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都知事選、我々はなにを嫌ったのか
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小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明
2016年8月1日(月)
小田嶋 隆
まず最初に。
7月15日更新分の連載「ア・ピース・オブ警句」の中で私が断言した
《誰が当選するのかはともかく、投票率が史上最低を記録することだけは現段階で断言して差し支えないと思う。》
という予言を、ものの見事にハズした件について、お詫びを申し上げたい。
私は選挙を舐めていたようだ。
のみならず、民主主義と都民を舐めていたのかもしれない。
予想をハズしたこと以上に、なによりもこの点(選挙と選挙民を舐めていたこと)を反省せねばならない。
政治方面の出来事に関して予測を外すことは珍しいことではない。というよりも、この10年ほど、私はほとんど毎回読みをハズし続けている。
とはいえ、これほど自信満々に断言した案件について、これほどまでにきれいに空振りをしたケースははじめてだ。
政治センスの欠如とは別に、ものの見方そのものが根本的に間違っている可能性を考えてみなければならないのだろう。
以上、お詫びと反省の言葉を述べた上で、以下、なぜ自分の読みが外れたのかについて考えてみたい。
選挙の前、私は
「これほど当選させたい候補者が見当たらない選挙は見たことがない。とすれば、多くの選挙民は投票意欲を持てないはずだ」
と考えていた。
ところが、投票率は、前回の数字をかなり上回っている(59.73%、2014年比で13.59ポイント高)。
この結果を踏まえて、もう一度分析をし直してみると、今回の都知事選は、
「当選させたくない候補者が雁首を揃えていた前代未聞の選挙戦」
だったわけで、それゆえに都民が
「絶対に当選させたくない候補者を当選させないために投票所に足を運んだ」
結果、投票率が上昇したということになる。
なんだかこじつけくさいが、私はそんなふうに見ている。
もうひとつ言えば、前回は、投票に行くまでもなく
「どうせ舛添さんで決まりなわけだし」
という読みが先に立ってしまった選挙で、であるから、特に選挙に熱心でない都民は、あえて投票所に出かける意義を見出すことができなかった。
引き比べて、今回の都知事選は
「与野党がともに候補者選びの段階でグダグダな姿を晒した結果、事前に本命候補がはっきりしない」
戦いであったがゆえに、各候補の支持者ならびに各候補のアンチが、ともに自分の一票を選挙結果に反映させるべく投票する理由は、より明確だった。このことも、投票率を押し上げた理由のひとつになっていると思う。
次に、小池百合子候補の勝因について。
これは、私にはわからない。
無理矢理に何かを言えと言われたら、小池百合子さんがこのたびの選挙で圧勝したのは、彼女が他の2候補に比べてより小さな敗因しか持っていなかったからだという、およそ無責任な分析を垂れ流すことになるのだろうが、これは、分析ではない。
なので、撤回する。
私にはわからないと、もう一度言っておく。私にはわからない。
増田寛也候補と鳥越俊太郎候補の敗因は、それぞれよくわかるが、あえて文字にすることは避ける。
いずれにせよ、自民・公明の与党が推薦する統一候補が明らかな票差で敗北し、民進、共産、社民らの野党共闘がはじめて共同歩調をとって推薦した鳥越俊太郎候補がさらに手ひどい惨敗を喫した結果からはっきりしているのは、少なくとも東京都では、政党および組織票が、無党派層の人気を反映した浮動票に勝てなかったということだ。
この結果(つまり、与野党がともに敗北したこと)は、今後のわが国の政治の行方に、わりとバカにならない影響をもたらすかもしれない。
東京都民が、他府県の住民に比べて、より浮動的な人々であるのは、昔からはっきりしていた傾向で、いまにはじまったことではない。が、それにしても、政党政治がこれほど露骨に否定された選挙結果は、やはり既存の政党にとって衝撃であるはずだ。
アメリカでは、民主・共和両党の政見と支持基盤が、ともに崩壊の危機に瀕している。
ヨーロッパ諸国でも、左右を問わず、既存政党の存在感が、目に見えて退潮しつつある。
その意味で、実は小池都知事の誕生の陰で見逃してはならないのが、弱小政党や泡沫候補が集めた票数を仔細に分析する作業だ。
今回の都知事候補には、典型的なレイシストや、明らかなウソつきが立候補している。
個人的には、こういう極端な人たちに投票する人々の動向をしっかり見ておくべきだと思っている。
フランスの国民戦線も、スコットランド国民党も、登場した当初は、ちっぽけなニッチ政党だった。
それが、たった10年ほどのうちに国政に大きな影響を与える一大勢力に変貌している。
今回の都知事選に立候補した「その他の候補」に分類される彼らが、それぞれどの程度の票を集めているのか、また、その泡沫候補にどんな年齢層のどんな人々が票を投じているのかに、ぜひ注目したい。
選挙を舐めてはいけない。
選挙民を舐めるのはもっといけない。
従来の常識はこれからもどんどん覆されていくだろう。
であるから、この先わが国の政治にどんな変化が訪れるのかについて、私は、安易な予想をしないことにする。
予想はよそう。
非常につまらないダジャレだが、今の時代にふさわしい態度だと思う。
(文・イラスト/小田嶋 隆)
予想はやめても、考えることはやめてはいけませんね。
オチも、もう一息考えましょうか。
当「ア・ピース・オブ・警句」出典の5冊目の単行本『超・反知性主義入門』。おかげさまで各書店様にて大きく扱っていただいております。日本に漂う変な空気、閉塞感に辟易としている方に、「反知性主義」というバズワードの原典や、わが国での使われ方を(ニヤリとしながら)知りたい方に、新潮選書のヒット作『反知性主義』の、森本あんり先生との対談(新規追加2万字!)が読みたい方に、そして、オダジマさんの文章が好きな方に、縦書き化に伴う再編集をガリガリ行って、「本」らしい読み味に仕上げました。ぜひ、お手にとって、ご感想をお聞かせください。(担当編集Y)
■変更履歴
投票率の数字を、最終結果に差し替えました。 [2016/08/01 9:40]
このコラムについて
小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明
「ピース・オブ・ケイク(a piece of cake)」は、英語のイディオムで、「ケーキの一片」、転じて「たやすいこと」「取るに足らない出来事」「チョロい仕事」ぐらいを意味している(らしい)。当欄は、世間に転がっている言葉を拾い上げて、かぶりつく試みだ。ケーキを食べるみたいに無思慮に、だ。で、咀嚼嚥下消化排泄のうえ栄養になれば上出来、食中毒で倒れるのも、まあ人生の勉強、と、基本的には前のめりの姿勢で臨む所存です。よろしくお願いします。
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