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辞任“舌禍理事”の言う通り 最後は強行採決という茶番国会
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/190962
2016年10月1日 日刊ゲンダイ 文字お越し
やりたい放題(C)日刊ゲンダイ
与党理事が国会審議前に「強行採決」を公然と口にするのは前代未聞だろう。これぞ、安倍政権が国民をナメ切っている証左と言っていい。
「この国会ではTPP(環太平洋経済連携協定)の委員会で西川先生の思いを、強行採決という形で実現するよう頑張らせていただく」
衆院TPP特別委員会の理事を務めていた自民党の福井照議員が会合で漏らした仰天発言。福井は慌てて「誤解を招いた」として竹下亘国対委員長に理事辞任の意向を伝え、自民党も早期の幕引きを図ったが、この福井発言は「誤解」でも何でもない。福井が記者団に対して「この国会でどうしても採決したい、という安倍総理の思いを申し上げたに過ぎない」と説明した通り、安倍政権の「本音」を“代弁”したのは明々白々だからだ。「強行採決」しないと成立しないようなデタラメな中身と承知していても、ハナから野党側と協議する気はサラサラない。臨時国会前のNHK番組で、福井が所属する派閥のボスである二階俊博幹事長は〈数で押しまくればいいというものでない。各党の声は国民の声。真摯に聞き円満の国会に〉なんて殊勝に語っていたが、大ウソだったわけだ。
そもそも二階自身も衆院代表質問に立った際、壇上から野党席に向かって〈黙って聞け〉と恫喝していた。二階も福井も、そろって衆参両院で与党が3分の2の議席を得たのをいいことに、「野党は俺たちの言うことを黙って聞いていりゃあいいんだ」という態度がアリアリである。九大名誉教授の斎藤文男氏(憲法)がこう言う。
「国会審議は多数決が全てではない。与野党が法案などを議論する中で、国民生活にとってのメリット、デメリットを明らかにし、よりよい方向に合意形成していく場です。しかし、今の与党は、それらを全部スッ飛ばし、数の力を背景に『やりたい放題やろう』という姿勢で、議会制民主主義を破壊している行為に等しい。国会軽視も甚だしいでしょう」
■議会制民主主義を理解していない与党がグローバルスタンダードを口にする愚
「強行採決」発言はおごり高ぶる安倍政権の姿が露呈したワケだが、そうでなくても今国会は冒頭から異様な雰囲気だった。
「彼ら(自衛隊員)に対し、今この場所から心からの敬意を表そうではありませんか」
26日の衆院本会議で、安倍が所信表明演説の途中でこう言って拍手を始め、呼応した自民党議員が一斉に立ち上がって約20秒間にわたって拍手を続けた例のアレだ。
「本会議の秩序を乱す」という野党の抗議に対し、自民党の高村正彦副総裁は30日の党役員連絡会で、「スタンディングオベーションをして叱られることがグローバルスタンダードに合っているのか」なんて反論していた。高村のアタマの中には欧米議会の姿があるのだろう。だが、野党の意見を丁寧に汲みとりながら合意形成を図る成熟した議会制民主主義が確立している欧米議会と安倍政権の姿勢は正反対だ。野党と向き合う気なんてこれっぽっちもないクセにグローバルスタンダードを言い出すのは笑止千万だろう。
それに安倍が「敬意を表そう」と称揚していた自衛隊は、安倍政権が「強行採決」した安保法によって隊員の生命が脅かされかねない「駆け付け警護」が可能になった。
国会では南スーダンPKO(国連平和維持活動)に派遣される自衛隊に新たな任務を付与するかどうかが議論されているが、南スーダンの首都ジュバでは7月に内戦が再燃している。安倍は国会で「現地の情勢は比較的落ち着いている」とシレッと答弁しているが、外務省が公表している「国・地域別の海外安全情報」では、南スーダンはジュバだけでなく、全土が警戒レベルで最悪の「レベル4」だ。〈退避してください。どのような目的であれ、新たな渡航は止めてください〉と警告もされている。そんな場所に自衛隊を派遣し、さらに隊員の命を危険にさらす法律をムリヤリ成立させながら「敬意を表そう」とはよく言えたものだ。
またもや繰り返される(C)日刊ゲンダイ
歴代自民政権でも安倍首相の傲慢ぶりは突出
それにしても「安倍総理の思いを申し上げた」なんて茶坊主発言がフツーに飛び出す自民党議員を見ていると、めまいがしてくる。まるで中国の紅衛兵かナチス・ドイツのヒトラーユーゲントのようだ。そんな“親衛隊”に囲まれているからなのか、国会答弁に立つ安倍の姿も傲岸不遜という言葉がピッタリだ。
「民主党政権は児童扶養手当をたったの1円も上げなかった」「100の言葉より1の結果だ」……。参院本会議で民進党の蓮舫代表がどんなに「提案」を繰り返しても、一切聞く耳を持たず、“口撃”を続ける。福島原発の汚染水対策の“切り札”だった凍土壁が凍らない問題について、対策の見直しを求めた共産党の市田忠義副委員長に対しては、「状況はコントロールされている。見直しが必要とは考えておりません」と一蹴だ。二階と同じで「黙って聞け」と言わんばかりの態度である。政治評論家の本澤二郎氏は「歴代自民党政権でも、これほど傲慢な首相の姿は見たことがない」と言い、こう続ける。
「衆参で3分の2の議席を得たことで、安倍首相は『何でもできる』と勘違いしている。民主主義の大前提は少数派の意見を尊重することですが、安倍政権には全く欠落しているのです。国民の反対を押し切って安保法を強行採決した当時の特別委員長の浜田靖一議員が今度は衆院予算委員長に就いたという人選を見ても、安倍政権がいかに野党、国民を軽視しているかが分かります」
■安倍政権を批判しない職務怠慢のメディア
本来であれば、大新聞・テレビが異様な「スタンディングオベーション」や「強行採決発言」を徹底批判して国会審議がストップする事態になっても不思議じゃない。ところが、既に大政翼賛会と化した官製大メディアは批判どころか、ブラフの解散風を吹かすことに力を入れているから呆れる。メディアの政局好きは今に始まったことではないが、「第4の権力」と呼ばれるメディアが権力批判の役割を放棄してどうするのか。
「解散風は与党が吹かせているというより、メディアが率先して太鼓を叩いているような印象を受けます。巨大与党に対峙できるのはメディアしかないのに職務怠慢と言っていい。安倍政権の前に日本のジャーナリズムも野党同様、風前のともしびです」(斎藤文男氏=前出)
このままだと安倍独裁政権のやりたい放題はますますエスカレートするのは確実。あらゆる法案が「強行採決」される茶番国会になる可能性だってある。安倍シンパである自民党の下村博文幹事長代行が9月28日に都内で開かれたシンポジウムで「(衆参両院で)改憲勢力が3分の2を超えた。これをチャンスとして発議できるものは積極的に国会でまとめていく」と訴えていたが、安倍の悲願である憲法改正に突き進むのも時間の問題だ。
安倍が「ベースにする」と公言している自民党の改憲草案は、憲法13条の「個人の尊重」原理から「個人」の概念を消し去り、「公の秩序」による人権制約を認めたヒドイ内容だ。有権者は巨大権力を手中に収めた安倍政権に対して無関心、能天気でいると、ジョージ・オーウェルの小説「1984年」の世界が現実になると思った方がいい。
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