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泉田裕彦新潟県知事(撮影/大野洋介)
【独白】泉田裕彦新潟県知事「立候補撤回の真相」〈週刊朝日〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160915-00000179-sasahi-pol
週刊朝日 2016年9月16日号
9月29日に告示される新潟県知事選。柏崎刈羽原発の再稼働に「待った」をかけ、4選を目指していた泉田裕彦新潟県知事が8月末に突如、立候補撤回を表明した。急転直下、まるで小説『原発ホワイトアウト』を彷彿とさせる展開だ。知事が激白した。
──“モノ言う知事”の突然の撤退表明の経緯を教えてください。
今回、新潟日報が報じている県出資会社の子会社によるフェリー購入問題の核心は、現場レベルが騙されたものと受け止めています。それでボロ船を掴まされて、出資金がその目的を果たさなくなる可能性がある。私は最終的な責任者です。責任はあります。ただ、だいぶ前から事実に反した記事が出ており、記者会見までやって記事の訂正を求め、八つも九つも訂正要請文書を出した。窓欄(新潟日報の投稿欄)の投書の回答も書いたので載せてくれといくら頼んでも載らない。会見で抗議しても効果がない状態になっています。
今回の知事選では、森民夫・長岡市長が県庁内で立候補表明をしましたが、庁舎の管理責任がある県広報担当職員が、会見を主催する県政記者クラブの代表幹事社である新潟日報社から立ち会いを拒否され、録音も禁じられたそうです(新潟日報は否定)。県庁の中ですよ? 一方で、会見後、対立候補の表明があったとしてコメントは求めてくる。表明の中身がわからないとコメントなどできませんよね。このような環境の中、選挙戦で県民の皆さんに訴えをきちんと届けるのは難しいと判断しました。私の言葉が県民に伝わるのであれば、立候補の撤回はなかったかもしれません。
──知事は東京電力柏崎刈羽原発の再稼働について「福島原発事故の検証と総括なしに議論できない」と明言して全国的にも注目され、信任を得て3選も果たしています。撤退は突然で驚いた人も多い。
県内には柏崎刈羽原発がありますが、ヨウ素剤の配布や地震・原発事故の複合災害時の避難などで不備は明らかです。現状の原子力災害対策指針で対処できない事態がいっぱいある。この問題を会見で訴えたり、政府も今春から対処を始めたところでした。
ところが、今回のフェリー購入問題が報道されて以降、原発に関する議論はかき消され、フェリー問題だけが議論の対象となってしまった。私が立候補したままでは県民の生命、安全、健康をどうするかを語る選挙にならない。2月に立候補表明したときは、これほどひどい環境ではありませんでしたが、知事選が近づくほど、そして私が勝つ可能性が高まるほど、状況が悪化しました。今後も何があるかわからない。
──知事として別のメディアを通して訴えることもできたのでは。
地元メディアは記者クラブ制度の中での調和を優先されるのか、概しておとなしくされています。県のホームページで見解を出しても、ほとんど県民に伝わらない。アクセス数はあっても3千ぐらい。やはり毎日約45万部を超える部数を持つ県紙、新潟日報の力は大きい。
皮肉なことに、今回「撤退する」と表明をして急に全国区のメディアから注目され、追いかけられ、ようやく問題も報じていただけるようになった。ローカルテレビの生放送にも出られました。「撤退を撤回して」との声もどんどん来ています。「頼むから戦ってくれ」と。ただこのまま選挙戦に突入したとしても、毎日、船の問題に関する記事が出るだけになってしまいませんか? 訴えが届かない中で、県職員も疲弊している。未明まで懸命に準備し、答弁しても、翌日には「県が虚偽答弁か」などと報道される状況です。私が知事であることで、周囲に余分な負荷もかかっている。
──これまでご自身で提起してきた原発の安全性などの問題はどうなりますか。
周囲に迷惑をかけてしまうので私はやらないほうがいいでしょう。まだ罠があるかもしれない。あれだけ原子力防災を一生懸命言っている知事のところで、ヨウ素剤の備蓄がされていなかった等、本来はあり得ない事態も起きているぐらいです。新潟日報は県では法で定められた福祉計画が上層部の意向も影響して作られていないと指摘しました。私は福祉サービスがこのままだと足りないので、検討しましょうよ、と確かに言いました。でもそれっきり上がってこなかった。仮に知事が、「作るな」と指示したならば、ふつう職員は責任解除するために起案を回しますよ。今回はこういうことになったので作らないことにしますと、起案を回してハンコをとりますよ。それもやっていない。こういうことが次々起きる。そのたびに職員に負荷がかかり、本来議論すべきところも議論できない。一人だったら闘ったと思いますが、もう限界。周りの人を巻き込むのは避けたいと思う。
別の人が立候補して、新潟県の未来を語る選挙に、県民の生命、安全、健康をどうするかということを語る選挙にしてほしいと思います。私が出たら船の問題だけになってしまう。
──惜しむ声もあります。後継者はどうしますか。
マスコミは後継者として意中の人の有無ばかりを聞いてきます。後継指名はしません。私が指名したら同じことになる。周囲にも迷惑がかかる。具体的な内容は言えませんが、リスクを予感させるようなこともあったので……。ただ、すでに立候補した森氏の対抗馬は出てくると期待しています。地方創生、原子力防災、原発にどう向き合っていくのか心配している人が大勢いるためです。県民の気持ちを受け止める候補が出てくればよいと思います。
──小説『原発ホワイトアウト』(講談社・若杉冽著)にあった「電力のモンスターシステム」、そして泉田知事をモデルにしたとみられる登場人物の「新崎県の伊豆田清彦知事」を連想させるような展開にも思えてきます。
今回は事実に反する記事について新潟日報と対立しているわけですが、小説のようなシステムがあるのかもしれませんね。大勢の人にリスク、迷惑をかけるよりは、きれいな、全くしがらみのない人が新潟の未来を議論したほうがいいと思いませんか。
──任期満了後はどうするおつもりですか。
何も考えてないです。
今回起きていることで、原子力防災を語る機会が失われている。知事候補が私じゃなければ、やっぱり原子力防災、原発が争点になる。そのためにも身を引いたほうがいい、という判断です。原子力防災、原発について心配している人も多く、これを受け止める政治的素地は新潟にあると思う。
老兵はただ去るのみ。知事選は県民の健康、生命、安全、原子力防災など未来を語る選挙にしてほしい。過去に起きたフェリー購入問題の話は別途やる必要はありますが、未来のふるさとをどうつくるか、前向きな選挙にしてほしいです。(本誌取材班)
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