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2016年07月19日(火) 牧野 洋
鳥越俊太郎氏の出馬会見を大手メディアはどう報じたか
〜「デジタルデバイド」を助長する報道界の悪しき慣行
都民にとって重要な情報はどこに……
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地元紙として東京都知事選報道に力を入れる東京新聞の14日付朝刊。鳥越氏の公約は「がん検診100%」
重要なニュースを伝えない大手メディア
土壇場で都知事選への出馬を表明したジャーナリストの鳥越俊太郎氏。7月12日に同氏が急きょ開いた記者会見はネット上ですぐに話題になった。
鳥越氏の出馬表明で野党統一候補がようやく決まったからではない。出馬会見で同氏の準備不足が露わになったばかりか、本当に都政に関心を持っていたのかどうか疑問を抱かせる発言が出たからだ。
にもかかわらず、鳥越氏の出馬会見を報じる大手メディアの多くは都民にとって重要なニュースを伝えずに終わっている。きちんと伝えていたネットメディアやブロガーとは対照的だった。
12日に鳥越氏が帝国ホテルで開いた出馬会見のハイライトをおさらいしておこう。元防衛相の小池百合子氏や元岩手県知事の増田寛也氏らの有力対立候補とみられる鳥越氏だけに、大きな注目を集めた。
鳥越氏は会見の冒頭、自らの出馬理由を説明するなかで、次のように語っている(ヤフー「THE PAGE」の会見全文から引用)。
●(少子高齢化問題に触れて)「東京都では若干、出生率はほかのところよりは高いといわれていますけれども、それでも当然まだ1.4、出生率1.4前後です。これではとても人口を保っていくわけにはいきません」
●(戦争を知る世代であることを強調して)「私は昭和15年の生まれです。終戦のとき20歳でした。もちろん空襲も覚えています。防空壕に逃げ込んだこともよく記憶しております」
出生率については、会見中に裏方から「東京の出生率は1.17で全国最低」と指摘され、その場で訂正している。
だが、鳥越氏が基本的な数字を押さえておらず、しかも東京の出生率は比較的高いという認識を持っていたのは明らかだ。これでは「都政に関心を持っていたのだろうか」と都民を不安にさせてもおかしくない。ちなみに1.4は秋田県(1.38)や青森県(1.43)に近い。
終戦時の年齢は、本当は5歳である。単に言い間違えただけかもしれない。とはいってもその後に空襲・防空壕について「覚えている」「よく記憶しております」という表現が続いている。正しく5歳と言っていたら、同じ表現になっていただろうか。
公約「がん検診100%」に唐突感
次は質疑応答から引用だ(再びヤフー「THE PAGE」の会見全文から引用)。
●(東京五輪・パラリンピックの費用について)「きのう決めたばかりなので、オリンピックの細かい費用についてチェックしておりません。知りません、正直言って」
●(都知事選の争点について)「残念ながら自民党からお出になっている増田さんと、それから小池さんの公約について読んでいません。つまり、関心がなかったからあんまり読んでなかったんです。これから読まなきゃいけない」
●(舛添要一都知事時代に大問題になった韓国人学校への都有地貸し出しについて)「その任にないので、具体的に知りません。だからそれについて明確な答えを持ち合わせておりません」
翌日、日本記者クラブで行われた共同記者会見もネット上で話題になった。小池氏、増田氏、元日弁連会長の宇都宮健児氏とともに壇上に上がった鳥越氏は、最も重視する公約を一つ挙げるよう求められると、「がん検診100%」と書いたボードを掲げたのである。
言うまでもなく東京には重要課題が山積している。全国最多の待機児童、東京五輪・パラリンピックの費用負担、木造密集住宅の地震対策――。鳥越氏は自ら4度のがん手術を経験したことをふまえて「がん検診100%」を選んだのだろうが、唐突感は否めない。
参考までに共同記者会見で小池氏は「東京大改革」、増田氏は「混迷に終止符」、宇都宮氏は「『困った』を希望に変える東京へ」を公約に選んだ。
「コメント編集」がまかり通る日本の報道界
さて、大手メディアは出馬会見をどのように報じたのだろうか。紙面を点検すると、鳥越氏は何の不安もなく立派に会見したように読める。
13日付朝刊の日経は同氏の発言「輝く東京 世界に発信」を見出しに使った。同氏が出生率と年齢で誤ったことや「知らない」を連発したことを目立だせる大手メディアは産経を除いてなかった。
例えば12日の出馬会見の発言要旨を載せている13日付朝刊の毎日社会面。オリンピックの費用については「細かい費用についてチェックしておりません」という部分をカットし、代わりに「大前提としてスモールに」「費用が膨大になれば絶対にチェック」という言葉を紹介している。
地元紙として都知事選に最も多くの紙面を割いている東京新聞も例外ではない。同じ13日付朝刊で「私は民主主義1期生」と題した社会面トップ記事で鳥越氏を紹介し、次のように書いている。
〈 新聞記者出身で、キャスターとして社会問題に切り込んできた鳥越氏。「昭和十五(一九四〇)年生まれ。空襲も、防空壕に逃げ込んだことも、よく記憶している」と、戦後日本の平和の尊さを繰り返した。〉
発言からは「終戦のとき20歳でした」という部分が抜け落ちている。
実は、上記の例に限らず、「コメントの編集」は日本の報道界全体でまかり通っている慣行だ。
米国ではもちろん禁じ手で、違反すれば訴訟沙汰になる。米ジャーナリストのブルース・ポーター氏は著書『ジャーナリズムの実践』の中で「どうしても編集が必要な場合には語った言葉の味わいや意味合いを損なわないよう細心の注意を払わなければならない」と書いている。
一方、産経は鳥越氏の問題点をはっきり指摘していた。13日付朝刊社会面のトップ記事で「鳥越氏 『公約できていない』」との大見出しを掲げ、同氏が会見中に出生率を訂正したことなどに触れている。
翌14日付では「野党候補大丈夫か」と題した編集委員コラムを載せ、終戦時の年齢言い間違えなどを指摘しつつ同氏の資質に不安を示している。
東京新聞もコラムで問題提起している。13日付朝刊の「本音のコラム」で文芸評論家の斎藤美奈子氏は「鳥越氏の会見で判明したのは『この人は都政のことは何も知らない』ということだった」と指摘。ただし、斎藤氏は編集には直接関わらない外部コラムニストであり、産経のコラムを書いた編集委員と立場は異なる。
「デジタルデバイド」を助長する選挙報道
ネット空間を見ると景色はがらりと変わる。主な記事の見出しをざっと拾うと、以下のようになる。
〈 鳥越俊太郎氏が出馬表明し与野党対決へ 公約聞かれても答えられず 〉(ハフィントン・ポスト日本版)
〈 鳥越氏、「特異」な発言に注目集まる、「準備不足」だけが原因なのか 〉(JCASTニュース)
〈 ジャーナリスト鳥越俊太郎氏の記者会見でおそらくみんなが感じたこと 〉(ブロゴス)
〈 鳥越俊太郎氏、ネットとテレビでなぜ評価が異なるのか 〉(NEWSポストセブン)
〈 鳥越俊太郎氏「がん検診100%」を最重要政策として発表 〉(林檎舎ニュース)
鳥越氏の出馬会見報道を見る限り、ブログも含めたネットメディアは総じて都民にとって何が重要なのかを理解して報道していたといえよう。
対照的に新聞やテレビなど大手メディアはニュースの価値判断を誤り、不完全な紙面作りに終わった。ベテラン記者を揃えているにもかかわらず、である。
念のために強調しておくと、上記ネットメディアは改憲に傾く安倍政権に鳥越氏が批判的だから同氏に厳しいわけではない。そもそもハフィントン・ポストはリベラルで鳴らしているメディアとして有名だ。私自身も同じジャーナリストとして鳥越氏には頑張ってもらいたいと思っているし、同氏に批判的な保守系勢力の支持者でもない。
大手メディアは「選挙だからできるだけ偏らないように事実を淡々と報じなければならない」と思っているのだろうか。客観報道を狭義に解釈し過ぎて、都民にとって重要な情報をカットしてしまったのだろうか。
だとすればニュースを正確に伝えておらず、逆に「偏向報道」と見なされかねない。「輝く東京を世界に発信する」と「オリンピックの費用は知らない」のどちらにニュース価値があるのか、ジャーナリストでなくとも分かりそうなものだが……。
このような状況はいわゆる「デジタルデバイド(情報格差)」を助長する。新聞について言えば読者の多くが高齢者であり、ネットを使っていない。もしも彼らが「重要な情報はカットされていない」「コメントは正確に引用されている」と信じて新聞を読んでいるとしたら、都知事選をめぐって本当に何が起きているのか知らないままで投票日を迎えることになる。
著者:牧野洋
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