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安倍官邸は、これからの野党共闘にとてつもない焦りを感じている〜「年内解散」を急ぐ本当の理由
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49253
2016年07月23日(土) 鈴木哲夫 現代ビジネス
■片山さつきの「危機感」
参院選は、本当に与党の「圧勝」だったのか。実は、野党は統一候補戦略に手応えを感じており、次の衆院選でも候補を統一すべく動いているという。
「そうなると、与党は最大で70議席を失う可能性がある」との声も出る中、安倍官邸内には野党の結束が強化される前に、衆院選を実施すべきとの構想が浮上している。
無論、その先に見据えるのは憲法改正だ――。政治ジャーナリスト・鈴木哲夫氏の特別リポート。
参議院比例、自民党で3位の得票で当選した片山さつき氏。彼女の強さは、「一か所ではなく全国各地からまんべんなく票を集めていること」(自民党選対幹部)にあるという。たとえば、その地域の出身だからとそこから集中的に票を獲ろうとすると、油断も生まれ運動量は減り、総得票は伸びないことが多いという。
片山氏は、それを知る議員の一人だ。全国から票を獲るためには、細かく、足繁く、全国を渡り歩かなければならない。だから片山氏は「首長選挙があると聞けば、どんな小さな自治体でも事前に情報を仕入れて応援に行く。そんなことを日ごろから実践している」(前出幹部)という。裏を返せば、全国の有権者の反応や、自民党への風を他の自民党議員よりも機敏に感じている一人だということだ。
今回の参院選後、あるテレビ番組で私は片山氏と会った。メディアが「与党圧勝」と騒ぐ中、私が「果たしてそうなのか。1人区などは苦戦したのではないか」と聞くと、片山氏は「全国を回ってきましたが、おっしゃる通り」と頷いた。彼女は、自民党へ吹き始めている逆風を感じ取っていたという。
また、参院選が終わった翌日の月曜日の朝。選挙では常に圧倒的な強さを見せる東京選出の自民党議員・菅原一秀前財務副大臣が、選挙区内の駅頭でマイクを手に立っていた。
「参院選でのご支援ありがとうございました」
彼は、参院選で当選したわけではない。衆議院議員だ。その彼が、選挙の翌日に街頭に立っている。参院選で自民党を支援した人へのお礼のあいさつかと思いきや、演説は自分自身の、あるいは、自民党の政策的な話だった。安倍政権が公約で示した景気対策、子育て支援、介護などを必ず実現して行く、とそのタイムスケジュールと約束を訴えていたのだった。
驚くことに菅原氏は、1週間が過ぎた今も、毎朝駅頭に立っている。参院選に勝利して多少は気を抜いてもよさそうなこの時期になぜそこまでやるのか――。私がそう問うと、
。
「参院選は本当に与党の圧勝だったんでしょうかね。私はむしろ危機感を持ちましたけどね」
という答えが返ってきた。選挙区を常日頃から徹底して回っている彼は、世論には鋭敏だ。
「マスコミは改憲勢力で3分の2を獲ったのだから圧勝だと報じていますが、一方で1人区で11も落とした。共産党と民進党の協力がうまく行くはずがないとタカをくくっていましたが、野党協力をナメてはいけなかった、ということです。落ちた現職大臣二人も、安倍政権の重要な政策の柱の『沖縄』と『原発』を担当する二人ですからね。勝った勝ったと緩んでいたらしっぺ返しを食います」
■「衆院選でも統一候補」構想が浮上
片山氏、菅原氏の感覚は、正しいというほかない。
実は、今回1人区で見せた野党統一候補について、民進党と共産との間で、衆議院選挙の小選挙区でも同じように協力する話が進められているのだ。ある共産党幹部は「小選挙区のうち、220でうちは引いても構わない。覚悟はできている。すでに民進党の限られた幹部には話している」と話している。
「私の選挙区もはじめ、共産党も含めて一本化されれば、ひっくり返される自民党現職は70人はいる。駅頭に立っているのは、総選挙へ向けていまから備えなければならないということです」(菅原氏)
今回の参院選の結果を受けて、選挙を知り尽くしている議員ほど、その結果を重く受け止めているのは、徐々に包囲網が敷かれているという雰囲気やにおいを感じ取っているからだ。
もちろん、安倍首相周辺や官邸の住人達も、今回の結果についてはむしろ厳しく見ているという。
「野党共闘はうまく行かないと甘く見ていましたね。しかし11の選挙区を落としたうえ、実を言うと投開票ギリギリまでさらに3つぐらい落としてもおかしくなかったのです。アベノミクスの恩恵がなかなか降りてこなかったり、TPPに反対している地方などは野党の受け皿が成功しているというのが現実です。
その野党共闘が次の衆院選でも水面下で進みつつある。引き締めなければと総理も感じている。圧勝ではない。『辛勝』と感じるかどうかでこの先の政局が決まります」(首相側近の一人)
■またもや12月解散がある?
参院選を終えて、安倍首相は悲願の憲法改正に向けて、残り任期、いよいよ勝負に出ることになる。今回の参院選で自民党56議席、公明党14議席、おおさか維新7議席、それに非改選の無所属など改憲へ前向きな勢力で、発議に必要な3分の2に達した。衆議院はすでに改憲勢力は3分の2が確保されている。
「環境は整った。総理は(改憲に)着手することになりますね。早ければ秋の臨時国会で憲法審査会の議論に入るでしょう。審議時間や国民投票まで考えればゆうに2年はかかる。安倍首相の総裁任期は2018年9月までですからギリギリですね。とにかく早々に始めるのではないか」(自民党国対中堅幹部)
ところが、ここへきてなんと「解散」情報が首相周辺から流れてきた。憲法改正へのシナリオの一つとして、すでに3分の2という改憲勢力がある衆議院を、なぜかわざわざ早期に解散させるのではないかというものだ。そこには、安倍首相の「いつ風向きが変わるか分からない。任期ギリギリではなく一気に進めたい」という狙いと「政治生命をかけた本気」が現れているというのだ。
自民党ベテラン議員は、首相に極めて近い側近から聞いた話を披露した。
「衆参で(議席)数があっても、最後には国民投票があることを安倍首相は強く意識しているという。衆参それぞれで3分の2で発議しても、国民投票で過半数の賛成がなければ達成できない。
そこで、支持率が高いいまのうちに解散して、憲法改正でのプレ国民投票的な意味合いの選挙として位置付けて圧勝し、改憲に着手するに当たり、国民に最初の『お墨付き』をもらう。いまなら衆院でも改憲勢力3分の2の議席は獲れるだろうと。
そうすれば、改憲に慎重な公明党や改憲論議に応じない姿勢の民進党などに対しても、『総選挙で国民の改憲の支持は得ている』という口実でねじり伏せて、どんどん進められる。1年ぐらいで最後の国民投票にまで持って行きたい。そしてその国民投票も当然そのままの流れで過半数は確保できる、というシナリオをイメージしているという」
その場合の解散日程はどうなるのか。
「その側近は、早ければ今年12月に可能性があると話していた。これまで2回の総選挙はいずれも12月で大勝。暮れの忙しい時の投票率は上がらないから、組織票がある自公が強いというわけだ。安倍さんの成功体験に基づいているのだろう。もちろん、この秋にかつてなかった大規模景気対策を打ち出し、北方領土問題でプーチン大統領の来日などで成果を得て選挙を有利に戦うだろう」(同ベテラン)
前出の側近の一人もこう言った。
「今回の参院選を『辛勝』とらえれば、政権がいつ逆風にさらされてもおかしくない。だからこそ憲法改正をグズグズやっていてはまずいのです。それを考えれば早期解散シナリオは否定できませんね」
悲願の憲法改正へ、解散も絡ませて一気に駒を進めようとしている安倍首相。ただ、参院選で一歩進んだ野党共闘が衆院選で再び結実して大きな勢力になる可能性も安倍首相は「分かっている」(前出側近)という。
参院選終了は、安倍首相の最後の勝負への号砲となった。緊迫の憲法改正をめぐる次の政局が始まろうとしている。(了)
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