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東京・秋葉原で買い物を楽しむ中国人観光客
日本人の対中感情を悪化させた犯人は誰なのか 政治的に作られ、映像で植え付けられるイメージ
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46938
2016.5.30 柯 隆 JBpress
内閣府が実施した「外交に関する世論調査」によれば、中国に親しみを感じない日本人が8割に達するという。同調査が始まって以来、最悪の結果である。日本では中国人の反日感情が懸念されているが、この調査では日本人の反中感情が浮き彫りになっている。
一方で、日本を訪れる中国人の観光客は増え続けている。日本を旅行して日本に好感を持つ中国人は間違いなく増えている。それに対して、なぜ日本人の対中感情は悪化し続けているのだろうか。
これについては専門家の間でも見方が分かれている。例えば、中国で行われている反日教育が原因の1つだという指摘がある。確かに胡錦濤時代に繰り返し起きた反日デモは日本人の中国イメージを悪化させたに違いない。しかし、習近平政権になってから反日デモは起きていない。
また、中国人観光客のマナーの悪さを問題視する専門家もいる。2年前まで中国人観光客のマナーの悪さは際だっていた。だがここ2年来、中国人観光客のマナーは大幅に改善されている。中国国家旅遊局がすべての旅行会社に対して、海外に行く観光客のマナー教育を義務付けたことが大きい。もしも観光客が重大なマナー違反を犯すと、担当の旅行社とガイドはペナルティを受け、場合によってはライセンスが取り消される可能性もある。
つまり、日本人の対中イメージが悪化した理由を、特定の要因に結びつけることはできない。
■テレビの報道がイメージを操作する
ここで、東日本大震災直後のアメリカでの忘れられない出来事を紹介したい。震災から5日後の2011年3月16日、私はワシントンに出張した。ホテルにチェックインすると、ホテルのスタッフは私が日本から来たことを知り、「彼は日本から来た!」と大騒ぎした。あっと言う間に数十人に囲まれ、みんなが口々に「お気の毒に」と言う。彼らは私を被災者と思ったらしい。私はあわてて「私も私の家族も大丈夫ですよ」と教えてあげた。
あとになって分かったことだが、当時、アメリカのほぼすべてのニュース専門チャンネルが24時間体制で東日本大震災を報道していた。特に、津波によって港の車が流される映像が繰り返し流された。あの映像はアメリカ人に大きな衝撃を与えた。多くのアメリカ人が、日本全土が廃墟と化したと勘違いしていた。
インターネットがこれだけ普及しても、テレビの影響力は依然として大きい。テレビはいまなお大衆の価値観をつくっている。それは否定しようのない事実である。
中国で反日デモが起きたとき、日本では毎日テレビで同じ映像が流された。それによって日本人の中国イメージは極端に悪化してしまったはずだ。中国の大気汚染が深刻化しているというニュースでも、スモッグで視界が悪くなった北京の映像が繰り返し流される。それを見た人は、中国全土の大気が汚染されていると思うかもしれない。
テレビの映像は、現象の一部分だけを拡大して伝える。同じ映像が繰り返して流れれば、人々の脳裏にそのイメージが焼き付けられる。中国を頻繁に訪れている人、中国のことをよく知っている人ならば、映像を見ても客観的な判断ができるだろう。だが、中国のことをまったく知らない人がテレビ映像を見たら、それが中国そのものということになってしまう。
私が銀行系のシンクタンクに勤めていたとき、残業を終えて乗った帰りの電車の車両連結のところで、1人の年配のサラリーマンの男性が小便をしていた。おそらく酒を飲みすぎて我慢できなくなったのだろう。もしも、この出来事を海外のメディアが「日本人は電車のなかで放尿する」と伝えた場合、日本ではみんなが同じことをすると思われてしまうかもしれない。
■日本人の対中イメージを最も悪化させた犯人は
ここで改めて考えなければならないのは、「日本人にとって中国とは何か」ということである。中国という国なのか、中国人なのか、あるいは中国政府なのか、中国共産党なのか。その定義によって日本人が中国に抱くイメージは大きく変わってくるはずだ。
日中が国交回復した当時の中国人は、今に比べるとはるかに貧しかった。マナーも今の方が格段にいいだろう(一部の中国人は豊かになってから少し横柄になっているかもしれないが)。中国人一人ひとりと接すれば、以前よりも現在の中国人のほうが好印象を受けるはずである。
おそらく日本人の中国イメージを最も悪くした犯人は、中国政府と共産党であろう。
江沢民国家主席は日本を公式訪問したとき、天皇陛下に謝罪を求めたと言われている。日中戦争は中国が侵略された戦争であり、中国政府からすれば日本に謝罪を求めるのは当然と考える。それに対して、多くの日本人は「すでに謝罪したはずだ」「一体いつまで謝罪を続ければいいのか」と中国に腹を立てている。
こうしたなかで、東シナ海の領土領海の領有権をめぐり日中の対立が激しくなった。政府担当者が対話して解決方法を模索すべきだったが、両国政府はマスコミを動員して世論をリードした。日本のマスコミは、「中国による強引な現状変更」を大々的に報道した。中国のマスコミも日本政府を徹底的に非難した。
この問題をさらに尖鋭化させたのは、野田政権の尖閣諸島国有化であった。当時、反中色の強い石原慎太郎・東京都知事が尖閣諸島を購入しようとしていた。東京都の所有地になって建物が造られたりすれば、問題は収拾がつかなくなる。そこで野田政権は「やむを得ず」尖閣諸島を国有化した。
しかし、中国側は納得できない。尖閣諸島問題は「棚上げ」されているのに日本政府が強引に国有化したから問題が大きくなった、というのが中国の理屈だ。
両国のマスコミは、こうした一連の対立をリアルタイムで大々的に報道した。その結果、中国では民族主義が急速に台頭し、かなりの人が冷静さを失ってしまった。同様に日本でも対中感情が急激に悪化した。
■政治とは距離を置くべき
以前にも本コラムで指摘したが、日中両政府が本気で日中関係を改善したいと考えるのなら、日中間の問題を政治利用しないことである。
両国政府は、歴史認識の問題や領土領海の問題について、解決に向けた冷静な対話を行おうとはせず、逆に政治利用してきた。例えば日本の政治家、特に保守的な政治思想を持つ政治家はそれらの問題を誇張して不安を煽る。同様に中国では、社会不安が増幅していることから、中国共産党が国民の怒りの矛先を日本に向けさせるために反日感情を煽っていると言われている。
冒頭で内閣府の世論調査の結果に触れたが、私は現在の日中関係が極端に悪いとは思っていない。2015年には500万人の中国人が日本に来て観光を楽しんだ。日本人は彼らを温かく迎え、排斥しようとはしない(サービス業に従事する人ならばなおさらだ)。私も日本で28年生活しているが、中国出身であることが原因で日本人とトラブルになったことはほとんどない。
相互理解こそが両国関係を改善する第一歩である。急いで関係を改善するのではなく、ゆっくり交流して互いに理解を深めれば、両国関係はこれ以上悪化しないはずだ。繰り返しになるが、関係の改善は政治と適切な距離を置くことが重要である。
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