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新聞販売店に積み上がった新聞紙の束
部数激減の新聞業界のタブー、大量「残紙」で部数水増しモデル崩壊…残紙率70%も
http://biz-journal.jp/2016/10/post_17029.html
2016.10.29 文=黒薮哲哉/「メディア黒書」主宰者 Business Journal
10月26日付当サイト記事『朝日新聞、4年間で発行部数105万減の衝撃…新聞業界、存亡の危機突入へ』では、新聞の発行部数の減少に歯止めがかからない実態とともに、「残紙」をめぐる新聞社と新聞販売店のビジネスモデルを紹介した。今回は、その残紙の実態について、具体例を取り上げながらより詳細を紹介していく。
残紙とは、新聞販売店が新聞社から仕入れる部数と、その販売店の実際の販売部数の差を指す。たとえば新聞の購読者が2000人しかいない販売店が3000部を仕入れれば、差異の1000部が残紙ということになる。ちなみに、この残紙のなかには、新聞の配達作業の際に雨などで破損する部数を考慮した「予備紙」も若干数含まれる。
新聞販売店に大量の新聞が余り、定期的に古紙回収業者のトラックで回収されていることは、新聞業界の内部では広く知られている。
ちなみに残紙は、新聞社に大きなメリットをもたらす。第一に、残紙により販売収入を増やすことができる。第二に、残紙によりABC部数が増えるので、紙面広告の媒体価値が高まる。紙面広告の価格は、ABC部数に準じて設定するという基本原則があるからだ。特に公共広告はその傾向が強い。
この残紙のなかには、新聞社が販売店に必要以上の部数の仕入れを押し付ける「押し紙」も存在するとして、以前より批判する声も存在するが、新聞社は一様に否定している。
押し紙の存在について、当サイトの取材に対し朝日新聞社は、次のように回答している。
「『押し紙』とは、新聞社が新聞販売業者に対して正当かつ合理的な理由がないのに、販売業者が注文した部数を超えて新聞を供給したり、新聞社が指示する部数を販売業者に注文させたりする行為を指します。弊社はこうした行為をしておらず、従前より、押し紙はありません」
また、毎日新聞社も当サイトの取材に対し、次のように回答している。
「いずれも事実ではありません」
ちなみに朝日は今年3月、公正取引委員会より「押し紙問題で注意を受けた」と一部で報じられているが、朝日に事実を問い合わせたところ、次のような回答が寄せられた。
「弊社は本年3月、公正取引委員会から口頭で注意を受けました。弊社のある社員が数年前、販売所側から部数を減らしたいと相談や申し入れがなされた際に再考を促し、最終的には販売所長の注文通りに部数を減らして取引を継続することになりましたが、途中のやりとりに関して営業活動としてはやや行き過ぎた言動があったなどとする指摘でした。
独占禁止法上の注意とは、違反行為の存在を疑うに足る証拠は得られなかったものの違反につながるおそれのある行為がみられた場合に未然に防止を図る観点から出されるものとされています。弊社として今回指摘のケースは押し紙にあたらないと考えておりますが、注意については真摯に受け止めております」
■残紙の存在を裏付ける資料
残紙の存在を裏付ける資料としては、05年に外部に流出し一部で話題となった、ある大手新聞社の内部資料が有名である。この資料によると、02年10月の段階で全国の新聞販売店に搬入されていた同紙の部数は、約395万部だった。これに対して新聞購読者に発行された購読料の領収書枚数は約251万枚だった。差異にあたる約144万部分の領収書は発行されておらず、この部数が残紙に相当すると考え得る。発行される同紙の約36%が残紙だった計算になる。
また、別の大手新聞社の内部調査報告書によると、14年度のセット(朝・夕刊)版の平均発証率(一販売店の実際の売上高が、当該販売店の新聞社からの仕入金額合計に占める割合)は71.0%だった。また、統合(朝刊だけ)版は75.4%だった。つまり、販売店が仕入れる新聞の25〜30%程度が残紙だったことになる。
■残紙率70%の販売店も
このほかにも、次のような事例がある。
07年6月、ある大手紙の蛍池販売所と豊中販売所を経営していたB氏は、残紙の負担に耐え切れずに廃業した。引き継ぎの際にB氏と同新聞社の担当員間で交わされた覚え書きによると、搬入部数は両店の総計で4100部だった。これに対して、購読料の集金が可能な発証部数は、1246部だった。残紙率は実に約70%に上る。
また、筆者の手元に15年8月7日付のある大手紙の「増減報告」と題する書面がある。これは千葉県のある販売店から入手したもので、同日に朝刊の搬入部数が変わったことを示している。それによると、この日に1100部を減紙した。その結果、搬入部数は473部になった。つまり、それ以前の搬入部数は「1100部+473部=1573部」だったのだ。1573部から一気に473部に搬入部数が減ったわけだから、差異の1100部が残紙だったことになる。残紙率にすると約70%である。
ほかにも類似したケースが複数あるが、なぜ残紙が70%を占めながら、曲がりなりにも経営が成り立ってきたのか。販売店主・C氏は語る。
「理由は簡単で、ひとつには販売店が折込広告を水増ししているからです」
ほかの新聞社についても、大量の残紙の存在を示す資料が、損害賠償裁判などを通じて複数明らかになっている。たとえば、以下はいずれも大手紙の販売店主が起こした裁判で判明したものである。
・例1:仕入れ部数2330部、残紙1015部(1998年11月・福岡県)
・例2:仕入れ部数1510部、残紙777部(05年1月・大阪府)
・例3:仕入れ部数1200部、残紙538部(08年10月・東京都)
これら3件の裁判のうち、例2では推定で1500万円、例3では500万円の和解金を新聞社が販売店に支払い、和解に至っている。例1は、販売店の敗訴だった。
このように販売店が残紙をめぐり新聞社へ裁判を起こした例は、筆者が取材したものだけでも少なくとも10件は存在する。
いずれにせよ、より実態に近いかたちで新聞発行部数が公表されるよう是正されることが、今、求められている。
(文=黒薮哲哉/「メディア黒書」主宰者)
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