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場外乱闘都知事選 文春拡声器に堕した大メディアの本性
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2016年7月23日 日刊ゲンダイ 文字お越し
週刊誌報道の後追いばかり(C)日刊ゲンダイ
31日の投開票日まで1週間あまり。都知事選も佳境のタイミングで飛び出した有力候補者のスキャンダルに、メディアは大騒ぎだ。
今週発売の「週刊文春」が、鳥越俊太郎候補の“女子大生淫行疑惑”を報道。十数年前に当時20歳の大学生に強引にキスをした疑いがあるというのだが、「淫行」のタイトルはあまりにドギツイ。鳥越側は「記事は事実無根」とし、名誉毀損と公職選挙法違反の疑いで文春の編集人を刑事告訴。これを大メディアがこぞって報じた。
文春は先週号で、増田寛也候補が総務相当時に赤坂の高層マンションを2億円ほどで購入したことが大臣規範に反しているのではないかと指摘していた。2週間前の号では、小池百合子候補の政治資金に関する疑惑も報じた。それらがほとんどスルーだったのとエライ違いだ。
もちろん、都知事の資質を問うという意味では、女性スキャンダルを取り上げることも無意味ではない。だが、自分たちでロクに取材も検証もせず、週刊誌記事を紹介するだけのバカ騒ぎに公益性があるのかどうか。それに、ふだんから「政治的中立」を掲げているメディアだったら、鳥越とともに「有力3候補」とされる小池と増田の過去や品性についても、同じように論評して欲しいものだ。
「増田氏は行政経験のある実務型などといわれていますが、岩手県知事時代に県債残高を7000億円から1兆4000億円に倍増させた。1年間で100回以上も出張をして、ファーストクラスも愛用していた。どこが行政手腕に長けているのか。『政治とカネ』の問題で辞任した舛添前知事の後任としてふさわしいのか。本来は、そういうことをしっかり報じて有権者に考える機会を与えるのがメディアの役目なのに、目先のスキャンダル報道に重点を置くのは、一種の目くらましでしかありません」(政治学者の五十嵐仁氏)
週刊誌が取り上げ、テレビが騒いで有権者が惑わされる。その繰り返しだ。
■テレビが取り上げるイシューで決まってしまう
文春側の思惑はともかく、今回のスキャンダル報道で鳥越のイメージダウンは避けられない。新聞テレビが取り上げれば、なおさらだ。なにしろ今は選挙戦の真っただ中なのである。結果的に、ライバルの小池と増田を喜ばせることになった。
元NHK政治部記者で評論家の川崎泰資氏が言う。
「権力側の思惑を忖度するメディアからすれば、野党候補を叩いた方がラクなのでしょう。都知事選の報道は、これまでも『究極の後出し』がどうだとか、候補者のファッションなど外形的なことばかり取り上げてきた。そういう劇場型の選挙報道しかしないから、“空中戦”などと言って利用する候補者も出てくる。その結果、テレビを利用するのに長けた小池氏がリードしているという状況です。それは有権者から考える力を奪うことになる。最後は週刊誌に踊らされ、テレビが取り上げるイシューに流されて、すべてが決まってしまうようでは嘆かわしい。政治意識の高い有権者なら、ワイドショーではなく、政見放送をまじめに見た方がいいと思っているはずです」
今回の都知事選には過去最多の21人が立候補している。残念ながら、全員の政見放送を視聴して投票先を決めるという有権者は少数派だろう。手っ取り早くテレビや新聞で情報を取り入れようとする。それを分かった上で偏向する大メディアだから悪辣なのだ。
舛添前知事の二の舞いか(C)日刊ゲンダイ
週刊誌報道を免罪符にして叩きやすい相手を叩く
大メディアの姑息さは、舛添問題の時にも存分に発揮された。これも湯河原の別荘通いを皮切りに、正月のホテル三日月での会議や高額出張費などの問題を文春が連続報道。
大メディアは文春報道に乗っかって、面白おかしく取り上げ、バカ騒ぎに興じていた。さすがに都議会で舛添問題が取り上げられるようになってからは、都庁の記者クラブに詰めている大メディアも率先して動くようになったが、文春の後追いから始まり、最後は寄ってたかって袋叩きにして、舛添を引きずり降ろしたのだ。
ちなみに、日刊ゲンダイ本紙は14年10月時点で、舛添の豪華出張について報道しているが、その時はどのメディアも問題にしなかった。
「公用車や高額出張の件など、調べれば分かることです。記者クラブに入っていながら、そういう問題を自分たちで取材してこなかった怠慢を恥じるべきなのに、文春が報じたら一斉に尻馬に乗って騒ぎ立てる。独自でスクープを取るより、文春の記事を紹介して数字が取れた方がいいという安易な考えなのでしょうが、それでは一般人がSNSでニュース記事をシェアするのと何も変わりません。問題は、新聞テレビがすっかり文春頼みになっていることです。ベッキーさんのゲス不倫、宮崎謙介前衆院議員の育休不倫、ショーンK氏の経歴詐称など、テレビは文春の記事を紹介する形でセンセーショナルに扱ってきた。今では、ネット上のスラングだった『文春砲』という言葉をテレビでも使う始末です。ただし、それはスクープを放った文春への敬意というよりも、自分たちが最初に報じたわけではないと責任転嫁しているだけのように見えてしまう。文春報道を免罪符にして、寄ってたかって攻撃するわけです。各方面との軋轢を生みたくないから、文春を言い訳にして、安全圏から騒いでいるだけではないでしょうか」(政治ジャーナリスト・山田厚俊氏)
■メディアが力を失って喜ぶのは誰か
かように大メディアは文春の拡声器に堕しているのだが、「文春砲」というのなら、甘利前経済再生相の口利きワイロ疑惑はド級だった。鳥越の女性スキャンダルどころではない大問題だし、現職大臣が、大臣室でワケのわからないカネを受け取ったなんて、ワイドショーの格好のネタになるはずだ。しかし、大メディアは及び腰で、甘利の逃げ切りを許した。ペーペーの宮崎前議員と違って、甘利は首相の盟友だからか? 文春は参院選の直前に、安倍首相から出馬要請を受けたというテレビコメンテーターの青山繁晴氏の疑惑も報じた。共同通信の記者時代に取材経費を私的流用した疑惑だ。これもテレビは黙殺し、青山氏は晴れて参院議員だ。
「各メディアが取り上げるニュースをどういう基準で選ぶのかは編集権の問題ですが、公共性というよりは、スポンサーや政権の意向を忖度して決めているように感じます。叩きやすい相手を叩く。それにしても、自分たちで政治家のスキャンダルをスクープする勇気はなく、週刊誌に乗っかって他人のふんどしで相撲を取るしかできないのなら、ジャーナリズムの看板は返上した方がいい。今のような文春頼みを続けていれば、大メディアは衰退する一方です。メディアが力を失って喜ぶのは誰かということを考えなければいけません」(山田厚俊氏=前出)
権力に有利と思えば、週刊誌報道に乗じて徹底的に叩く。権力側に都合の悪いことには目をつぶる。そういう大メディアの堕落が、今回の都知事選報道にも表れている。権力者にとって、これほどラクな状況はないはずだ。
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