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選挙報道に見るメディアの危機
テレビは「時代の潮流」に抗えるのか
岩崎貞明(メディア総合研究所事務局長)
メディア報道に対する安倍政権の干渉が執拗に続く中、今回の参議院選挙は異様なほど番組の時間量が少なかった。さらに内容も、当たり障りのないものが目立つ。結果としてテレビは、安倍政権に委縮したのか。
今回の参議院選挙では、NHKや民放キー局の選挙報道量が少なかった点が目立ちました。『毎日新聞』7月13日付によれば、NHKを含む在京地上波テレビ6局の参院選関連の放送時間が前回の2013年より3割近く減り、特に民放の情報・ワイドショー系番組に至っては、6割減になったといいます。
今回の選挙で投票率が戦後4番目の低さに終わったのも、テレビが積極的に選挙を取り上げなかった要素が影響しているのは間違いないでしょう。この原因については、各局とも「選挙では視聴率が取れない」と判断している点が大きい。後述するように選挙報道については外部からの圧力が常にあるため、気をつかってやたらと各政党、各候補者を均等に扱わねばならず、何かのテーマ性を打ち出す番組作りが難しくなっています。
これは、ある候補者を取り上げたら、必ず別の候補者も取り上げるのが公職選挙法の「公正」だと思われている面も影響しているでしょう。その結果、必然的に「番組が面白くない」――「視聴者が見ないから、視聴率が取れない」――「各局が選挙報道を減らす」、という悪循環に陥っている。
しかし同法では、148条で「選挙運動の制限に関する規定は(中略)報道及び評論を掲載する自由を妨げるものではない」とも規定しています。事実をねじ曲げたりしない限り、本来、もっと自由に報道できるはずなのです。
ただ、安倍政権はこの間、支持率が6割前後の高止まりを維持しているため、番組の制作者は、どうしても視聴者の半分以上が安倍政権支持者だという現状を意識せざるをえません。
そうなると政権批判を盛り込んだ番組を作るなら、よほど脇を固めないといけない。必然的に時間がかかり、連続してそうした番組を制作するのは困難です。結局そうした番組は作るのが面倒だから少なくなり、ますます支持率高止まりに貢献してしまう。
一方で、それほど気をつかわずとも視聴率がより取れる題材があれば、局としてはそちらに関心がいく。今回は東京都の舛添要一前知事をめぐるスキャンダルが典型で、一時、本人は袋叩き状態でしたから、抗議が来るのを気にせず、好きなように番組を制作できました。各局とも、選挙報道よりこちらにエネルギーを注いだのは当然だったかもしれません。
テレビ番組干渉のルーツ
このように、各局がそれぞれ判断してやっていることが、結果として無意識のまま集合的な動きになってしまう。一つの局ごとに「面倒くさいから、そんなに選挙報道はやらなくていいかな」と考えてしまうと、それが全体的に報道の少なさを招いている。しかし選挙報道の使命とは、有権者に対し、投票の際の判断材料を提示することにあるはず。この点からすると、参議院選挙での各局の報道は、ほとんど評価に値しませんでした。
やはり問題は、新聞とは違って免許事業のテレビ局が、構造的に政府や自民党から圧力をかけられている現状にあるでしょう。そのきっかけは、1993年の総選挙で自民党が初めて下野し、細川連立内閣が誕生したことでした。当時の自民党は、「選挙で負けたのは自分たちの問題のためではなく、メディアが自分たちを悪く言ったからだ」と総括したのは疑いありません。
そしてこの選挙では、「テレビ朝日」の椿貞良局長が、「反自民の連立政権を成立させる手助けとなる報道をしよう」との発言をきっかけに、自民党などの要求により衆議院で証人喚問を受ける事態になりました。
注意すべきなのは安倍晋三首相がこの選挙で初当選し、野党の一員として「メディアを制することで、自民党の復権は可能になる」と考えた形跡がある点です。現在も歴代首相の中でも際立ってメディア対策に安倍首相が熱心なのは、おそらくこうした「原点」があるためではないか。
その後、与党に返り咲いた自民党は2000年ぐらいに、全国の党支部に対し、「ローカルでやっているテレビのニュースや情報番組で、自民党を批判するものがあったら全部党本部にあげるように」との通知を出します。その仕組みは、現在もなくなっていません。
そして二度目の安倍内閣が誕生した12年以降、さらにテレビ報道への締め付けが強化されます。14年の衆議院選挙前11月20日、自民党は在京テレビ局に対し、「選挙時期における報道の公平中立並びに公正の確保についてのお願い」なる文書を配布しました。
その2日前に、解散を表明した安倍首相が民放テレビに出演した際、放映されたアベノミクスへの賛否両論の街頭インタビューに「(局が声を)選んでいる」などと、怒ったのがきっかけでした。その文書は、「政治的中立」を口実に、不当にも街頭インタビューや資料映像の放映について報道を縛ろうという内容です。テレビの選挙報道の時間が激減するのは、この文書が配布されて以降の減少です。
なぜ反論しない
さらに民放各局を驚かせたのはこの2月、高市早苗総務相が国会で、テレビ局等が「政治的公平性」を欠いて放送法違反を繰り返した場合、電波法によって電波停止を命じる可能性を示唆する発言をしたことでした。
しかし放送法は、「言論・報道の自由」を守るために制定されました。第4条の「政治的に公平であること」という規定は倫理規範であり、違反の罰則規定もありません。これを根拠に行政が放送事業者を処分するのは、無理な話です。
しかも第3条には、「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、または規律されることがない」とされているのですから、各局は高市大臣に対しては「おかしい」と反論すべきでした。14年の文書にしても、突き返せたはずです。
にもかかわらず各局は、自社の番組でも深く追及するようなことはせず、真っ先に経営に近い幹部が委縮してしまった。よく「放送現場が安倍内閣のために委縮している」と言われていますが、正確ではありません。上が怖がって委縮し、現場の人間に「注意しろ」みたいなことを言う。だから、ますます自民党が増長するのです。
これが80年代ぐらいまでなら、間違いなくNHKを含めて各局が連名で、総務省の前身の郵政省に抗議に行っていたことでしょう。しかし、時代は変わりました。その表れの一つが、今回の参議院選挙報道であったような気がします。
昨年、戦争法が成立しましたが、このままいけば、はたしてテレビは戦争を止めることができるでしょうか。私は、もう無理ではないかと思うようになりました。もし戦争が始まりそうになったら、各局は「いつ始まるのか」というスクープ合戦に熱を上げることはあっても、時代の潮流に対して「おかしい。戦争を止めよう」と主張するのは、困難ではないのか。あるいはそのようなことを主張しないのが、「政治的公平さ」であると各局の幹部が思いかねません。
戦前、『大阪朝日新聞』が在郷軍人会の不買運動に屈して戦争協力に転じて以降、言論界が雪崩を打って軍部に迎合したように、現在は何かの時代に向かう「節目」に立たされているように思えます。後になって「あの時は」と後悔しないためにも、沈黙だけはすべきではないと考えています。(談)
聞き手・まとめ / 成澤宗男・編集部
週刊金曜日 2016.9.30(1106号)
(上記記事中の表「投票前8日間の選挙関連項目と時間量」より)
7月1日(金)〜7月8日(金)に各番組内で選挙報道を行った日数と時間量
・NHKニュース7(NHK):全8日の内2日、7分59秒
・ニュースウォッチ9(NHK):全6日の内4日、40分26秒
・報道ステーション(テレビ朝日):全6日の内6日、68分32秒
・NEWS23(TBS):全6日の内6日、40分46秒
・NEWS ZERO(日本テレビ):全6日の内4日、31分35秒
・みんなのニュース(フジテレビ):全8日の内1日、17分2秒
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