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舛添氏は、佐々木弁護士らに、いったい何を依頼したのか
2016年6月7日 郷原信郎が斬る
舛添東京都知事は、昨日(6月6日)午後4時からの記者会見で、佐々木善三氏ら第三者の弁護士2名による調査結果を公表した。
舛添氏が、自らの政治生命に関わるような調査結果が出ることを覚悟して調査を依頼したとは思えず、どうせロクな調査結果ではないだろうとは思っていた。「違法ではないが不適切」を繰り返した調査結果は、全く予想通りだった。
問題は、「違法ではない」という結論を導くためには、最大のネックになると思われた、正月の家族旅行の費用を、政治資金収支報告書に「会議費」として記載していた問題について、どのような調査が行われたのかだ。
この問題こそが、舛添氏の政治資金問題について、週刊文春が最初の報道で指摘したもので、まさに今回の政治資金疑惑の核心である。「会議費」として記載していたのに、実際に「会議」は行われていなかったとなれば、政治資金収支報告書に虚偽記載をしたことになり、「違法」だからだ。その場合、その虚偽記載(政治資金規正法上は、正確には「虚偽記入」)の主体が誰なのか、舛添氏本人が関わっていたのか、という点の「事実解明」が不可欠となる。政治資金に関する都知事会見での舛添氏の説明が虚偽だったということになれば、即刻辞任に追い込まれることは必至だ。「元特捜検事」に依頼して、「第三者の厳しい目」で調査が行われるのであれば、この点が、最大の、いや唯一の事実解明のポイントだったはずだ。
この点について、私は、【舛添都知事の“拙劣極まりない危機対応”、告発・刑事事件化は必至か】で、舛添氏が、5月13日の定例記者会見での説明で、自ら墓穴を掘ったために、政治資金規正法違反での起訴の可能性も出てきたと指摘していた。
ところが、調査報告書を見る限り、その点についての事実解明のための調査が行われた形跡はない。
「第3 調査結果」の「宿泊費・飲食費」の項目の中で、「調査検討結果を総括すれば、政治活動のための宿泊・飲食が多いものの、一部に家族同伴のものなども含まれており、政治資金を支出したことが適切とは言えないものがある」と述べ、「宿泊費」についての調査結果として、「別表1(宿泊費)」にまとめて記載されているが、肝心の正月の家族旅行の問題については、その「別表1」の中で、それぞれ、数行ずつ記載されているに過ぎない。
平成25年の正月の家族旅行についての記載は、以下のとおりだ。
平成26年の正月の家族旅行についての記載も、ほとんど同様だ。
要するに、この2回の家族旅行の費用をめぐる問題について、調査報告書は、舛添氏の説明どおり、「付き合いが長くかねてより相談相手としていた出版会社社長」を客室に招いて「政治に関する話」をしたという舛添氏の「弁解」を前提に、「舛添氏の弁解どおりであっても、政治資金の支出として不適切」と指摘しただけで、その舛添氏の弁解が「本当なのかどうか」についての調査は行っていないということのようだ。
その「出版会社の社長」が、その日に本当にホテルの客室に来たのかという点について事実を確認しようとすれば、その人物から聴取することが不可欠なはずだ。もし、正月三が日に木更津のホテルまで来たということであれば、その移動経路等について裏付けとなる資料を確認することも必要だ。
しかし、そのような調査は全く行われた形跡はない。
これでは、少なくとも、舛添氏の政治資金をめぐる疑惑に関して、「違法性」の有無を判断する上では、全く無意味な調査だったとしか言いようがない。
ここで重大な疑問がわいてくる。
舛添氏は、佐々木弁護士に、一体何を依頼したのだろうか。
佐々木善三氏は、東京地検特捜部では、真面目で几帳面な性格で、上司からの指示どおり、大変粘り強く捜査・取調べを行うことで、「マムシの善三」などとも呼ばれていた。
今回の調査でも、舛添氏側から依頼されていた事項については、依頼どおり「必要な調査」を行って、その結果を調査報告書にまとめて提出したものと思われる。
その調査結果が、上記のような内容だということは、舛添氏の依頼の趣旨が、そのような「違法性の追及」を含まないものだったからであろう。
正月の家族旅行の際の「会議」の有無について事実解明を行おうと思えば、「出版会社の社長」の聴取が不可欠だが、そのような「舛添氏や事務所関係者」等以外の「第三者」に対する調査は舛添氏の依頼からは除外されていたということだったのではないか。
しかも、「ホテルの客室で出版会社の社長と話をした」という説明は、週刊文春の報道後、疑惑について「精査する」と繰り返し述べた後の5月13日に、都知事定例記者会見で舛添氏が説明した内容とも異なる。
この会見では、舛添氏は、「事務所関係者らと会議をした」と説明していたはずだ。今回の調査報告書での舛添氏の説明では、「事務所関係者」は消えてなくなり、「出版会社の社長」だけとの会談だったような話になっている。
秘書等の「事務所関係者」であれば、当時の行動を記録する資料の提出を求めることは容易なはずだ。携帯メールのやり取り等を確認すれば、実際に、秘書等が家族旅行の際のホテルに赴いたか否かの事実確認もできる。
ところが、舛添氏から「出版会社の社長がやってきて話をした」と説明され、「第三者に対する調査は対象外」だとなると、それ以上の事実解明は不可能だということになる。
しかし、もし、舛添氏の依頼が、第三者にはヒアリングしないというものだったとすると、調査は、自らの政治資金についての重大な疑惑に対して、「厳しい第三者の目」で事実を明らかにすることなど全く想定しない、まさに「都民の目を欺くための調査」だったということになる。
舛添氏は、いったい佐々木弁護士らに、どのような調査を依頼したのか、その依頼の中に、事実解明に必要な「第三者」の聴取を行うことが含まれていたのか。調査を依頼した舛添氏自身が、これから始まる都議会での質疑の中で、しっかり説明すべき事柄だ。
とはいえ、仮に、舛添氏からの依頼事項が限定されたものであったとしても、今回の調査は、「元特捜検事による厳しい調査」にしては、追及が余りに手ぬるく、大甘だったことは否めない。
正月の家族旅行での「会議費」問題について、5月13日の会見での「事務所関係者らと会議した」という説明が、「出版会社の社長」と話をしたという説明に変わった「理由」について、なぜ舛添氏を追及しなかったのであろうか。
そして、さらに疑問なのは、「違法ではないが、不適切」という言葉が繰り返される中で、その「不適切」の中身についての追及が全くないということだ。家族旅行等の費用を政治資金で支出していたことについて、舛添氏は「意図的な公私混同」であったことを認めているのか、それとも、秘書が政治資金の処理を誤ったという弁解を続けているのか、については全く触れられていない。
東京地検特捜部時代には政治権力に対する捜査で「マムシの善三」という異名をとった佐々木氏だが、小渕優子氏の政治資金問題での第三者調査等を行う中で、権力者側から便利に使われる「元特捜検事」になってしまったということなのだろうか。
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