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TPP強行採決宣言が示す安倍政権の驕りと緩み
植草一秀の『知られざる真実』 2016年9月30日 (金)
http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2016/09/tpp-03e7.html
9月30日の衆議院予算委員会で輸入米の価格偽装問題が取り上げられた。
問題を追及したのは民進党の福島伸享議員と緒方林太郎議員である。
民進党は一刻も早く消滅するべき政党であるが、有能で主権者の意思に正面から向き合う優れた議員も存在する。
一刻も早く、主権者の意思に向き合う議員の糾合、連帯を求めたい。
山本有二農水相は輸入米の価格偽装問題についての調査結果を補正予算審議の裁決までに提出することに難色を示した。
緒方議員は、対応の遅れが国会審議に支障を与えかねないとの山本農水相の過去の発言を取り上げて真意を質したところ、自民党委員から
「国会が止まってないじゃないか」
とのヤジが飛びだした。
国会審議を止めることを促す発言である。
この臨時国会で、安倍政権が最重要議題に位置付けているのがTPP承認案である。
通常国会では、政府が審議に必要な情報をまったくと言ってよいほど国会に提出しなかった。
その一方で、衆議院特別委員会の委員長である西川公也氏は、
『TPP交渉の真実』
と題するTPP交渉の内幕を記述した著書を出版する予定であったことが明らかになった。
西川氏は事実関係を認めていないが、客観的事実はこのことが事実であることを強く示唆している。
9月29日の二階派の会合では、衆院TPP特別委員会の理事を務める自民党の福井照衆院議員が驚愕の発言をした。
「この国会ではTPPの委員会で西川(公也)先生の思いを、強行採決という形で実現するよう頑張らせていただく」
国会審議に入る前に
「強行採決という形で実現するよう頑張らせていただく」
と述べたのだ。
福井氏は当日、委員会理事を辞任したが、これがいまの安倍政権である。
TPPは12ヵ国で協議しているが、12ヵ国のGDPの85%以上を占める、少なくとも6か国が手続きを終えないと発効しない。
12ヵ国のGDP合計額に占める比率は日本が17.7%、アメリカが60.4%で、日米のいずれか1ヵ国でも批准手続きを終えないと発効しない。
その米国がTPPを承認する道はまったく開けていない。
11月8日に実施される大統領選の民主、共和両党の候補者はTPP反対を表明している。
また、米議会下院のマコネル共和党上院院内総務は、
「TPPにはいくつかの深刻な欠陥があり、年内は動かない」
と述べ、
「次期政権がTPPの内容を修正する可能性がある」
と指摘した。
さらに、共和党の実力者であるライアン下院議長もTPPの内容を修正しない限り審議には応じないとの方針を示している。
つまり、オバマ政権下でのTPP承認は絶望的であり、来年2月に発足する新政権はTPP反対の方針を示す可能性が高い。
この状況下で日本が先行してTPPを承認するべき理由は皆無である。
仮に米国がTPPを承認することがあっても、それは、間違いなくTPP修正後になる。
その修正内容を確認もせずに、日本が先行批准することは、日本国民に対する完全なる背信行為になる。
そのTPPについて、審議に入る前から
「強行採決という形で実現する」
と委員会理事の立場にある者が発現したのだから、このことだけで審議紛糾は確実である。
また、政府TPP対策本部の大江博首席交渉官は9月29日に日本記者クラブで記者会見し、臨時国会でのTPP承認案と関連法案の審議について、
「米大統領選までに衆議院を通してメドをつけたい」
と述べた。
これまた驚くべき発言だ。
政府を代表する国会議員が発現するなら理解できるが、単なる一公務員が立法府の意思決定について方針を示すなど、前代未聞である。
すべては、安倍政権の「緩み」に起因している。
「国会の数を握れば何をやっても構わない」
という、「驕り」と「緩み」、そして「思慮の浅さ」が完全に露呈している。
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