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フィリピンのドゥテルテ大統領
外国の軍隊がいる国はおかしいというドゥテルテの正論ー(田中良紹氏)
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30th Oct 2016 市村 悦延 · @hellotomhanks
先週から今週にかけ最も注目を集めた政治家はフィリッピンのドゥテルテ大統領ではないだろうか。
当初の注目点はダーティ・ハリー張りの「犯罪者を皆殺しにする」との「暴言」だったが、
先週の中国と今週の日本訪問によって世界の覇者アメリカと
それを追い越そうとする中国を天秤にかける外交術を見せつけたからである。
フィリッピンと中国は南シナ海の領有権を巡って対立している。
特に2013年から中国が浅瀬の埋め立てを行い、
軍事施設と思われる建造物を作り始めたことからアメリカが問題視した。
アキノ前政権はアメリカとの結びつきを強める一方、
2014年にはハーグの仲裁裁判所に提訴して国際司法に裁定を委ねた。
今年7月、裁判所は中国の主張を認めない決定を下すが中国はこれを受け入れず、
国際社会には懸念が高まっていた。
ところがこの判決が出る直前に大統領に就任したドゥテルテ大統領は
「判決はただの紙切れ」と言い、中国との関係修復に動き出したのである。
中国は南シナ海の領有権を「核心的利益」と定義しており、譲歩することは絶対にありえないと主張する。
これに対し前政権は世界最強の軍事力を持つアメリカと組み、
アメリカは南シナ海に艦艇と航空機を派遣する「航行の自由作戦」を実施、
また国際司法の判断を背景に中国を国際的に孤立させる戦略に出た。
日本の安倍政権もそれに積極的に賛同した。
しかしドゥテルテは中国との対立を強めれば戦争になると考える。
戦争になれば遠く離れたアメリカは傷つかないが、アジアの国々は誰もが傷つき損をする。
それよりも問題を棚上げし経済的利益を上げる方が国民のためになる。
ドゥテルテは理念やイデオロギーを掲げるより国民の利益を重視する現実政治家なのである。
そしてフィリピンにはアメリカの植民地支配を受けた負の歴史がある。
西部開拓を成し遂げてフロンティアを失ったアメリカは目を海外に向け、
1898年に米西戦争を起こしてスペインを破り、カリブ海のキューバ、
プエルトリコと太平洋のフィリピン、グアムを植民地化する。
その際、スペインからの独立を求めていたフィリピンの革命勢力に協力させたが、
フィリピンを独立させず、そのために米比戦争が起きてアメリカは12万人の兵隊を派遣して勝利する。
その戦闘でフィリピン人20万から150万人が犠牲になったと言われている。
第二次大戦中には日本軍がダグラス・マッカーサー司令官を敗走させ一時期日本が占領統治するが、
日本の敗戦により再びアメリカの支配下に入る。
戦後は独立を果たすがしかし冷戦の始まりによって米軍のアジアにおける軍事拠点となり、
アメリカにとって日本、韓国と並ぶ冷戦下の最重要基地となった。
フィリピンとアメリカの関係を象徴するのは冷戦下で
マルコス大統領からアキノ大統領に政権が移行した過程にあるとフーテンは思う。
マルコスは反共親米を掲げたタカ派の政治家で1965年に大統領に就任し、
レーガン大統領などとも親交があったが、
アメリカ民主党はマルコスの政敵でアメリカに亡命していたベニグノ・アキノ氏を大統領にしようとする。
1983年に「マルコス独裁18年はけしからん」という声が上がり、
アキノ氏がフィリピンに帰国しようとするがマニラの国際空港で暗殺された。
これに国民が怒り、クーデター未遂事件も起きて身の危険を感じたマルコス夫妻はハワイに亡命する。
そしてアキノ夫人のコラソン・アキノ大統領が誕生するのである。
冷戦体制でマルコスを利用したのもアメリカなら、その政敵を亡命させていたのもアメリカで、
さらにマルコスが亡命した先もアメリカであった。
アメリカの都合で大統領は交代させられるという現実をフーテンは見た。
そして冷戦が終わるとフィリピン議会は米軍基地撤廃を議決した。
当時のアメリカは中国の存在を念頭に「アジアの冷戦は終わっていない」と言い、
10万人規模の米軍をアジアに展開する方針でいたが、
フィリピン国民の民意は米軍をフィリピンから撤退させたのである。
しかし米軍がいなくなったから中国の南シナ海での進出が始まったとよく言われる。
米軍の存在があれば中国の進出はより慎重に行われていたかもしれない。
しかし中国が「核心的利益」と言い切る以上、
基地があったとしてもいずれ中国は進出したはずだとフーテンは思う。
そしてフィリピン人の心情の中にはアメリカの植民地時代が何をもたらしたかという問題がある。
アメリカは自分が輸入したい農作物だけをフィリピンに作らせ、
工業製品を輸入させたいので工業のインフラを作らせなかった。
そのため自給することもできないいびつな農業になってしまったのだという。
実は戦後日本を統治したマッカーサーは
日本を自分が統治したことのあるフィリピンのような農業国にしようと考えていたといわれる。
しかし朝鮮戦争が起きてアメリカは日本を軍需工場にする必要に迫られ、工業国家日本はそこから出発する。
それがフィリピンにはなかった。
米軍基地を持つ日本と韓国が経済的な発展を遂げたのに、同じ米軍基地を持つフィリピンは立ち遅れた。
そして長年アメリカの支配下にあったフィリピンにはアメリカのダブルスタンダードが良く見える。
つまり表で綺麗ごとを言い、裏では汚いことをやる性癖である。
だからドゥテルテはオバマの批判を受け付けない。
アメリカがどれだけ人権無視をしているかと言いたくなっているのだろう。
ドゥテルテは日本の経済団体との会合で、
米軍基地を持つ国は属国でしかなく「リードにつながれて引きずられる犬だ」と言った。
また「外国の軍隊がいる国はおかしい」と言うのを聞くと愛国主義の人間だと思う。
そして「国民の言うことには従うが、他の誰からも指図は受けない」と聞けばこれこそ民主主義の鑑である。
それがGDP2位の中国を訪れて巨額の援助を受け、それから後にGDP3位の日本を訪れて
こちらからもしかるべき援助を獲得した。GDP1位のアメリカを揺さぶるには必要な構えである。
前にも書いたが冷戦下の日本政治は自民党と社会党が役割分担し、
「暴言」は吐かずにしかし中国とアメリカを天秤にかけてアメリカを大いに揺さぶった。
それが今や天秤にかけるどころか揺さぶられるか「リードに引きずられる犬」になってしまったのである。
ドゥテルテ大統領来日中に国会ではTPPの議論が行われていたが、
そこにはアメリカの都合のためだけに審議を行う日本の姿があり、
ドゥテルテ大統領帰国の翌日にはアメリカのためだけに
国連の核兵器禁止条約に「反対」する日本の姿があった。
理念やイデオロギーより国民の利益を重視する現実主義の政治家といえば田中角栄元総理を思い出すが、
角栄氏が棚上げにした尖閣問題を棚からおろしたために日本は天秤をかけられない国になってしまった。
ドゥテルテには角栄の面影がある。
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