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豊洲市場「空洞」問題を意図的に長引かせようとしている真犯人
http://www.mag2.com/p/news/220904
2016.09.23 まぐまぐニュース
築地市場から豊洲への移転延期を正式に表明し、自民都議連への静かな宣戦布告をした小池百合子都知事ですが、ここに来て「地下空洞問題」という新たな火種が持ち上がりました。誰が「盛り土」もせずに豊洲の地下を空洞化せよと指示を出したのか、その「犯人探し」の様子は、連日のようにワイドショーなどで長時間に渡って報道されています。メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者・新 恭さんは今回の「地下空洞」騒動について、小池都知事自身が「勧善懲悪劇」を演じることで、この問題を長期化させていると指摘。そのことで、都議会の自民党が「移転利権」を死守するために「脱・小池」へ動き出す可能性を示唆しています。
■“東京大改革”劇場で自縄自縛の小池都知事
豊洲新市場の建物の地下に、ひそかに設けられていた箱型コンクリート空洞。その存在が報道されて以来、テレビ各局では謎解き、犯人捜しが連日、繰り広げられている。
敷地全てに盛土をほどこしたとウソをついてきたのは言語道断だが、設計図の通りに建設されているのだから、設計の指示、チェックをした都側の責任者が出てきて、盛土にせず空洞にした理由を説明すればよい。
なぜ、そうならないのか。小池百合子知事プロデュースの「勧善懲悪劇」になってしまっているからだろう。東京都の「ブラックボックス」を暴くと啖呵をきって乗り込んできた第一幕のシーンが続いているのである。
今出ていけば、有無を言わせず、極悪人扱いされるのは目に見えている。だから、みんな他人のせいにして知らんぷりを決め込んでいるのだ。
つまり、真相解明を遅らせているのは情報公開の名のもとに、有識者会議とかプロジェクトチームとかをつくることに余念がない小池知事自身ともいえる。
もっとも、小池知事には見込み違いがあった。「空洞」問題が浮上したのは想定外だったのだ。
知事選期間中の約束、すなわち「立ち止まって考える」を実行するため、地下水のモニタリング調査が終わっていないことを理由に、「豊洲移転延期」を宣言、来年1月ごろに予定される調査結果公表を待って、移転ゴーサインという段取りを考えていたはずだ。
ところが8月下旬、共産党に地下空洞があることを知らせた人がいた。職員か、工事関係者か、誰なのかは今のところわからないが、「東京大改革」を唱えているにもかかわらず知事サイドに“直訴”しなかったところをみると、ある程度、行政の狡猾さを心得ている人物のようだ。
都とすったもんだの交渉の末、9月7日に現地調査を許され、写真まで撮った共産党都議らの指摘で、小池知事は空洞の存在をはじめて知る。
「延期」の刺激がもたらした情報という意味ではメディアが持ち上げるように小池知事の功績といえるかもしれないが、おそらく、小池知事は想定外のことに一時は困惑しただろう。
普通の知事ならすぐに担当者を呼び、説明を聞くはずだ。敷地内すべて盛土をほどこすと説明してきたのに、なぜ空洞が建物の下に広がっているのか、と問いただすだろう。
小池知事もそうしたに違いない。新参の知事であっても、今や都職員を率いるリーダーである。過去のこととはいえ、いつまでも他人のしでかしたこととして片づけられるわけがない。
2011年の基本設計時、すでに建物地下の空洞が図に描きこまれていたという。そのいきさつを知る職員から、知事が話を聞くのは簡単なことだろう。
だが、空洞の意味についてはなにがしかの説明ができても、なぜ都民への約束と異なるのかとなると、言葉を濁すかもしれない。誰もウソの責任を背負いたくないからだ。
「人生マーケティング」を標榜する小池百合子は気を取り直し、脳内コンピューターをフル稼働させたに違いない。
ここは「ブラックボックス vs 正義の小池」という都知事選から続く小池劇場をそのまま演じるしかない。都の組織とは一線を画しておこう。調査チームに追及させて過去の都政の膿を出す「東京大改革」のイメージを強調するのだ。
小池知事は9月10日にこの問題を暴露する緊急記者会見を開き、今後の対応についてこう述べた。
二つの有識者チームをつくればうまくいくなら、こんな事態にはならなかったはずだ。石原慎太郎都知事の時代、専門家会議と技術会議があったにもかかわらず、結局は都当局の思うようにコトを運ばれ、いつのまにか建物地下にコンクリート空洞ができていたのだ。
要するに、すべてを統括する責任者が明確でないまま、会議やチームで議論しても、縦割りの弊害に陥りやすい担当当局の議事運営に左右され、その末に、まずい事態を招けば、責任のなすり合いに終わるのがオチであろう。
本来、豊洲は生鮮食料品の市場としてはならない場所である。たとえ有識者会議の提言通り、敷地全体に盛土を施していたとしても、埋め立て地特有の軟弱地盤であり、ひとたび巨大地震が起きれば、土壌改良や盛土による安全性など吹き飛んでしまう。
盛土はあくまで、土壌汚染対策である。大地震が起きれば液状化現象で地下汚水は湧きあがって地上に滲み出してくるだろう。
もし仮に、建物地下のコンクリート空洞が地震対策であるというのなら、担当者はそう説明すればいいではないか。逃げ回っている場合ではない。
また、一部報道によると、「空洞は土壌汚染が再び見つかった場合に備え、パワーショベルが作業できる場所とする目的でつくられた」と都の幹部が話しているというが、それならそれで一刻も早く公表し、これまでの広報との違いについて、謝罪するなり責任をとるなりしなければならないのではないか。
いずれにせよ、豊洲移転計画は最初から間違っていた。この深刻な問題の元凶は石原慎太郎元知事である。
ほかに4〜5か所の有力候補地が臨海地区にあったにもかかわらず、築地市場を豊洲の東京ガス工場跡地へ移転することを最終的に決断したのは石原元知事のほか、誰もいない。
2000年7月から2005年6月まで副知事をつとめた浜渦武生に豊洲の件は任せていたと石原は弁明しているようだが、実際に用地を購入したのは2011年であり、とっくに浜渦は副知事を退いていた。
2011年3月25日に東京ガスが公表した「豊洲地区用地における東京都との土地売買契約ならびに土壌汚染対策費の負担に関する合意について」という文書によると、約10.5ヘクタールの工場跡地を東京都が東京ガスから559億円で買い、土壌汚染対策費として東京ガスに78億円を負担させている。
これは東京ガス関係だけの数字で、敷地全体40ヘクタールの用地取得費は1860億円にものぼっている。
事前に東京ガスが自前で土壌改良工事をしたとはいえ、その後に基準値の4万3000倍ものベンゼンや860倍ものシアン化合物が測定された土地をこんなに高い値段で買ってくれるバカなところは東京都以外にありえない。
石原慎太郎に「わが都政の回顧録 東京革命」という著書がある。回顧録というのはだいたい自慢話である。石原が革命をなしたはずの東京。小池はその東京を大改革したいというのだから面白い。
回顧録のなかで、石原は豊洲市場問題について、こう述べている。
2014年から15年にかけて執筆された文章である。日本の技術力への盲信。というより、豊洲移転ありきで、汚染問題の何かいい解決策はないものかと考えたとき、「日本の技術力」という信仰は、石原自身のなによりの精神安定剤になったのだろう。
地下の空洞も、石原の発言に端を発しているという見方がある。その根拠は2008年5月30日の定例会見における石原都知事の以下の発言だ。
この担当局長というのが、中央卸売市場長だった比留間英人で、「コストを下げるため知事からコンクリ案について調べるよう指示があった。検討後、コンクリ案は余計に費用がかかるため断念しますと知事に報告した」と各メディアの取材に対して語っている。
コンクリートの箱を地下に埋め込むという発想がその後も、都の担当者に引き継がれていたからこそ、今の空洞問題につながっているのだろう。
にもかかわらず、石原は9月13日、BSフジ「プライムニュース」に出演し「(知事時代の)僕はだまされたんですね。結局、してない仕事をしたことにして予算を出したわけですから。その金、どこ行ったんですかね?」と他人事のように語った。
大プロジェクトの最高責任者であり、最終チェックを行う立場であったという自覚はまるで感じられない。
そもそも、2011年当時、石原が検討せよと命じたコンクリ案を盛り込んだ設計図ができたというのに、担当者が石原にその図面について説明していないというのは、常識的には考えにくいのではないか。
石原が当初、取材陣にコンクリ案を「担当局長から聞いた」と言っていたのを「私が言った」と訂正するなど、かなりブレがひどいことを考え合わせると、地下空洞の存在を知らされていた可能性もある。ただし、空とぼけているのか、記憶力の問題なのかは、定かでない。
さて、このように原点に戻ってこの問題を考えることができるのは、小池知事が「立ち止まって」くれたからであり、そのこと自体はいいのだが、石原都政の杜撰な運営による大失策の尻拭いがはたして小池知事にうまくできるだろうか。
意図せずパンドラの箱を開けてしまい、次から次へと奇怪なものが飛び出してきて、どうにもならなくなりつつあるのではないだろうか。
メディアでは「豊洲移転白紙撤回」の声が出始めた。それが小池知事にできるのなら、ぜひやってもらいたい。が、その場合、過去にさかのぼって石原元知事らの責任を追及してもらう必要がある。そうでなければ納税者の理解は得られまい。
小池知事は当初、「東京大改革」の仮面をかぶりながら、既得権勢力と手を握り、その支援のもとに築地市場移転や東京五輪をスムーズにやり遂げたいと考えていたはずだ。
しかし、地下空洞にたまった水からヒ素やシアン化合物が検出され、豊洲市場の安全性に世間の疑いが強まっている以上、それを無視して移転を強行することなどできない。
少なくとも、小池知事は来年春までという移転計画の腹づもりを変えざるを得なくなった。そうなると、いままでは事態を静観していた都議会の自民党も移転利権を死守するために動き始めるだろう。畢竟、小池知事はジレンマに陥ることになる。
巷間言われているような都議会との全面対決などできはしない。さりとて、都民の彼女に対する幻想を維持するには、ある程度の対決姿勢も必要だ。小池知事はいつまで涼しげに微笑んでいられるだろうか。
image by: MAHATHIR MOHD YASIN / Shutterstock.com
『国家権力&メディア一刀両断』 より一部抜粋
著者/新 恭(あらた きょう)
記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。
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