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法治国家を崩壊させた吉田茂と岸信介ー(植草一秀氏)
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5th Jul 2016 市村 悦延 · @hellotomhanks
矢部宏治氏が新著
『日本はなぜ、「戦争ができる国」になったのか』
を刊行された。
『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』
(集英社インターナショナル)
に続く第2弾である。
矢部宏治氏は
名著『戦後史の正体』(孫崎亨著、創元社)
をプロデュースされた方でもある。
矢部氏は『戦後史の正体』のなかで同書刊行の問題意識について、次のように述べている。
○人類史上最悪といわれる原発事故が起きた。
なのになぜ、それまで「絶対に安全だ」と言い続けてきた責任者たちは誰も責任を問われず、
逆に「安全性が確保された」などと言って再稼働を求めているのか。
○公約をかかげて勝利した政権与党の党首(野田首相)が、
なぜ公約に完全に反した政策を「命をかけてやりとげる」などと言い続けているのか。
○本来、社会正義の守り手であるべき検察が、なぜ組織ぐるみで証拠を捏造し、
有力な首相候補である政治家(小沢一郎氏)に冤罪を着せようとしたのか。
検察官の不正はあきらかなのに、なぜ彼らは罰せられないのか。
○右のようなきわめて重大な問題を、なぜ大手メディアは批判せず、むしろ不正に加担しているのか。
そのうえで、
「こうした数々の重大な疑問を解くためには、
「戦後日本」が誕生した終戦直後(占領期)まで歴史をさかのぼって考える必要がある」
と記述した。
私も、
『日本の独立』(飛鳥新社)
『日本の真実』(飛鳥新社)
などに著書において、戦後史の変遷を通じて「この国のかたち」を論じてきた。
孫崎氏や矢部氏と問題意識を共有する。
そして、矢部氏は今回の新著において、
戦後の日本を米国(米軍)が支配し続けてきた背景と根拠を、
具体的な条約や密約の事実を摘示して、見事に表出された。
矢部氏は、本書の冒頭において、米国による日本支配のカギを握る
「密約」
について、先駆的研究をし、重大な業績を残されてきた
新原昭治氏、古関彰一氏、春名幹男氏、我部政明氏、
ならびにその法的構造の解明に着手した
本間浩氏、前泊博盛氏、末浪靖司氏、吉田敏浩氏、明田川融氏、吉岡吉典氏、笹本征男氏の名を
列挙して、心からの敬意を表している。
矢部氏はこうした先駆的業績を確認、検証したうえで、
米国による日本支配の構造を鮮やかに描き出し、読者に提供された。
その意義は極めて大きい。
つまり、単なる推論、仮説の提示ではなく、
法的効力を有する各種の公文書に記載されている「事実」を踏まえて、
戦後日本の対米関係を鮮明に描き出しているのである。
そこに描き出された現実は、文字通り、
「米国に支配される日本」
そのものであり、
この
「米国に支配される日本」
が、誰の手によって生み出されてきたのかを明確に摘示するものである。
米国側の主導者が明らかにされるが、それと同時に、日本側の主導者、首謀者も明らかにされる。
その現実は、権力者の立場にいる者が、立憲主義、「法の支配」の大原則を踏みにじり、
文字通り暴走するかたちで、日本を米国に売り渡してきた、
「売国の作法」
を明示するものである。
矢部氏がプロデュースしている創元社のシリーズの一冊に
『検証・法治国家崩壊−砂川事件と日米密約交渉』
があるが、文字通り、条約+協定+密約による現実規定には
「法治国家崩壊」
の現実が見えてくる。
吉田茂、岸信介、佐藤栄作の3名による「密約」による「日本売り渡し」の「事実」を私たちは確認し、
過去にさかのぼってその責任を追及し、事態の是正を図らなければならない。
岸信介氏の孫にあたる安倍晋三氏が、その「売国の作法」を受け継いでいることは言うまでもない。
「戦後日本の総決算」とは、戦後日本政治における「売国の作法」を明らかにしたうえで、
これを払拭することにある。
戦後日本を正確に理解するうえで、
すべての日本国民が精読しなければならないのが矢部氏の新著である。
敗戦後の日本はGHQによる統治下に置かれた。
GHQといっても事実上は米国である。
そして、GHQの最高司令官であったマッカーサーは、戦後日本の設計において、
日本の非武装中立、農業国化のビジョンを描いていた。
同時に日本の徹底した民主化の路線を敷いたのである。
ところが、対日占領政策が始動すると同時に基本環境に激変が生じた。
米国の外交戦略の基本が
「ソ連封じ込め」
に転換した。
日本の非武装化を定めた日本国憲法が施行される1947年に、トルーマンドクトリンが発表され、
米国の外交戦略の根本が大転換されたのである。
対日占領政策の根幹が「民主化」から「非民主化」に転換した。
米国は日本を「反共の防波堤」として再強化する方向に占領政策の基本方針を大転換したのである。
民主的政権は邪魔な存在となり、片山哲内閣、芦田均内閣は破壊された。
米国が創設したのが吉田茂内閣である。
GHQの主導権は民政局(GS)から参謀2部(G2)に移行し、占領政策が「逆コース」を辿ったのである。
そして、米国の意向によって創設された吉田茂内閣が、米国の意向に沿う日本の「国のかたち」を構築した。
戦後日本の対米従属、対米隷属の系譜の始点に吉田茂内閣を位置付けることができる。
私は著書に吉田茂を「対米従属の父」と位置付けてきたが、
矢部氏の新著は、その判断の正しさを具体的公文書等によって証明するものである。
そして、吉田茂によって構築された「対米従属の構造」を発展、強化したのが岸信介である。
戦後日本の「対米従属」、「対米隷属」の基本構造は、
吉田茂、岸信介の2名によって構築されたものと断じて間違いはないだろう。
そして、この「対米従属」、「対米隷属」の構造は、単に、一政権の基本政策方針としてではなく、
「日米密約」
というかたちで、国際法上の法的根拠を与えるかたちで構築されてきた点により大きな重大性がある。
このことを鮮明に描き出したのが矢部氏の著作、ならびに、既述の先駆的研究及び業績なのである。
さらに言えば、現政権の中枢に位置する安倍晋三氏と麻生太郎氏は、
この「対米従属の始祖」とも言える吉田茂、岸信介両名の直系子孫にあたるのだ。
1952年4月28日にサンフランシスコ講和条約が発効し、日本は独立を回復したとされる。
しかし、これと同時に旧日米安全保障条約が発効し、米軍が日本駐留を継続した。
サンフランシスコ平和条約には、
沖縄を含む南西諸島を国連憲章第77条「敵国条項」を用いて日本から分離した「信託統治制度」のなかに
位置づけ、さらに国連憲章第82条の「戦略地域」に指定し、沖縄を軍事利用して支配する条項が盛り込まれた。
ただし、沖縄については、
「日本は、アメリカが国連に対して、沖縄を信託統治制度のもとに置くという提案をした場合に、
無条件でそれに同意する」
という表現を盛り込んだにもかかわらず、アメリカは結局、1972年の沖縄返還まで、
一度もその提案をせず、沖縄を完全な軍事占領状態に「合法的に」置き続けたのである。
吉田茂首相は、1950年5月3日付の極秘メッセージにおいて、
「日本政府はできるだけ早い時期の平和条約締結を目指している。
その場合、その場合、米軍を日本に駐留させる必要があるだろうが、
もしその希望をアメリカから言い出しにくければ、日本側からオファーすることを考えてもいい」
と記している。
日本側から米国に米軍駐留を求めることを示したのである。
平和条約締結に関する1951年2月3日に日米交渉において、
「再軍備密約」
が交わされ、同時に、
「共同委員会(のちの日米合同委員会)」の大いなる活用」
が吉田茂によって強調された。
詳細は本書をご高覧賜りたいが、
都合の悪い取り決め(過去の条文)
=
見せかけの取り決め(新しい条文)
+
密約
という、「密約の方程式」が活用され、国民の「知る権利」を奪うかたちで、「法治国家を崩壊」させるかたちで、
「国を売り渡す」
「実態上の取り決め」
が形成されていった。
日本は敗戦から70年経過したいまも、完全なる米国の支配下に置かれ続けているが、
この状態を確定した責任の大半は、
吉田茂と岸信介
という2名の首相に帰されると言わざるを得ない。
吉田茂が
「大いに活用するべき」
とした
「日米合同委員会」
は
「米軍による日本支配」
を実行している
「闇の奥」
=
「ウラの最高決定機関」
であり、占領中にできあがった米軍が日本の官僚機構を直接支配する機構なのである。
鳩山政権の下で内閣の意向に反して普天間の辺野古移設を実質的に決定したのも、
この日米合同委員会であると言える。
そして、この日米合同委員会が日本の検事総長を出す実質的な権利を握っており、
日本の法的権力はこの日米合同委員会に握られていると言って過言ではないのである。
矢部氏の新著を熟読することにより、この国の「実相」がはっきりと見えてくる。
国民必読の書である。
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