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日本のサラリーマン記者よ、「権力を監視する」とはこういうことだ! スノーデン事件に学ぶ「本物の覚悟」 映画『シチズンフォー 』の衝撃
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48928
2016年06月17日(金) 牧野 洋 現代ビジネス
『シチズンフォー スノーデンの暴露』予告編
■事件が目の前ではじける迫真のドキュメンタリー
昨年、長編ドキュメンタリー部門でアカデミー賞を受賞した『シチズンフォー スノーデンの暴露』。遅ればせながら日本でも6月11日に公開となり、私もすぐに新宿ピカデリーへ行って鑑賞した。想像以上に衝撃的だった。
『シチズンフォー』の題材は2013年に起きたスノーデン事件。米国家安全保障局(NSA)がテロ対策として大量の個人情報を収集していたことが暴露され、世界を震撼させた事件だ。暴露した本人がNSAの外部契約社員だったエドワード・スノーデン氏で、この映画の主人公だ。
私はすでにスノーデン事件関連の記事や書籍を読んでいたので、事件の概要は知っていた。にもかかわらず衝撃的だったのは、当事者が過去を振り返るのではなく、実際の事件が現在進行形で、目の前ではじけていく形で物語が進むからだ。まさに迫真のドキュメンタリーだ。
なぜこんなことが可能なのか。それは監督のローラ・ポイトラス氏がスノーデン氏からの協力要請を受け入れ、ビデオカメラを片手に事件の一部始終をリアルタイムで記録していたためだ。
撮影の主舞台は、米国政府に捕まれば終身刑必至のスノーデン氏が身を隠していた香港のホテル。2013年6月、ポイトラス氏はジャーナリストのグレン・グリーンウォルド氏とともに同ホテルへ行き、「シチズンフォー」というコードネームを使って交信していたスノーデン氏の正体を初めて知る。以後、8日間にわたって同氏を密着取材したのである。
監視カメラを警戒して赤いカバーで上半身を覆いながらパソコンを立ち上げる。ホテルのアラームに驚いてみんなと一緒に体をこわばらせる。事件をスクープしたグリーンウォルド氏が出演するテレビ番組を生で見る。脱出前に鏡の前でひげを剃って変装する――。
そんなスノーデン氏の姿を捉える『シチズンフォー』はスパイ映画であると同時にリアリティ番組のようだ。ちなみにポイトラス氏本人は映画に登場しない(グリーンウォルド氏は主要登場人物の1人)。
監督のローラ・ポイトラス氏 〔PHOTO〕gettyimages
「スノーデンのPRを手伝っただけなのか」と思ったら大間違いだ。
スノーデン氏に協力するのは非常に危険な行為だった。NSAによるスパイ活動を暴露しようとしていた同氏に加担していると見なされれば、国家最高機密の漏洩の罪に問われて刑務所送りになる可能性もあった。「言論の自由」を保障されたジャーナリストであっても、である。
■ウォッチドッグジャーナリズムの旗手
ポイトラス氏がフリーランスとして行動していた点は特に注目に値する。
権力と真っ向から対立するような大スクープを放つとなると、通常は法的な側面も含めて組織ジャーナリズムの支援を仰がなければならない。しかしスノーデン事件の場合はあまりにリスクが大きかったことから、組織ジャーナリズムでさえもスノーデン氏への協力をためらったのだ(米ワシントン・ポスト紙は弁護士の警告に従って香港への記者派遣を断念した)。
ポイトラス氏がそんな危険を冒してまで香港へ行った理由は何なのか。同氏は映画監督・プロデューサーであると同時に、ウォッチドッグジャーナリズム(権力監視型報道)の旗手でもある。政府の悪事を暴いて民主主義を守ることに人生を捧げている。アカデミー賞の受賞スピーチがそれを端的に示している。
〈 エドワード・スノーデンが人生を懸けて内部告発に踏み切ったことで、私たちのプライバシーばかりか民主主義そのものが危険にさらされていることが明らかになりました。秘密裏に重要な決定が下されると、私たちは権力を監視できなくなります。エドワード・スノーデンをはじめ多くの内部告発者が勇気を出して行動してくれて本当に感謝しています 〉
ポイトラス氏と同様にグリーンウォルド氏も筋金入りのウォッチドッグジャーナリズム派だ。2人が団結したからこそ完成したという意味で『シチズンフォー』はジャーナリスト必見の映画と言える。ウォッチドッグジャーナリズムの担い手である調査報道記者ならばなおさらだ。
スノーデン事件についてグリーンウォルド氏が生々しく書いた『暴露:スノーデンが私に託したファイル』を読んでいたとしても、である。
〔PHOTO〕gettyimages
■「私はあなたを選んでいません。あなたが自分を選んだ」
ジャーナリズムの観点から『シチズンフォー』を見て個人的に最も印象に残ったのは、身元を明かす前のスノーデン氏が暗号化された電子メールを使ってポイトラス氏とやり取りするシーンだ。
スノーデン氏は「なぜ私があなたを選んだかと聞きましたね。私はあなたを選んでいません。あなたが自分を選んだのです」と書いたのである。
要するに、スノーデン氏にしてみれば、権力の脅しに屈せずにNSAの悪事を世の中に公開してくれる相手は、グリーンウォルド氏以外ではポイトラス氏しか思い浮かばなかったということだ。スノーデン氏にとって選択肢は限られていたから、「あなたが自分を選んだ」という表現になった。
ここでのポイントは大きく二つある。「独立性」と「専門性」だ。
独立性においてポイトラス氏は完璧だ。どこの組織にも所属しないでフリーランスとして活動していたからだ。持ち前の反骨精神を発揮して政府に批判的なドキュメンタリーを制作してきたことで、常に当局の監視下に置かれていた。実際、海外取材旅行へ出かけるたびに空港で尋問され、手帳やパソコン、カメラなど取材道具を押収された。それでも屈することはなかった(これでは情報源を守れないと判断し、後にドイツ・ベルリンへ移住)。
専門性についても折り紙付きだ。スノーデン事件が起きる前年には、ポイトラス氏はまさにNSAによるスパイ活動の違法性を問うドキュメンタリーを制作していた。2012年に発表した短編ドキュメンタリー映画『ザ・プログラム』だ。そこではNSAの暗号解読部門責任者から内部告発者に転じたウィリアム・ビニー氏を取り上げている。
補足しておくと、グリーンウォルド氏も独立性と専門性の面では申し分ない。英ガーディアン紙のコラムニストだったが、コラムの内容については一切編集させないなど完全な独立性を維持する形で契約していた。振り出しは憲法や人権を専門にする弁護士であり、ジャーナリストに転じてからはNSAの無令状盗聴活動などを厳しく批判していた。
■既存大手メディアを信用しないスノーデン氏
『シチズンフォー』には描かれていない話だが、実はスノーデン氏はポイトラス氏よりも先にグリーンウォルド氏に接触していた(正体を明かさなかったために当初はグリーンウォルド氏から相手にされなかった)。『暴露』によると、グリーンウォルド氏を選んだ理由について次のように語っている(原書から引用)。
〈 あなたは国家の広範な監視と極端な秘密主義の危険性について理解しています。さらには政府や御用メディアからの圧力にも決して屈しない。そのように信じているからこそあなたを選んだのです。〉
スノーデン氏は既存の大手メディアを信頼していなかったのだ。
組織ジャーナリズムに守られていながら政府の動きを懸念し、及び腰になっているワシントン・ポスト紙に対して、スノーデン氏が怒りを露わにするシーンも『暴露』に描かれている。歴史的なウォーターゲート事件をスクープして名声を高めた同紙でさえ、同氏の基準では「失格」だった。
『シチズンフォー』を見て改めて感じるのは、スノーデン事件級の大スクープをモノにしようにも、内部告発者からの信頼を獲得しなければ何も始まらないということだ。少しでも権力寄りと見られたら、大スクープの入り口にも立てない。繰り返しになるが、信頼獲得のカギを握るのはジャーナリストとしての独立性と専門性である。
いや、もう一つ加える必要があるかもしれない。何事にも屈しない「反骨精神」である。これこそウォッチドッグジャーナリズムの土台になる要素だろう。ポイトラス氏も『シチズンフォー』のエンドロールを使い、民主主義を守るためにリスクを取って立ち上がる人たちにこの映画を作ったと明言している。
もちろん『シチズンフォー』には対しては「スノーデンに肩入れし過ぎていて客観性に欠ける」という批判もある。だが、これはドキュメンタリー映画であり、新聞報道ではない。そこに報道倫理を厳格に適用し、バランスを求めると、効果的にメッセージを伝えられなくなる恐れがある。
映画の最後で、ロシアに亡命中のスノーデン氏が自宅で夕食を作っているシーンが映し出される。そこには、同氏を追って米国からロシアへ移り住んだガールフレンドのリンゼイ・ミルズ氏の姿もある。リスクを取って権力と対立しても悪い結末になるとは限らない――そんなメッセージが込められていると思えた。
日本の大手メディアで働く「サラリーマン記者」は、独立性と専門性の両方で心もとない。ジャーナリストよりもサラリーマンとしての意識が強く、何よりも会社の利益を優先しがちだ。日々のニュースを追い掛けるだけで精一杯な上に、数年ごとの担当変えで専門性もなかなか身に付けにくい。『シチズンフォー』を見て一念発起し、独立してみるのはどうだろうか。
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