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天皇陛下の「お言葉」の真意をくむべき(C)AP
「お気持ち」に応えれば改憲戦略は先延ばししかない 永田町の裏を読む
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/187495
2016年8月11日 日刊ゲンダイ
天皇の「お気持ち」表明についての識者コメントで、いちばんひどかったのは2人の憲法学者で、ひとりは横田耕一・九大名誉教授の「退位を希望する理由が公務負担の重さなのであれば、減らせばよい。極端に言えば、国事行為だけをしていれば問題ない」(日経9日付)というもの。もうひとりは浦田賢治・早大名誉教授の「憲法に根拠がない公的行為は憲法違反」(東京9日付)だ。
いったい何を聞いていたのだろうか。天皇はメッセージを通じて、国事行為以外の、被災地慰問、戦跡地慰霊はじめ公的行為で全国各地を歩き、人々とじかに触れ合うことこそが「天皇の象徴的行為」として最も大切なのであって、「全身全霊をもって」それを果たせなくなるのでは天皇の座にあることに意味がない、と訴えているのである。「国事行為や公務を限りなく減らしていく」ことや、「摂政を置く」ことは、そのことの解決にはならないとも明言している。
憲法にある国事行為は、元首であった明治憲法下の天皇の行いを、形の上だけで引き継いだもので、もし公務を減らして解決するなら、こちらを廃止するのが筋である。この学者どもは、憲法の条文が何より大事で、天皇の心や体がどうなろうと知ったことではないという倒錯に陥っている。
さて、摂政はダメだと言われてショックを受けているのは、安倍晋三首相だろう。皇室典範の見直しとなると、10年前の「女性天皇・女系天皇」や野田政権時の「女性宮家」の議論が蘇ってきかねない。「男系男子」一筋で「万世一系」神話を守りたい安倍やその背後の日本会議系の右翼は、それを何より嫌っていて、現典範の摂政条項の拡大解釈か、1回限りの特別立法で切り抜けようと模索していた。
しかし、そういう姑息な手段でなく、皇室が未来にわたって安定的に存続していけるような抜本的な皇室改革を考えてもらいたいというのが、お気持ちの根本趣旨であるから、安倍は有識者会議を編成して本格的に議論し、しかも早急に結論を出さなければならない。漫然と先延ばししているうちに万が一、天皇が病に伏すようなことがあれば、切腹では済まないことになるからである。
むしろ、秋に憲法審査会を開いて、来年にも「環境権」か何かでお試し改憲を、という安倍の改憲戦略のほうを、大幅に先延ばしせざるを得ないのではないか。安倍が天皇のお気持ちとそれを支持する世論に応えようとすれば、日本会議系からの安倍批判がますます激しくなるという股裂き状態に追い込まれつつある。
高野孟 ジャーナリスト
1944年生まれ。「インサイダー」編集長、「ザ・ジャーナル」主幹。02年より早稲田大学客員教授。主な著書に「ジャーナリスティックな地図」(池上彰らと共著)、「沖縄に海兵隊は要らない!」、「いま、なぜ東アジア共同体なのか」(孫崎享らと共著」など。メルマガ「高野孟のザ・ジャーナル」を配信中。
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