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衆議院議員 甘利明 公式サイトより
“真っ黒”な甘利明を検察はなぜ「不起訴」にしたのか? 官邸と癒着した法務省幹部の“捜査潰し”全内幕
http://lite-ra.com/2016/06/post-2301.html
2016.06.03. 甘利明の捜査を潰した法務省幹部の名前 リテラ
なんなんだ、この結末は? 1日、あの甘利明前経済再生担当相について、東京地検特捜部が不起訴処分にするというニュースが、一斉に流れた。しかも、甘利本人だけではなく、同じく告発を受けていた公設秘書2人も立件見送りになるという。
いっておくが、犯罪が軽微だったわけではない。甘利がやったことは、今、マスコミが大騒ぎしている舛添要一都知事の政治資金問題などとは比べ物にならない、政治家としては最も悪質な賄賂事件だった。しかも、特捜部は最近、政界捜査に弱腰になっていたとはいえ、小渕優子元経産相や小沢一郎のケースのように、秘書の立件まではやるのが普通だった。それが、今回は一切なんのおとがめもなし。これはいくらなんでも異常すぎるだろう。
取材してみると、今回の不起訴決定の裏には、法務省幹部の露骨な捜査潰しの動きがあったことがわかった。しかも、この幹部は明らかに官邸と深いつながりのある人物だった。
捜査潰しの詳細に踏みこむ前に、まず、事件のおさらいをしよう。甘利の容疑は、2013年5月に千葉県の建設会社・薩摩興業の依頼で、都市再生機構(UR)へ移転補償金の値上げを「口利き」した見返りに、賄賂を受け取っていたというものだ。
周知のように、薩摩の元総務担当者、一色武氏が「週刊文春」に公設秘書ら2人に現金500万円、さらに甘利本人に100万円を手渡していたことを告発した。実際、甘利事務所が現金を受け取ったことを証明する領収証や、甘利の公設秘書らがUR側に補償金アップの働きかけをして交渉を録音したテープなどの物証もあった。
しかも、URは甘利事務所からのアプローチ後、薩摩側への補償金額を約1億8千万円から2億円に、さらに2億2千万円にと、2回にわたって増額しているのだ。公共事業の補償額が途中で2回も増額されるなんてことは、通常、ありえない。
そういう意味では、甘利の口利き、賄賂疑惑はあっせん利得処罰法違反どころか刑法のあっせん収賄罪も成立する可能性のある真っ黒な案件だったのだ。
当の東京地検特捜部も4月にURを家宅捜索し、甘利氏の元秘書らを事情聴取。明らかに立件を視野に動いていた。当初の計画では、参院選前にまずURの職員だけを摘発し、参院選後に、甘利の公設秘書ら2人を立件。その後、甘利本人にいくかどうかを判断する予定だったという。それが、参院選前に一転して、全員「不起訴」の判断が下ってしまったというわけだ。
検察の説明によると、現金授受や口利きの事実はあったものの、告発を受けていたあっせん利得処罰法違反の要件である「国会議員としての権限に基づく影響力の行使」が認められなかったため、起訴を見送ることになったという。「議会で追及する」「予算をつけない」「人事を動かす」といった強い脅しがなければ「権限に基づく影響力の行使」とはいえず、甘利たちの口利きはそのレベルになかったと、地検幹部はブリーフィングで説明したらしい。
新聞はこれを受けて、一斉に「法律の限界」「あっせん利得処罰法はもともと立件が難しい」などといったわけ知りの解説記事を垂れ流した。
まったく冗談もほどほどにしてほしい。たしかに、このあっせん利得処罰法は、中尾栄一元建設相の収賄事件を機に、職務権限のない議員やその秘書が公共事業で不正を働くことを防止するために制定された法律なのだが、現実には刑法のあっせん収賄罪よりも適用が難しいと言われ、これまで国会議員がこの法律で摘発されたことはない。
しかし、甘利のケースは、要件をすべて満たしており、法律の専門家も「適用は可能」と口をそろえていた。元東京地検特捜部検事の郷原信郎氏は「あっせん利得処罰法のど真ん中のストライクの事案」とまで言っていた。
検察が要件を満たしてなかったとする「権限に基づく影響力の行使」についても、「議会で追及する」といった強い脅しが必要というのは検察の勝手な後付けの解釈であり、事件発覚当初は「甘利氏は有力閣僚であり、国土交通省を通じ、URの予算や人事について影響力を行使することが可能だから要件は満たしている」(郷原氏)という見方が一般的だった。
そして何より、特捜部じたいが国会議員秘書初のあっせん利得法違反を立件すると意気込んで捜査を行い、4月の段階では、東京地検内部でも立件することでコンセンサスがとれていたのだ。
しかも、仮にあっせん利得法違反での立件が難しいという判断なら、刑法のあっせん収賄罪で摘発するという方法もあったはずだ。
また、それもダメなら、少なくとも、小沢一郎のケースのように秘書を政治資金規正法違反で起訴することはできた。甘利の元公設秘書は13年8月に一色氏から500万円を受領したが、関連団体の政治資金収支報告書には200万円しか記載がなかった。これは明らかに「規正法の虚偽記載」にあたる。
ところが、これも、甘利事務所が提出した会計帳簿に残りの300万円について「返却予定」「返済」と記していたという理由だけで、不問に付してしまったのである。泣く子も黙る、と恐れられた東京地検特捜部とは思えない大甘な対応ではないか。
実は、不起訴の方針が決まった後、現場の検事の間ではこんなセリフが飛び交ったという。
「黒川にやられた」
黒川というのは、法務省のナンバー2官僚である黒川弘務官房長のこと。官房長を5年という異例の長い期間つとめ、次期事務次官が確実といわれている人物だ。そんな人物に「やられた」というのはどういうことか。司法担当記者が解説する。
「東京地検特捜部が政界捜査に着手するときは『三長官報告』をやらなければなりません。これは、法務大臣、検事総長、東京高検検事長の3人の最高幹部に捜査の方針を報告するのですが、その前に必ず、本省(法務省)の官房長、つまり黒川さんに捜査の詳細をあげて根回しをするんです。ところが、今回、地検がURの職員の立件を決めておうかがいをたてたところ、黒川官房長から今、検察が説明しているのと同じ『権限に基づく影響力の行使がない』という理屈で突っ返されてしまった。それで、現場は、『あっせん収賄罪』に切り替えて捜査しようとしたんですが、『あっせん利得法違反で告発されているんだから、勝手に容疑を変えるのは恣意的と映る』などと、これも拒否されてしまったらしい」
しかも、この後、地検幹部は捜査現場に対して「参院選に影響が出ないように、投票日の1カ月前までには白黒をつけろ」とプレッシャーをかけてきたという。
「当初は、選挙に影響がないよう秘書は参院選後に本格捜査する方針で、地検の検事正や次席検事も了承していた。ところが、突然、参院選の前にすべて決着をつけろ、となって、政治資金規正法違反も立件できなくなってしまったようです。この地検幹部の豹変も、黒川官房長が命じた結果だといわれています。官房長は人事権を全部握っていますから、さからうと出世に響きかねない。今の八木宏幸検事正や落合義和次席検事は特捜部出身ではありますが、主に経済事件担当で、上の顔色をうかがうタイプですから、あっという間に陥落してしまったんですよ」(前出・司法担当記者)
では、黒川官房長はなぜ、ここまで露骨に捜査潰しの圧力を加えてきたのか。実は、この黒川官房長は、法務省内でも「自民党の代理人」といわれているほど、政界とべったりの法務官僚なのだ。
「官房長という役職自体が、予算や人事の折衝をする役割で、政界とつながりが深いのですが、とくに黒川氏は小泉政権下で法務大臣官房参事官をつとめて以降、官房畑を歩んでおり、自民党、清和会にと非常に太いパイプをもっている。官房長になったのは民主党政権下の2011年なんですが、このときも民主党政権には非協力的で、自民党と通じているといわれていました。そして、第二次安倍政権ができると、露骨に官邸との距離を縮め、一体化といっていいくらいの関係を築くようになった。とくに菅官房長官、自民党の佐藤勉国対委員長とは非常に親しく、頻繁に会っているところを目撃されています」(前出・司法担当記者)
そして、安倍政権以降、黒川官房長は政界捜査に対して、ことごとく妨害するようになったという。
「小渕優子経産相の事件が秘書の立件だけで終わったのも、日歯連事件がしりすぼみに終わったのも、やはり黒川官房長の段階ではねつけられた結果だったようですね」(前出・司法担当記者)
さらに、黒川官房長が今回、甘利捜査を潰した背景としてささやかれていることがもうひとつある。それは、先の国会で成立した刑事訴訟法の改正とのからみだ。
この刑事訴訟法改正は、民主党政権下で進んでいた検察改革や取り調べ可視化などを骨抜きにする一方、司法取引を導入し、盗聴の範囲を拡大する、むしろ冤罪の可能性を高めるもの。明らかに検察・警察を一方的に利する改革なのだが、これを官邸と自民党に熱心に働きかけていたのが、黒川官房長だった。今度は、全国紙政治部記者が語る。
「この改正には批判が強く、昨年の国会では継続審議になっていた。それが、先の国会で一気に進み、成立したわけです。甘利の捜査潰しはこの刑事訴訟法改革の進展とシンクロしている。ようするに、黒川官房長は、刑事訴訟法改革をやってくれた官邸、自民党へのお礼に、甘利捜査を潰したのではないかといわれているんです」
実際、甘利捜査の捜査潰しの経緯を見ると、裏があるとしか思えない。検察内部では、今、「黒川官房長がいるかぎり、政界捜査はできない」という声が広がっているという。
自民党の政治家はどんな悪質な事件を起こしても摘発されない。そして安倍政権の政敵は些細な事件でバッシングを浴び、摘発される。そんな独裁国家まがいの体制がすでにできあがっているということらしい。
(田部祥太)
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