今年の5月16日の衆議院予算委員会で、安倍首相が自分を指して「立法府の長」と述べ、物議を醸したことはまだ記憶に新しいですね。
16日の発言は、民進党が提出した保育士給与を引き上げる法案が審議入りしないことについて、山尾氏が「委員会が決めることと言って逃げている」と首相を批判したことに対する答弁。
首相は「議会の運営について少し勉強して頂いた方がいい。議会については、私は『立法府の長』。立法府と行政府は別の権威。(国会での)議論の順番について私がどうこう言うことはない」と反論した。
参院予算委では、民進の福山哲郎氏が安全保障法制採決の議事録について質問した際、首相は「立法府の私がお答えのしようがない」と答弁した。
記事にもあるように参議院の予算委員会でも同じ言い間違いをしたようです。安倍総理の衆院予算委員会での言い間違いは、衆議院のビデオライブラリでも確認できます。下記リンク (開会日:2016年5月16日 (月) 会議名:予算委員会 (7時間07分))から、「質疑者等」について、「山尾志桜里(民進党・無所属クラブ)」を選択し、動画が2:33:20になるころから問題の発言が始まります。
よく聞くと、安倍首相は「えー、山尾委員はですね、議会の運営について、少し勉強して頂いた方がいいかもわかりません。議会についてはですね、私は立法府、立法府の長であります。」と重ねて確認するように発言しています。
ところが、実際に公表された衆議院予算委員会の議事録では、当該部分は以下のようになっています。
○安倍内閣総理大臣 山尾委員は、議会の運営ということについて少し勉強していただいた方がいいかもわかりません。
議会については、私は行政府の長であります。国会は国権の最高機関としてその誇りを持って、いわば行政府とは別の権威として、どのように審議をしていくかということについては、各党各会派において議論をしているわけでございます。
問題の発言が「行政府の長」と正しく書き直されています。
実は安倍首相は第一次安倍政権の2007年にも同じ言い間違いをしているのですが、こちらの議事録は修正されずに残っています。
○簗瀬進君 国民とともに議論をすると、そういう総理にお言葉がございました。私は、まあ私がどう評価しようと、それは国民がよく分かっていると思うんですよ。
何しろ今日、先ほどの理事会で、残念ながら私たちは本日審議を終局するということで合意をせざるを得ませんでした。この週後半はずっと私たちが何を求めたかといえば、正に国民とともに議論をする、それが制度的にしっかりと表れたものとして何があるかといえば、これは公聴会じゃないですか。地方公聴会は六回やりました。しかし、前日連絡をして翌日公述人を選ぶような、そういう地方公聴会と、官報に掲載をして五日間国民の皆さんに対してしっかりと議論をする、意見を述べる、そういう機会を保障する中央公聴会とは、委員派遣の実質の地方公聴会は全く違うんです。その中央公聴会を私たち何度も求めましたけれども、結局自民党、公明党はそれを受けてくれませんでした。
正にそれは総理が、総裁として、自民党の総裁として国民とともに議論をするとおっしゃったその言葉と全く矛盾する対応を現場がしている。これどう思うんですか。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) それは、正に参議院のこの委員会の運営は委員会にお任せをいたしておりますから、私が立法府の長として何か物を申し上げるのは、むしろそれは介入になるのではないかと、このように思います。
2016年の言い間違いは、ニュースにもなり、同じ国会での二度の言い間違いや、2007年の言い間違いも合わせると、それ自体が少なくとも首相の資質を判断する一事情にはなり得るものと考えます。国会が公表している動画にも残っている発言を、国会の正式な議事録から消してしまうのは、歴史の改ざんではないでしょうか。2015年安保国会での、参院特別委員会の議事録も後に修正されて問題になりましたが、議事を正確に記録すべき議事録について、社会的に問題なった部分を、二度も「修正」されると、議事録の正確性そのものにも疑念を呼ぶことになります。国会の議事録くらいは、100年後の事情を知らない人間が、2016年の新聞記事と照らし合わせて、「ああこれか」と分かるように(すなわち歴史の検証に耐えられるように)すべきと考えます。
2016.6.9 18:00追記
共同通信で本件について後追い記事が出ました。
首相、「立法府の長」発言を訂正
議事録では行政府
安倍晋三首相が、自身の立場を「立法府の長」と説明した衆院予算委員会での答弁を訂正していたことが9日、分かった。これを受け、予算委の議事録では「行政府の長」と修正されている。
首相は5月16日の予算委で、保育士の処遇改善法案の審議入りを求めた民進党の山尾志桜里政調会長に対し「議会の運営を少し勉強した方がいい。私は立法府の長だ」「立法府と行政府は別の権威だ」などと発言した。
その後、政府は「単なる言い間違いであることは明白だ」とする政府答弁書を5月27日の持ち回り閣議で決定した。