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パナマ文書は世界のタックスヘイブンの実態を明らかにした。それは1%の富裕層が99%の富を独占する世界である。東京オリンピック裏金疑惑もこれと無関係ではあるまい。同時に、パナマ文書流出の背景に各国の情報機関の熾烈な争いがあることも見逃してはならない。アメリカの政治家などの名前が出てこないのはそのためだ。
一体どの国のどのような思惑からパナマ文書は流出したのか。ここでは、『月刊日本』6月号に掲載された、元共同通信社論説副委員長の春名幹男氏のインタビューを紹介したい。
『月刊日本』6月号
春名幹男「パナマ文書を流出させたのはCIAか」より
http://gekkan-nippon.com/?p=9046
<パナマ文書で得をしたのは誰か>
―― タックスヘイブン(租税回避地)における会社設立などを斡旋しているパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から、大量の内部文書が流出しました。これにより、各国の指導者やその親族などがタックスヘイブンを利用して租税回避を行っている実態が明らかになりました。
【春名】 今回のパナマ文書事件は、ウィキリークス、スノーデンに続く第三の大量暴露事件と言えます。事の発端は、南ドイツ新聞に膨大な量の内部資料が持ち込まれたことです。資料の内訳はEメールが約480万件、データベース資料が約300万件、PDFが約215万件、画像が112万件、テキスト文書が32万件などとなっており、総容量は実に2・6テラバイトにも及ぶと報じられています。
今回の事件の告発者は、これらの内部資料をハッキングによって手に入れたと言われています。彼は南ドイツ新聞に掲載された声明文で、持てる者が資産を隠すことや税の不公正などを批判しており、強い正義感から今回の行動に至ったものと思われます。また、彼は「革命はデジタル化される」とも述べており、デジタルの力で不正を正そうという意気込みが感じられます。
今回の事件の特徴は、他の大量暴露事件とは違い、告発者が顔を出さずに匿名のままでいる点にあります。また、公開された文書は「生の文書」ではなく、ジャーナリストたちが整理し、分析したものです。ジャーナリストが主導権を握っているところも、これまでの事件とは異なります。
これらの資料の分析を行ったのは、「国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)」というアメリカの民間組織です。ICIJを立ち上げたのは、CBSニュースの「60Minutes」という番組のプロデューサーだったチャールズ・ルイス氏です。私も彼をよく知っているのですが、彼は1989年にCPI(The Center for Public Integrity)という民間のシンクタンクを作り、調査報道を始めました。CPIは日本語に訳しにくいのですが、「公的倫理センター」といったところです。アメリカではとりわけ選挙の腐敗が酷いので、当初彼らは選挙資金の調査などを中心に行っていました。
その後、彼らは国際的な調査報道を促進するために、1997年にICIJを設立します。調査報道にはお金がかかるので、賞や補助金を出すなどして調査報道を支援することが狙いでした。今回のパナマ文書は、こうした活動が実を結んだものと言えます。
今回の文書流出によって一番損したのは誰かと言えば、ロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席だと思います。パナマ文書にはプーチンの親友の名前が含まれており、資金洗浄疑惑が取り沙汰されています。
中国当局はパナマ文書に習近平の親族たちの名前があったことが報じられると、国内での報道を規制しました。そのため、当面は安泰だと思いますが、将来的には影響が出るはずです。そうした点から総合的に考えれば、今回の事件はアメリカにとってはプラスに働いたと言えます。
<パナマ文書はCIAの陰謀か>
―― パナマ文書には世界各国の指導者の名前が含まれていますが、アメリカの政治家などは含まれていません。奇妙な感じがします。
【春名】 「モサック・フォンセカ」の創設者の一人であるラモン・フォンセカ氏がAP通信のインタビューに応えたところによると、彼らは基本的にはアメリカ人のお客を受け入れていないそうです。もっとも、アトランタ・ファルコンズのフットボール選手やオレゴン州のお金持ち、コネチカット州の金融業者など、アメリカ人の名前も数十人ほど含まれていることがわかっています。しかし、それでも決して多いとは言えません。
アメリカ人の人数が少ない理由は、一つには、彼らにとっては敢えてパナマのタックスヘイブンを利用するメリットが小さいからです。アメリカではデラウェア州やニューヨーク州をはじめとして、少なくとも7つの州で低い税率による資産信託などを行うことができます。パナマは政情も不安定ですし、クーデターが起こる可能性もあるので、アメリカ国内のタックスヘイブンの方が使い勝手がいいのです。実際、アメリカ人に限らず、アメリカのタックスヘイブンを利用する人は増えているようです。
―― ロシアでは「パナマ文書はCIAの陰謀だ」とまで言われています。彼らの言うように、CIAが関与している可能性はありますか。
【春名】 英紙デーリー・メールによれば、ユルゲン・モサック氏の父親であるエアハルト・モサック氏はかつてナチの武装親衛隊員(SS)で、第二次世界大戦後にミュンヘンで捕まりました。しかし、その後釈放され、1948年にパナマに移住したそうです。彼はそこでCIAに情報提供を持ちかけ、対キューバ情報工作に従事したこともあったようです。ただ、ユルゲン・モサック氏がCIAと関係しているかどうかは明らかになっていません。
また、CIAがICIJに資金を提供しているかどうかもわかりません。もっとも、パナマ文書がプーチンや習近平にとってマイナスになっていることを考えると、CIAが何らかの形で関与している可能性を完全に否定することはできないと思います。
CIAが関与している具体的証拠はありませんが、ICIJのパートナーである「組織犯罪・腐敗報道プロジェクト(OCCRP)」に対して、アメリカ政府が資金を提供していることは間違いありません。OCCRPのホームページを見ると、金額は不明ですが、資金提供元としてアメリカ国際開発局(USAID)の名がはっきりと記されています。(以下略)
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