警察官を担える国でなくなっていきます。クリントン候補が大統領になれば、それが多少は遅れたでしょうが、トランプ氏が大統領に就けば、それが少し早まっていく。

 世界秩序の中で、アメリカは少しずつその力を低下させていき、力に見合っただけの役割しか担えなくなるわけです。その穴埋めをするために、日本がどうすべきなのかは、我々が考えなくてはなりません。東アジアの秩序維持についても、日本が新しい役割を担わないといけなくなるでしょう。

 アメリカの力の低下を、素直な形で示したのがトランプ氏の存在です。日本は今後、アメリカの力を過大評価せず、今の条件の中でどのように秩序を維持すべきか考えなくてはなりません。

(聞き手 日野なおみ)

津田塾大学の萱野稔人教授には、特集「もしトランプが大統領になったら…」の中で、米大統領選でトランプ氏が勝利した場合の影響などについて語ってもらっています(「トランプ氏は、「未来の予言者」」/2016年10月19日公開)。併せてこちらもお読みください。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/101200023/


「トランプ大統領」、Brexitに意外な追い風

もしトランプが大統領になったら…

英国とEU、離脱交渉で形勢逆転も
2016年11月10日(木)
蛯谷 敏

今年6月、改装オープンしたゴルフ場を視察するために英国を訪れたトランプ氏(写真:ロイター/アフロ)
 Brexitの悪夢の再来か――。

 英国で米大統領選の大勢が判明したのは、現地時間11月9日の午前4時頃だった。奇しくも約5カ月前、英国がEU(欧州連合)離脱=Brexit(ブレグジット)を決めた国民投票の結果が判明したのと同じ時間帯。事前の世論調査の予測から、報道のされ方、そしてブックメーカー(賭け屋)の倍率まで、ドナルド・トランプ氏の大統領当確に至るプロセスは、英国がEU離脱を決めた時とそっくりだった。

 9日午前のロンドン株式市場は、FTSE100種総合株価指数が取引開始直後に一時、2%超下落する場面もあったが、売りが一巡した後は大きな動きもなく、安定して推移している。リスク回避から金価格が急騰する動きなどもあったが、Brexitの時のようなパニック状態には陥っていない。あるロンドンの金融関係者は「今後、トランプ氏の経済政策の具体像が明らかになるまでは不透明な状況が続く可能性が高い」と言うが、その態度は落ち着いていた。金融に限らず、企業関係者も比較的冷静だ。

 その理由はもちろん、英国自体が、つい5カ月前に似たような状況を経験したからに他ならない。投票の目的こそ違うが、その流れや構図、そして世界の反応は酷似している。「5カ月前からの教訓は、過度な悲観をしても仕方がないということ」と野村インターナショナルのジョーダン・ロチェスター・FXストラテジストは言う。Brexit直後、多くのエコノミストや国際機関が英国経済に悲観的な見通しを示したが、結果的に経済は今も堅調な状態が続いている。

 むしろ、「トランプ大統領」の誕生は、EUからの離脱を進める英国にとって、思わぬ追い風となる可能性もある。

Brexitを支持したトランプ氏

 「貿易交渉の順番は、最後列に並ぶことになる」

 国民投票前の4月、訪英したオバマ大統領はこう警告し、英国がEU離脱を思いとどまるように警告している。

 一方で、トランプ氏は当時から英EU離脱支持を表明し、「離脱した際には、真っ先に貿易交渉を始めたい」と語っていた。国民投票が実施された6月23日の前日、保有するゴルフ場視察のために訪英したほか、8月にはEU離脱派の急先鋒だったナイジェル・ファラージ英国国民党(UKIP)党首を自身の演説会に招いた。少なくともEU離脱を決めた現在の英国に対する姿勢は、オバマ大統領よりもトランプ氏の方が好意的だと言える。

 現状、英国はEUとの離脱交渉を巡って駆け引きを続けている。当初、EUへの正式な離脱通告は2017年3月までに実施する予定だったが、11月3日にロンドンの高等法院が「離脱通告には議会の承認が必要」との判決を下したことから、通告時期が遅れる可能性が出てきた。

 このため、「EUよりも先に米国と貿易交渉を開始する可能性も出てきた」(野村インターナショナルのケビン・ゲイナー・マネジング・ダイレクター)との見方も出ている。

 トランプ氏が志向する保護主義政策の多くは、EU離脱を決めた後の英国政府の方針に似ている。緊縮財政から財政出動へと舵を切り、減税政策を通じて自国の雇用を増やす。移民を制限して、自国民の誇りを取り戻す。英国の方向に米国が続くという見方もできる。

 英米の方針はいわゆる反グローバル化の動きだが、トランプ氏が大統領に当選したことで、世界経済のトレンドが決定的に変わったことを世界が認識した。「Brexitはその変化を先取りした動きだったと評価が見直される可能性がある」と、大和総研の菅野泰夫シニアエコノミストは言う。

EUが窮地に立たされる可能性も

 逆に、窮地に立たされることになりそうなのが、EUだ。英国、米国と反グローバリズムの動きが続いたことで、その流れが再び欧州に広がっていくおそれが出てきた。

 フランスの極右政党である国民戦線のマリーヌ・ル・ペン党首はすぐにツイッターでトランプ大統領当確を祝っている。反EUを掲げる欧州の極右政党にとっても、トランプ氏の大統領就任は追い風となる可能性がある。

 Brexitの後も、EUは結束を試される国民投票や選挙が続く。今年12月3日には、イタリアで憲法改正を巡る国民投票が実施される予定だ。否決されれば、レンツィ伊首相は辞任する構えを見せており、反EU政党の勢力拡大につながる恐れがある。

 来年3月には、オランダで下院選挙、4月にはフランスで大統領選、9?10月にはドイツ連邦議会選挙が続く。反グローバル、反EUの機運が高まれば、EU側が追い込まれるおそれは十分にある。英国との離脱交渉も、これまではどちらかといえば、EU側が有利に進めていたが、今後は形成が逆転する可能性もある。

 「今までも、これからも、英国と米国は貿易、安全保障、防衛面で強く緊密なパートナーであり続ける」。テリーザ・メイ英首相は、早速トランプ氏の勝利を讃える談話を発表した。トランプ氏の正式な大統領就任まで数カ月。状況は未だ流動的だが、英国に取って追い風となるのは間違いなさそうだ。

このコラムについて

もしトランプが大統領になったら…
米大統領選の投票日、11月8日まで、レースは秒読みの段階に入った。
共和党の候補、ドナルド・トランプ氏には女性蔑視発言という新たな“逆風”が加わった。
共和党の重鎮たちの間で、同氏を見切る発言が相次いでいる。
だが、トランプ氏はこれまで、いくつもの“試練”を乗り切ってきた。
米兵遺族を中傷する発言をした時にも、「タブーを破った」として評価を下げたが、いつの間にか、民主党のヒラリー・クリントン候補の背中が見える位置に戻ってきた。
クリントン氏が再び体調を崩すことがあれば、支持率が逆転する可能性も否定できない。
「もしトランプが大統領になったら…」。
この仮定は開票が済む、その瞬間まで生き続けそうだ。
日経ビジネスの編集部では、「もしトランプが大統領になったら…」いったい何が起こるのか。
企業の経営者や専門家の方に意見を聞いた。
楽観論あり。悲観論あり。
「トランプ氏の就任が米国の『今』を変える」との意見も。
百家争鳴の議論をお楽しみください。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/101200023/110900035/  

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コメント
 
1. 2016年11月10日 05:21:59 : PiRlkkMkRo : 1mTuB86zs6k[68]
尖閣とかをめぐっての中国とのバトルが現実味を増しましたね。
艦船撃沈、戦闘機撃沈、海上自衛隊員何百人死亡とか普通にありそうじゃないですか?
境界地争いですので、ある程度、限定バトルになるでしょうけど、
物量で圧倒出来る相手ですので、一・二度、攻撃されたので、反撃撃墜しましたでは、済まないでしょう。問題抱えてものかもしれませんけど大量の最新鋭戦闘機を繰り出してくるのでしょうし、一世代前のF16なんかじゃ太刀打ちできんでしょう。
両国の経済リスクは甚大で、トランプアメリカは対岸の火事で、戦闘機、ミサイルが爆売れで笑いが止まらんでしょう。
そのように踏み込みがあると想定しておかないとならないですね。


2. 2016年11月10日 13:08:18 : 9QewkUGcqk : 4QXc8C8kgnU[156]
俺の食えないものなら砂でもぶっ込んでやる。
当たり前だろ。
自分には縁のない1%のすするうまい汁には下痢便を流し込んでやる。

それを防ぐために皆に利益を還元しなければならないのだ。
99%から毟り取って1%の金庫に収納する格差政策はいつまでも続かない。
もし民主主義が機能するならば、必ず99%は反撃に出る。

尖閣などどうでもいいんだよ。
一文の価値もない。
あるならさっさとカネに変えたら?


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