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日ロの領土交渉はアベノミクスに代わる「ニンジン」の第二弾ー(田中良紹氏)
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4th Sep 2016 市村 悦延 · @hellotomhanks
安倍総理は2日午後、ロシアのウラジオストクでプーチン大統領と会談し、
11月と12月にペルーと日本で再会談を行うことを合意した。
会談後に安倍総理は平和条約締結交渉の進め方について
「道筋が見えてきた。手ごたえを強く感じとることができた」と記者団に語った。
その言い方や表情から高揚した感じを受け取ったが、
そのことにフーテンはまたまた危うさを感じる。
交渉当事者が交渉の途中で高揚したものの言い方をすることなどあってはならない。
それは交渉術のイロハである。
山本七平がどこかに書いていたが、交渉事は怒ったら負け、惚れたら負けである。
怒ったり惚れたりすれば理性が働かなくなる。だから交渉事に長けた相手は必ずこちらを怒らせるか、
あるいは惚れさせようと仕掛けてくる。それを日本人は分かっていないという話である。
安倍・プーチン会談を見ていると、
ファーストネームで呼びかけ積極的に語り掛けているのは安倍総理の方で、
プーチン大統領はその言動を「注意深く」受け止め、「慎重に」判断している印象である。
安倍総理の目的がどこにあるかを見極めている。
交渉の表向きの目的は北方領土問題を解決して平和条約を締結することである。
しかし領土問題でロシア側の姿勢は1956年の日ソ共同宣言以来何も変わっていない。
つまり平和条約を締結すれば歯舞、色丹を引き渡すというものだ。
これに対し日本では1855年の日露和親条約を根拠に択捉、国後を加えた「四島一括返還」を
一貫して主張してきた。しかしロシアは「第二次大戦の結果、自国領になった」としてこれを全く認めない。
歯舞、色丹の引き渡しでも主権は日本ではなくロシアが持つと考えている節がある。
こうした中で安倍総理はロシア側に経済協力を軸にした「新たなアプローチ」を提案し、
世耕経済産業大臣にロシア経済分野協力担当大臣を兼務させるという異例の人事を行って
ロシア側の歓心を買おうとしている。
その背景にはウクライナ問題で西側諸国から経済制裁を受け、
さらに原油安で経済的に苦しい状況にあるロシアを譲歩させるには、
経済を切り札にプーチン大統領との個人的信頼関係をうまく利用すれば突破口は開かれると読んでいるからだ。
そのため安倍総理だけが何度もロシアを訪れ、
プーチン大統領に気に入られる提案を繰り返すという、外交的には極めて異例のことが起きている。
しかし異例であってもそれが日本の国益につながるのであれば問題はない。
問題は国益につながるかどうかだ。
アベノミクスが思い通りの成果を生まず、国民の将来不安を解消できなくなると、
安倍政権は「まだ道半ば」という言葉を多用して期待を先につなげる策に出た。
しかしそれは当初からわかっていたことで、
フーテンは「アベノミクスは鼻先にぶら下げられたニンジン」と昔から表現している。
ニンジンを見て走り続ける馬のように国民は働かされ、
そのことで経済を成長させようとするのがアベノミクスである。
最近の選挙結果を見ればそのニンジン効果はまだ薄れていない。
アベノミクスを争点にした選挙で与党はいずれも勝利し続けている。
アベノミクスを失敗とみている海外はこの選挙結果に驚いている。
アメリカやイギリスではグローバリズムで職や賃金を失った国民が怒りの声を上げ
政治に地殻変動を起こさせている時、破綻に向かっているアベノミクスがなぜ支持されるのか。
日本の格差の程度がまだ英米ほどではないからだと考えるしかない。
そのため「まだ道半ば」が有効なのだと考えられている。
しかしアベノミクスの有効寿命には限りがある。
安倍総理は次のニンジンを国民の前にぶら下げる必要がある。
日ロの「平和条約交渉」がそれに当たるとフーテンは考える。
ロシアが領土問題で譲歩する気のないことは百も承知である。
せいぜい歯舞、色丹の引き渡しが実現する程度である。
しかしそれでも段階的に「四島返還」交渉を進めるという見せかけの道筋を国民に示せれれば、
それはニンジンになりうる。そのためにはロシア側にも協力してもらう必要があり、
その見返りがロシア側の望む経済協力ということになる。
ニンジンが最も必要になるのは12月15日にプーチン大統領を迎えて
山口県で行われる日ロ首脳会談から2018年にかけてである。
2018年には3月にロシア大統領選挙があり、9月末には安倍総理の自民党総裁任期が切れる。
その年を双方が「日本の年」と「ロシアの年」にすることを安倍総理が提案し、
記念行事が行われることになっている。
プーチン大統領が再選されるのは確実だから、
自分もそれにあやかって総裁任期を延長するための布石にしたい現れだとフーテンは思ったが、
それだけならニンジンは国益のためというより個人益のためである。
そしてロシアの思惑はロシアをG8から追い出したG7に対する分断工作にある。
そのG7の議長を今年務めているのは日本の安倍総理であり、
安倍・プーチン会談で見られる安倍総理の「すり寄り外交」は
G7各国にとっていささか眉を顰めたくなる光景ではないかとフーテンは思うのである。
このところのプーチン外交は、かねてからの宿敵であり、
シリア問題でも立場が敵対するトルコのエルドアン大統領をロシア機撃墜事件で謝罪させ、
ロシアとの関係改善に持ち込むなどNATOにくさびを打ち込み、
また南シナ海問題で孤立を深める中国と合同軍事演習を行うなどアメリカへの対抗心を強めている。
昨年はアメリカに迎合し「ネギ背負った鴨」となって集団的自衛権の行使容認に踏み切り、
軍事分野でアメリカから金を吸い上げられる道を拡げた安倍政権が、
次にはロシアとの「平和条約締結交渉」をエサに経済協力で金を吸い上げられ、
挙句に各国から外交交渉のできない国と見くびられ、
「たかり」にあうことになるのではないかとフーテンは恐れるのである。
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