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昨年夏、那須御用邸での静養に向かう両陛下 (c)朝日新聞社
「譲位は可能とすべし」明治からあった「生前退位」をめぐる議論〈週刊朝日〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160817-00000169-sasahi-soci
週刊朝日 2016年8月26日号より抜粋
天皇陛下のお気持ち表明を受けて、緊急対談が実現した。政権中枢で皇室典範の改正論議にかかわった園部逸夫氏と、皇室取材を長年続ける岩井克己氏。二人が天皇陛下のメッセージから現代に即した天皇のあるべき姿を語る。
岩井:高齢化社会のなかで、ご高齢の課題が出てきた。陛下の場合、象徴天皇のありようを模索しつつ、ご自分がずっと積み上げてきたものが崩れるのは耐えられない。そうしたお気持ちがにじんでいます。
園部:そうですね。同時に、天皇は、憲法や典範によって全てを左右される存在ではない。人間としてのお気持ちを発露する機会も与えられるべきです。
岩井:私はずっと、「平成流」の天皇陛下を見てきました。日本国憲法第4条は天皇は「国事に関する行為のみを行ひ」と定めています。しかし、それ以外の公務を増やし、きめ細かく向き合い、離島まで行かれる。それは何だろうと、疑問に思っていましたが、陛下が「遠隔の地や島々への旅も、象徴的行為として、大切なものと感じて来ました」とおっしゃったのを聞いて、腑に落ちました。象徴として務めを果たし、国の安寧と国民の幸せを祈るには、国民の置かれた境遇について、じかに知り、思いに寄り添うことが大切だというくだりが印象的でした。
園部:その作業を繰り返さないといけない。仕事は増えていくが、何より体が受け付けないと。私も87歳になるけども、80を過ぎたら、昔は隠居です。家を継ぐ皇太子さまもいます。2度も手術して大変だったとおっしゃっているのに、表向きの仕事もこなしている。
岩井:戦前の天皇観を大事にする人の中には、天皇は仕事をするから天皇なのではない。何もされなくても、天皇なんだと。仕事ができなくなり、摂政や国事行為の臨時代行を置く形となっても、ずっと天皇として長生きしていただきたいという意見も出ています。
園部:よくわかります。しかし、思うように行動できなくとも、天皇の地位にあるだけでいいということは、今日の常識として考えづらい。人は摂政や国事行為を代行する方ではなく、天皇を見ますからね。飾りか神仏のように存在するだけでいい、と唱え続けると、人間天皇についての認識を誤るのではないかと危惧します。
岩井:明治の皇室典範を制定する過程は興味深いものがあります。法制度に抜きんでて詳しい専門家である井上毅(こわし)宮内省図書頭と柳原前光(さきみつ)元老院議官のふたりが、懸命に案を練り、「譲位は可能とすべし」と起草した。だが伊藤博文が、皇位につくのは天皇の義務なりと一喝した。「万世一系の天皇」を編み出した井上ですら、「至尊(天皇)と雖(いえども)人類」という言い方で譲位を説いたのですが、却下された。大正天皇のときもそうでしたが、天皇が病気だ、こんなに弱っている、と議会や国民に知らせないと摂政が置けない。それよりは譲位のほうが良いと井上は考えていたのですが。
園部:生前退位の理論について戦後まもなく、佐々木惣一・元京大教授と南原繁・東大教授が述べています。佐々木氏は「国家の行くべき道、国民が自己を律すべき道」を教えるために、天皇はご退位のご希望があれば、国家機関とのご相談のうえで、ご退位もあり得ると、昭和21(1946)年の段階で発言している。
岩井:それはすごい。戦争責任のとり方も絡むのでしょうが、天皇がへそを曲げたら辞められる、ということですかね。
園部:そうです。南原氏も、退位の自由を認めないのは天皇の基本的人権を侵害しており、その意味で退位もあり得るとおっしゃっている。終戦翌年すでに、東大と京大の両巨頭が退位という言葉も使って議論をしているのに、退位がタブー視されたまま今日に至ったのは、残念だと思います。
岩井:お言葉をじっくりと読むと、両陛下のお考えがにじみ出ていると感じる箇所があります。
陛下は、「国民のために祈るという務めを、人々への深い信頼と敬愛をもってなし得たことは、幸せなことでした」と話しています。つまり、国民との間に信頼し、敬愛し合う関係があってこそ、天皇の祈りは意味をなす、と。天皇、皇后の公務は、明仁さま、美智子さまという二人の人間がなせる業で、抽象的な天皇、皇后が来られたからありがたい、ということではない。しかし、属人的な性格を帯びる両陛下の仕事を、引き継げるでしょうか。
園部:制度を考えるときには、個人の考え方やあり方を除外して、地位を基本として考えます。海外の王室のように、ご本人は健康でも、跡継ぎが一人前に成長したから譲位する、という考えもある。
岩井:だが、皇位の継承は、人脈を引き継ぐこととは違う。皇太子さまも広く国民と接しないと、天皇の祈りと癒やしの力を持てないよ、と陛下はお言葉で伝えているようにも感じました。
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