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特別リポート:明日見えぬ難民申請者、広がる不法就労の闇市場 ニクラスはなぜ死んだか、入管収容所の現実
http://www.asyura2.com/16/senkyo210/msg/856.html
投稿者 軽毛 日時 2016 年 8 月 09 日 13:31:15: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

特別リポート:明日見えぬ難民申請者、広がる不法就労の闇市場

 8月8日、戦火や民族紛争で疲弊した祖国を逃れ、日本に救いを求めてやってくる難民申請者が増加の一途をたどっている。写真は、トルコ国籍のクルド人、マズラム・バリバイさん(24)と妹のスーザンさん。埼玉県蕨市の自宅で昨年10月撮影(2015年 ロイター/Thomas Peter)
[蕨市(埼玉県) 8日 ロイター] - 戦火や民族紛争で疲弊した祖国を逃れ、日本に救いを求めてやってくる難民申請者が増加の一途をたどっている。政府の厳しい入国管理の下、彼らが難民認定の厚い壁を越えるのは容易ではない。入国管理施設から「仮放免」されても、就労が禁じられているため、彼らの多くは不法に職を得て生計を立てざるを得ない。
しかし、政府の閉鎖的な姿勢とは裏腹に仮放免者による不法就労は、すでに民間の建設業などを支える人材供給源となっている。そして、そのブラックマーケットがいまや公共事業にまで広がっていることが、ロイターによる取材でわかった。
──関連記事:特別リポート:ニクラスはなぜ死んだか、入管収容所の現実
「移民政策はとらない」と公言する安倍晋三政権。一方で、外国人労働者を「のどから手が出るほど欲しい」と希求する企業側。仮放免者をとりまく矛盾や混乱は、現実に立ち後れる日本の不透明な対応を浮き彫りにし、その中で多くの外国人が難民として認定されないまま、将来を描けない暮らしを続けている。
<不安定な「仮放免」の日々>
トルコ国籍のクルド人、マズラム・バリバイは、日本に到着して8年以上、24歳になった今もなお、政府による難民認定を待ち望んでいる。父親がトルコの政府軍兵士に拷問されるところを目撃し、身の危険を感じて日本への脱出に踏み切ったものの、定住資格がとれないまま仮放免という立場を強いられている。就労は許されておらず、いつまた収容されるのかもうかがい知れない日々が続く。
仮放免とは、本国への退去命令が出て収容された外国人が家族や友人、支援団体などを身元保証人とし、収容所から暫定的に出所できるという制度。仮放免中は仕事につくことが許されていないため、身元保証人が生活費の面倒をみることが建前となっている。就労の事実が見つかれば、再び拘束される恐れがある。
生きるためには働かざるを得ない。マズラムは不法就労と知りつつ、道路の普請、下水道の工事、その他さまざまな現場で汚く危険な仕事に従事してきた。請け負った仕事が公共事業だったこともある。マズラムは、自分の毎日の仕事が日本の政府や市民のために役立っているのに、なぜ就労が認められないのか、という思いにかられることがしばしばある。
だが、どれほど彼が身を粉にしても、日本への定住という未来につながる扉が開くわけではない。
「日本政府は働いてはいけないと言うけど、外国人がいないと日本は困るって、みんなわかってる。建設の仕事も全然進まなくなる。政府は誰よりもそれをわかってる」。マズラムは建築現場で鍛えた日本語で早口に語った。
マズラムの兄と弟もまた仮放免の身でありながら、東京近郊で公共工事に従事したことがある。ロイターが取材した多くの仮放免中のクルド人の中で、30人以上が民間企業に雇われ、ビル解体の仕事をしていた。
<懸念示す政府、企業は7割強が受け入れ支持>
日本への定住を求める外国人をどう受け入れるべきか。その政策論議は始まって久しいが、世界の地政学情勢が大きく変化し、移民や難民が急増しているにもかかわらず、日本の対応は大きな進展を見せていない。
一方、出生率の低下と高齢化で、日本は1990年代前半以来の最大の労働力不足に見舞われている。にもかかわらず、安倍首相は昨年9月に国連で演説した際、日本には「移民を受け入れるより前にやるべきことがあり、それは女性の活躍であり、高齢者の活躍」だと強調した。
「(移民や難民の受け入れには)治安に対する不安がある。さらに国内の雇用を食ってしまうのではないかという懸念。そういうことも含め、まだ移民という言葉に対するアレルギーがある」。安倍首相の補佐官、柴山昌彦衆院議員は日本人の抵抗感について、こんな見方を示す。
しかし、企業側には、そうした抵抗感はほとんどない。ロイターが昨年10月に企業を対象に行った調査によると、中堅・大企業の76%が外国人単純労働者の受け入れについて「支持する」と回答した。
とりわけ、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向け、建設業界は深刻な労働者不足に直面する。鹿島建設(1812.T)の伊藤仁常務執行役員は、ロイターとのインタビューで、東京五輪直前の2018─19年に「建設業界は過去に経験がない規模の工事量を同時期に施行することになる。技能労働者不足が非常に懸念される」とし、外国人労働者について「その2年間はのどから手が出るほど欲しい」と話した。

http://static.reuters.com/resources/media/editorial/20160804/japan-labor.gif 
急速に高齢化が進む日本では、労働力不足が深刻化
入国管理の厳格化をすすめる政府。外国人労働者への期待を高める企業側。日本の矛盾した現実が、難民申請者らを不法就労の闇市場に誘い込む。そして、人材ブローカーを通じ、彼らの労働力が日本企業に供給される。
昨年、ロイターは、富士重工業(7270.T)の主力ブランドであるスバル車が米国で一大ブームを謳歌する背景として、アジアやアフリカから日本に来た難民申請者らが劣悪な環境の下、同社の系列会社工場で働いている、との実態を報じた。さらに今年、入国管理局の収容所において、難民申請者の処遇には医療システムを含め深刻な問題があることを明らかにしてきた。
──関連記事:特別リポート:「スバル」快走の陰で軽視される外国人労働者
<病気になれば借金が増える>
多くの一般国民からは実態が見えにくい難民申請者だが、彼らの数は各地にコミュニティーが生まれるほどの増加を続けている。
その一つは、埼玉県蕨市と川口市周辺に広がる通称「ワラビスタン」。日本が高度成長期にさしかかった50年ほど前に人気を博した映画「キューポラのある街」はこの地の鋳物産業が舞台だった。そこに、いま約1200人のクルド人が住む。クルディスタンがクルド人の地を意味することから、蕨とかけあわせた「ワラビスタン」という呼び名が生まれた。マズラムもこのコミュニティーの住民だ。
ワラビスタンに住むクルド人の多くは難民申請者だ。彼らは日本人が嫌がる、いわゆる3K(きつい、汚い、危険)の仕事をしながら、自分や家族らの生活を支えている。支援団体などによると、これまで日本で難民申請をした数多くのクルド人の中で、認定をうけることができたのは1人としていない。昨年、日本で難民申請した7586人のうち、認められたのはほんのひと握りの27人にすぎない。
2015年12月時点で、日本は1万3831件と過去最高の難民申請を審査中だ。2015年末の仮放免者数は4701人。支援団体などによると、このうち約400人がクルド人だという。
マズラムの父、ムスタファは1999年にトルコの非合法武装組織クルド労働者党(PKK)を助けたとして現地政府に逮捕された。マズラムは難民審査官に、「7歳の時、父が私の目の前で拷問された」と話した。将来への不安を感じたバリバイ家は日本に避難する道を選び、数年の間に両親と5人の子どもたちも日本にやってきた。
裁判記録によると、父ムスタファは2000年に無罪になっていたが、彼の精神は日本に来てからも安定しなかった。
悪夢にうなされては暴れ、一家が住むアパートの部屋の壁は、あちこちに穴があいた。2008年、過去の拷問による心的外傷後ストレス障害(PTSD)とうつ病を患っていると診断され、抗うつ薬、鎮静剤、痛み止めなどの服用を始めたものの、昨年12月27日、近所の公園で、ムスタファは首をつり死んでいる姿で発見された。
仮放免という不安定な状況の中で、マズラムには、父の不遇の死に加え、一家7人の生活を支える重荷がのしかかる。月収は、毎月異なるものの、およそ30万円程度。だが、その収入が続く保証があるわけではない。契約書なしで就労している多くの仮放免者たちは、現金で報酬を受け取り、通告なく解雇されることもある。住民登録ができないため、部屋を借りる、銀行口座を開く、携帯電話の契約をする、といった生活に必要な手続きを自分の名義ですることは不可能だ。
最も深刻な問題は、健康保険証がないことだ。バリバイ一家には、数十万円の未払いの医療費がある。昨年、7歳の息子デニスが肺炎になり、68万円の医療費が請求された。病気になることは、借金を抱えるのと同じ、という状況が続いている。

民族性を示すため、マズラムさんは腕に「クルディスタン」とタトゥーを入れている。埼玉県蕨市の自宅で昨年10月撮影(2016年 ロイター/Thomas Peter)
救いがあるとすれば、川口市の建設業には全国平均を大きく上回る雇用機会がある、という点だろう。例えば、土木業の有効求人倍率でみると、今年3月は全国平均が2.70倍だったのに対し、川口市は7.8倍に上った。しかも、日本人は通勤圏内の東京に職を求める傾向があるため、地元には外国人の就労機会が少なくない。建設現場は特にクルド人の労働力を求める。
川口市の奥ノ木信夫市長は、クルド人たちに就労資格がないとしても、市として労働を止めさせることは難しいとの考えだ。
市長はロイターのインタビューで、クルド人の状況について「きちんとした証明(就労許可)がなくても、現実には勤めているのが本当だと思う。しかしそれを今さら市が、働いてはいけないとは言えない。誰でも生活していかなければならないし、家族もあるだろう」と述べた。
そして、そうした仮放免者に正式な在留・就労許可を与えない政府のやり方に不満を示し、川口市としては、就労許可を得て働いてもらい、納税してもらうのが最も望ましいと語った。
<見返り求めない被災地支援>
川口・蕨両市にまたがる「ワラビスタン」コミュニティーができ始めたのは1990年代。観光ビザで日本にやってきたクルド人たちが同地域に住み始めたのがきっかけだった。定住資格のない不安定な立場ながら、20年あまりの歳月の間に、日本人との「共存」をめざす機運がコミュニティーの中に大きく広がっている。

埼玉県蕨市で記者会見をする日本クルド文化協会のワッカス・チョラク事務局長(前列中央)と首にコルセットを装着したマズラム・バリバイさん(後列右から2番目)。トルコ大使館で在外投票を待つ間にトルコ人とクルド人が衝突、けが人が出たという。昨年10月撮影(2016年 ロイター/Thomas Wilson)
それを物語る出来事は、2011年3月11日の東日本大震災後に起きた。仮放免者は居住している都道府県を離れる場合には政府の許可を取らなくてはならない。東北地方が大きな被害に見舞われているとの知らせをうけ、土木経験のあるクルド人たちが震災復興のボランティアとして、許可証を携えて被災地に向かった。テントで寝泊まりしながら、がれきの撤去作業などを行ったという。
被災地の一つ、陸前高田市に最初に到着したクルド人グループの一員、マフムト・チョラクも難民申請中で仮放免の身だ。今年4月には、大地震で被害が広がった熊本地域に、仲間のクルド人とともに車で乗り込み、被災地でボランティア活動を行った。
「入管がこれで在留資格をくれるとは思わない。ただ、被災者が気の毒だったから行っただけだ」。マフムトは、ボランティアの見返りを期待してはいないと話す。
<「義を見てせざるは勇なきなり」>
都内で小規模な建設会社を経営する木下顕伸社長。クルド人を雇うことについては、彼らが生活できるようにという思いやりだ、としたうえで、「義を見てせざるは勇なきなり」と述べた。そして、「現場とすれば、ウィンウィン(相互利益)の関係」と語った。
同社と契約している下請け会社は、約50人のクルド人を解体現場で雇っている。彼らの多くは6カ月ごとに更新する就労資格を持っているが、ロイターの取材によると、就労できない仮放免者も一部、含まれている。就労資格のない外国人を雇うと、雇用者は3年以下の懲役または300万円以下の罰金を科せられる。
日本の永住権を持っているクルド人が経営するさらに規模の小さな建設会社では、仮放免の友人や親せきを雇うことは頻繁にあるという。多くは日本人の会社が請け負わない、利益の薄い仕事を受けている。

千葉県の解体現場で働くクルド人。昨年10月撮影(2016年 ロイター/Thomas Peter)
<政府の具体的な取り組みは手つかず>
難民申請者を含む外国人労働者の受け入れが課題になる中、事態改善に向けた政策論議も続いている。自民党は今年、特命委員会を設けて外国人労働者の受け入れについて議論し、高度人材だけでなく、介護、農業、旅館等の分野で受け入れを進めていくべきだ、とする提言をまとめた。
7月の参議院選挙の公約にも、外国人労働者が適切に働ける制度の整備が盛り込まれた。
ただ、具体的な取り組みは全く進んでいない。政府の日本再興戦略には、「外国人受け入れの在り方について、総合的かつ具体的な検討を進める」と書かれているが、具体的に何を検討するのかというロイターの質問に、日本経済再生総合事務局の廣田新参事官補佐は「全く検討が始まっていないので、何とも言えない」と答えた。
法務当局の姿勢にも変化の兆しは見えない。就労資格のない仮放免中の外国人が公共事業の建設作業に従事していることについて、法務省入国管理局警備課の鳥巣直顕法務専門官は、「公共事業かどうかにかかわらず、認められない活動(労働)をしているのであれば好ましくないし、そういう状況はやめていただきたい。是正する必要がある」と答えた。仮放免など現行の入管制度について、見直す計画はないという。
難民認定のあり方について、ロイターが今年6月、同省に当時の岩城光英法相とのインタビューを申し込んだところ、「日程が調整できない」として拒否された。
こうした日本の行政当局の動きを難民申請者たちはどうみているのか。
マズラムは、10年近く住んでいるこの国が、自分を難民として受け入れる可能性はほとんどないと自覚している。朝から10時間に及んだ仕事を終え、毎日のようにユーチューブでクルドの若者たちがシリアでイスラム国(IS)と戦う映像に見入る。
「日本の政府は何もやってくれない。なんでもダメだって言うだけ」とマズラムの言葉は厳しい。「明日のことは考えられない。日本を追い出されたら、(トルコに)帰って死ぬしかない」。

クルド人たちのコミュニティーは、埼玉県蕨市と川口市の組織犯罪が多い労働者階級の居住区にある。蕨市で昨年10月撮影(2016年 ロイターThomas Peter)
(文中、敬称略)

(宮崎亜巳、Thomas Wilson、舩越みなみ、斎藤真理 編集:北松克朗)
スライドショー:日本で広がる不法就労の闇市場

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Mazlum Balibay, 23, speaks two days after he said he was attacked by a group of Turkish men as he waited to vote in Turkey's parliamentary election, in his flat in Warabi, north of Tokyo, October 28, 2015.
REUTERS/STAFF
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http://jp.reuters.com/article/special-report-jp-refugee-idJPKCN10J2JY?sp=true 

 
特別リポート:ニクラスはなぜ死んだか、入管収容所の現実
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 祖国スリランカの海沿いの町に夫の無事を祈る妻を残し、およそ1年3カ月前、ニクラス・フェルナンド(当時57)が急死したのは、東京・品川にある東京入国管理局の収容所内だった。写真はフェルナンドの遺影と嘆く妻。スリランカのチラウで2015年11月撮影(2016年 ロイター/Dinuka Liyanawatte)
[東京 9日 ロイター] - 祖国スリランカの海沿いの町に夫の無事を祈る妻を残し、およそ1年3カ月前、ニクラス・フェルナンド(当時57)が急死したのは、東京・品川にある東京入国管理局の収容所内だった。
日本に到着してわずか10日後の2014年11月22日、施設に収容されていたニクラスは胸の痛みを訴え治療を求めたが、病院には搬送されず、その数時間後に息を引き取った。急性心筋梗塞だった。
「(収容所側の対応に)重大な落ち度はなかった」。法務省入管当局は彼の死亡についてこう結論づけた。他の多くの被収容者のケースと同様、この事案は管理責任が明確に問われることなく、同氏の家族への詳細な説明も行われないまま処理された。
ニクラスが死に至る過程で、何が起きたのか。
──関連記事:アングル:トラブル絶えない入管収容所、海外からも厳しい視線
ロイターが収容所内の目撃者、多くの被収容者、医師、弁護士への取材や独自に確認した資料をもとに行った調査からは、入管当局の説明にはないさまざまな問題が浮かび上がってきた。
取材に応じた人々の多くは、収容所の警備官がニクラスに起きた異変を正しく判断すれば、救命できる可能性もあったと証言する。
さらに、収容所では被収容者の健康悪化、精神障害、突然の死亡などを防ぐため医療体制の整備が急務になっているが、公的な監視機関、日本弁護士連合会などからの再三の改善要請にもかかわらず、当局の対応は遅々として進んでいない、という実態も明らかになった。
<ガラス越しの最後の面会>
入国管理局は、収容命令を受けたり、本国への送還措置が決まった外国人を収容所に入れ監視下に置く。厳重な警備が敷かれた施設内では、自殺を含む死亡事故、自傷事件、あるいは拘禁状態が長期間続くことによる精神疾患の発生が後を絶たない。
法務省によると、全国17の施設に収容されているのは1070人(2015年11月1日時点)。これらの施設では過去10年間に4件の自殺があり、12人が収容中に死亡した。最も新しい事例であるニクラスを含め、4人の死亡事案は2014年11月までの13カ月間に起きている。これ以降、死亡事案はないが、自殺未遂や自傷事件は東京入国管理局で14件(2015年)発生している。

http://static.reuters.com/resources/media/editorial/20160307/refugees-in-japan.gif 
日本で急増する難民申請者
ニクラスの急死は、こうした日本の入管収容施設の厳しい現実をあらためて物語っている。
ロイターの取材によると、彼がスリランカを離れたのは、日本で難民申請をしている息子に会うためだった。次男ジョージ(27)は妻と一緒に同年11月12日、羽田空港に父を迎えに行った。しかし、何時間も待ったが、父は到着ゲートから出てこなかった。
ジョージが父に会えたのはその2日後の14日。「触れることもハグすることもできなかった」ガラス越しの面会だった。観光ビザで来日したものの、ニクラスが観光目的を証明できないとの理由で空港内の収容施設に拘束されていたためだ。

息子のジョージが「敬けんな家庭的な男性だった」と表現する父ニクラスの写真を見せる。千葉の自宅で昨年11月撮影(2016年 ロイター/Yuya Shino)
入管法に詳しい複数の弁護士によると、観光ビザを持っていても、所持金不足などで観光目的が疑わしいと判断され、入国が許されないケースは珍しくない。法務省によると、2014年には、2226人がそうした理由で入国不許可となっている。
ガラス越しのやりとりが、ジョージにとって父との最後の面会になった。ニクラスは17日、出入国管理及び難民認定法に違反した疑いがあるとして羽田空港から品川の東京入国管理局に移送され、5日後の22日に心臓発作を起こして他界する。
ロイターが確認した資料や目撃証言によると、ニクラスは死亡当日の午前7時19分に収容施設の警備官に胸の痛みを訴えた。警備官は心拍数と血圧を測定、その際に異常は認められないと判断したが、あらためてニクラスの症状を確認するため、同8時少し前、彼を別室に移した。通訳をする別のスリランカ人被収容者も一緒だった。
別室からいったん共同部屋に戻ってきたニクラスは、ようやく病院で治療を受けられると思い、安心した表情だったと目撃者は話す。しかし、連れていかれたのは病院ではなかった。午前8時16分、彼は監視カメラを備え付けた隔離室に移された。その後、警備官は、声をかけても応答がなかったので、彼が眠っていると判断したという。それから数時間、ニクラスはうつ伏せに横たわったままだった。
隔離室の窓越しに彼の異常に気づいた他の被収容者が、警備官に知らせたのは午後1時過ぎだった。警備官はAED装着、心臓マッサージなどの救命措置を行ったが効果はなく、午後1時20分に救急隊が到着。ニクラスは病院に搬送されたが、午後3時03分、死亡が確認された。
ロイターは、ニクラスと同じ被収容者で、その時の状況を知る4人の目撃者に取材した。その1人で現在は仮放免中のカナダ人、ジェームス・バーク(30)によると、ニクラスは隔離室に移される前、「私はクリスチャンだから嘘はつかない。病院に連れて行ってくれないと死んでしまう」と聖書を手に英語で叫んでいた。その声は周囲に響いていたが、彼が立って話していたため、警備官は容態が重いとは受け止めていなかったようだ、とバークは言う。

二クラスが病院に連れて行ってくれと頼んでいたと語る、当時同じ被収容者だったカナダ人のジェームズ・パーク。都内にある東京入局管理局の前で昨年12月撮影(2016年 ロイター/Yuya Shino)
共同部屋で一緒だったペルー人被収容者は、ニクラスが病院への搬送を求めていると警備官に伝えた。しかし、警備官は、土曜日なので病院は閉まっているとして拒否した。実際には、東京入管がある港区では、多くの病院が土曜日も外来を受け付けている。
<容態急変判断は「困難」>
この間のニクラスへの措置について、法務省入国管理局が国会議員からの要請で作成した文書がある。
その中で同省は「本人が不調を訴えているとき、既に心筋梗塞もしくはその切迫状態にあったと思われ、医療機関に連れて行くことが必要であった」としながらも、「対象者の行動や顔色等からは、その時点において、こうした病状にあると明確に判断することは困難を極める」と指摘。さらに、彼の訴えが警備官に十分に伝わらなかった理由として、「通訳に同収者(他の被収容者)を利用し、同人が正確な通訳をしなかった」ことを挙げている。
隔離室に移された後のニクラスについては「9時33分以降、身体の動きは一切なし」とし、「(警備官は)本人が横になった後、容態が落ち着いて就寝したものとの思い込みから、以降、声かけや呼吸の確認等を実施せず、就寝姿勢が変わらないことにも気付かなかった」と説明している。
ロイターの取材に対し、入国管理局警備課の鳥巣直顕法務専門官は昨年10月、当時の東京入管の対応について「重大な落ち度はなかったと考えている」との判断を示した。
警備官がニクラスの訴えを理解していたかどうかについて、同専門官は「胸が痛いというのは理解していた」としながらも、「落ち着かせれば、おさまるのだろうという判断だったと思う。救急車を呼ぶまでの重篤な症状ではなかったという認識だった」と振り返った。

二クラスの息子ジョージ(中央)と彼の妻と弟。彼らの住む千葉のアパートで昨年11月撮影(2016年 ロイター/Yuya Shino)
彼の遺体を解剖した東京医科歯科大学の上村公一医師は、この事案については事件性のない通常の解剖事案とは異なり、法務省から鑑定書を書くよう依頼があったと明かした。さらに入管側が改善すべき点についても、医師としての意見を書き添えるよう要望されたという。
同医師は、法務省がこのケースを特別扱いにした理由について、ニクラスへの医療が適切に行われず、病気が悪化した可能性がかなり高いと判断したからではないか、と話す。
同医師自身も、彼の様子をとらえたモニターカメラの映像を確認し、画像は良くなかったものの苦しんでいる様子はわかったと指摘。入管側の対応は遅く、収容施設の医療全般についても「かなり不十分」との見方をしている。
<実現していない再三の改善勧告>
日本で不慮の死をとげたニクラスのケースは、遺族にすら十分な説明がないまま、過去の出来事になりつつあるかに見える。
だが、緊急の救命医療を求めたニクラスに対し入管側の配慮に不備はなかったか、さらにこうした事態を未然に防ぐ対策を当局は十分にとっていたのか、さまざまな問題はなお残っている。
入国者収容所の運営を監視する機関として、法務省は2010年に、法曹関係者、医療関係者、学識経験者、NGO関係者など10人からなる「入国者収容所等視察委員会」を東日本、西日本にそれぞれ1つずつ設けた。視察委員の氏名は非公開で、各委員には視察内容などについて「守秘義務」がかかる。ニクラスの事案は、死亡の2週間後、同委員会に報告された。
ロイターの取材によると、委員会は資料の分析などを行い、昨年7月、施設側の対応を「不適切」とする文書を東京入国管理局長に提示した。
その中で、同委員会は、救命治療を訴えたニクラスへの対応について、「職員は重篤性の判断を誤り、直ちに救急搬送しなかったことから、死亡という結果を回避する機会を失ったものと思われる」と指摘。さらに「被収容者の生命を守るべき施設として、不適切な対応があったと言わざるを得ない」との判断を示している。
法務省の鳥巣専門官は「不適切な対応というのがどういうものか、個別にみると難しい」とし、「同じことが起こらないようにするためにも、医療体制やさまざまな面での強化、改善を今後も続けていくとしか言えない」と話している。
それ以前からも、同委員会は法務省に対し、入管収容施設の医療体制を改善するよう、毎年のように提言している。
昨年3月12日付の「東日本入国管理センターの医療問題に関する意見書」では、14年3月に死亡したイラン人男性とカメルーン人男性のケースを含む3例を取り上げ、施設内の診療や外部医療機関での受診を希望しても実現には時間がかかる、などと指摘。常勤医師の雇用に向け最大限の努力をすることなど、「受診の要否を判断するシステムなどを見直すことなどにより、改善が図られるべきである」と強調している。
昨年5月には、前視察委員1人が、当時の上川陽子法相あてに書簡を書き、現役の視察委員1人とともにそれを直接手渡して、医療体制の改善を求めた。
ロイターが取材した8人の現役および元視察委員の全員が、収容施設の医療システムは不十分だと述べた。さらに、多くが常勤医師の確保など改善への提言が実現されていないことに不満を示した。
実際に、職員に対する新たな研修の実施、2名の警備官に准看護士の資格取得を指示するといった措置以外、根本的な改革はなされておらず、ニクラスの死から1年3カ月経った現在でも、全国に17ある収容施設のうち、常勤医師がいる施設はまだない。

茨城県牛久市にある東日本入国管理センターの収容室の内部。昨年3月撮影(2016年 ロイター/Yuya Shino)
<「闇に葬られる可能性」>
ニクラスが死亡する2週間前の11月7日には、日弁連も別のケースに関する独自調査に基づき、入管収容施設の現状について「医療を受ける権利を侵害したものとして、人権侵害行為があったというべき」とする見解を当時の上川法相あてに提出した。
しかし、法相がこれに回答したのは8カ月経った昨年7月。「改善を求められている事項についても、従来から既に実施している事項であり、勧告を受けて改めて改善措置を講じた事項はありません」とする極めて簡素なものだった。
「法務省の体質を考えると、(死亡事案の詳細が)闇に葬られる可能性はあると思う」と元視察委員の廣瀬理夫弁護士は憂慮する。
旅行会社を経営し、敬虔なカトリック信者でもあったニクラスは、日本への出発前、教会に一晩中こもって熱心に祈りをささげた。そして、妻マグレットに「帰って来るまで子どもたちの面倒をみてくれ」と言い残していったという。
スリランカ西部のチラウにある自宅には、いま同氏の遺影が置かれている。ロイターの取材に対し「今でも彼の声が聞こえる。彼なしで幸せはこない」とマグレットは涙を流した。
法務省は遺族に対し、遺体の解剖結果を口頭で説明したとしている。しかし、ニクラスの急死から1年3カ月が経過した今も、それ以上の詳しい説明は遺族に届いていない。
昨年3月に法務省がまとめた「東京局におけるスリランカ人被収容者死亡事案に関する調査結果報告」と題する文書がある。ロイターが行政文書開示請求で入手した同報告書は、A4サイズ4枚の分量。しかし、「処遇(健康状態の確認)状況」「死亡に至る経緯」「外部医師による意見」「問題点」という肝心の項目は全て黒く塗りつぶされていた。
(文中、敬称略)
(Thomas Wilson、宮崎亜巳、舩越みなみ、斎藤真理 取材協力: Shihar Aneez、Antoni Slodkowski 編集:北松克朗)
2014年11月、来日したスリランカ国籍のニクラス・フェルナンドさんは、観光目的の訪日ではないと判断され、入国管理局の収容所に拘留された。施設内で激しい胸の痛みを訴えたフェルナンドさんだったが、医師の診察を受けられずに息を引き取った。取材したロイターの記者は、日本の入管収容施設の厳しい現実を物語っていると指摘する。
スライドショー:波紋呼ぶ日本の入管収容所での死
 

Detainees are seen through a hatch at the Tokyo detention center which is part of Tokyo Regional Immigration Bureau in Tokyo, Japan, December 2, 2015.
REUTERS/YUYA SHINO
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〔マーケットアイ〕株式:日経平均はやや上げ幅拡大、任天堂が活況
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http://jp.reuters.com/article/special-report-idJPKCN0WA2UB 
 

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1. 2017年1月09日 18:02:11 : LY52bYZiZQ : i3tnm@WgHAM[-6539]
2017年1月9日(月)
きょうの潮流

 どこにカメラを向けるか。世界が直面する「難民問題」に正面から向き合った二つのドキュメンタリーに出合いました▽一つは、2016年度ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞した映画「海は燃えている〜イタリア最南端の小さな島」(2月公開)。ジャンフランコ・ロージ監督がカメラを向けたのは、この20年で約40万の難民移民が押し寄せるランペドゥーサ島です▽映し出されるのは、島民たちのありふれた日常。しかし島には瀕死(ひんし)状態の難民がひっきりなしにたどり着く、もう一つの「日常」があります。「こうした人々を救うのは、すべての人間の務めだ」と語る、島でただ一人の医師。小さな島を通して、現在の切迫した問題をあぶりだします▽もう一つは、シリア難民の家族に5年間、密着したNHKの番組「シリアを遠く離れて〜アンマール少年と家族の5年」。内戦で故郷を追われ、家族が引き裂かれた15歳の少年の目を通して戦争を描きます。気づかされるのは、「難民」という言葉でくくられる人々が、自分たちと変わらない人間であること、平和でさえあれば彼らにも平凡な日常があったであろうこと…▽同時に、外国勢力の介入がいかに内戦の泥沼化に拍車をかけているかということも浮き彫りに。真の「国際貢献」とは何か、憲法9条を持つ日本は何をすべきかを突き付けます▽15年、日本では7586人が難民認定を申請しましたが、認定されたのは、わずか27人。これが安倍首相のいう「世界の真ん中で輝く」日本の姿です。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik16/2017-01-09/2017010901_06_0.html


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